第32話 【閑話】 狂った信仰
遅すぎます...何故勇者様はまだ王都に来られないのだ。
教皇ヨハネス3世は苛立っていた。
もうとっくに王都に到着しなければいけない勇者がまだ来ない。
しかも、何かあってはならないから、ユダリア司祭に連絡して後から聖騎士4名を追うように王都へ向かわせるように頼んだ。
普通であれば途中で聖騎士が見つけて保護してこちらに来る筈だ。
だが、先に王都にその聖騎士がついてしまった。
恐らく途中ですれ違ってしまわれたのだろうか?
だが、それにしても遅い。
これは緊急時だ「神託」をする必要があるかも知れない。
【女神サイド】
何が起こっているのでしょうか?
勇者誕生の喜びの祈りが届いてきます...私は勇者のジョブを今は誰にも与えていません。
このジョブは魔王が復活しない限り与えてはいけない事になっています。
例外としては大きな危機に瀕した場合に制限付きで与えます。
なのに、勇者誕生の祈りが届くのです。
《何が何だか解りませんね》
しかも、神託が来ています。
教皇をはじめ、凄い数の...
「女神イシュタ様、貴方が遣わせた勇者が行方不明になりました...何か解りませぬか」
私は勇者を遣わせてなど居ない..事情を聞く必要がありそうです。
《その勇者とは何者なのでしょうか?》
詳しく事情を聞いてみれば、何故か無能を勇者と勘違いしているようです。
ですが、これはチャンスです。
私は「成長した素晴らしい無能と話してみたい」そういう夢があります。
このまま彼が殺されず年老いて死ねばその夢が叶うかも知れません..
名前がセイル...ならば..
「イシュタ様?」
《その者は勇者ではありません?》
「勇者では無い? それは偽物という事でしょうか?」
《それも違います...正確には過去の勇者です!》
「過去の勇者? それはどういう事なのでしょうか?」
《その昔、同じセイルと言う名前で銀髪の勇者が居ました..その者は生まれ変わる度に世界を救いました》
知るも何も世界を何度も救った気高い方..魂をすり減らしながらも戦ったという聖人中の聖人じゃないですか?
「知っております、その御方を知らない者などおりません」
《その者は勇者として戦い、生まれ変わり何度も世界を救った、それなのに1度も幸せにはなっていません..しかも普通に生きて欲しいから猟師にしても魔族に戦いを挑み死んでしまった》
猟師になっても魔族に戦いを挑み..幹部に手傷を負わせた。
子供の頃に何度親にせがんで読んで貰ったか解らない。
「その伝説のセイル様と何か関係があるのでしょうか?」
《勇者として戦い、何度も世界を救った人間が幸せを得られていない..愛も知らなければ、悲しみしか知らない、それが悲しい、だから私は彼の魂を転生させました..普通の人間として転生させたのですが..元勇者だったので何か反応がでた物と思われます》
「それでは、今の勇者では無く..伝説のセイル様、そういう事で宜しいのでしょうか?」
《そういう事です、最も彼にはその記憶は無いでしょうが...》
これで、感謝の祈りが手に入り、成熟した無能と将来話せる..一石二鳥ですね。
本当は同名の容姿が似ただけの人間な筈ですが。
【教会サイド】
「教皇様、今の神託は..」
「セイル様は..伝説の方だったとは..」
「教皇様、この場合はいったい」
「勇者以上の扱いをせねばなりません..良いですか! 勇者は世界を救うから尊いのです!ですがあの御方はもう何回も世界を救われた方なのです!しかも、あの御方は一度も報酬を得ておりません! あああっ、もう何を差し上げて良いか解りません..物語になっているだけでも8回以上世界は救われています..これはまた王と話し合いに行かなくてはなりませんね」
「アイシア村はどう致しますか?」
「あの村ですか..女神様が次の幸せを祈り転生させた者を無能扱いした..許せませんが、今の話だと解りにくかったのかも知れません..そのままで」
「それでは昔とおりに」
「今のままで....と言いましたよ? 原因は解りましたが、やはり罰は受けるべきです..さぁ、銀嶺の勇者様には幸せになって貰いましょう! 教会の名前に置いて」
「私もあの物語の終わりは納得いきません」
「そうです、我々は悲しい物語を幸せにするチャンスを貰えたのです、悲しい物語を「生まれ変わり幸せに暮らしました」に書き換えましょう」
狂った信仰と狂った愛が再び動き始めた。
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