第28話 虫


あれっ?


嘘、私セイルに抱きしめられている..


可笑しいな? 私がセイルを抱きしめて寝た筈なのに。


凄く、嬉しいしこのままでいたいけど、朝ごはん作らないと..うーんどうしよう?


結局、私は誘惑に勝った。


《ハァハァ、ゼイゼイ...本当に僅差だけど》


そのまま起きて、今日は野菜と肉の入ったシチューとパン、果物を用意した。


失敗した物は..私のお昼だ。


そのまま、セイルのお弁当作りに入る。


せっかくなので、この間食べたパンケーキに果物にした。


勿論、水筒にはレモン水をいれた。


たった、これだけの用意に4時間も掛かる自分が恨めしい。


手際の良い人なら1時間、普通の人でも2時間とは掛からない。


《手際が良ければあと2時間はセイルに抱きしめて貰えていたのに...》



セイルには清潔感のある私を見て貰いたいから、軽くお風呂に入って..あっ!


着替えなくちゃ駄目じゃない...これ汗かいているから。


お風呂に入って汗が引いた後、私が着たのは「パンツが絶対に見えるミニスカートのワンピース+スケスケの下着」だった。



「セイル、おはよう!」


「うん、ユリアおはよう! 着替えちゃったんだ!」


「うん、流石に恥ずかしいからね..これでも結構恥ずかしいんだから」



「恥ずかしがっているユリアも可愛いよ!」


「全くもう! そういう事を言うのはセイルだけだよ」


「そんな事無いよ」


「だけど、セイル..寝ている間に見たでしょう?」


「うん、見たよ、凄く可愛かった」


「....」


《今、考えて見たら、私鼻血だらけだった筈、服にはしっかり鼻血が付いていた..嘘、私鼻血をセイルに拭かれちゃったの?》


「どうかしたの?」


「何でもない、何でもないよ!」


スカートから見える下着がなかなか可愛い。



ユリアの下半身に目が釘付けになりながら、ご飯を済まして出かけた。


「いってらっしゃい」


「行ってきます」



今日のユリアはモジモジしていてキスを忘れていた。


実はこのモジモジも作られた物だって知っている。


だけど、僕が喜ぶために頑張ってくれる...その事が凄く嬉しい。





今日からはお金に余裕が出来たので、自分の力の研究に時間を使おうと思う。


ギルドに入ると掲示板を見てみた。


「暫くの間バグベアーの買い取り額が金貨5枚になる」と書いてあった。


という事は討伐で15枚+5枚=20枚..100も狩れば金貨2000枚になるのか、もう一度位狩っても良いかも知れない。



「セイル様はこっちです」


中に入るとセシルさんが声を掛けてきた。


「セイル様は既にサロンの利用の許可がおりましたので、今度からはこちらにお越し下さい」


「サロンって何でしょう?」


「上級冒険者用の個室です、依頼表を剥がさなくても此処で閲覧しながらゆっくり選べます」


「凄いですね、紅茶にお菓子まであるんですか?」


「はい、有料ですが食事も可能です、それで今日はどういった依頼をご要望ですか?」


「虫以外の魔物でバグベアーより弱い魔物の討伐と、虫の魔物の分布が解る資料はありますか?」


「この辺りに居る魔物は塩漬けになっている物を除けば大体がバグベアーより弱いですよ..金貨15枚の魔物より強いのが沢山居たら怖いですよ」


「その割には東の森には沢山居ましたが」


「あそこは本来は未熟な冒険者は入らない場所です」


「そうですか?」


《まさか、本当に狩るとは思って無かったのですが》


「はい、ですからセイル様の実力なら龍種にでも遭わなければ大丈夫です..あと虫の魔物について書いた図鑑はありますが、手書きなので高いですよ?」


「どの位でしょうか?」


「金貨3枚位です」


「それ位なら、買わせて頂きます、僕の口座から引き落として下さい」


「はい畏まりました」



今日は依頼を受けずにギルドを出た。


案外、常時依頼も多いのでそれで充分な気がする。





今日は目当てが居ないので、虫の図鑑の分布図を見ながら森に入った。


まず、最初はただの虫だ。


ドラゴンビィーの他に好きな虫と言えばギルダーカマキリだ。


その辺りの虫が居たら見てみたい。


虫の勇者になってから虫を余り見かけなくなった気がする。


何だか避けられている気がするので、その辺りから知りたい。



森の中に居るのに何故か虫に出会わない。



少し歩いてようやく蜘蛛を見つける事が出来た。


イエロースパイダー、お腹の部分が黄色い良く居る蜘蛛だ。


暫く見ていると、なんだか相手の考えが浮かんできた。



《殺さないでくれ私は中立です》


何故か殺されると思っているらしい。


そして、中立とは何だろうか?



「殺したりしないから、少し教えてくれないか?」



《それなら..》


どうやら、僕は彼ら虫には大きなドラゴンビィに見えているらしい。


そして中立とは、邪神側にも虫神側にもついていない虫の事を言うという事だ。



「僕は虫神様から「虫の勇者」というジョブを貰ったんだ、だから攻撃されない限り虫は殺さないよ」



《それは助かる、だけど虫の勇者という割には随分、蜂よりな気がするな、そうだ、試しに蜘蛛の能力(スキル)も覚えてみてはどうだ》



「そんな事出来るのかな?」


《解らないが、「蜂」じゃなくて「虫」なんだろう? 見せてやるから、とりあえず見てみれば?》


「それじゃ、お願いしようかな?」


イエロースパイダーはお尻から糸を出して飛ばした。


そして、その糸を絡げて巣を作っていった。


そして、僕の目の前で巣を素早く走って見せた。



(頭の中で鐘がなった様な気がした)



《まぁ、こんなもんだ》



お尻から糸を出すのは嫌だな..考えて見ればドラゴンビィの針はお尻から出ていた、だけど僕は剣という形で出していた。


他から出す事も出来るんじゃないか? 


結論から言うと出来た、指先から糸を出す事が出来たし、気のせいか素早くなった気がする。



「有難う」


《成程、「虫の勇者」とはよく言ったもんだ》


「どうかしたのか?」


《いや、今のお前..じゃなかった、勇者の姿は蜂の他に蜘蛛にも見えますよ》


「そう?」


《ああっ、蜂の為だけでなく、虫全体の勇者、そう言う事だと思う..まぁ、魔王が居ないから関係ないが》


「魔王? 虫の勇者にも魔王は関係しているのか?」



《ああっ虫神様は自分の信者を邪神に取られたから、倒す気では居ましたが...》


「何かあるのか?」


《いや、勇者のお前には言いにくいが、対抗できる者を作れなかったんだ..魔王も邪神も相手にして居なかったよ!》


「何故?」


《最強の勇者のジョブを貰っても、邪神にただ仕えた芋虫、ジャイアントキャタピーにすら勝てないんだ..相手にする必要も無い、そう思ったんだろうな》


「その割には前にジャイアントキャタピーと会った時には敵対されなかったけど!」


《邪神側の虫も普通は平和に暮らしてます、魔王が復活するか魔族と一緒じゃ無ければジャイアントキャタピーなら襲って来ないでしょう..我々蜘蛛と違って 草をむしゃむしゃ食べてれば幸せな奴らですからね》


「成程、「虫の勇者」の立場だと邪神側の虫は倒した方が良いのかな?」


《虫神様には悪いですが、同じ蜘蛛の中で邪神を信仰しているブラックスパイダーがおりますが、相手にしてないと言っていましたよ..》



確かに相手にはならないかも知れない..ケインビィを弔った時に大きさを見たけど10㎝位だった。


相手にはならない筈だ。


「それなら、こちらも相手にしないようにすれば良いのかな?」


《肉食の物もいますから、様子を見て決められたら如何でしょうか? 実際に私も蝶や羽虫を食べますからな》


「色々教えてくれてありがとう」


《いえ、私も貴方が蜂よりでなく、良かった》



話せるだけで、僕には「他のイエロースパイダー」との違いは解らない。


次会った時に他の虫と区別がつかない。


お礼は今返した方が良いだろう。



僕は、今教わった糸を小鳥に発射してみた。


運良く糸は絡まり小鳥が落ちてきた。


ナイフで小鳥を殺して、イエロースパイダーにあげた。


イエロースパイダーは肉食で小さな鳥も食べる。


「これはお礼です」


《おおっ、随分律儀なんだな、頂きます》




やっぱり虫には避けられていたのか。


その後、虫を探してみたが、蟻の仲間のグリーンアントしか見つからなかった。


イエロースパイダーの様に驚かすと申し訳ないので隠れて見ていた。


やはり、さっきと同じ様に頭の中で鐘が鳴ったような気がした。


気のせいか、体が力に満ちたような気がした。


これはグリーンアントの能力が身に着いた、そう言う事なのか?


グリーンアントは怪力と強力な顎を持っている事だ。


さっきの要領で手に集中すると手が顎のような形に変わった。


近くの木を挟んだらあっさり切断できた。



この姿なら、グリーンアントに話しかけても怖がれないだろう。


「ちょっと良いかな」


《すまない、俺は働き蟻なんだ、サボっているとどやされてしまう》


「それじゃ..これを上げるから少し休んで話をして欲しい」


僕はパンケーキの欠片をあげた。


グリーンアントは蟻の仲間だから甘い物は好物だろう。


「これだけ巣に持ち帰れば、問題無い..話を聞こうじゃないか?」



「虫の勇者について知っている事があったら教えて欲しい」


《成程、虫神の使いか? なら、蟻とカマキリの魔物にあったらすぐに戦う事だ..他にも好戦的な奴はいるがこの2種類は力に溺れている》


それ以外の情報は重複していて特に新しい事は無かった。



折角、新しい能力が手に入ったのだから試してみたい。



勿論、相手はバグベアーだ...


僕の命の恩人、ケインビィやビィナスホワイトを国を壊したのは此奴の仲間だ。


僕は此処からまた東の森に向った。



最早、バグベアーは敵では無かった。


バグベアーの攻撃をそのまま受けても少し痛いだけだった。


「ウガァァッァァ」


組み合ってみても力負け所か放り投げられる。


《何だ、これ、こんなの何体居ても負ける気がしない》


手を顎に変えてしまえば、その顎で腕は簡単に切断できる。


糸で絡めれば簡単に動きが止められる。


これじゃ一方的に蹂躙出来る。



ユリアとの楽しい生活の為に今日も詰め込めるだけ狩った。


報酬は下がってしまったが、それでも大金が手に入るんだ頑張ろう。




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