第24話 デートの朝と動きだす者


「セイルお帰りなさい!」


昨日と同じ様にユリアは僕の胸に飛び込んできた。


今日のユリアはレモンの様な良い臭いがした。


多分、柑橘系の果物の皮を擦り付けていたんだと思う。


これもきっと僕を喜ばせる為だ。


「ただいま! ユリア今日も良い匂いがするね?」


「流石はセイルだね、今日はせっかくだからデザートに果物を用意したんだ..その皮をね絞った汁を塗ってみたの」


「だから、良い臭いがするんだね」


「うん、セイルって柑橘系の臭い好きでしょう?」



ユリアの頭の中には僕が好きな事が沢山入っている。


本当に凄い。



「まぁ、ユリアならどんな臭いをしてても好きだけどね!」


「まぁ、あの時は本当に二人とも臭かったよね?」


「うん、そうだったね」




部屋を見回すと本当に埃一つない。


料理は出来ていてデザートまである。


本当に出来た嫁、それ以外言えない。



本当は苦手なのに多分凄い時間を掛けて行っている事は良く解る。


だから息抜きさせてあげる事にした。



「今日は結構頑張ったんだ、沢山頑張ったから査定に時間が掛かるらしくてお金が貰えるのが明日の午後になるって」


「そうなんだ」


「だから、明日は仕事を入れられないから! 帝都見学でもしない?」


「そう言えば、まだゆっくり見て歩いた事が無かったよね! うん出かけよう!」


「そうしよう!」


「しかし、昨日はちゃんとお金が貰えたのに、今日は明日まで掛るって、また大物を仕留めたの?」


「うん、またバグベアーなんだけどね、ちょっと多く狩れたんだ!」


「やっぱり勇者って凄いんだね! 村じゃ誰も狩れなかったバグベアーを連日狩るなんて...流石セイルだよ!」


「家も買ったし、ユリアの為にも頑張らないとね!」


「セイル!」


「だけど、息抜きも大切だから明日は思いっきり楽しもう!」


「うん、そうだね!」


「ちなみに、こうやって男女で遊びに行く事をデートって言うらしいよ?」


「デート?」


「うん、仲の良い男女で楽しく一緒に過ごす事を言うんだって」


「それならデートだね」


二人で行きたい所を考えたけど、思いつかなかった。


よくよく考えれば村では遊ぶといってもただ一緒に居るだけで特に何もしていない。


初めての帝都見学だから、ただブラブラしようと言う事に決まった。


金貨28枚もそのままあるので、手元に置いておくのも何だか怖いので明日ギルドに18枚は預けてしまう事にした。



「もしかしてセイル眠れないの?」


「よく考えたら、こういうの初めてだったなと思って」


「村には娯楽は無かったしね、まぁお互いに気負いせず適当に見て回れば良いんじゃないかな?」


「そうだね」


「実はそういう私も眠れないんだけど...」



いつもしているように手を繋いで眠った。


気が付いたら眠っていた。



「おはよう、セイル」


僕がユリアの寝顔を見たのはトーマとの決闘した翌日1日だけだ。


一体何時に起きているのだろう。


僕が起きる頃には村にいる頃から水浴びを済まして服に着替えて食事が用意されている。


「おはよう!ユリア、いつ見ても可愛いね!」


「また、そんな事言って! セイルも恰好良いよ!」



僕はユリア以外の女の子に可愛いとか綺麗という言葉は使った事は無い。


また自分の容姿を褒められても嬉しくない。


だが、ユリアは僕の為にだけ可愛くする努力をしている。


そして、外見だけでなく僕の全てを愛して恰好良いと言ってくれるからユリアの声は心に響く。



「ありがとう」


「それじゃご飯を食べて暫くしたら出かけるんだよね?」


「うん」


きっと今日も楽しい日になる。


そう、僕は確信した。












【魔族領】にて



「今がチャンスなのでは無いか?」


「魔王様の復活まではまだ30年は掛るのだぞ?」


「だからこそなのですよ! 魔王様が復活さえしなければ強力な勇者は現れない、魔王様がいる時に生まれる勇者は恐ろしく強いわ!だけど魔王様が生まれていない時の勇者は別物よ..あれは勇者とは名ばかりの弱者だわ! 空の女王たる私なら簡単に倒せるわ」



「どうでも良い! 強かろうが弱かろうが勇者は全部俺が戦って殺す! この剛腕のアモンに掛れば簡単だ!」



「まぁ良い、こちらは四天王が既に揃っておる、1年も掛け軍勢を揃えれば良い、強い勇者が生まれない今こそがチャンスなのだ」




闇が動き出した。

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