第21話 専属

家に帰ってきた。


「セイルお帰りなさい!」


ユリアが胸に飛び込んできた。


髪から、石鹸の良い香りがする。


やっぱり、ユリアは凄い、1人で全部かたずけが済んでいた。


ベットの配置から家具の配置は勿論の事、床まで綺麗に磨き上げている。


こういう所が本当にユリアは凄い..本当に心から思う。


だって本当は不器用なんだから。



「ただいま!」


気持ちのせいか疲れが取れた気がする。



「それで冒険者初日はどうだった! 大丈夫だった?」


「うん、問題無くというか結構頑張れた!」


僕は此処の契約書と一緒に金貨28枚を渡した。


「凄すぎる! 金貨28枚!村にいた頃ならこれで10年下手したら20年生活出来るんじゃないかな?」


確かにあの村じゃ金貨なんてまず使わないし、本当に出来るかも知れないな。


「そうだね、だけど此処は帝都だからもっと頑張らないとね!」



《こんな金額普通じゃ稼げないのに...》



「そこの、お金の横にある紙はなんなの?」


「これはね、ユリアへのプレゼントだよ! 読んで見てくれる?」


「何かな?...嘘、此処の権利書じゃない、本物なの?」


「うん、此処は凄く治安が良いし、冒険者は何時稼げなくなるか解らないからね」


「そう? だけど、何でセイルじゃなくて私の名義なの?」


「あの村じゃ何も無かったからプレゼントをあげられなかったからね、今迄の分を併せたプレゼント」


「だけど、私こんな凄い物貰っても何も返せないよ!」


「もう、貰って居るから大丈夫!」


「私? 何かあげていたかな?」


「ユリアを貰って居るから...」


《こういう事をさらって言うから、本当にセイルは..もう》


「あのさぁ..そんな事を言うなら私だってもうセイルを貰っているんだけど」


「そうだね、ユリアが僕の物で僕はユリアの物..だから僕が頑張って手にした物はユリアの物、その代わりユリアが手にした物は僕の物で良いんじゃない? 僕はこれからユリアが頑張って作ってくれたご馳走を食べるんだから」



「まったく、もうセイルったらもう!」



《まったく、セイルったら自分の価値が全く解ってないよ..お金にしたら1セイルで3000ユリアと交換できる位の差額があるんだからね》







ギルドにて



「おはようございます、セイルさん!」


何だか昨日までと対応が少し違っているような気がする。


「おはようございます、今日は凄く元気が良いですね?」


「はい、私、正式にセイルさんの担当になりました」


「それって何か良い事があるの?」


「それはですね、セイルさんの方はですね、私が専属でつく事で待たないで依頼の受領や素材の査定が出来ます」


「お姉さんの方も何か特典があるんですか?」


「私の方は何と、セイルさんの獲得したお金の5%分がギルドから貰えるんです」


「良かったですね..でもこれはWINWINですね」


「はいどちらもWINWINです、受付の多くは専属を幾つも持っているんですが、私は余り人気が無くて専属が居なかったんです!金級や銀級の冒険者はもう誰かの専属になっていますし、それ以下だと流石に他の方より優遇なんて出来ません」


「ですが、僕はまだ銅級ですよ」


「はい、ですが期待の新人なので、今回は特別にギルマスから専属になって良いと言う許可がでました! 一緒に頑張りましょう!」


「はい」


「お姉さん、応援しちゃいますからね、今日もバグベアーいっちゃいますか?」


収納袋もあるし、沢山居そうだから今日も行くか?


「はい、それじゃお願いします」


「頑張って下さいね!」



現金なお姉さんの笑顔に送られギルドを後にした。




今日は一日バグベアー狩りに専念しよう..


力の解明は明後日からで良い。



東の森に来た。



何だか、昨日よりも凄く感知がしやすい。


直ぐに2体見つけた。


《昨日より旨くやる》


近く迄、近づき一気に剣で突きさし毒を送り込む..狙いは心臓。


吠える間もなく仕留められた。


2体目が気が付きこちらに襲い掛かってきた。


「うがあああああああああっ」



もう、バグベアーは相手にならない、攻撃を潜り抜けそのまま心臓に突き刺した。



《もうバグベアーは、普通の冒険者にとってのゴブリンみたいな物だな》



見つけ次第、狩りまくり、収納袋に放り込んでいった。


この袋凄いな、重みも感じないで幾らでも入っていく。



夕方まで狩り続けると収納袋に入らなくなった。


《嘘、もしかして壊してしまったのかな..もし、そうなら謝ろう》


入らなくなった一体を担いでギルドへ帰っていった。




「また今日もバグベアーを狩ったのか? 流石勇者だな!」


今日の門番の人は、初めて此処に来た時に門を開けてくれた人だった。


「はい、ジョブに助けられています」


「彼女の為にも頑張らないとな、だけど張り合いがあるだろう? 家族の為に頑張るのは!」


「凄く頑張りがいがあります」


「俺も嫁さんと娘の為に頑張っているんだ..お前も頑張れよ」



《家族の為に頑張るか..そうだ》


僕は見せかけように持っていたナイフでバグベアーの手を斬り落とした。


「どうしたんだ一体!」


「これお裾分けです」



「本当にくれるのか? 貴重な肉だぞ」


「前にお世話になったからそのお礼です」


「悪いな、素直に貰っておくよ」



今日もギルドでは注目されていた。


まぁバグベアーを担いでいるんだから仕方が無い。



お姉さんが僕を見つけると手招きしていた。


そう言えば..名前聞いてなかったな。



「今日もバグベアーを狩ってきたんですね! 流石です! 手が無いようですが食べられたのですか?」


「お裾分けしました」


「そうですか! ですが何で収納袋を使わないのですか?貸してあげたのに」


「それが入らなくなりまして」


「収納袋はそう簡単に壊れませんよ! ちょっと貸して下さい..あっ嘘でしょう! 裏に行きましょう、ギルマスも呼んできますね」


「はい..あのお姉さん僕名前聞いてませんでした」


僕はお姉さんについていった。


「そう言えば名乗り忘れていました、専属なのに申し訳ございません、私はセシルと申します..ちょっとお待ちくださいね」



暫く待つとセシルと一緒にギルマスが来た。


「おいセシル、どうかしたのか?」


「はい、私の担当のセイルさんがまた、凄いんです」


「どう凄いか説明してくれないか?」




「セイルさんの収納袋がバグベアーで埋め尽くされています」


「そんなことある物か、収納袋を埋め尽くすなんてパーティで遠征に行った時位しか起きないぞ」


「出して見ましょう」



セシルさんが収納袋を逆さに振るとバグベアーの山が出来た。



「.....これ全部か、信じられない、100近くあるんじゃないか?」


「凄い..目のあたりにしても信じられません」



「セイル、この数じゃ流石にすぐに査定できないから明日の午後またギルドに来てくれ」


「はい」



「セシルはまぁ徹夜で頑張れや」


「あの..誰か手伝って貰う訳には..」


「いかないな..セイルはセシルの専属だ、それに報酬の事を考えたら無理だろう」


「確かに」




「セイルは気にせず帰って良いぞ! 明日の午後待っているぞ」


「はい」




「あははははっ..嬉しい、嬉しいけど徹夜しないと」



僕は少し壊れ気味のセシルと微妙なギルマスの顔を後に家へと帰っていった。




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