第20話 初めての獲物..そして家を買う。


「行ってきます」


「行ってらっしゃいセイル ちゅっ!家の事は任せておいて!」


ユリアのキスで送り出されて冒険者ギルドに向った。


実は、掲示板にある依頼をチラ見していた。


あれば受けるつもりだ。



お目当ての依頼はあった..しかも常時依頼。


これで生活は安定するだろう。



「貴方は馬鹿ですか? 確かに受ける事は出来ますけどね、初仕事がバグベアー! 死ぬ気ですか?」


勇者と名乗れば良いのかも知れないけど..せっかく身元をばらさないで済んでいるんだから出す必要は無い。


少なくとも「虫の勇者」が問題無さそうと解るまでは..


「僕の親は腕の良い猟師でバグベアーなら倒した事があります」


「貴方のお父さんが倒したのは灰色熊だと思います..それを貴方に見栄はったんですよ、ただの猟師じゃ勝てません!」


だけど、バグベアーなら倒した事があるし、何しろ金貨15枚なんだ諦めきれない。


「ですが、此処は自由なのですよね」


「はぁ、仕方ないですね..一度失敗してみるのも良いでしょう? 鋼鉄の剣位は持っていますよね?」


「あるよ..」


(はぁ..これは持っていませんね!)


「本当にやるんですね..銀級なら3人、1人なら金級なのに..だったら、そうですね貴方が本当にバグベアーを狩ってきたら、本来は一部の優れた冒険者にしか貸し出さない収納袋を貸し出します。その代わりもし出来なかったら今度からはちゃんと受付の言う事を聞くという事で如何ですか?」


「解りました」


「まぁ己の器量を知るのも良いでしょう? 此処は帝国、死ぬも生きるも自己責任です」


「それで、何処に住んでいるか解りますか?」


「それなら、東の森に沢山居ますよ!」


「そうですか..では行ってきます」



あそこには無数のバグベアーが居ます。


きっとあれを見たら逃げ帰ってきます。


確かに、どんな依頼を受けるのも自由、それが帝国の考え、それで生き残れば強い男になれるでしょう。


ですが、そのせいで多くの若者が死んで行くのが私には忍びないのです。




言われた通り、東の森に来た。


虫系の魔物に会いたかったけどそう都合よく会えなかった。



「聖剣錬成」今の僕はこれしか使えない。


だが、この体力の上昇とこれで充分な気がする。



さてとバグベアーっと


相変わらずこの虫の勇者は凄い、すぐに気配が察知できた。


凄く、遠くの気配迄感知できる、恐らくこれは人間なら達人の領域か盗賊等のジョブ持ちの能力だ。


心を研ぎ澄ますとバグベアーが3体居るのが解る。


3体居た所で問題無い、この間のスピードなら此奴の攻撃は当たらない。


気が付かない様に少し離れた場所のバグベアーに近づく。


此奴らはドラゴンビィ達の敵だから一切可哀想とは思わない。


そのまま、剣を突き刺し毒を流した。


「うがあああああああああっ」


暴れまわっているが直ぐに死ぬだろう。


可笑しい、前の時より強くなっている気がする。



気のせいだろうか?


バグベアーと殴り合いをしても負けない..そんな気がしてならない。


気が付いたバグベアーの一体が僕に襲い掛かってきた。


鋭い爪がすぐ傍まできたが簡単に躱せる。


試しに剣を持ってない方の腕で殴ってみた。


「うがあああああああっ」


やっぱり...簡単に吹き飛んだ。


その隙にもう1体のバグベアーに剣を突き刺した。


心臓を一刺し、簡単に心臓に剣が刺さる。


こうすれば良かった..剣が体に通るならこれで一瞬で殺せる。


バグベアーのその怖さは力の強さと剣が通らない固い皮にある。


剣が通った時点で熊と変わらない。



もう一頭はまだ居た、そのまま走っていって殴る、殴る、殴る。


バグベアーの振り上げた手の攻撃を受け止めてみたが、完全に止められた。


この体は力でもバグベアーを上回っている。


それが解れば充分だ。


さっさと殺してしまおう..剣を心臓に突き刺し殺した。



可笑しいな..前はこんなに簡単じゃ無かった。


いまの僕ならこれなら何体でも倒せる。



僕は3体のバグベアーを担ぎながらギルドへと向った。





「こんにちは」


「それはバグベアー、それも3体もお前一人で倒したのか? 凄いな..そうだ大八車を貸してやる後で返しにくればよいぞ」


帝国は野蛮だと聞いたけど、門番さんを見る限り優しい気がするな。


「有難うございます」




(バグベアーを3体も、あの少年が狩ったのか?)


(まだ若いだろう、彼奴)



少し目立つが気にはしない、この獲物のお金がユリアの笑顔につながるんだから。



冒険者ギルドに入ると周りから更に注目が集まる。



(おい、あれバグベアーじゃないか?)


(一人で狩った..訳無いな)




バグベアーの依頼を受けたお姉さんのカウンターに並んだ。


まだ、僕の順番でも無いのに凝視しているのが解る。



「バグベアー、本当に狩ってきちゃったんですね..しかも3体も、そうか、私解っちゃいました、セイルさんは本当はエルフなんですね」


「違います、普通に人間ですよ」


「年齢は若く見えますが」


「はい15歳です」


「成人の儀式を終えたばかりの子供がこれを..信じられません」


「狩れたものは狩れたとしか言えません」



(可笑しい、可笑しすぎる、15歳なら「勇者」のジョブ持ちでもバグベアーなんて狩れない、彼のお父さんが何か秘伝でも伝えたのかも知れない..それを聞くのはマナー違反ですね)


「貴方のお父様を侮辱してすみませんでした、貴方がこの歳で狩って来たのなら、貴方のお父さんが狩れない道理はない謝らせて頂きます」


僕のお父さんは本当は狩れない、嘘なんだけどな。


「いえ、気にしないで下さい」


「それでは査定をしますので、暫くお待ちください、あと冒険者証もお願いします」


「はい」


何やら奥に引っ込んで話し合っていた。


奥からガタイの良い男と一緒に受付のお姉さんが帰ってきた。


「お待たせしてすみません、まずはこちらが報酬と買取を合わせた金額になります」


「えーとかなり多いと思うのですが」


「バグベアーの討伐が金貨15枚×3体 45枚 それと素材の買取が状態の良い物2体が15枚×2で30枚 残りの状態の悪い1体が金貨3枚 合計78枚です」


「78枚..金貨が78枚、もう僕じゃ解らない金額です」


「そうでしょうね、ほぼ無傷のバグベアーなんて殆ど出ませんからね、此処からはギルドマスターから話を聞いて下さい」


「本来ならバグベアーを倒せるなら金級だが 一度に2階級までしか上げられないんだ、だから銅級に昇格だ。ここからはただ強いだけじゃ簡単には上がれない、テストもあるからな、まぁ銅=1人前と言えるから15歳で1人前なんだから凄い事なんだぞ」


「ありがとうございます」


「あと、これが収納袋だ、これは大量の物資が入れられる貴重品だから無くさない様に 最も盗まれてもギルドに戻ってくる魔法があるから弁償は無い、その代わりそんな間抜けには二度と貸さない..以上だおめでとう」



「ほんとうに有難うございます」


「才能のある冒険者は貴重な財産だ頑張れよ」



金貨78枚か..初めてみた大金だ。



家に帰ってきた。


せっかくお金があるんだ聞いてみよう。


「マチルダさん、すいません」


「なんだい?」


ちなみにマチルダさんというのはこの住まいの管理人兼オーナーの名前だ。


「あの、分譲もあるって聞いたんですが、今住んでいる部屋で幾ら位ですか?」


「あの部屋か? 本来なら金貨100枚って言う所だが、小さ目の部屋だから、買う気があるなら50枚で譲ってあげるよ? 買う?」


買える訳無いでしょうが、夢を持つことは良い事だわ。


「あの、買ってしまえば後はお金は掛からないのですか?」


「水代と維持費で銅貨8枚は掛るが管理費込だ、凄くお得だよ」


その金額なら貧乏になっても払えるな..将来の為に買っておくか..


「なら譲って下さい! 即金で買います」


「冗談だよな?」


 僕は袋から金貨50枚を出して渡した。


「解った..言っちまったんだから仕方ない、今書類を作るよ、名義は誰にする」


「ユリアでお願いします」


「本当に仲が良いんだな..ほら書類だ本当は作成料金をとるんだがサービスだ、持っていけ 1枚はギルドに提出するんだぞ..それでもうユリアの物だ」


「ありがとう」


「まぁな」



本当は普通部屋の代金は家賃10年分が相場だから、金貨96枚があの部屋の値段なんだけどな


軽口叩いちゃったら..買われちゃったよ。


まぁ良さそうな奴だから良いか?




「へぇ、お金が入ったからあの部屋を恋人にですか..良いですねうらやましいですね」


「はい」


「書類は受け取りましたよ..これで301号室はユリアさんの物です..そちらの書類にもハンを押しますね..はいこれで終わりです」


「有難うございます」


「はい、さようなら」



何でだろう? 何かやさぐれていないか?




何時も此処に来るのはゴロツキばかり、期待の新人はイケメンだけどコブツキ、しかも何時もいちゃいちゃしている。


何処かに居ませんかね、ポンとマンションを買ってくれる男..まぁ居ませんよね。



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