第18話 【第2章 冒険者編】 帝都へ


近くの街までユリアと歩いていた。


此処で僕は自分が「虫の勇者」である事を自覚した。


普通この時期に森を歩けば虫に刺される。


だが、虫に刺されないし、何となく周りの虫が避けているような気がする。


本来はジョブという物は自分の生活からの延長が多い。


例えばユリアの「お針子」は裁縫の延長線上にあるから知らなくても裁縫の腕があがる。


スキルについても教会が把握しているから聞けば問題無いし、同じスキルを持ったベテランに聞く事もできる。


だが、「虫の勇者」は違う。


教会にあるのは「勇者」だけであって「虫の勇者」ではない。


手探りで探すしかないのだ。


それにもう一つ気になる事がある。


何故「虫の勇者」なのか? ケインビィは「ドラゴンビィ」なのだから蜂だ。


蜂から貰い受けたのなら「蜂の勇者」が正しい筈だ。


「虫」という事は「蜂」だけじゃない可能性もある。


「蜂」だけでも強いのに、まぁそんな事は無いと思うけど。



「どうしたのセイル? 難しい顔をして、心配事?」


誤魔化そう。


「いや、さっきから虫に刺されないから、これも勇者の能力なのかなって考えていた」


「確かに、この時期に森を歩いたら刺されるけど、本当に刺されないね、多分加護なのかな?」


「うん、まぁ考えても仕方ないけど」


「勇者のジョブは特殊だから考えても仕方ないよ」


「そうだね!」



しかし、物の見事に虫が居ない..何時もなら煩く泣いている蝉も、気のせいか僕やユリアが歩いている道にも居ない気がする。


解らない物は解らない、そのうち解る日も来るだろう。



「ユリア疲れない?」


「まだまだ大丈夫だよ?」


そう言いながらどう見ても疲れている。


普段、村から出ないユリアに山歩きはきついと思う。


しかも、ユリアは気をつけてあげないと絶対に僕の為に無理をする。


「そう? じゃぁこれは僕の我儘! おんぶしてあげるよ」


「えっ、まだ歩けるよ」


「ほら、僕は勇者だからもしかしたら物凄く早く走れるかも知れないから試してみたいんだ」


「そう、それならお願いしちゃおうかな!」



(うわぁセイルの背中だ..えへへ良い匂いがする)



「それじゃ、少し走って見るね」


「うん」


速く走れるとは思っていたけど、桁違いだ。


絶対に馬何か比べ物にならない位速い。


「凄い、凄い、セイル景色がどんどん変わっていくよ、勇者って凄いんだね!」



多分、凄いの「勇者」じゃなくて「虫」だから..



「勇者って本当に凄いのかも..自分でも解らないや」


これでまだ本気を出していない。


本気を出したらどれだけ速いんだろう。



背中にしがみ付いて喜んでいるユリアを載せて走っていると草原で魔物に出会った。


ジャイアントキャタピー 大きな芋虫の魔物だ。


「嘘、魔物!」


ユリアを背中から降ろして聖剣を作り出す。


ユリアが怯えているのが解るけど..


「ユリア大丈夫だよ!」


「セイルは勇者だもんね、頭から抜けちゃってた...ゴメン」



だが、ジャイアントキャタピーは襲って来ない。


それどころか、こちらを見つめている..


これも「虫の勇者」の影響なのかな、可愛く感じる。



(今の勇者様は蜂が随分お好きなのね..)


(僕は蜂じゃないけど...殺したりしないよね?)



これはジャイアントキャタピーの声なのかな?


なんだか敵ではない気がする。



今はユリアが居るから、確かめたいけど我慢する。


僕が手をヒラヒラ振ると、ジャイアントキャタピーはそのまま行ってしまった。



「襲って来なかったね..」


「うん、勇者だからかな? まぁ解らないけど..」


本当に解らない..まぁこの辺りは帝都について冒険者になってから考えれば良いや。



一番近い街ヨルダについた。


本来は夕方か場合によっては夜に着くはずだったが、まだお昼前だ。


「着いちゃった..信じられない」


ユリアが驚くのも無理はない、此処に着く頃は早くて夕方の筈だった。


「どうしようか?」


「セイルは走るのは辛くないの?」


「全然大丈夫だよ」




結局、馬車より速いし時間もあるので、串焼きを買って食事にしてそのまま行く事にした。



「セイル..本当に速いね、大丈夫疲れていない?」



全然、疲れていない、寧ろ手はお尻に当てているし胸が当たっているのでご褒美感がある。


ユリアにその事を伝えると、逆の意味で大変な事になるので言わない。


「全然大丈夫だよ! 多分その気になればもっとスピードが上げれる気がする」



「そう、なんだ、だったら私セイルにしがみ付くから、スピード上げて良いよ」


「じゃぁ試してみようか?」



僕は思いっきり走ってみた。



「きゃああああああああああっ..思った以上だよ」



「大丈夫?」


「うん、大丈夫だからそのまま続けて」



なんか、生生しい声が聞こえるが気にしない事にした。


(これなら、しがみ付いても仕方ないよね..うん、思いっきり抱き着いちゃおう)



結局、走り続けたら帝都にはその日の夜に着いた。


確かに、アイシアは王国の端だがそれでも帝都までは歩いたら2週間、馬車を使っても4日間は掛る。


それが1日も掛からず着くなんて..


自分でもその能力に驚いた。



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