第15話 【閑話】 頭が僕で一杯の女の子
僕の名前はセイル。
駆け落ちしてこの村にきた、お父さんとお母さんの間に生まれた。
お父さんは猟師でお母さんはお針子という事にしているが、本当のジョブは剣士とヒーラーだ。
お母さんは貴族でお父さんはそこに仕える衛士だったらしい、「お母さんに手を出した事に激怒したお母さんのお父さん」から逃げ出して流れ流れて此処の村に来たとか。
最も、僕の小さい頃にはお父さんも剣なんて持って無くて弓を持っていたし、お母さんは良く裁縫していたから本当の事は知らない。
だけど、僕が熱をだして苦しんでいた時に..「これは他の人には内緒」そう言うとお母さんは魔法を掛けてくれた。
この時初めて「嘘じゃなかったんだ」そう思ったくらい実は信じてなかった。
僕の両親は良く喧嘩していた。
「こんな女だなんて思わなった」
「貴方と一緒にならなければ、こんな苦労しなくて良かったのに..」
何時も、言い争っていた。
それでも、まだ最初の方は良かった。
だけど、歳を追うごとに酷くなり..最近では、僕に飛び火する。
「あんたさえ生まれなければ、俺は自由なのに..」
「セイルが居なければ、別れているわ」
2人が我慢しているのを僕のせいにする様になった。
ただ、この二人、凄く外面が良く、周りの人間には仲睦まじい夫婦に見えている。
そんなに嫌なら別れれば良いのに..本当にそう思う。
この村は割と孤児に優しい。
僕を置いて出て行っても恐らく誰かしらが面倒を見てくれる。
そうしてくれた方がよっぽど良い。
最近では家族で家の中で話す事は殆ど無い。
玄関から外に出ると途端に態度が変わるが基本家では無言に近かった。
まぁ暴力は一切ないから..そこだけは助かっている。
良く人は「愛」という事を口にするけど、「愛」って何だろう。
仲の良かった、父さんも母さんも今ではこんなだ...そんなに凄いもんじゃないだろう。
近くに地味な女の子がいた..服も汚いし、なんだか不潔に見える。
よく、座って本を読んでいるけど。わざわざ見る価値もないから声も掛ける必要も無い。
その日は偶々、偶然目が合った。
地味な女の子は本を落とすと顔を真っ赤にして行ってしまった。
まただ、何時もの事だ..そう思った。
次の日、その女の子は少しだけ綺麗になって僕に声を掛けてきた。
「セイルくん、おはよう!」
「うん、おはよう..」
挨拶されたから、挨拶だけして立ち去った。
僕は自分の容姿が良いのを知っている。
「貴族の令嬢のお母さん」
「その貴族の令嬢が駆け落ちしてまで恋した剣士」
その僕が外見が悪いわけが無い。
だが、外見が良いからって何が良いのだろうか?
僕からこの外見をとったら空っぽだ。
前の村では騒動になった。
この村は女の子が多く男の子が少なかった。
「セイルくん可愛いね」
「セイルくん綺麗だね..私セイルくんの為なら何でもするよ」
この時、家はその村に移り住んだばかりで貧しかった。
女の子の家の中に村で商売している女の子の家があった。
村では珍しい甘いお菓子を偶に仕入れて売っていた。
この子は何時も「セイルくんの為なら何でもする」なんて言っていたから..
「いいな、あのお菓子僕も食べたいな」そう言ってみた。
そうしたら「セイルくんが欲しいならあげる」そういって持ってきて来てくれた。
久々に食べた甘い物は凄く美味しかった。
だけど、後でその子の親がお菓子が1つ無くなっている事に気づき、盗まれたと騒ぎだした。
親がその子に問い詰めると「セイルくんにあげた」になって「セイルくんに言われたから持っていった」になって結局僕が脅し取った事にされた。
お母さんから小言をくらい..父さんには殴られた。
僕のせいにしたその子は結局最後まで僕のせいにし続けていた。
最後まで認めない僕に..その子のお父さんは村の役人に言いつけた。
「お前が脅して泥棒させたんだろう」
幾ら否定しても、僕が悪いという事のままだった。
幸い、見ていた別の男の子が「ミラはいつも、セイルくんの為なら何でもする」って言い寄っていた。
と話してくれて。
他の女の子が「セイルくんは食べたい」と言っていただけと話してくれて無罪になった。
本来なら、泥棒呼ばわりしたんだから、謝るのが当たり前だ。
なのに、役人もその子の親も「女の子を誑かすような奴は碌な奴じゃない」と捨て台詞を吐いた。
外見が良い? それを人は羨ましがるけど、僕はそのせいで嫌な思いをする事が多かった。
だから、「綺麗」「可愛い」なんて言ってくる人は信じられなくなった。
しかし、あの凄く地味な子..ユリアちゃんだっけ..本当に飽きないのかな..暇さえあれば僕を見ているよ。
そんなにこの外見が好きなのかな?
しかも、仕事さぼって良く怒られているし..馬鹿みたいだ。
「ユリアちゃん、もしかして今日も暇なの?」
「うん、家の仕事も終わったからもう暇だよ」
暇な訳ないでしょう..またさぼって此処にきて、後で拳骨落とされて泣くんだから..本当に馬鹿だ。
ある時、僕と遊んでいるのを親に見つかった。
此奴もまたあの時の女の子と同じで僕のせいするんだろうな..所詮女..えっ
「私はセイルくんが好きだから、さぼって遊びに来ました..これだけは幾ら言われても辞めません!」
あはははっ馬鹿だ耳引っ張られて連れていかれてやんの.....
ユリアは違うじゃん..仕事さぼって遊べば拳骨されるの解って来てたよな..
怒られても僕に会う為に来ていたんだ、それが僕のせいにする訳がないよ。
凄く、地味で可愛く無くて馬鹿だけど..凄く良い奴じゃないか...
「ユリアちゃんって凄く料理が上手いんだね」
「この位は簡単に出来るよ? お母さんの手伝いをずうっとやってるんだから」
家にある消し炭は何かな..凄く下手糞だよね?
いつも家の手伝いさぼって僕と遊んでいるのに何時手伝うのかな..
「ユリアちゃんの部屋って凄く綺麗だよね?」
「そうかな?普通だと思うけど..」
あははは..可笑しいな前に外から見た時はまるでゴミ屋敷だったよな。
だけどたかが僕が褒めただけでそこ迄してくれるのか..
今日僕のお母さんが死んだ。
お母さんもお父さんも好きじゃ無かった..だけど、何でこんなに悲しんだろう。
一緒にユリアが泣いてくれた。
何も言わずに後ろからユリアが抱きしめてくれた。
顔を見ると僕以上に辛そうだった..此奴はお母さんの為に泣いているんじゃない..僕が泣いているから泣いているんだ。
「大丈夫だよ、セイルくん..私がママの代わりになるから..幾ら泣いても良いんだよ..」
本当に馬鹿だ..家事があんなに下手なユリアが母さんの代わりなんて出来るかよ。
だけど..だけどさ..嬉しいよ。
つい抱きしめてしまった..何でかは解らないだけど抱きしめながら泣いているとなんだか落ち着く
多分、この時に僕の心はユリアに盗まれてしまったんだ。
完全に僕の負けだ..心の全部を僕で満たしている様な奴に僕が勝てるわけが無い。
他の奴が僕を好きって言っても心に響かない..だけど、此処まで僕の事しか考えないユリアが言うのならそれは別だ。
此奴は本当に母さんの代わりになる気なのか?
掃除に、食事に..何でもしてくれた。
流石に僕のパンツまで洗われるのは恥ずかしい、偶に僕のシャツの臭いを嗅いでいたけど..ユリアにされる分には嫌な気がしない。
お礼を言うだけで何でもしてくれた。
ユリアが愛している..そう言うなら信じられる。
だってユリアの頭の中は多分全部僕で出来ている..その位なんだから。
もう認めるしかないな..ユリアが僕を好きなのと同じ位僕もユリアが好きだ。
僕もユリアを喜ばせたい。
「大きくなったらユリアちゃんみたいな女の子と結婚したいな!」
この位で泣くなよ..困るから。
「私は、セイルくんが好き..だったらお嫁さんに貰ってよ...」
正直困る、まだ僕もユリアも子供だ..でも良いや、相手がユリアなら..
「僕で良いなら..喜んで貰うよ..ユリアちゃんは良いの?」
「私もセイルくんが良い」
お礼のつもりで言ったお世辞が..プロポーズになっているし..まぁ良いや、ユリアだから。
頭を全部僕で満たしている奴に寂しがりやの僕が勝てるわけ無い。
「セイルくん」が「セイル」になり、「ユリアちゃん」が「ユリア」になった。
そして何時も一緒に居た。
僕のお父さんが亡くなった時には、親を死ぬ気で説得していた。
その結果、僕はユリアの家で面倒をみて貰う事になった。
家はそのままでユリアが通ってくる..何も今迄と変わらない。
何時しかユリアで良いが...ユリアじゃなくちゃ駄目だ。
そう思える程に好きになった。
15歳になり成人してジョブを貰う..その後は女神様に誓いを立てて...結婚か。
ユリアが居るんだ..幸せな未来しかない。
なのに..何で僕は無能なんだ..
無能じゃユリアを幸せに出来ない..あんなに僕しか頭にないユリアじゃ..どうなるんだ。
僕は幸せに出来ない..どんなに泣いても喚いても仕方ない..
「おい無能..お前の女を俺が貰ってやるんだ! お礼を言えよ」
「どうした無能! お前が貰えなくなった女を仕方なく俺が貰ってやるんだ..こんな面白くも無い奴をな! お礼位言えないのか..言えないなら、こんな女捨てて他の女探すぞ」
「ユリアを..貰ってくれて...ありがとうございました」
「言えるじゃないか? 仕方ねー可愛げの無い女だが、貰ってやるよ..ユリア、早速今日の夜から子作りするぞ! ちゃんと満足させるんだぞ」
僕がユリアを不幸にした..
最低の男にユリアが..
だけど..いまの僕には..その最低男以上にユリアを幸せに出来ない...
「本当にお前は辛気臭い女だあれぐらいでメソメソしやがって..」
「ごめんなさい」
「原っぱで服脱がした位で暴れるんじゃねーよ..ただの冗談も解らねーのか..ばか女」
「ごめんなさい」
「それしかいえねーの..まぁ無能の女だったんだそんな物か」
「ごめんなさい」
ユリアが痣だらけで..泣いていた。
力が欲しい..勇者なんて高望みはしない..同じ農夫でいい守る力が欲しい
女神なんて信じない..僕が何をした..犯罪者やトーマにもジョブを与えたのに僕は...無能だ。
虫神様が..ケインビィがビィナスホワイトが僕に力をくれた。
待っててくれユリア..絶対に助けるから..
僕は少しでも早くユリアを苦痛から救うために走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます