第14話 【閑話】 セイル病..私の王子様


私の名前はユリア..


セイルが知らない事があります。


それは..私はセイル病という病に侵されている事です。


いや、本当に病気なのかって言うと違うけど...殆どセイルの為だけに存在しているみたいな物なんだよ。



セイルと出会う前の私は、暗くて引き籠りに近かった。


トーマ程じゃ無いけど、性格も良くなかったと思う。



大体、こんな田舎の村に真面な男の子なんて居ないよ...虫とったり魚とったり、文字だって読めない子が殆どなんだから。


私はそんな男の子が大嫌いで話をするのも嫌だった。


幸い、自分で言うのも何だけど、私は容姿が優れていない...まぁ本当の真ん中中の真ん中だからこっちから冷たくしていれば言い寄って来ない。


これが多分、人気のあるミランダとかだったらしつこく言い寄られたのかも知れないけど..まぁそんな事は無かった。


そんな私の趣味は読書...本は貴重だから家には無いけど、教会で貸してくれるから読むことが出来る。


子供が文字が読めるのかって?


他に何もしないから、簡単に読めるようになったよ!


花摘みや編み物なんかしないで本読んでいたからかな、よくお母さんに女の子なんだからって怒られた。


別に女らしくする必要なんて無いと思うの..だって男の子なんて大嫌いだから。


大人になったらこんな村出て都会で暮らせば良いと思う。


まぁ、そんな事言ったら大変だから言わないけどね..



外に余り出ないから知らなかったんだよ..こんな近くに王子様みたいな男の子が居たなんて。


いや、本当に王子様みたいなんだって..セイルってプラチナブロンドに鳶色の瞳で..凄く肌が白いの。


普通は日焼けして真っ黒になるのに、セイルはね、ほんのりと赤くなるだけなの..本当に綺麗、そうとしか言えないの。



はっきり言えば一目惚れ。


だって本の中の王子様が目の前にいるんだから、こんな人絶対に王都に行っても居ないと思う。


私ってやっぱり現金だと思う。


セイルを見てから、毎日水浴びをして髪を整えるようになったの。


今迄、何もしなかった分、お母さんに編み物から料理まで全部教わった。


あいにく、才能は無かったけど..それはどうしようもない。







穿かなかったスカートも穿いたし...髪も切って貰ったし、臭くない様に水浴びもしたし。


これで準備OK。


子供なんだから気にしなくて良い..そういう妥協は一切しない。


そこまで準備したのに...



「セイルくん、おはよう!」


「うん、おはよう..」



セイルくんは行ってしまった。


そりゃそうだよね? 挨拶したら、挨拶をかえしてそのまま立ち去るよね? こっちが更に話さなければさぁ。



それからは暇さえあればセイルくんを見ていた。


セイルくんって勘が鋭いのかな、私が見ていると大体気が付いてくれるんだ。



「ユリアちゃん、もしかして今日も暇なの?」


「うん、家の仕事も終わったからもう暇だよ」


これは嘘..本当は畑仕事を放って此処に来ている、セイルくんと遊べるなら拳骨の5発なんて気にならない。



「ユリアちゃんって凄く料理が上手いんだね」


「この位は簡単に出来るよ? お母さんの手伝いをずうっとやってるんだから」


本当はお手伝いなんかしていない..この料理は朝4時に起きて頑張って作った..沢山の失敗作は今頃お父さんとお母さんが食べている。



「ユリアちゃんの部屋って凄く綺麗だよね?」


「そうかな?普通だと思うけど..」


本当は嘘..セイルくんが来るんだよ! 汚い部屋何て見せられないよ朝の5時から3時間かけて掃除した。



私の全ての時間はセイルくん中心で動いているんだ。


だって、何処にでもいるような女の子が王子様みたいな男の子の傍にいたいなら死ぬ程努力しなくちゃいけないんだ。


だから、私の全ての時間はセイルくんだけの為にあるんだ..


セイルくんは私を凄く優しい女の子だと思っているけど、本当は違う。


だけど、女の子ってそういうもんだと思うんだ、好きな人の為なら幾らでも優しくなれる。


私が優しいのはセイルくんにだけ..他に友達1人居ないのがその証拠。



だけど、それで良いと思っている、だってセイルくん以外は誰も要らないもん。


私の頭の中は


セイルくん>>>>>>>>>>自分>>親>>>>>>>>>>>>>>>他の人。



こんな感じかな?


その位差がある。



セイルくんのお母さんが死んだ時も「セイルくんのお母さんが死んだ」という事よりも「セイルくんが泣いているから可哀想」という気持ちが強かった。


セイルくんのお母さんには結構お世話になっていたのにそれ程は悲しく無かった。


「セイルくんが泣いている、悲しんでいる」それが悲しくて一緒に泣いた。


泣いた後は、そのままセイルくんを抱きしめていた。


私が抱きしめるとセイルくんは泣きながら私に抱き着いてきた。


どうしたらセイルくんが泣き止むのかな? どうしたら悲しくなくなるのかな? 頭の中で考えた。


「大丈夫だよ、セイルくん..私がママの代わりになるから..幾ら泣いても良いんだよ..」


そうしたら、凄く強くセイルくんが泣きながら抱きしめてくれた。


本当は喜んじゃいけない..私は顔では泣いていたけど..本当は喜んでいた。


だって、だって..大好きなセイルくんが私をこれでもかって位抱きしめてくれるんだもん。



それからは、私にとっては天国だった。


「ママになるから」そう言ったから公然とセイルくんの家に行ける。


明け方2時~夜の9時まで..それが私がセイルくんに使っている時間。


私は壊滅的に家事が苦手だ...普通の子が簡単に作るお弁当や食事も美味く作れない。


だから、時間を掛ける、例えばセイルくんに出しているシチューやスープは朝3時から作り始める。


コトコトとジャガイモやニンジンが簡単に崩れるまで煮込んで3時間かけて煮込む。


他の料理も幾つも作って、その中から一番出来の良い物を選んで持っていく。


失敗作は全部親や私が食べている。



「おいしいよ、ユリアちゃん」


その言葉を聞くために毎日不味いご飯を食べている親はさぞかし不幸だと思う。



毎日、食事を作って、セイルくんのお世話をした。


「私のセイルくん」、そう周りに思わせるように何時も傍にいた。


だってそうしないと、すぐにセイルくんに別の女がすり寄ってくるから。


セイルくんにすり寄ってくる女の子には凄く意地悪な事もした。


池に突き落とした事だってある..自分でも異常なのは自覚している。


だけど、好きで好きで好きで..しょうがないんだから仕方ない。



此処まで頑張っていたから..とうとう、とうとう..



「大きくなったらユリアちゃんみたいな女の子と結婚したいな!」



そう言って貰えるようになった。


嬉しくて、嬉しくて仕方ない..涙が止まらなくなった。



心配そうにセイルくんが私を見ている。


泣き止まなくちゃ..だけど涙が止まらない..嬉しくて、嬉しくて涙が止まらない。



「私は、セイルくんが好き..だったらお嫁さんに貰ってよ...」



勢いってのは怖い..言った途端に顔が真っ赤になった。


生まれて初めて、手足が震えた。


拒絶されたら生きていけない..


時間は全然経ってないのに..何時間も経っているような感覚になった。



「僕で良いなら..喜んで貰うよ..ユリアちゃんは良いの?」



良い、良いに決まっているよ..



「私もセイルくんが良い」



それを言うのが精一杯だった。


まだ、子供だけどこれはプロポーズだ..


セイルくんの全てを私が受けいれないわけが無い..



それからは私にとっては更に天国みたいな時間だった。



「セイルくん」が「セイル」になり、「ユリアちゃん」が「ユリア」になっていた。



そして何時も一緒に居た。



セイルのお父さんが亡くなった時には、親を死ぬ気で説得した。



その結果、家がセイルの面倒を見る、そう村長さんにお父さんが言ってくれた。



このまま、大人になりセイルと結婚して子供を産んで幸せになる。



本当の幸せが手に入った..そう思ったのに..何でセイルが「無能」なの..



親に噛みついた..「無能」でもセイルが良いって何度もお願いした。


村で一番下でも構わない...本当にそう思った。



だが、親から言われたのは「お前が無能の嫁になったらセイルも庇えなくなる」そう言われた。



セイルが..私がセイルの嫁になったら助けられない..


結婚しないで、死ぬ程働いて畑を耕して..そうすればセイルを助ける事が出来るかも知れない。


帝国は王国と違い..無能でも差別されないかも知れない。


私が頑張るしかない..


それなのに..何であんな奴の嫁にならなくちゃいけないの?



しかも、もう家に住んでいるし..



私なんて、セイルが居なければ価値なんてない、真面な男なら逃げだす筈だ。


私は「もとに戻る事にした」



住み着いたその日に無理やり私を犯そうとしたから本気で抵抗した。


殴られて口が切れたし、顔に痣が出来たけど..構わない。


怒鳴り散らしていたけど..こんな奴の声は怖くない..



此処に居たらセイルと結婚は出来ないかも知れない..連れて逃げるにしてもお金も必要だ。


どうして良いかも今はまだ解らない。



油断させるために普通に暫くは生活するしかないのかな?



朝食は、塩水と、キュウリで良いよね?



「何だ、お前嫌がらせか?」



「これが私の料理だけど? 嫌いだからって手は抜いて居ないよ」



いきなり殴られた、しかも此奴は私に抱き着こうとしていた。


大きな声で叫んだ..一応は親が来たら離れた..



親にも黙って塩水ときゅうりを出し..そのまま自分も食べた。


私はセイル病なんだ..セイルが関係ないならこんな物だ。


決して嘘じゃない..セイルと知り合わなければ、味噌をつけた野菜や塩水スープで充分なんだ..


髪の毛もとかす必要も無いし..風呂に入る必要も無い..



私の全てはセイルの物なのに...だけどこのままじゃ、私の全てが奪われてしまう。


嫌だ、それは絶対に嫌だ..



今日も喧嘩の末、拒めたけど、何時かは犯されてしまうかも知れない。


しかも、両親も見て見ぬふりだ。




私が拒んだせいか、トーマはむきになった。


よりによってセイルの前に連れていかれた。



「おい無能..お前の女を俺が貰ってやるんだ! お礼を言えよ」



「どうした無能! お前が貰えなくなった女を仕方なく俺が貰ってやるんだ..こんな面白くも無い奴をな! お礼位言えないのか..言えないなら、こんな女捨てて他の女探すぞ」



「ユリアを..貰ってくれて...ありがとうございました」



「言えるじゃないか? 仕方ねー可愛げの無い女だが、貰ってやるよ..ユリア、早速今日の夜から子作りするぞ! ちゃんと満足させるんだぞ」



最悪だ、だけど、此処で何か言ったら、怒りの矛先はセイルにいっちゃう..我慢するしかない。




こんな男に触られたくもない。



良い事を思いついた..ただ、お風呂に入らないだけじゃ駄目だ..



「これしかないか..」


私は覚悟を決めた..柄杓を手に持ち肥溜めから肥えを頭からかけた。


体中に入念にまぶすように擦りつけた。


キスもされるのも嫌だから口にも擦り付けた。


特に股の間、胸には入念に擦りつけた。


余りの臭さに吐いたけど、良かった、更にゲロまみれだからキスもしないだろう..



そのまま家に帰った。



「ユリア、貴方いったい何をしているの..ふざけないで」


「臭い、臭い臭い..頭が可笑しくなったのか..」



「トーマ、私は死ぬまで肥を被り続けるわ..糞尿まみれの女が抱けるもんなら抱いてみれば? まだ豚を抱いた方がましだと思うわよ!」


「そこ迄、俺を拒むのか..」



今迄に比べらられない程殴られた。



周りから聞いたら喘ぎ声に聴こえるかも知れない。



流石に此処までしたんだ、今まで以上に怒鳴り、罵倒された。


けどどうでも良い、ただ痛めつけられるだけで済む。




家の中だからセイルには見られないから汚くても構わない..セイル以外の男に抱かれる位なら糞尿まみれの方がましだ。




これで安心だ..




だけど、流石に一日中糞尿まみれでは居られない..トーマが畑仕事に出たら水で洗い流して、夜になったら糞尿を被った。



だけど..油断した。


まさか昼間に襲ってくるなんて思わなかった。


セイルが遠くから見ている。


他にも人目がある..


泣けば良い..泣いていれば流石に世間体もあるから..犯したりできないだろう。




「本当にお前は辛気臭い女だあれぐらいでメソメソしやがって..」


「ごめんなさい」


「原っぱで服脱がした位で暴れるんじゃねーよ..ただの冗談も解らねーのか..ばか女」


「ごめんなさい」


「それしかいえねーの..まぁ無能の女だったんだそんな物か」


「ごめんなさい」



セイルの悪口を言われたのが凄く悔しかった。


言い返したい..だけどそんな事したら怒りがセイルに向く..私は何時までこんな事をしていればいいのかな..


もういいや..家族もこんな奴も死んでいいや..家のお金を全部持って逃げようかな..親は.気になるけど..セイルに比べたら..要らない。



トーマ、私は貴方に謝っているんじゃない..助けてあげられないセイルに謝っているんだよ..





セイルがトーマに決闘を申し込んだ。


多分、私のせいだ..嫌だ嫌だいやだ..セイルが死んじゃう..


セイルを助けたい..だから黙ってついていった。



「何だ、無能..情けでお前の女を貰ってやったのに決闘だと..恩をあだで返しやがって、殺してやるよ」



「セイル、逃げて殺されちゃう...逃げて」



セイルが殺されちゃう..セイルが死ぬ位なら離れ離れでも良い..生きて欲しい。



もうトーマからセイルを助けるにはこれしかない..


今迄守って来たけど..セイルが死んじゃう位なら..いい..




「やめて、トーマ..逆らいません、何でもします..最後まで、最後まで今夜はちゃんと最後までしますから」


「うるせーよ、今更おせーよ、駄目だ此奴は殺す」



嘘、嘘..セイルが殺されちゃうよ..殺されちゃう位なら..我慢すれば良かった..私が私が拒んだからセイルが死んじゃう。




「辛気臭くて殴っても言う事きかねーからな、セイル、セイル喚いて..暴れやがってよ..絶望させる為に一番最初はお前の前で犯してやろうと思ってたんだぜ! そうしたら何でも言う事聞くようになるだろう? まぁお前の死体の横で犯してやるよ! そうすりゃ此奴も俺の言いなりだ!」


誰が..セイルが死ぬならもう何も要らない..セイルが死んだら私も死ぬわ。



「ユリア、もう泣かないで良い..遅くなってごめん、助けに来たよ」



「セイル..殺されちゃうよ...まさか死ぬ気なの!」



セイルは死ぬ気であそこにたっているんだ..セイルが死んだら..私も後を追う..それしか結ばれる方法はもう無いよ....だけどセイルと一緒ならそれも良いわ..


命がけで好きになってくれたんだ..死んでも私幸せだよ。



「無能、姦淫は罪だ..これは決闘が終わって、もし貴方が無事でも罪になりますよ、ユリアもね..トーマ準備は良いですか」



何を見当違いな事を姦淫はトーマじゃない..だけど神官様、二人して死んじゃうから責任なんて負えないわ。



それでも、やっぱり死んで貰いたくない。



「セイルが死んじゃう..だれか止めて」



止まるわけが無い..



だけど..何が起きたの、セイルが鍬を掴んでいる。



「無能の癖に..殺す」



止められたのは奇跡だ..二回目は起きない..本気の攻撃じゃ..セイルは死んじゃう..すぐに後を追うからね..私はナイフを手にした。



「聖剣錬成」



聖剣? 赤くて綺麗な剣だ..何が起きたの? だけどもうセイルの負けは無い。


だって剣を出した時点で最低でも「上位剣士」だそうじゃなくちゃ..剣なんて出せない。




「俺の俺の腕がいてぇええええええええええっ」



いい気味だ..手が無くちゃ畑は耕せないわ..結婚も破棄だよね..残念ねトーマ


私は性格が悪い..セイルが居なければ笑っていたかも知れない。



「せっセイル..辞めろ...殺さないでくれ、ななっ..そうだユリアは返す..」


「解った、別れる、別れる、最後までして無かった..彼奴は新品のままだ..それで許してくれ」


「許すよ..それで..」



セイルは優しい..そんな奴殺しちゃえば良いのに..だけど優しいのがセイルだもんね..




「無能、いやセイルこれは無効だ、明らかにスキルを使った..無能でないなら決闘権はない..しかも他人の妻を奪おうとしたんだ姦淫罪だ」


「だが、無能として扱い、不当に財産や権利を奪われた..ユリアだって本来は僕の婚約者だ」


「それは認める、村長やユリアの両親の罪は教会から償わせる、だが決闘で妻を奪うのは姦淫だ..しかも両腕を切り落とすなど残酷極まりない」


「そうだ、俺は悪く無い..罪を償え..ユリアがどうなるか..俺の妻だ自由にできる..残酷に扱ってやるから覚えておけ!この腕の恨みは全部ユリアに行く」




「そこまでする事は無い、腕は農夫の命だ斬り落とすなんて..」


「やり過ぎだ」




何を言っているのか解らない..なんで皆でセイルを責めるの? 私はトーマの妻になった気はないのに、女神様にも誓っても無いのに..可笑しいよ。


トーマはセイルを殺そうとしたのにセイルは殺さなかった。


それだけでも優しいじゃない。





「辞めた..許さない」



最初から殺せば良かったんだよトーマなんて..だけど..不味くないかな..神官の前で..





私が殺してって言ったら..殺してくれるかな? 「上位剣士」なら村人なんて簡単だよね..神官と何人か殺せば追って来ないと思う。


殺して..二人で逃げれば..うん大丈夫だ..




あれっセイルが紙を見せている..嘘..勇者?



「ああっ、聖剣まで作って見せただろう?..無能なら「決闘法」勇者なら「勇者保護法」が適用だ..僕は誰を殺しても許される筈だ..勇者は法の外にある、他人の妻だろうが王女だろうが自由に出来る違うか?」


「セ..セイル様...いや勇者様..それは」


「ヨゼフどっちだ? 無能ならそれで良いんだ、その場合は此処に居る全員に決闘を申し込む..女もな、15歳以上の人間を皆殺しにして王都に行き教皇も決闘して殺す..そうしたら気が晴れる..僕は勇者なのか無能なのか早く言え」




「セイル様はまごう事無き勇者です..すいませんでした..お許し下さい」



セイルは..勇者様なんだね..お針子じゃ釣り合わないや..




「それじゃ、ユリア行こうか? 後は神官ヨゼフに任せた..良いよな?」



「ユリアどうしたんだ..」


「私、もう汚れてしまったの..だから」


「一線を越えていないのなら気にしなくて良いんじゃないか? もしそれが気になるなら..知っている人間を皆殺しにすればそれで済むだけだ」


セイルはズルいし、優しいな..多分私の為に言ってくれたんだ..私が傍にいる選択が出来るように。



「それで良いの?..本当に良いの?..セイルなら私じゃなくても幾らでも相手が居るのに」



勇者様だよ..貴族の娘から王女様...王都に居る聖女様だって選び放題..セイルはカッコいいから..誰だって好きになるよ。



「ユリアが良い」


「だけど..本当に私で良いの..勇者ならそれこそ、貴族や王族だって」


「お針子のユリアが良い」



本当に私で良いの? ただのお針子なのに..



「そうか、うん、私もセイルが良い..傍にいたかった..助けてあげたかった..だけど」


「殴られて、酷い目にあっても、最後まで抵抗してくれた..僕が酷い目にあわないように庇ってくれていたそれで充分だ」



頑張って良かった..本当に良かった..痛くて辛くて臭かったけど..本当に良かった。



「ごめんね..セイル」


「僕こそ、ごめん..今迄助けてあげれなくて」



久々に見たセイルはボロボロで汚かったけど..


そんなセイルが..どんな勇者や王子さまより綺麗に見えた。



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