第13話 【第一章 終わり】 旅立ち


「勇者セイル様、これがお約束のお金です」


「村長さん何だか悪いですね」



「気にしないで下さい..家と残った家財を貰いましたから..」


「そう、それなら良かった」


革袋の中には思った以上のお金が入っていた。


この村ならユリアと二人で2年は暮らせる。


だが、都心部に出たら半年持つかどうか位と考えた方が良いかも知れない。


村長とはいえこんな田舎ではそれ程財産など無い。




「アサ..どうだユリアの家は」


「優しくて最高だよ..ユリア姉ちゃんの部屋を貰ったし、井戸も家の中にあるから凄く楽だ」


「それじゃ、私の代わりにお父さんとお母さんを頼んだね!」


「うん」



ユリアの両親が




「勇者様、娘をお願いしますね!」


「娘をお願い致します」



「はい、命に代えても守ります」



「勇者様が命に代えてもとは凄く頼もしい」


「悪かったわね..勇者様」



「最後だからセイルでも良いのに..」


「そうはいきません..セイルはもう勇者様なのですから」


「そうです、けじめは大切ですからね」


「そうですか、色々ありましたが15年間有難うございました」



「こっちこそ最後はすまなかった」


「その話は辞めましょう」


「そうですね」



もうこの村に来る事は無いだろう..最後は笑って別れれば良い。


「おい、婆さん!」


「ゆ、ゆ勇者様..」


「トーマは許すよ..逆に婆さんは許してくれないかも知れないが...これからは普通に弔ってあげて良いよ..さっきトーマの墓には花を添えてきた」



「何故じゃ..」


「僕は小さい頃の親を亡くした..だから親の愛なんて知らない..しいて言うならユリアが全てだ、もしユリアがとんでもない悪女になっても殺されたら悲しい..親のあんたはもっと悲しいんだろうなと思った」



「...」



「さっき、お墓も拝んできたよ、トーマがあの世で女神様の傍に行けるようにって..まぁ償いにもならないけど」



「充分です..本当にすまなかったじゃ..そんな勿体ない、あんな息子の為に勇者様が女神様に口添えくれるなんて..充分ですじゃ」


「それじゃこれもあげるよ」


「これは..女神のペンダント..勇者様の持ち物では..」



「うん、お墓に掛けてあげても良いし、婆さんがそれを持って祈ってやっても良いんじゃないか?」


「ありがとう..勇者様ありがとう..本当にすまなんだ..本当にすまなんだ」





僕は悪人だ..僕はもう人の女神なんか信仰してない..だがこの国には生まれ変わりの信仰がある。


勇者や聖女が認めた者は女神の元に行ける、そして次の人生は幸せになれるという物だ。


そして、勇者や聖女が身に着けていた物..それを貰えるだけで罪が許されるという話もある


僕はもう勇者どころか女神の使徒じゃない..下手すりゃ敵だ。


僕が祈ったら女神は嫌うかも知れない..そして虫神を信仰する僕には女神のペンダントもガラクタだ。


そんな物で恨みが消えるなら..やっちまった方が良い。


「勇者様、あれで良かったのですか..あれは最高の名誉ですよ」



(昨日家族から聞いたんだ、女神の聖書を破り捨てて、女神像を壊したって)


(何と罰当たりな..その様な者に)


(そんな人間が居るなんてばれたら村が大変でしょう..これで息子を殺した事を許して貰えて恨みが無くなって村が助かるなら充分です)



「貴方は..まったく..本当に優しいのですね」



もう此処には二度と来ない...態々嫌われる事も無いだろう。



「まぁ、嫌な事もあったけど、孤児だった僕は此処で育てて貰った..感謝の気持ちもあるし..もう良いや」



「そうですか..」


「はい! ユリアはお別れは済んだ?」



「うん!」



「勇者様は何処にこれから行かれるのですか?」



「都に出て冒険者になるよ..貰ったジョブ認定証を出せば良いんだよね」


「王都ですか? まぁ勇者様なら確実に成功するでしょう...頑張って下さい」


「はい..それじゃ、そろそろ行きます..ユリア行こう!」



「うん!」




「さようなら!」


「さようなら」



「「「「「「「「「「「「「さようなら..勇者様」」」」」」」」」」



「「「「「「さようなら ユリア」」」」」」





「セイル、私村から出るの初めてなんだ、凄く楽しみ!」


「それは僕も一緒だよ!」


「そりゃそうだよね!何時も一緒だったんだから...それで道はこれで合っているのかな?」


「うん、サンダルサン帝国の帝都に行くのならこれで良い筈だよ..」


「ちょっと待って! 王都に行くんじゃないの?」



「行かないよ」


だって僕は「虫の勇者」だからバレたら不味いからね..


この国は女神を信仰する一神教、万が一ばれたら何かあるかも知れない。


それに比べてサンダルサン帝国は、色々な宗教があり統一されていない。


だから、悪魔教や邪神教以外は信仰の自由がある。


僕が行っても何も問題無い。


虫神様の信仰や、違う宗派の勇者だとばれた所で問題は無い可能性が高い。


その代り、力こそ全てという感じで..勇者特権は余りない。



「どうして? 王都なら勇者特権とかがあって良いんじゃないの?」


「確かにあるけど、勇者だと、聖女様と付き合うとか、貴族のお嬢様や場合によってはお姫様と付き合う事になるかも知れないんじゃないかな?」


「セイル..私..要らないのかな..」


「違うよ、僕はユリアの方が聖女よりも王女様よりもずうっと良いよ..だからユリアとの楽しい生活を邪魔されたくないから帝都に行くんだよ」


「セイル..私、凄く嬉しいし幸せだよ!」


「僕も!」



二人は帝都へと楽しく旅立って行った。



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