第10話 幸せだから許せることもある
今は10時位だろうか?
僕とユリアは寝ていた。
村の朝は早い..こんな時間まで寝ていられる事はそうそうない。
横を見るとユリアが寝ている。
だらしなく涎を垂らしながら..こんなだらしないユリアは見たことが無い。
見続けているとユリアが目を覚ました。
「セイル..おはようって..嘘、私の寝顔見てたの? 変じゃなかったかな? 大丈夫..というか恥ずかしいから起こしてよ」
「見ていたかったんだから仕方ないよ、それに昨日はお互い、これでもかって位恥ずかしい事していたんだから今更じゃない?」
「そうだね...」
ユリアが考えるような顔をしていた。
「どうしたの?」
「いや、不思議だなと思って..トーマには手を握られるのも嫌だったのに..セイルに触れると凄く嬉しい..あんな所やこんな所、多分セイルに触られていない場所何か私にはもう無いと思う..なのに何処を触られても嬉しくて仕方なかった」
「そうかな、その割には嫌がっていた所もあった気がするけど..」
「セイルはデリカシーが無さすぎ..誰だってあんな事されたら恥ずかしいに決まっているでしょう! 多分、他の人にされたら自殺しちゃうよ..だけどセイルにされるならそれだって恥ずかしいだけだよ」
「それを言うならユリアだってあんな所やこんな所迄、僕の体で頭の先からつま先までユリアが触っていない所なんて無いよ? それに僕は何日も水浴びもしてないから凄く臭かったんじゃないかな」
「うん、臭かったよ..だけどこれがセイルの匂いなんだそう思ったら気にならないかな..むしろ心地よい匂いだよ」
そういいながらユリアは僕の首筋を鼻を近づけてクンクン嗅いでいた。
「そうなのかな..」
綺麗好きなユリアの意外な一面を見た気がする。
「それより、セイルの方は大丈夫だった..私顔から体から痣だらけだったし..目だって何時も泣いていたから腫れていたでしょう? 酷くなかったかな?」
「全然、それでもユリアは可愛いし痣なんて気にならないよ」
「そう、今の私で可愛いなら、痣が消えて目の腫れが無くなったら..どうなるのかな? メロメロになっちゃう?」
ユリアが僕の顔を覗き込んできた..
僕は多分、こういう仕草も含んでユリアの全てが好きなんだと思う。
「メロメロになっちゃうよ!」
「そう!嬉しいな」
二人で朝から水浴びをした..僕の髪をユリアが洗ってくれた。
お礼にユリアの髪を洗ってあげた。
溜まった垢が流れて臭い匂いが無くなっていく..それと同時にほんのりとついたユリアの匂いも無くなっていくようで寂しい。
「なに、変な顔しているのかな?」
「いや、ユリアの匂いが無くなっていくみたいで寂しいなって」
「なっ..セイルって本当にストレートだよね?いいよ今夜思いっきりまた私の匂いつけてあげる..その代わり私にも沢山セイルの匂いをつけて貰えたら嬉しいな!」
ユリアの顔がいたずらっぽく笑った。
「いまは少しだけ..」
そういってユリアが頭をぐりぐり押し付けてきた。ユリアの髪の良い匂いが僕の体についた。
僕はお返しとばかりにユリアを抱きしめた。
「セイルって独占欲が強かったんだね...」
「多分違うと思う、この数日間でものすごく強くなった気がする」
「そう? 確かに私もそうだよ! 私も凄く強くなっちゃった..同じだね」
「うん、同じだね」
今まで15年近く一緒に居てユリアの事なら何でも知っていると思っていた。
だけど、昨日のユリアも今日のユリアも知らない。
嫉妬って怖いな..こんなユリアが僕以外の男の横にいたら、相手がどんなにいい奴でも決闘していたと思う。
今のユリアは幸せそうに笑っている。
僕も凄く幸せだ..
もし、この幸せにたどり着いていなかったら..すべてが手遅れだったら、恐らくトーマを殺して村人を皆殺しにしたかも知れない。
そして、村の全ての金品を奪いユリアを連れて世界を逃げまくっていたかも知れない。
それでもユリアは横に居てくれる、そう確信はしているけど、そのユリアは多分笑顔で無いだろう。
だけど、今の僕は幸せだ..ユリアも横で笑っている。
だから、許せる..もういいじゃないか?
ユリアを虐めていた奴はもう死んで居ない..それで終わりで良いじゃないか?
もう恨みは忘れよう..それで良い。
僕が勇者だと連絡が入っているだろう..
だけど、僕は「虫の勇者」だ紙にも「虫の」としっかり出た、このままいれば勇者の扱いは受けれる。
だが、どこで綻びが出るか解らない。
認定だけ受けたら..さっさと村を出るのが良いかも知れない。
「ユリア暫くしたら、この村を出ないか?」
「急な話だね」
「うん、この村には良い思いが無い..だけど15年育てて貰った恩がある..だけど」
村長さんから焼き芋を貰ったり、小さい頃は魚釣りに連れて行ってもらった。
早くに親を亡くした僕を皆が育ててくれた。
神官さんは怖いけど、たまにこんな村じゃ食べられないお菓子をくれた。
仲が悪くなる前は、ミランダともよく遊んだし..昔には好きだって告白を受けた。
もし、ユリア以外で誰かを好きになるとしたら彼女だったのかもしれない。
アサは悪ガキだけど良く懐いてもくれていた。
楽しい思い出も沢山ある..だが不幸は怖い。
傍で見ているとその楽しかった思い出が嫌な思い出に上書きされる。
だから、嫌いにならないうちにここから出るのが良いと思う。
僕は自分の気持ちをユリアに伝えた。
「私も同じかもしれない..それに私言ったじゃない..もう離れないって、だからセイルがそうするなら着いていくだけだよ」
「ありがとう」
「それで出て行ってどうするの?」
「そうだね、僕は冒険者にでもなるかな? ジョブが勇者だから仕事には困らないよ」
「私もお針子のジョブだからどこでも仕事はある..良いかもしれないね」
「うん」
「そうと決まれば神官様の所に行ってくるよ」
「待って私も一緒にいくよ」
僕はユリアの手を握りドアを開けた。
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