第8話 【閑話】 裁き 生き残る為に

「ヨゼフ神官様..これから私達はどうなるのでしょうか?」



私はこれから辛い事を言わなければならない。



「村長、お前の財産は全て勇者様の物だ..土地に畑、今持っているお金も銅貨1枚残らずにな」


「なっ、それは可笑しい..幾ら相手が勇者でも可笑しい..あの時セイルは無能と判断された筈だ」



それは私の判断だ..解っている。


「その責めは私にある..私は恐らく、教会か国に裁かれる多分死を持って償う事になるだろう..私と一緒にその裁きを受けても良い、その場合は財産は没収の上..一族郎党..死刑だ」



「なっ、そこ迄されなくてはならないのですか?」



何かと可笑しい「勇者支援法」の本を読ませた。




勇者支援法 第32条


勇者の財産を奪いし者はその財産の全てを奪われ勇者に返済される。


また、勇者が気に入った者がその一族に居た場合は奴隷として差し出す事とする。


それを最低限とし勇者の意向次第では最大では一族郎党拷問の末殺される。



「勇者支援法とは此処までの物なのですか?」


「そうなのだ..今は平和だが、魔王と戦っていた時には「光のオーブ」や「聖剣」を持っていた..勿論高価な事もあるが、それが無くなったら人類が滅ぶかも知れない..そこから生まれた法だ」



「だが私が奪ったのは法に則り、家や畑に家財だ..」


「村にある王国法を読むと良い..判断に猶予期間がある」


「猶予?」



「無能は判断が付きにくいので判定後..1か月経過観察の猶予を見る..そう書いてあった」



「そんな..そうだ、私がセイル..いや勇者様にお願いする..全部失ったら...息子が不憫だ、何とか私の命で..」



「無駄なのだよ..今は勇者様は恋人とお過ごしだ..何人たりともそう言った時間を奪えない、それに私に代行を頼まれてしまった..これが私の精一杯の慈悲なのだ..あと3日もすれば、リットン伯か聖騎士がくる、そしたら死罪だ、それを望むなら私はもう何も言わない」



「そうか、解った..私は家族を連れて、立ち去るとしよう..だがすまない、せめて後1日猶予をくれ」


「どちらかが来るまでなら私の権限だ、その位の猶予なら大丈夫だ」



「神官殿すまないな..」




「だが、ミランダはそのままでは駄目だ..」



「そんな、私はただ意地悪しただけだよ..何かされるの..」




「私の妻が一体どんな罪を犯したというのですか?」


「ミランダが告白しただろう..意地悪をした..さらに言うなら鎌で勇者を傷つけたのを見た」


「それはどういう罪にとられるのですか?」



勇者支援法 第2条


勇者を傷つけた者は二度と傷つけられぬ様に四肢の切断をする。


状況により死罪とする。


「そんな..」


「大丈夫だ、私の権限で腕1本で済ます..腕1本以下には出来ない..」



「国の決まりじゃ..諦めるしかないんだね..意地悪何かしなければ良かった..」




「済まぬな..アサお前もだ..」


「僕は、僕はまだ子供なのに..ただ突き飛ばしただけなのに..」



「すまない、勇者支援法に子供だからという法はない」




「僕の手、僕の手が無くなるの?」



「すまないな、ミランダもアサも明日は執行しない..1日だけ猶予は与えよう」



「さぁこれでどうにか裁きは済んだな、罪人は立ち去るが良い」



村長、村長の息子、ミランダ、アサは顔を青くしながら立ち去ろうとした。



「村長、明日はまだ出て行かなくても良いが、屋敷には勇者様が住むから..明日からは私の家に来てくれ」




「懐かしむ時間も満足に貰えぬのか..」


「すまないな」



4人が立ち去った後、神官は村人を残した。



村人達は自分が罰されなかったからホッとしているが、何かあるのか恐怖で一杯だ。


この中にはアサと同じ様に突き飛ばした人間もいる。




「ほっとしている間はありませんよ..先程の四人を明後日殺すのです」



「そんな、私達は村長にお世話になった」


「子供にまでそんな事は出来ない」




「良いですか? 勇者支援法を大きくとらえれば、村全体の責任になります..そうしたら村が滅びます」



「うちの子はまだ赤子です..そんな」


「うちだって倅がいるんだ..」



「だから、村長に罪を着せるしかありません..神官に裁かれたけど、勇者に対する狼藉が許せないので殺した..そう言えば良い」



「それしかないのか..」



「そうすれば心象も良くなる..あとその事は勇者様には悟られてはいけません..そうですね..勇者様には罪の意識から彼らは旅立った...そうしましょう」



「神官様はどうするのですか?」


「幸い私には家族は居ません..死を持って償うとします..良いですか? 私が判断を間違えた..そして勇者への迫害を指示したのは村長、それで納めるのが良いでしょう..聖騎士かリットン伯の軍がきましたら..話をして私一人の命で償うとします」


「そんな神官様..すまねー」



「良いですか? 明日は村長には普通に過ごさせなさい..せめて最後の一日は楽しく過ごさせてあげましょう」


「解りました」



「そして、明日からはセイル様は勇者、ユリアは勇者様の思い人..誠心誠意尽くしなさい..王や教皇以上に大切に扱うのです..良いですね」




「「「「「「「「「「解りました」」」」」」」」」



「あの、私達はどうすれば良いのでしょうか? セイルにいや..勇者様から娘を取り上げた.どうすれば..」


「それは勇者様次第..思い人の親なのです...勇者様も酷い事はしないでしょう」


「あの私たちは?」


「罪が無いのは解っています、ですが今回勇者様に1番害したトーマの家族です、リットン伯や聖騎士が来る前に逃げたほうが良いでしょう」


「解りました」


それぞれの思惑の中で時間は過ぎていく。




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