第7話 閑話】 裁き ある神官の憂鬱

今、私は教皇ヨハネス3世と国王ルドル4世に連絡をしている。


まさか、自分のような神官がまさかこの様に話す事になるとは思わなかった。



通信用の伝心のオーブ。


これは特別なオーブで普段は使えない。


しかも、普通の神官は一生使う事は無い。


緊急時にのみ使える大変高価なオーブなのだ。


それが、何故この様な田舎教会にあるのか?


それは、勇者が何処に現れるか解らないから、誕生した際の報告や魔族が進行してきた時の緊急連絡を取る為だけに存在する。


今は魔王が居ないし、魔族の進行等、魔領と隣接してない此処には関係ない。



最初は教皇様に連絡を入れた。



教皇の深刻な顔がオーブに映った。


「何が起きたのでしょう!」


「先日の成人の儀にて勇者様が誕生しました」


「勇者様ですか? 成人の儀から随分時間が経ちますね..何故すぐに報告しなかったのですか?」



話したくはない..これは大変な事になる、恐らく何人もの死人が出る。


だが、話さない訳にはいかない。


事情を詳しく話した。


「ああっ、女神の使徒たる勇者様に何て事を..良いですか? 今は魔王が居ません。だから勇者様に戦う理由はありません..ですが勇者様は使命を帯びています」



「それは解っています」



「解っていない! 解っていないのだ! たかが神官の癖に勇者様を無能扱い! 良いですか? 貴方は私を教皇様と呼ぶし聖教会にきたら私の前に膝磨づきますよね? その私が膝磨づくのが勇者様や聖女様なのです..国王よりも教皇よりも更に言うなら聖女様より尊い勇者を無能扱い! なんの為の信仰ですか? 勇者様が決闘? そうなる前に貴方が相手を殺しなさい..。勇者様が愛している方が奪われた..そんな男の家族ごと皆殺しにしなさい。勇者様は女神の次に偉い..その勇者様に害なす存在を許しちゃいけません。それで勇者様は何処にいるのですか? まさか粗末な家に居るなんて言いませんよね? 国王が来た以上にもてなしなさい..良いですか? 「勇者支援法」を越える扱いで接しなさい..解りましたね..本当に口惜しい..すぐにでも飛んでいきたい..傷ついた勇者様の心をいやす為に、シスターでも何でも差し上げたい..明日にでも再度連絡します..オーブは幾ら使っても構いません..何かあったらすぐに報告するのです、聖騎士も1小隊すぐ近くの街から行かせます..良いですね..」



何も言わせて貰えなかった。


村人の命乞いも出来なかった。


前の教皇ならもう少しどうにかなったかも知れない。



だが、ヨハネス3世は「女神至上主義、勇者至上主義」だ。


「勇者や聖女は尊い、勇者の為に働いてこその教会」そこまで言う方だ。


しかもヨハネス派の信者は..おかしい。


男女共に結婚相手に「貴方は私の2番の相手です」その様に宣言しそれが許されなければ、どれ程愛した相手でも結婚しない。


結婚していようが恋人がいようが..もし聖女や勇者が見染めたなら直ぐに捨てて仕えるだろう。


それが妻や側室ではなく奴隷としてでもだ。


勇者や聖女が、子供が邪魔だと言えば..実の子でも殺す。


ある意味狂信者だ。


あの教皇が来させるのだ、聖騎士もヨハネス派に違いない。


勇者の為なら喜んで人を殺す。


いや、勇者が望んで無くても勇者が喜ぶように殺す。


そして、勇者が死ねと言えば笑いながら胸にナイフを刺す..


そんなヨハネス派の聖騎士がくる。





次は国王に連絡しなければならない..頭が痛い。


「何じゃ? 辺境の村の神官が王たる儂に何かようか?」


「この地に勇者のジョブを授かった者が現れました」



「勇者..ああ勇者様が遂にこの地に現れたのだな、この国は勇者様が生まれなかった..帝国にも現れたのに儂の国には現れなかった..これでこの国も勇者輩出国の仲間入り..王子に肩身の狭い思いをさせないで済む..すぐに近くのリットン伯に行かせる..くれぐれも粗相のない様に頼みましたぞ、ヨゼフ殿」



頭が痛い..国王ルドル4世は名前を覚えないので有名だ。


王城で仕える者でも気に入らない者の名前は覚えない。


それが、ヨゼフ殿だ。


「それで何か問題は起きておらんか? 王権を発動させて構わないから、くれぐれも粗相のない様にな」


頭が本当に痛い..報告しないといけない。


仕方なく報告した。


「勇者様を無能扱い? まぁ知らなかったのだと言うなら情状しても良いが、「勇者支援法」に基づいて厳しく裁くのじゃ..勇者様がそれ以上を望むなら殺しても構わぬし、気に入ったのが居たなら奴隷にでもするんじゃな..その村の物は、全部人も含め勇者の物そう扱って構わん」



やっぱりそうなったか..


この国は勇者輩出国で無い。


その為、他国に下に見られる事が多かった。


勇者だけでなく、聖女も賢者も剣聖すら出た事は少ない。


待ちに待った勇者のジョブ持ち..あの国王が贔屓しないわけが無い。


何より、寵愛している第一王子が勇者に憧れている..




私の裁量では勇者支援法で裁くしかない..


来る前に全て終わらせる..それがギリギリの温情だ。



役人の居ない様な村で神官なんかするもんじゃない。


これから伝える事を考えると..幾ら女神の為、勇者の為とはいえ心が痛い..


だが、私は神官、女神の使徒..やらなければならない..



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