第3話 星たちの埋葬の地。歌う都市

その男からは雨の匂いがした。電子の雨が降りしきっている。


ユーディーは夢を見ている。どこかで聞いた声だ。


ここは星たちの埋葬の地。光の塔。

古代の諸民族は死者の魂が天上に昇り、星になると信じていた。


文明が滅び、死んだ星から、千々の人々の声が聞こえる。いつものことだ。


私を……壊して。壊して。 


やめてやめてやめてやめて。


その歌は全てを愛し、そして呪うように、ユーディーにつきまとう。



俺は誰かを探している。


隙をついて胸を蹴った誰かの面影。


その男は、いつも雨の日に、夢の中にやって来る。ブロンドの美しい髪と青い瞳。


また時の調べを聞きにここに来たのかお前は。その琴はいい音色だろう。滅びに抗う者たちの英雄譚を謳っているんだ。すばらしい新世界を作ろうとして失敗し、神に滅ぼされた者たち。


聞こえるか?私の声が。再び神話を越えようとするものよ。お前はその剣と一緒に事物そのものに帰るがいい。


ユーディーは答える。お前を探してる人なら、いるよ、いるよ。お前の好きな人なら、天空と地上に渡って、ずっと歌を歌っているよ。お前を愛する歌を。俺が居場所を知ってるからいつも話しかけてくるんだろ?


全ての忘却の穴から解釈してやるよ。俺が過去に世界だったものを本(テキスト)や、それ以外の言葉(テキスト)からも世界を構築してやるよ。

俺が全ての世界を思い出してやるよ。今度は世界もお前も間違わないように。


彼女は死んだんだ。と男は言う。私は思い出の道をたどるためにここにいる。過去にいた彼女にただ会うために。


生きてるよ。俺は知っている。とユーディー。


いつもそこで目が覚める。


その剣が呼ぶのは災いか救いか。その祈りがもたらすのは過去へと還る願いか、それとも未来への希望か。来るがいい。この星に再び命の火を灯すものよ。




ユーディー達は歴史の森に向かった。記憶だけしか残っていない、歴史の森に、ユーディーが歌を歌い種を植え、剣を振ると、木々がよみがえった。鳥たちが森の迷宮を彷徨い、木の葉が重力に逆らいながら飛び散っていく。うっそうとした森の木々から、緑の葉がこぼれ落ち、ユーディーの頭に当たった。一つの沈んでいった大陸がよみがえる。そこには街があり、都市が歌を謳っていた。しかし誰もそこには住んでいなかった。その歌は、誰かの面影を思い出させようとする。


その娘は、いけにえとして生まれた。歌を歌い祈りを捧げ、この世界の未来を予知し、すべての罪を引き受けた。人々は、すべてのことを、その娘──巫女のせいにした。憎しみも怒りも。


その娘──巫女は滅びの予言をした。

人々はその娘を殺した。巫女の魔力がなくなった天空都市は海へと還っていった。


天下都市に残された巫女のプログラムだけが、世界を癒す歌を歌っている。永劫に。



誰もいない都市に雪が降ってきた。人工天使の少年は言う。太陽が地球の周囲を回るように、この常識が命ずるように、魔女が火炙りにされ、羊泥棒が縛り首にされ、ユダヤ人は有害な汚染源として殺されたんだ。ここはもともと僕らが住んでるテレビジョン・シティだったんだ。これは、僕らの未来の姿。ユーディー、僕らを救ってくれないか?



・救う。


https://kakuyomu.jp/works/16817139557315447834/episodes/16817139558190725267

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