第46話 ファースト侍

 新年二日目、ジャポニカン王国の王宮。悪魔との戦いに勝利したことを祝って、豪華なパーティーが催される。各国から王族や代表を招いて、晩餐会だ。

 おっと、晩餐会の前に、叙勲式があるんだった。

 王宮最大の応接広間。水の森王国のカクボウ新国王、土の里王国のイマソガリ国王、火の丘王国のロクモンジ国王、北東の県のミャー族のゲソ長老、風の谷の長ビョビョが列席している。彼らの付添いも。そうそう、虹の都王国の国王に就任予定の男も。それからもちろん、ジャポニカン王国のノダオブナガ国王とサンドロ大臣も。キャンディー帝国の虎プー元大総統も。その他、関係者たちも。

 かおりんがマイクを持って、ノダオブナガとサンドロの側に来る。

「それでは、これより、ジャポニカン王国の叙勲式を執り行います。司会は私、妖精のかおりんが務めます。どうぞよろしくお願いしまーす」かおりん。

 サンドロが前へ進み出て、巻物を広げて読み上げる。

「パンゾノ、前へ」大臣。

「パンゾノは、モンスター大戦時にわしのパーティーにいた侍コマチの息子にして、先の悪魔との戦いにおいて、伝説の黒刀真剣をもってヤギの悪魔とハエの悪魔を倒した最大の功労者である」国王。

 会場から静かに「ぉぉぉーーーーーっ」と声が上がる。

「ジャポニカン王国に新しい職業を増やす。侍という職業じゃ。パンゾノ、お主がジャポニカン王国で最初の侍じゃ」国王。

 火の丘王国の侍たちから歓声が上がる。

「うぉーーーー!」侍たち。

「侍が火の丘以外にも!」侍たち。

「ジャポニカン王国の最初の侍か!」ロクモンジ。

「俺が、侍……」パンゾノ。

「ファースト侍じゃな」大臣。

「この刀をお主に授ける。コマチが携えていた刀、ハポネヤン刀じゃ」国王。

 パンゾノは刀を受け取った。

「これが、俺の母の刀……」パンゾノ。

「そうじゃ」大臣。

「パンゾノ、お主をジャポニカン王国の兵士長に任命する」国王。

「え……はい、謹んでお受けします」かしこまるパンゾノ。

 すぐに拍手が沸き起こる。パンゾノは少し照れながら下がる。

「いやー、素晴らしい活躍でしたね。では次に移ります」かおりん。

「次に、戦士マモル、前へ」大臣。

「はっ」マモル。

「マモルは、ドラゴンのゴンと共にモンスターと戦い、パンゾノ、マルテン、アマザエを救出し、アルチュールとシュバルツの企みを暴くことに貢献した」国王。

 会場から、特にジャポニカン王国の兵士たちから歓声が上がる。

「おおおおーーーー!」兵士たち。

「ゴンは俺らの仲間なんだけどよ」すぺるん。

「よって、もう一つ新しい職業を追加する。竜騎士じゃ。竜騎士のマモル、お主をジャポニカン王国の治安部隊長に任命する。名前の通り、国を守ってくれ」国王。

「はっ」マモル。

 拍手が起こる。太鼓の音よりも大きな拍手が。

「はいはーい、次に移りますよー」かおりん。

「次に、勇者コニタンのパーティー、前へ」大臣。

「ひいいいいいいい! 人おおおおおおお!」ビビるコニタン。

「うるさい!」殴るすぺるん。

 ハリーは自信満々に進み出る。すぺるんは負けじと筋肉をアピールしてハリーに体当りしながらハリーよりも前へ進み出る。

「みっともない……」金さん。

「コニタン、お主はパンゾノが覚醒するまで、勇者の剣をもってヤギの悪魔を翻弄し続け、ハエの悪魔を倒す際にパンゾノを奮い立たせた」国王。

 コニタンは気を失って床にへたり込んでいる。

「気絶してるぞ」すぺるん。

「お前のせいだろ!」ハリー。

「すぺるん、お主は刀の修行をし、戦場で縦横無尽に駆け回り、多くのモンスターを倒した」国王。

「さすが俺だ」筋肉ポーズを披露するすぺるん。

「キモっ」ハリー。

「ハリー、お主は二体の悪魔を仲間にし、サルの悪魔を魔界へと追い払った」国王。

「さすがは爽やかイケメンの俺様だな」ハリー。

「死ね!」すぺるん。

きん、お主は賢者にジョブチェンジし、魔法で多くの仲間を救い、悪魔との戦いを有利に進めた」国王。

「光栄です」金さん。

「コニタンのパーティーは、北東の県へ調査に行くことから、悪魔との戦闘まで、長く危険な冒険を乗り越えて、この大陸に平和をもたらしてくれた。まさに、大活躍であった」国王。

 ジャポニカン王国関係者から歓声が上がる。

「おおーーーーーー!」

「コニタンのパーティーには、それぞれ報奨金5000万yenを授ける」国王。

「うおおおーーっ、大金だぜ!」すぺるん。

「場所をわきまえろ、筋肉バカめ」ハリー。

「私は聖職者なので、金銭は受け取れません」金さん。

「じゃあ、俺が代わり――」すぺるん。

 すぺるんが何かを言おうとしたが、すぐに盛大な拍手でかき消されてしまった。

「素晴らしい、素晴らしいです。拍手ーーーっ! この私も活躍したんですけどね。私は王宮に勤めてるので、ご褒美がないんです。しくしく……では、国王様より尊いお言葉を賜ります」かおりん。

「えー、オホン。今回の事件で、悲しいことはあった。それは絶対に忘れてはならない。だがしかし、そのことよりも、全ての国が団結し、この大陸の平和を守ったことは、我々を隔てていた目に見えない壁を壊すのに十分であったと思いたい。そのことを、お互いに称え合おうではないか。誰もが差別されることなく、幸福に生きることができる世界を協力しあってつくっていこうではないかー!」国王。

 このノダオブナガの演説に、盛大な拍手が起こった。大半がスタンディングオベーション状態だ。しばらくの間、数分、拍手はまない。

「おお、そうだよな」すぺるん。

「筋肉バカでも納得するくらいの名演説だな。さすが国王様だ」ハリー。

 ノダオブナガは玉座に着席する。

「以上で、叙勲式を終了します。皆様、お疲れさまでしたー」かおりん。

 なんか、急に軽いノリで終わった叙勲式。


 コニタンのパーティーは、ジャポニカン王国の各街や村の代表者だけでなく、他国のお偉方にもお目通り。パンゾノも。

「ふう、疲れたぜ。さすがにこういう場でナンパするのは大変だな」すぺるん。

「何やってんだ! 筋肉バカ!」ハリー。

「私も遊び人に戻って、早く羽目を外したい」金さん。

「あー、やっぱりこうなる」かおりん。

「……」コニタン。

「相変わらず、気絶してる。はぁ、やれやれ」かおりん。


 そして晩餐会が始まる。王宮別館の野外庭園で。

 わいわい、がやがや。かおりんがマイクを取る。

「それでは、晩餐会を開始しまーす。皆様、席について下さい。よろしいですかー。せーのー、乾杯!」かおりん。

「乾杯!」全員。


 わいわい、がやがや。サンドロがコニタン一行に話しかける。

「今回も、お前たちには随分と働いてもらったな」大臣。

「お安い御用ですよ。報奨金さえ貰えれば、いくらでも働きますよ」ハリー。

「はぁ……」かおりん。

「そういや、風の谷の長が怪しいって言ってたよな。あれ、どうなったんだ?」すぺるん。

「それは、わしの勘違いじゃった」大臣。

「勘違い?」すぺるん。

「うむ。ビョビョ殿は、国王様の子ども時代の学校の先生じゃった。それで国王様が驚かれたのじゃ」大臣。

「ふーん、そうだったのか」すぺるん。

「こら、筋肉バカ、大臣様にタメ口で話すな!」ハリー。

「ほれ、国王様はあそこでビョビョ殿と一緒に飲んでおられる」大臣。

「なんだか、国王様、嬉しそうですね」ハリー。

「そうじゃな。国王様はビョビョ殿のような立派な人間になりたいと思っていたそうじゃ。心の師じゃな」大臣。

「ふーん」すぺるん。

「ハリー、お前も師を大事にしなよ」ミス・トリック。

「はい、師匠」ハリー。

「あたいと、東森と、妖精のかおりんの三人な」ミス・トリック。

「はい、師匠」敬礼するハリー。

「ふん、口だけだろ。それより、料理、うめえーー」すぺるん。

「おや、お主、なぜ海老を食べるのに、剣を使っておるのじゃ?」大臣。

「ん? 剣じゃなくて、刀だ。ロクモンジ国王からもらった海老斬丸えびきりまるだ」すぺるん。

「海老の甲羅くらい、手で割れ!」ハリー。

「しかし、コニタンはずっと気絶したままじゃな」大臣。

「結局のところ、コニタンさんは、ミャー族なんでしょうかね?」かおりん。

「もう、どうでもいいんじゃね?」すぺるん。


 わいわい、がやがや。ノダオブナガとビョビョが話をしている。

「先生、今回の事件がきっかけとなって、風の谷の地位がより上昇することを願いたい。我が国は助力を惜しみません。そうなりますよね?」国王。

「ええ、きっと、なりますよ」ビョビョ。


 わいわい、がやがや。マゲ髪がコニタンたちに近寄って来る。

「おう、お前ら。飲んでるか?」マゲ髪。

「ああ、飲んでる」すぺるん。

「そうそう、マゲ髪さん、虹の都王国の貴族たちから推薦されて、国王になられるんですよね!?」かおりん。

「ああ、そうだ」マゲ髪。

「えーーー! マジか! すげえ!」すぺるん。

「さすが、私の親友だ。これで私の人脈ももっと広がる」ハリー。

「黙れ! 親友じゃねえだろ!」すぺるん。

「はぁ……」かおりん。 

「ガハハハハハッ! さすがはマゲ髪じゃの」虎プー。

「うわっ、汚え、唾飛ばすなよ、虎さん」すぺるん。

「これでお前のことを呼び捨てできなくなるの」虎プー。

「虎プーさんと私の仲です、呼び捨てでいいですよ」マゲ髪。

「そうか、わしらの友情は変わらんか」虎プー。

「私とマゲ髪と虎プーさんとの友情も変わることはないな」ハリー。

 かおりんは薄目でハリーを睨んでいる。

「だがな、もしお前が腐った君主になったなら、わしはいつでも民主主義を広めに行くぞ」虎プー。

「虎さん、虎さんの男気、カッコよかったぜ」すぺるん。

「ガハハハハハッ! 顔もカッコいいと言え!」唾飛びまくりの虎プー。

「……ウザっ……」かおりん。


 わいわい、がやがや。マジョリンヌがコニタンたちに近寄って来る。

「お前たち、5000万yenもらったんだね。あたしは水の森王国から、2000万yenもらったよ」マジョリンヌ。

「おばはんは水の森王国からもらったのか」すぺるん。

「誰がおばはんだ! あたしも国王にしてくれないかね」マジョリンヌ。

 無理だ。


 わいわい、がやがや。アホ雉がコニタンたちに近寄って来る。

「お前ら、5000万yenももろて、羨ましいわ。わても風の谷から褒美をもろたんやけどな」アホ雉。

「いくらだ?」すぺるん。

「家や。レンガ造りの家や」アホ雉。

「素敵じゃないですか」かおりん。

「そうか。風の谷は貧乏やしな、家くらいしかもらえへんわ」アホ雉。

「バカ犬は谷に帰ったんだよな」すぺるん。

「そうや。あいつ、硬派やしな」アホ雉。

「俺と同じか」ハリー。

「……」かおりん。

「お前ら、マモルと何かあったのか?」すぺるん。

「ああ、そや。ナウマン教時代に、マモルを谷から突き落とした場に、わてらがいたんやわ……」アホ雉。

「ふーん」すぺるん。

「でも仲直りできたわ」アホ雉。

「よかったですね」かおりん。

「おい、ところでよ、ウマシカの妹だけど、どうしてんだ?」すぺるん。

「ああ、アマザエか。メイジ大神官と一緒にハルマキドンの教会を建て直してるみたいやで」アホ雉。

「シタインとセサミンも一緒に手伝ってる」ハリー。

「ふーん。ウマシカに似て、いい女だよな、グヘグヘグヘ」よだれを垂らすすぺるん。

「こらこら、ウマシカ様の妹を卑猥な目で見るんやない」アホ雉。

「この筋肉バカは、女なら誰でもエロい目で見るんだよ」ハリー。

「黙れ、クズ!」すぺるん。

「おい、今、ドロシーをエロい目で見たな!」ハリー。

「知るか!」ハリー。

「うふふふ。皆さんといると、ハリーさんも楽しそう」ドロシー。

「でも、すごい魔力を持ってるんですよね、アマザエさん」かおりん。

「そやな、ウマシカ様を凌ぐほどの魔力らしいな。天才やって、大神官が言うてたな。名前の通りや」アホ雉。

「ふーん、天才なのか」すぺるん。

「俺と同じだな」ハリー。

「死ね、クズ!」すぺるん。


 わいわい、がやがや。ロクモンジ国王とオノノ宰相がパンゾノに話しかける。

「パンゾノよ、伝えたいことがある」ロクモンジ。

「はい」パンゾノ。

「お主の母、コマチのことだ」ロクモンジ。

「はい」

「我が火の丘王国では、女が侍になることは認められてこなかった。しかし、それは誤りだった。コマチの名誉を回復したい。コマチを火の丘王国初の女性の侍として認定した」ロクモンジ。

「……はい……」複雑なパンゾノ。

「喜んでくれ」ロクモンジ。

「そう言われても、俺は……」パンゾノ。

「あなたが喜んでくれることを、コマチも願っていますよ」オノノ。

「……どうして、そう言えるんですか?」パンゾノ。

「私がコマチの双子の姉だからです」オノノ。

 それを聞いて、いろんな感情が絡み合って、パンゾノはどういう返答をすればいいのかわからなかったが、しばらくして少し微笑んだ。


 わいわい、がやがや。北東の県のゲソ長老が、国王と大臣に話しかける。

「国王様、大臣様、古い書物の解読、全て終わりましたですじゃ」ゲソ。

「そうか」国王。

「何か新しい発見はありましたかな?」大臣。

「はい。魔界と人間界の距離が近づくに連れて、両方をつなぐトンネルがひょっこりと現れるということですじゃ。それは大地を流れる川のように、干からびたり、洪水になったり、不安定になることもあるようですじゃ。30年ほど昔にモンスターが異常発生したのは、おそらくそういう理由らしいですじゃ。なぜなら、数千年前にも似たようなモンスターの異常発生が起きたそうだからですじゃ。それゆえ、差し出がましいですが、今回のことを後世に伝えるために、しっかりと記録に残すべきだと思いますじゃ」ゲソ。

「うむ、そうですな」大臣。

「その通りじゃ。戦いの記録を残そう。では、北東の県のミャー族に手伝ってもらいたい。よいか?」国王。

「喜んでお手伝いをさせていただきますじゃ」ゲソ。

年後の未来人へですな」大臣。


 わいわい、がやがや。虎プーが豪快にくしゃみをする。

「ぶわっくしょいーーー!」虎プー。

 気絶中のコニタンの顔に向けて、信じられない量の唾が飛んだ。

「うわ、汚え。まあ、コニタンだから、いいか」すぺるん。

「こら、コショーかけ過ぎだ」虎プー。

「はっ。すみませぬ」胡椒濃過コショーコスギ

 そして、虎プーの唾を大量に浴びて、あの男がついに目覚める。

「ひいいいいいいいいいい!!!!!」

「うるさい!」殴るすぺるん。

「この耳障りな声は」大臣。

「おお、勇者コニタンが目覚めたか」国王

「とりあえず、飲め」無理やり酒を飲ませるすぺるん。

「無理やり飲ませてはいけません! アルハラです!」かおりん。

 みんながコニタンに注目している。というか、嫌でも見るだろ、この状況なら。

「おい、コニタン、お前、英雄なんだからよ、もっとビシッとしろよ」すぺるん。

「邪魔してんのはお前だ!」ハリー。

「俺は何もしてねえわい!」すぺるん。

 コニタンはすでに酔っ払っている。クラクラして、床に倒れて、再び起き上がり、また倒れた。それからまた起き上がり、椅子に座るのかと思ったら、テーブルの上に乗った。

「おっ、何か言いたいことがあるのか?」すぺるん。

 コニタンは、テーブルの真ん中に立ち、力一杯拳を握り、全身をワナワナさせて、息を大きく吸い込んでから、拳を突き上げて叫ぶ。

「俺は、アイドルに、なるううううううう!」

「絶対無理!!!」

 ノダオブナガが間髪入れずにツッコんだ。

「ひいいいいいいいいいいいい!」

 まるで西洋絵画のように顔を歪めてコニタンは絶叫した。

「おいこら! お前は飲め!」すぺるん。

「嫌ああああああああああああ!」

「ガハハハハハッ!」大笑いの虎プー。

「あはははははは!」全員爆笑。


 宴会は続くよ、どこまでも。いやいや続かぬ。こんなおバカな宴会は続くな。とはいえ、こんなに楽しそうな晩餐会なら、わしも行きたかったのう。しかし、神に仕える身として遊興にふけてはならぬからのう。

 それにしても、悪魔のシタインとセサミンはよく働いてくれるのう。ドラゴンのゴンも。アマザエもな。あ、そうそう、ビクターたちも。

 『ファースト侍』はこれで完結。コニタンのパーティーは他の大陸へ渡ったりと、これからも冒険をするが、それはまた別の機会に。

 では、また会おう。アディオス!

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ファースト侍 真山砂糖 @199X

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