第33話 神器なき戦い

 メイジ大神官はゆらりゆらりとノダオブナガとサンドロの方へ歩み寄る。

「見たところ、モンスターを倒すことに全力を上げているようだが、悪魔を倒さねば、モンスターはいつまでも増え続けるぞ。このままでは無駄に力を削がれるだけだのう」メイジ。

「それはわかっておる。じゃが、あの悪魔まで近づけんのじゃ」大臣。

「それに、悪魔を倒せる “黒刀真剣” の使い手を探し出す前に、悪魔が現れたのじゃ。わしらも無作為に戦っておる状態じゃ」国王。

「いたずらに兵士が疲弊していくだけだのう。どれ」メイジ。

 メイジは杖を、トン、と地面に突き刺して、手のひらを合わせて魔法を唱え始める。そして杖を高く掲げる。

「回復魔法!」

 青いキラキラした無数の小さな星が兵士たちにまとわりつく。数キロ先にいる兵士一人ひとりに至るまで。


「何だ、このキラキラしたやつ? おおっ、体力がみなぎってくる」すぺるん。

「おそらくメイジ大神官の回復魔法だ」バカ犬。

「えっ、メイジ大神官が来てるのかよ」すぺるん。

「ああ、俺たちと一緒にカピバラに乗って来た」バカ犬。


「相変わらず、すごい魔力じゃのう」大臣。

「ふぉふぉふぉ。だがな、わしよりも魔力が高い奴がこの近くにおるぞい」メイジ。

「何だと。わしもマジョリンヌも、お主には及ばん。一体、誰だ?」大臣。

「まだ誰かはわからぬ。感じるのだ。そいつが地獄の門を予定よりも早く開けたのだ」メイジ。

「うぬぬ……」国王。

「ところで、金さんは一緒ではないのか?」大臣。

「あいつにはジャポニカン王国王宮へ寄って、三種の神器を取ってこいと命令しておいた」メイジ。

「そうか、わしが行く手間が省けた。ありがたい」大臣。

「ふぉふぉふぉ。勇者コニタンの力は必要だぞい」メイジ。

「やはりコニタンの力は必要か。三種の神器がくるまで、頑張らねばな」大臣。

「よし、サンドロよ、わしらも前線へ行くぞ」国王。


 水の森の部隊は手薄な前線の真ん中へ行き、モンスターと戦闘する。風の谷の民も同じく、前線の真ん中で丸太をブンブン振り回して大型のモンスターをガンガン倒していく。マジョリンヌも。

「強い……風の谷の者か……」兵士。

「我らも負けるなー!」侍。

「おおーーっ!」侍。


 小島の古い教会の中では、アルチュールたち海賊が優雅にワインを飲んでいた。マルテンとアマザエは、4階のバルコニーへ出て戦場を観察している。

「あれ? マルテン、モンスターが襲ってるのは、ジャポニカン王国軍じゃないか?」アマザエ。

「そんなはずはない。モンスターは虹の都の人間しか攻撃しない」マルテン。

「でも、ほら、あの白い鎧はジャポニカン王国軍じゃ……」アマザエ。

 マルテンの目にも、アマザエの目にも、モンスターがジャポニカン軍に攻撃している景色が写っている。

「え? あのバンダナを巻いて丸太を振り回してるのは、風の谷の民……」アマザエ。

「そんなバカな……緑の鎧の軍は、水の森王国の軍だ。モンスターと戦ってるぞ。キャンディー帝国軍も……なぜだ……」マルテン。

「……どうして……」アマザエ。

 二人とも、青ざめた顔で戦場の方を見ている。二人の後ろには、いつの間にかアルチュールとロペスエールがいた。

「起こっちまったもんはしょうがない。気にすんな」ロペスエール。

 突然の声に驚いて振り返るマルテンとアマザエ。

「おい、どうなっている、アルチュール! モンスターが襲うのは虹の都の人間だけではないのか!?」マルテン。

 ニヤつくアルチュール。

「虹の都を滅ぼして、新しい国をつくるっていう約束は?」アマザエ。

「約束ってのは、破るためにあるんだぜ、お嬢ちゃん」ロペスエール。

「おのれ、騙したのか!」マルテン。

「王族に言われたくはないな。俺はお前みたいな身分の高い奴らから、散々騙されてきた」ロペスエール。

「あなたたち、一体何をしようとしているの!?」アマザエ。

「私たち海賊団は、この大陸の国を全て滅ぼすのさ。それから私に忠誠を誓う人間を集めて新たな国をつくる」アルチュール。

「……何だと」マルテン。

「つまり、虹の都王国を滅ぼして、新しい国をつくるってことと同じだろ? これのどこがお前らを騙してるんだ? ん?」アルチュール。

「あはははは! 確かに騙してねえや、さすがお頭」ロペスエール。

 マルテンは我慢できずに剣を抜いて構える。

「そんなことはさせない」マルテン。

「おっと、何を今更正義ぶってるんだ? 虹の都の人間を抹殺するつもりでいたくせによ?」アルチュール。

「我が水の森王国も風の谷も、滅ぼすことなどさせない!」剣を振るうマルテン。

 アルチュールも剣を抜いて、マルテンの剣を簡単に受け止めながら話し続ける。

「どれだけ虹の都王国に恨みがあるのか知らんが、お前たちも同じなんだよ、私たちと」アルチュール。

「ジャポニカン王国も、滅ぼさせはしない!」マルテン。

 マルテンとアルチュールの間にロペスエールが入って、マルテンの剣をはじき飛ばす。

「何かを助けたいとか守りたいんならよ、もっと力をつけてから言いな、お坊ちゃんよ」ロペスエール。

 マルテンは殴られて床に倒れる。

「マルテン!」アマザエ。


 前線の右では、ミス・トリックによるこう撒菱まきびしのおかげでモンスターの多くが自滅していき、比較的楽な戦闘が続いていた。

「あのヤギの悪魔、動きませぬな」大臣。

「うむ」国王。

「同じポーズのまま、じーっとしてますね」かおりん。


 前線の左で戦闘しているゴンはマモルに話しかける。

「なあ、マモル。ヤギの悪魔を攻撃しに行かへんか? わてやったら簡単にあそこまで飛んでいけるで?」ゴン。

「あいつを倒さない限り、モンスターは増え続ける。試してみる価値はあるかもな」マモル。

「よっしゃ、ほな行くで」ゴン。

 ゴンはヤギの悪魔の方へ飛んでいく。

 ヤギはじっとしたままでいる。ゴンは尻尾でヤギの悪魔の顔を攻撃するが、びくともしない。

「全然効いてへんな」ゴン。

 マモルは槍で背中を突き刺すが、何も手応えを感じない。

「攻撃が効いている感触が全くない」マモル。

 すると、ヤギの悪魔の目の色が赤に変色する。ヤギの悪魔は頭を下から上に突き上げ、三叉の角でゴンを攻撃する。

「痛ああっ!」ゴン。

 角がゴンに突き刺さった。ゴンは逃げるようにジャポニカン軍の方へと飛んでいく。


 前線の右では、ヤギの悪魔に攻撃を仕掛けるゴンとマモルを大勢が見ていた。しかし、ゴンが傷を負って逃げてくるのだ。

「回復魔法!」かおりん。

 ゴンの傷が回復する。

「いやぁ、まいったで。わての皮膚が貫かれてもうたわ」ゴン。

「国王様、槍で刺しても全く効果がありませんでした」マモル。

「うむ」国王。

「ハエの悪魔もそうでしたが、物理攻撃は効かないのでしょうか」かおりん。

「でも聖剣なら効果はありましたよね」ハリー。

「ビクターたちにやってもらおうかのう」大臣。

 ゴンとマモルは前線の左へと戻っていく。熟考していた国王は、ミャー族から預かった布に包まれた至宝を取り出した。

「サンドロよ、この黒刀真剣を試してみようと思う」国王。

「いや、しかし、国王様」大臣。

「わしはコマチと同じ家系の人間じゃからな」国王。

 ゆったりと歩いて、メイジが前線までやって来た。

「黒刀真剣を扱える者は、この戦場におるぞ」メイジ。

「何! 本当か、メイジ?」大臣。

「今、オノノから語りかけられた」メイジ。

「誰なのだ?」大臣。

「それはまだわからぬ」メイジ。

「わしは、“音呼舞おとこまい流” の継承者は、コマチの息子だと考えておる」国王。

「そうですな、私もそう思っております」大臣。

「モンスター大戦の後、コマチは言っておった。自分は先祖代々言い伝えられてきたことを、息子に伝えなければならないと。ただ、それが何のことだったのかはわからん」国王。

「コマチの息子がこの戦場にいるかもしれぬのか」メイジ。

「だが、どうやって見つければ……」大臣。

「オノノからまた交信があるかもしれぬが……」メイジ。

「ただ待っているだけでは先に進まぬ。わしは試すぞ」国王。

 ノダオブナガは、黒刀真剣に巻かれた布を取った。鞘に収められた刀のようだ。そして、左手で鞘を水平に持ち、右手でゆっくりと刀を抜く。抜ききって、黒い刀をじっと見る。すると、ドス黒いもやが刀から発せられ、ノダオブナガの右手にまとわりつき、それから右腕にも纏わりつく。そしてドス黒い靄は急に右腕をきつく締め付ける。

「うぐっぁ……」国王。

 ノダオブナガの右腕は生気を感じられないくらいに黒く変色した。

「呪いか!」大臣。

「解除するでないぞ!」国王。

「しかし!」大臣。

「かまわぬ!」国王。


 この時、この光景を、教会の4階バルコニーからアルチュールが望遠鏡で見ていた。

「おーっ、あれだ、あれ。間違いないぞ、キイロイカネの剣だ」アルチュール。

「目的のお宝ですか、お頭」ロペスエール。

「そうだ。キイロイカネの剣。岩山をも切り裂くことができる剣だ」アルチュール。

「どれどれ、王様が持ってるやつですか? 真っ黒な剣ですね」ロペスエール。

「ああ、黒いサムライ・ソードだ。黒いが、金色に輝くのだ」アルチュール。

「あの剣が、千年の幸福を人間にもたらすんでしたっけ?」ロペスエール。

「千年ではない。数千年だ」アルチュール。


 ノダオブナガはヤギの悪魔の方へ走る。前にいるモンスターを攻撃しようとするが、モンスターが避けていく。

「モンスターが国王様を避けてる」ハリー。

「むむ、呪いの力を感じて逃げていくのじゃな」大臣。

 ノダオブナガは走る。腕を真横に伸ばしたまま、黒刀真剣を縦に構えて、走る。走る。そして、ヤギの悪魔の前でジャンプして、胸のあたりを斬りつける。

「ィテエエエエーーーーーッ!」

 ヤギの悪魔は悲鳴のような低い声を上げた。そして、斬られた胸のあたりから黒い血がドバっと吹き出す。

「ぉぉぉおおおおおーーー!!!」兵士たちから驚きの喚声かんせいが上がった。

「効いた!」ハリー。

「効果があったのか」メイジ。

 兵士たちは士気が爆上がりして、精気魔法など必要ないくらいだ。ところが、ノダオブナガの次の攻撃が出ない。

「いかん、国王様が!」大臣。

 ノダオブナガは地面に片膝をついて動けないでいる。ハリーはすぐにセサミンに命令する。

「セサミン、国王様を助けろ!」ハリー。

 セサミンはすぐにタクシーに变化してヤギの悪魔の足元へ急ぐ。だが、目の色が赤に変わり、ヤギは前足を少し後ろへ下げて、蹴る体勢を取っている。

「セサミン、急げ!」ハリー。

 ヤギの悪魔の前足が前へ蹴り出される。だが間一髪、セサミンよりも速く、バッピーがノダオブナガをくわえてその場から救出した。

「ふーっ、危なかった」大臣。

 

 それを見ていたアルチュールは首をかしげている。

「おかしい……金色に光るはずだが……」アルチュール。


 この時、教会の入り口が開いた。毛糸が入り口を開けたのだ。その後ろには栗金団が立っている。

「……おい、何であんたが……」海賊。

 海賊はソファーから立ち上がったりして皆驚く。

「アルチュールはどこだ?」栗金団。

「お頭ー!」海賊。

 海賊の一人がアルチュールを呼びに上の階へ行く。

「ヒッヒッヒッ……」栗金団は不気味に笑う。

「……」毛糸。

 すぐにアルチュールが降りてきた。

「おお、栗金団大総統か……なぜ、ここに?」アルチュール。

「モンスターは、キャンデイー帝国軍に攻撃してこないんじゃなかったか?」栗金団。

「……ああ、それは、予定外のことが起こりましてな」言い訳気味なアルチュール。

「ヒッヒッヒッ……別に、我が兵士がどうなろうが、そんなことはどうでもいいのだ……」栗金団。

「……」アルチュール。

「悪魔を再び魔界へ帰らされては困るのだ……ンヒッヒッヒッ……」栗金団。

「なぜ、それを……お前、何者だ?」アルチュール。

 海賊たちはぞろぞろと教会から出て、栗金団を取り囲んで威嚇する。その瞬間、栗金団は側にいる海賊を殴った。殴られた海賊は10メートル以上吹っ飛んだ。全員が、栗金団のあまりの速い攻撃を予想できずに、何が起きたのかを理解できずに呆然としている。

 栗金団はまた側の海賊を殴る。その海賊も吹っ飛んだ。

「……おい、何てパワーだ……全員、戦闘態勢だ!」ロペスエール。

 海賊は武器を取り、身構える。しかし、ポンジョルノだけは頭を抱えて部屋の隅っこでうずくまっている。

「ポンジョルノ! 何してる!」ロペスエール。

「そいつ、さっきから耳鳴りがするって、しんどそうにしてますぜ」海賊。

「皆の者、やってしまえ!」アルチュール。

「おーっ!」海賊。

 海賊は栗金団に一斉に攻撃する。栗金団は殴って海賊をぶっ飛ばす。海賊が剣で攻撃する。栗金団は剣ごと殴り飛ばす。栗金団の右手は中指と人差し指の間で裂けて血まみれだ。海賊が剣で攻撃する。栗金団は左手の裏拳で殴り飛ばす。

「……裏拳で人をふっ飛ばすだと……」海賊。

 海賊は両側から同時に襲いかかる。栗金団はそれぞれ右手と左手で殴り飛ばす。栗金団の右手は腕の骨が手のひらから突き出ている。

「腕の骨が手のひらから出てるぞ……」海賊。

「こいつ、痛みを感じてないのか?」海賊。

「ヒッヒッヒッ……」不気味に笑う栗金団。


 いくつかの重要なことがわかったが、謎も増えた。さてどうなる。

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