第28話 西部戦線異状あり

 しばし時間をさかのぼろう。

 コニタン一行がレベル上げのための戦闘をして土の里王国最大都市タカツチにいた頃、ジャポニカン王国では恐ろしいことが起こっていた。

 ジャポニカン王国の西にある街。ここでは、虹の都王国の能楽町から来た多数の住民が建物を破壊して回っている。彼らは集団ヒステリーの状態に陥ってしまい、暴徒化している。

「強盗! トラベル! キャンペーン!」暴徒。

「強盗だー」街人。

「金目の物は奪えー!」暴徒。

「助けてくれー」街人。

「俺らは虹の都の国王から強盗のお墨付きをもらってんだ」暴徒。

「逃げろー」街人。

「壊せ、奪え、燃やせ!」暴徒。

「強盗! トラベル! キャンペーン!」暴徒。

 暴徒どもはハンマーで店を壊し、商品を奪い、火を放つ。またあるいは、家々を壊し、人々を傷つけ、火を放つ。

 わずか3日で、ひとつの街が打ち壊された。そして同じ悲劇は別の場所で繰り返されていく。


 ノダオブナガ国王はすぐに治安部隊を派遣する。しかし、相手は友好国である隣国、しかも職業軍人ではなく、単なる民間人である。治安部隊は国王から暴徒への過剰な攻撃を禁止されており、暴徒に対して及び腰になり、王国民を守ることに精一杯な状況だ。


 ジャポニカン王国王宮へ伝令の兵士が報告に来ている。

「暴徒は口々に、強盗、トラベル、キャンペーン、と叫びながら家々を壊して回っています」兵士。

「能楽町では殺人ウイルスが流行して、ロックダウンが続いていると聞いていたが……」大臣。

「一体何が起きているのじゃ……」国王。

「すぐに土の里王国へ伝令を出しましょう」大臣。


 ちょうどその頃、虹の都と隣接するもうひとつの国、土の里王国。ここでは、ジャポニカン王国での混乱とは打って変わって、静かであった。だがしかし、殺人ウイルスの流布やロックダウンについての情報を受けて、虹の都の動向を探っていたイマソガリ国王直属の部下たちが警戒を強めていた。虹の都の王都近くに見張りを増やし、大勢の挙動不審な住民のジャポニカン王国への移動を確認していた。そのことから、土の里王国は、防衛線を張るために兵士たちを国境付近へ送っていた。


 日付変わって、ジャポニカン王国の西にある小さな村。ここでも能楽町の暴徒が暴れている。

「強盗! トラベル! キャンペーン!」暴徒。

 暴徒による略奪は激しくなっていく。


 そして次の日も、また次の日も。

 だんだんと暴徒の行動が荒々しく、凄まじくなっていく。


 ここは虹の都王国の王都、能楽町。シュバルツ国王は、自国の軍隊、虹の軍をジャポニカン王国へ派遣することを発表した。その理由は、強盗トラベル・キャンペーンに行っている国民がジャポニカン王国軍から攻撃を受けているため、その国民を保護するために派遣するというものだった。王都の住民は皆、その発表を喜んだ。そして、軍がジャポニカン王国へ向けて侵攻を始める。その数、約3千人。魔法使いが数名、神官が数十名、残りは重装備の戦士だ。虹色の鎧や服に身を包んだ軍だ。

 それと同時に、能楽町からキャンディー帝国軍も出発する。約2万人。鎖帷子と鉄兜を装備し、火縄銃、槍、剣、盾などに特化した部隊で構成されている。風の谷に侵攻した部隊と同じ編成だ。

 そしてまた、パイレーツ・オブ・トレビアンも総勢100人が付き従う。そこには、シュバルツ国王、栗金団大総統もいる。毛糸ブランケットもだ。

「決戦の地は、ジャポニカン王国の王宮とボッチデス湖との間に広がる平野だ」アルチュール。

「間違いないのだな?」栗金団。

「ああ。ちゃんと、脳取ダムの本 “未来予想図” に書かれてある」アルチュール。

「腕が鳴るぜ」ロペスエール。

「……」ポンジョルノ。

 こやつらは海賊なのに、陸に上がって戦おうってか。

 

 ジャポニカン王国王宮。

「キャンディー帝国軍と思われる兵士たちがジャポニカン王国へ進軍中とのことです」大臣。

「キャンディー帝国軍だと……虹の都に上陸していたのか……」国王。

「シュバルツ国王がキャンディー帝国と手を結んだと考えるべきです。国王様、悪い予感がします」大臣。

「ああ、わしもじゃ」国王。

「至急、コニタンたちを呼び戻しましょう。それと各国にも伝令を」大臣。

「うむ」国王。

 大臣と伝令部隊はすぐに準備に取りかかる。そして伝書鳩を放つ。同時に、伝令兵も各国へ向けて出発する。


 虎プーが泊まっている能楽町の宿。その周囲を、2千人以上の虹の都の治安部隊が取り囲んでいる。

「何じゃ、こりゃ。完全に包囲されとるぞ。ドラマみたいじゃの」虎プー。

「安心してください、虎プーさん。われわれがいますから」マゲ髪。

「わしら隔離されてしまったな。国王シュバルツは何を企んでおるんじゃ」虎プー。



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 そういうことが起きていた。で、時間軸を元に戻そう。


 風の谷にいるハリーとかおりんは、谷の長ビョビョを訪問していた。

「お久しぶりですね、ビョビョさん」かおりん。

「これは、かおりん殿。風の谷でお会いするなんて夢にも思いませんでした」ビョビョ。

「こちらはハリーさんです」かおりん。

「どうも、魔法使いのハリーです」ハリー。

「はじめまして、谷の長のビョビョです。ノダオブナガ国王の元で政治を学んでいます」ビョビョ。

「私たちは国王様と大臣様の遣いで来てるんです。キャンディー帝国軍が攻めてきたけど、大きな被害が出なくてよかったですね」かおりん。

「ええ。奇跡と言ってよいかもしれませんね」ビョビョ。

「トラップが仕掛けられていたことについてですが、誰がやったとか、どう思われますか」ハリー。

「それに関しては、調べてるのですが今のところわかりません」ビョビョ。

「そうですか」ハリー。

 そこへ、緊急の用事で村人が駆け込んできた。

「ビョビョ殿、大変です! 伝書鳩が到着しました! ジャポニカン王国が攻められてます!」村人。

「何てこと!」かおりん。

「え、マジか!?」ハリー。

「虹の都の王都からの数千人もの住民がジャポニカン王国の街や村を破壊して回っているそうです。そして虹の都の虹の軍3千人、キャンディー帝国軍2万人が攻め込んだそうです」村人。

「2万人……すでに虹の都に上陸していたのか……」ビョビョ。

「ハリーさん、急いで戻りましょう」かおりん。

「そうですね」ハリー。

「コニタンさんらはどうしましょ……あ、そうか、火の丘にも伝書鳩が行ってますよね、きっと」かおりん。

「そのはずです」ハリー。

「谷からも応援を派遣しなければなりませんね」ビョビョ。

「師匠、急ぎましょう」ハリー。

 ハリーとかおりんは村から飛び出してジャポニカン王国へと急ぐ。

「あ、そうだ、セサミン、お前、何人乗りだ?」ハリー。

「基本的には一人用だけど、詰めたら、二人乗れるぞ」セサミン。

「じゃ、頼む」ハリー。

 ハリーとかおりんはタクシーに变化したセサミンに乗る。歩くよりも、いや走るよりも速く、セサミンは静かに快適に二人を乗せて走行する。正確には、少し浮きながら。

「私はビョビョさんから、悪意は感じられませんでした」かおりん。

「私も同じです」ハリー。

 シタインがひょっこりと顔を出す。

「ちょっと急ぐぞシタイン」ハリー。

「大丈夫やでー」シタイン。

「急ぐのは俺なんだけど……」セサミン。


 所変わって、火の丘王国にあるゴータマ神殿。普段は冷静な神官が血相変えて慌てている。

「大変だー! ジャポニカン王国へ虹の都の住民と、虹の軍3千人が攻め込んだ! ついでに、キャンディー帝国軍2万人も!」神官。

「ひいいいいいいい!」コニタン。

「そいつはてえへんだ」金さん。

「おいおい、マジかよ」すぺるん。

 神殿内はガヤガヤしている。

「何ということだ。こんな時にメイジ大神官がおらぬとは」ロクモンジ。

「金さん、俺たち、ジャポニカン王国へ戻ろうぜ」すぺるん。

「お前たち、戻るのか。なら馬を貸してやろう」ロクモンジ。

「え、馬?」すぺるん。

「そうだ、お前らの国まで、歩くよりも10倍は早く戻れるぞ」ロクモンジ。

「ありがたいぜ。金さん、急ごう」すぺるん。

「わかりやした。ですが、あっしはジョブチェンジしてからにしやす。すぺるんさん、コニタンさんも、先に行ってくだせい」金さん。

「ああ、わかった。じゃあ、後でな」すぺるん。

「馬をお貸しします。こちらへどうぞ」侍。

 コニタンとすぺるんは侍に案内されて神殿から出ていく。

「国王様、われらも王宮へ帰るほうがよろしいかと」侍。

「そうだな。王宮へ帰ってメイジ大神官と会うほうがよいな」ロクモンジ。

「では行きましょう」侍。

「皆の者、王宮へ帰るぞ!」ロクモンジ。


 また所変わって、ジャポニカン王国の西側、略奪を行う暴徒を止めようと頑張るジャポニカン王国治安部隊の兵士たち。過剰な攻撃をノダオブナガ国王から禁じられているため、兵士たちは国民を守りながら自分たちをも守ることで精一杯だった。そんな中、王宮から伝令が来る。西側にある街と村の住民を王宮へ避難させよという命令だ。増援部隊がすでに後方の街や村の住民の避難を完了させたので、前線にいる国民を大急ぎで王宮へ避難させることに従事することになった。

 そうした中、虹の都から進軍中の軍は暴徒に追いつく。

「家を壊されたのでは、兵士の寝泊まりに利用できないな。何とかならないか?」栗金団。

「暴徒どもなら、殺してかまわないぞ。われらの行く手を邪魔するのだからな」シュバルツ。

「自国民を攻撃するのか!?」アルチュール。

 そしてキャンディー軍は暴徒に発砲。暴徒はいろんな所へ散り散りに逃げていく。

「あはははは、全てジャポニカン王国がやったことにすればいい」シュバルツ。


 えらいこっちゃ。早く止めないといかんな。

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