第24話 ゴータマ神殿へゴー!
一行は谷の底へと降りていくうねる大きな道までたどり着いた。風の谷へつながる唯一の道である。
「あのよ、考えたんだけど、二手に別れたほうが早いんじゃねえか」すぺるん。
「人数が多いほうが何かと有利だと思いますよ」かおりん。
「筋肉バカ、お前一人と、お前以外に分けようか」ハリー。
「おいこら」すぺるん。
「うーん、やっぱりどうしよ。すでに風の谷がキャンディー帝国に攻め込まれてましたからね。次は虹の都へ攻め込んでくる可能性がありますし、少しでも早く任務を終わらせるほうがいいかもしれませんね」かおりん。
「その通りです、師匠」ハリー。
「じゃあ、二手に別れましょうか」かおりん。
「コニタンと筋肉バカ、それ以外、でどうでしょうか」ハリー。
「アホか」すぺるん。
「あっしはゴータマ神殿へ行きやすんで、そっち行きのグループに入れておくんなせい」金さん。
「コニタンはパーティーのリーダーだし、顔も良く知られてるから、火の丘王国行きのグループで決定だな」ハリー。
「火いいいいいい!」
「黙れ!」殴るすぺるん。
「だから、コニタンと金さんは同じグループだな」ハリー。
「おい、俺も火の丘王国へ行ってみてえんだがよ。侍に会ってみてえんだ」すぺるん。
「じゃあ、すぺるんさんも火の丘王国行きのグループに入りましょうか」かおりん。
「では私と師匠で、風の谷行きのグループですね」ハリー。
「はい、キャンディー帝国軍が攻め込んだ後ですから、あまり仕事はないですしね、二人でもいいんじゃないですか。悪魔も仲間にいますからね」かおりん。
「そうですね。谷の長のビョビョさんを調査するくらいでしょうか。あっ、スパイの毛糸のこともでしたね」ハリー。
「ただよ、こっちは、回復魔法を使うやつがいなくなるのが、やばいかもな」すぺるん。
それを聞いて、ハリーはマントをがさごそとあさって、大きな袋を取り出す。
「ほらよ、薬草だ」ハリー。
「そんなデカい袋、マントの中のどこにしまってるんだ」すぺるん。
「文句言うな、十三股野郎が」ハリー。
「もらっといてやるわ、クズ野郎」すぺるん。
一行は二手に別れて冒険を続ける。
ハリーとかおりんは風邪薬を飲んで、谷へつながる大きな道を下って行く。下る、下る。すると、前方から鎧や盾を装備した兵士と思われる集団がぞろぞろと登ってくる。その数、千人以上。魔法使いや神官と
「緑の鎧は、水の森王国の兵士ですよ」かおりん。
「すると、茶色のマークのある鎧は、土の里王国の兵士ですかね」ハリー。
兵士たちは皆、浮かんでいるかおりんを見て驚きながら通り過ぎていく。それはもちろん、勇者コニタンの仲間であることを誰もが知っているからだ。畏敬の念を抱かれていることに少し嬉しくなっていると、水の森王国の神官の一人が話しかけてくる。
「これはこれは、水の妖精のかおりん殿」神官。
「あら、水の森の王宮で昔お会いしましたね。キャンディー帝国軍に備えるために、風の谷へ行ってたんですね?」かおりん。
「ええ。その節はどうも。ジャポニカン王国からの要請で風の谷へ行ったのですが、キャンディー帝国軍はすでに全滅していましたよ」神官。
「ええ、さっき旅人から聞いたので知っています」かおりん。
「トラップに引っかかって、キャンディー軍が全滅したって、本当なんですか?」ハリー。
「まあ、そうなんですが。確認してきましたが、風の谷が勝てた理由は、トラップだけじゃないですね。緊急時の連絡手段がちゃんと機能したのと、住民が強かったこと、それに、格闘家のバカ犬や謎の戦士の活躍もあって、キャンディー軍はボロ負けしたみたいです」神官。
「信じられないな、ガンマンがいたみたいなのに……」ハリー。
「ええ、銃をたくさん没収しましたよ」荷台を開けて見せる神官。
「火縄銃か」ハリー。
「それに、捕虜も」荷車を指す神官。
何十台もの荷車に、捕虜が数百人乗せられている。
「土の里王国へ連行するんですよ。それから、各国がどう対処するのか話し合うそうですよ」神官。
「また大臣様が忙しくなっちゃいますね」かおりん。
「バカ犬のことはわかるが、謎の戦士?」ハリー。
「ひょっとして、ゴンさんと一緒にいるあの人のことかしらね」かおりん。
「そうかもしれませんね」ハリー。
「それでは、これで」神官。
両国の部隊は坂を登っていく。ハリーとかおりんは風の谷へと降りていく。
一方、コニタンとすぺるんと金さんは、火の丘王国を目指して歩く、歩く。ひたすら歩く。いつの間にか、地面は柔らかい砂から、ゴツゴツした地面へと変わっていた。三人は歩く。
「もうこの辺りは、火の丘王国ですぜい」金さん。
「おう、そうなのか」すぺるん。
「王都であるクラカマは、北西の方角ですぜい」金さん。
すると突然、風車の付いた
「ひいいいいいい!」
「何だ!」すぺるん。
「大丈夫でい。あっしの仲間からの挨拶ですぜ」金さん。
「仲間?」すぺるん。
すぺるんは周りを見渡すが、誰もいない。障害物など何もない広い平地であるが、誰もいないようだ。
「金さん、誰もいねえぞ」
「ちゃんといやすぜ」金さん。
目を凝らしてよ〜く見るが、すぺるんには誰も見えない。
「ここだ」
と、すぺるんたちの近くの地面が盛り上がり、その中から黒装束の男が出てきた。
「人おおおおおお!」
「えっ、何だ?」すぺるん。
男は地面と同じ柄の風呂敷の下に隠れていたのだ。
「え? 全然気づかなかった。気配が消えてた」すぺるん。
「忍者の “隠れ身の術” ですぜい」金さん。
「忍者!? ミャー族の長老が言ってた職業か?」すぺるん。
「いかにも、それがし、ゴータマ神殿に仕えております、忍者の五臓と申す」五臓。
この男、全身を黒装束で包み、目の部分だけ出している。剣を背中に背負っているようだ。
「五臓、何かあったのかい?」金さん。
「はっ、金さん。実は、ロクモンジ国王がゴータマ神殿を訪問されてまして……」五臓。
「ほう、それは珍しい。何でまた?」金さん。
「はっ、実は、大神官の推薦で
「なるほど」金さん。
「胡椒濃過って?」すぺるん。
「胡椒濃過は火の丘王国に仕えている忍者です」五臓。
「その忍者がキャンディー帝国に雇われてる? 裏切り者なのか!」すぺるん。
「いや、すぺるんさん、早とちりですぜい。おそらく、虎プーさんに雇われてるんじゃねえかい?」金さん。
「はっ、その通りです」五臓。
「そういや大臣は、虎さんが何人かのスパイを雇ってるって言ってたような」すぺるん。
「はっ、我々ゴータマ神殿の者が知る限りは、虎プー元大総統は胡椒濃過をスパイとして雇っています。キャンディー帝国からも、女優やガンマンを雇っているとか……」五臓。
「そのガンマンはさっき出会ったけど、女優にも出会いたかったぜ」すぺるん。
「金さん、そちらの方々はもしかして……」五臓。
「勇者のコニタンさん、僧侶のすぺるんさんだ」金さん。
「おおっ、あの勇者様たちでしたか」五臓。
「いやしかし、ちょうどよかった。ゴータマ神殿にロクモンジ国王がいるんなら、クラカマへ行く必要はないんでないですかい」金さん。
「そうだよな。別に王宮じゃなくても国王に会えばいいんだし」すぺるん。
「じゃあ、ゴータマ神殿へ行きやしょうか」金さん。
「近いのか?」
「ここから南西の方角ですぜ。急げば二日あれば行けやすぜ」金さん。
「急げば、か。モンスターと戦って、宿に止まったり、野宿したりしたら、もっと日数がかかるんじゃないのか?」すぺるん。
「大丈夫ですぜ。ここから神殿までは一本道ですわ。神殿の聖なる力の加護で、モンスターは近寄ることができやせん」金さん。
「マジか!?」
「はっ、その通りです」五臓。
「じゃあ、急ごう」すぺるん。
コニタンたちはゴータマ神殿へ行くことになった。
コニタンとすぺるんと金さんと五臓は歩く。速歩きで歩く。コニタンは相変わらず足取りが軽く、速い。五臓もだ。
「おめえも歩くの速いな」すぺるん。
「はっ、それがしはミャー族ですから」五臓。
「金さんは普通だよな」すぺるん。
「あっしはミャー族ではありやせんから」金さん。
「そうなのか」すぺるん。
「大神官も含めて、一族全員が土の里王国の出身ですわ」金さん。
「ふーん」すぺるん。
コニタンたちは歩く。途中、野宿をする。そして歩く、歩く、速歩きで。そして、夕方、壮大な建物が見えてきた。ゴータマ神殿である。
「おーっ、すげえ。なんて綺麗な神殿だ」すぺるん。
神殿は、ジャポニカン王国の宮殿と同じくらいの大きさで、池の中の島の上に建っている。まるで、池に浮かんでいるかのように。白を基調とするこの石造りの建物は、四隅に高い塔を持ち、神殿と呼ぶにふさわしい。コニタンたちは神殿へ架かる橋を渡り、中へと入っていく。広いホールには神官たちが大勢いる。皆、余暇を過ごしているようだ。
「勇者コニタンと仲間が参られた。大神官にお知らせを」五臓が入り口の神官に伝える。
「みんな、アインとカベルと同じ服装してるな」すぺるん。
「神官は皆、白のローブですぜ」金さん。
なんやらかんやらしてると、先ほどの神官が戻ってきた。
「メイジ大神官はただ今外出しておりますゆえ、まずはお食事をどうぞ」神官。
「何ですって?」金さん。
「外出? ロクモンジ国王が来られているのにか?」五臓。
「はい。3日前に、クラカマへと行かれました。オノノ宰相との交信がうまくいかないので、直接会って話すとか……」神官。
「行き違いだったか」五臓。
「オノノ? それ、誰だ?」すぺるん。
「オノノ宰相はこの国一番の占い師ですぜ」金さん。
「ふーん」すぺるん。
「それで、国王は?」五臓。
「大神官が戻られるまで、神殿に滞在するらしいです」神官。
「とりあえず、飯食おうぜ」すぺるん。
コニタンたちは夕食を取って、眠りについた。
コケコッコー!
翌朝、コニタンたちはロクモンジ国王と謁見できることになり、神殿内の客間へと行く。そこには、和服姿で剣を腰に下げた侍と
「勇者コニタンか。晩餐会の時に見たきりだな。それに、そこの筋肉僧侶も憶えておるぞ」男。
「これはロクモンジ国王陛下、お久しゅうございます」五臓。
この豪華な和服の男、火の丘王国の国王のロクモンジである。年齢は50歳くらい。頑固そうな感じの男だ。
「国王陛下、今日は、ジャポニカン王国のノダオブナガ国王の親書を預かってきやした。受け取ってくだせい」金さん。
「この大陸を救った英雄の前では断れぬな。うむ、見せてもらおうか」ロクモンジ。
ロクモンジは親書を読み始める。すぺるんは場をわきまえずに、侍たちをじろじろ見て話しかける。
「おい、その剣、見せてくれねえか」すぺるん。
「失礼だな。国王が読まれている最中だぞ」侍。
「じゃあ、そこのあんた、剣、見せてくれよ」すぺるん。
「これは剣ではない。刀だ。刀は侍の魂だ。易々と他人に見せびらかすものではない」侍。
「ふん、けちんぼが」すぺるん。
「すぺるん殿、お静かに。失礼ですぞ」五臓。
しばらくして、読み終わったロクモンジは、天井を見上げて一息つく。それからコニタンのことをじっと見つめる。
「ひいいいいいい!」
「うるさい!」殴るすぺるん。
「お主たちは、北東の県のミャー族に会いに行ったのだな」ロクモンジ。
「ああ、行ったぜ。長老のゲソっていうじじいに話を聞いたしな」すぺるん。
「うむ、コニタンのその金の冠、ゴールデンキモイの証だな」ロクモンジ。
勇者の冠の上から無理やり被せてある金の冠を見て、ロクモンジは言った。
「そういやコニタン、ゴールデンキモイっていう称号をもらったよな」すぺるん。
「いらないいいい!」
「わしは、ゲソ長老と何度か話をした。北東の県の伝説についてな」ロクモンジ。
「ゴールデンキモイってのは、そんなにすごいんですかい?」金さん。
「いや、すごいと言うより、キモい」すぺるん。
「ひどいいいいい!」
「ふはははは。面白いパーティーだの。晩餐会の時と同じだ」笑うロクモンジ。
「なあ、親書には何が書いてあるんだ?」すぺるん。
「ふはははは。それを聞くか。まあ、話してもかまわんだろう。ノダオブナガは、わしら侍の力を貸してほしいと言ってきよった」ロクモンジ。
「侍の力ですかい」金さん。
「それで、オッケーなのか?」すぺるん。
「ああ、そうだ」ロクモンジ。
「王様、あんたいい奴だな」すぺるん。
「貴様、無礼だぞ」侍。
「ふはははは。よいよい。他ならぬノダオブナガの頼みだしな。それにゲソ長老からの嘆願もあるし。メイジ大神官の夢のこともあるしな。わが国だけ孤立している場合ではない。わが国からジャポニカン王国へ使いを出す。お主たちは慌てることなくゆっくりしていけ」ロクモンジ。
「任務は成功だ、よかった」すぺるん。
「よかったああああ!」
「よかったですぜ」金さん。
報酬のための任務が成功したから喜ぶコニタンたち。対象的にテンションの低い侍たち。すぺるんは恐る恐る侍たちに話しかける。
「なあ、俺、剣、じゃなかった、刀を使ってみてえんだけどよ。貸してくれねえか?」すぺるん。
「簡単には貸せぬと言っただろ」侍。
ロクモンジはすぺるんのことを物珍しい感じで見ている。
「お主、刀に興味があるのか。珍しいの。わが国民以外では、刀に興味を持つ奴などめったにおらぬ」ロクモンジ。
「剣でもいいんだけどよ、せっかく侍の国に来たんだ、刀を見てみたいし、できるんなら、使って訓練したい」すぺるん。
「うむ。向上心があってよいの。大陸を救った英雄が刀に興味を持ってくれるなら、よい宣伝になる。おい、誰か、この筋肉僧侶に刀の使い方を教えてやってくれ」ロクモンジ。
「わかりました」侍。
刀に興味を持つすぺるん。お前、僧侶だぞ。っていうか、自分でモンクって言ってたよな、たしか。ここにきて、刀かよ。フライパンはどうすんだ?
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