第20話 太陽の鎧の男
シタインを仲間にした一行、デカン湖の側を西の方角へ歩く、歩く。シタインはハリーのマントの中のポケットに入っている。
「あー、居心地ええわー」シタイン。
歩き続ける一行。浜辺が途切れて、林になっている。一行は林に入って行く。そして、気がつくと、数十体の泥人形のモンスターに囲まれていた。戦闘開始だ。
すぺるんはガントレットで殴っていく。金さんは右肩を出してチョップで、ハリーはバットの二刀流で、順調にモンスターを倒していく。かおりんは慣れない弓を使っている。矢を20本くらい放ったが、全く命中しない。順調に敵は倒れていくが、数は一向に減らない。
「おい、倒しても倒しても減らなくないか?」すぺるん。
「逆に、増えてる気がする」ハリー。
「この泥人形のモンスターは、以前に戦った土の人形のモンスターとは別ですよ。泥人形のモンスターは、どろどろしてるから気を付けて下さい。1体いれば10体は近くにいるってモンスター図鑑に書いてましたね」かおりん。
「ひいいいいい!」
「おい、やっぱ全然減らねえぞ!」すぺるん。
倒された泥人形は溶けて、その場で泥になっていく。地面がドロドロだ。すぺるんが泥のくぼみに足を取られる。
「あ、やべぇ!」すぺるん。
泥人形のモンスターが大量にすぺるんに向かっていく。その時、「助太刀する」という声が聞こえたかと思うと、鎧と兜と盾を装備した男が一人、すぺるんと泥人形の間に入り、剣を横に一振りして、8体ほどの泥人形を真っ二つにした。それから男は槍で横殴りして数体ずつ泥人形を倒していく。一行はこの男の手際の良さにただ見入っていた。だが、急に男は膝を突いてしまう。そこへ泥人形が覆いかぶさろうとする。
「危ない!」
すぺるんが泥人形を殴り倒す。
「水流魔法!」
かおりんの魔法が一度に10体ほどの泥人形を飲み込みながら粉砕し、地面に叩き落とす。ハリーと金さんも何体かを倒した。もう泥人形が増える気配はない。戦闘終了だ。
さっきの男を抱え起こすすぺるん。
「おい、大丈夫か」すぺるん。
「ああ、すまない。左脚がまだ完治してない。助けにきたはずが、助けられるとは」男。
「しかし、あんた強いな」すぺるん。
「戦い方を知っているからな」男。
「戦い方?」ハリー。
「そうだ。泥人形のモンスターは、体の大部分を失うと倒れる。仲間があちこちから湧いて出てくるから、ちまちま戦うんじゃなくて、一度にたくさんを一撃で倒すんだよ。一ヵ所に固まった奴らを一気に叩くとか、あるいは魔法を使うとか」男。
「確かにその通りですね」かおりん。
「パーティーには普通、魔法使いがいるだろ。頭の良い魔法使いがみんなの後ろから指示を出して、戦士とか格闘家が前で戦う、それが基本だ」男。
「……魔法使いか……」すぺるん。
みんながハリーを見る。
「うー、オホン、私が爽やかイケメンの魔法使いだ」ハリー。
「黙れ! クズ!」すぺるん。
「このパーティーはそれぞれが勝手気ままに戦っている」男。
「そうですね。まとまりがないですよね」かおりん。
「勇者はいないのか?」男。
「……」みんな。
全員が無言でコニタンを見る。
「ひいいいいい!」
「彼か、モンスターに襲われていた村人とかではなくて……勇者なのか……」男。
「……まあ、一応な」すぺるん。
男は驚いた。と同時に、突然頭を抱えて地面に倒れた。
「おい、しっかりしろ!」すぺるん。
「回復魔法!」
白い
「回復魔法で治せないケガがあるようです」かおりん。
「とりあえず、もうすぐ夕方だし、ここら辺で野宿するか。おい、ハリー、テント張ってくれ」すぺるん。
「お前がやれ。ほれ、テントだ」テントを投げるハリー。
「はいはい、みんなで張りましょう」かおりん。
手分けしてテントを張る一行。周囲には石や木で作った簡易トラップを仕掛ける。そして、火を起こして肉を焼き、食事をする。良い匂いが漂う。だが男は眠ったままだ。
夜、かおりんが弓の練習をしている。空に向けて力一杯矢を射る。ビュン! 矢の飛んでいく先に何かを見つけたかおりん。
「あら? 何かが飛んでるみたい。もう一回、それっ」矢を射るかおりん。
矢が何かに当たった。暗い空を、何かがこちらへ飛んで来るのをかおりんは感じた。
「何かしら?」かおりん。
バサバサッ、とはばたく音が聞こえる。
「痛いやんか!」
上空で大声でしゃべる何かが、一行に向かって飛んで来る。
「おい、何だよ!」すぺるん。
「モンスターか!」ハリー。
「ひいいいいい!」
みんな戦闘態勢に入る。しかし……
「おーい、みんなー!」
聞き覚えのある関西弁だ。
「えっ、ゴンか?」ハリー。
「ゴンだよな?」すぺるん。
ゴンがなぜかこちらに向かって飛んで来るのだ。
「みんなー、こんな所で偶然やな」ゴン。
「暗くてよく見えない。ゴンは夜でも見えるのか?」ハリー。
「当たり前や、ドラゴンやしな」ゴン。
それって答えになってるのか。
「ひいいいいい!」
「あっ、そういや、コニタンはゴンを見るの、初めてだよな」すぺるん。
「大丈夫だ、コニタン。前に話した、ドラゴンのゴンだ」ハリー。
「安心んんんん!」
「うわ、えらいでかいな。ドラゴンやんか」ハリーのマントから顔を出すシタイン。
「何や、小さい犬やな。わてと同じく関西弁か」ゴン。
「なんかうれしいわあ」シタイン。
「おい、ゴン、ボッチデス湖でじっとしてるんじゃなかったのか?」すぺるん。
「やっぱ寂しゅうなってな。夜になったから他の湖に遊びに行こうて思たんや」ゴン。
「それでここまで飛んで来たのか」すぺるん。
「なあ、ゴン、ここまで来るのに何日かかったんだ?」ハリー。
「何日? はっはっはっ、5時間くらいや」ゴン。
「えーっ! 俺ら、もう1週間くらい旅してここまで来たんだぞ」すぺるん。
「わては、ボッチデス湖から一直線に飛んで来たからな」ゴン。
「空を飛ぶと速いんでしょうね」かおりん。
「風に乗れたら羽を広げてるだけで進むからな、楽やで」ゴン。
「ゴンさん、さっきはごめんなさいね。矢が当たったわよね」かおりん。
「大丈夫や。チクッとしただけや。矢くらい何ともないがな。ドラゴンは防御力が高いことが取り柄やで。剣で攻撃されても全然大丈夫や」ゴン。
「ドラゴンってすげえな」すぺるん。
「それはそうと、テントの中から何かを感じるんやけどな」ゴン。
テントの方を見るゴン。
「戦士が一人、ケガをしてるから面倒を見てるんだ」ハリー。
「戦士?」ゴン。
「ああ、俺たちを助けてくれたんだ。けど、倒れちまってよ」すぺるん。
「回復魔法が効かないようなケガをしてるんです」かおりん。
「見せてもろうてもええか?」ゴン。
すぺるんとハリーがテントの入口を開ける。ゴンは身を屈めて寝ている男を見る。
「あの鎧から、紫色の煙が出てるな」ゴン。
「何だそれ、何も見えないぞ」すぺるん。
「たぶん、人間には見えへんのちゃうか」ゴン。
「そうなのか」すぺるん。
何者かの気配を感じ取ったのか、男は意識を取り戻し、うっすらと目を開ける。それから、弱々しく聞き取れないほどの小さな声で話し始める。
「この鎧は……太陽の鎧だ……どんなケガでも治療してくれる……俺は……一生体を動かせないくらいの重傷を負ったが……この鎧のおかげで動けるまでに回復した」
「それって、すごいじゃねえか」すぺるん。
「すごいオーラを感じる……誰だ……俺の左側にいるのは」男。
男は簡易ベッドの上で横になっている。男の左側には誰もいない。
「左側? って誰だ?」すぺるん。
「ゴンか、コニタンか」ハリー。
あえて言うなら、左前の辺りにいるのがゴンとコニタンだった。
「コニタン……か」男。
男は何かを話しているが、とても聞き取れない。そしてすぐに声が止んで、男は再び目を閉じた。
「おい、死んじゃいねえよな」すぺるん。
「大丈夫や、眠ってるだけや」ゴン。
「しかし、師匠、どうしましょうか。この人を冒険に連れていくわけにはいかないですよね」ハリー。
「そうですね。近くの街か村で預かってもらいましょうか」かおりん。
「預かってくれんのか?」すぺるん。
「ジャポニカン王国に連絡を取ってもらえれば、何とかなります」かおりん。
「そやったら、わてが面倒見てもええで?」ゴン。
「えっ、ゴンさん、いいの?」かおりん。
「一人でいても寂しいし、その鎧着てたら勝手に回復するんやろ。それやったら、わてでも面倒見られるで」ゴン。
「モンスターが現れても、ゴンなら楽勝で勝てるしな」すぺるん。
「わてに勝負挑んできよるモンスターなんかおらへんで」ゴン。
「じゃあ、ゴン、頼もう」ハリー。
「あいよ、任しとき」ゴン。
一行は夜を明かす。
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