第18話 南南西に進路を取れ

 湖のほとり村に戻って、とりあえず宿で一泊。のらりくらりと王宮へ戻ることに。


 王宮の応接の間。国王に呼ばれたコニタン一行がやって来る。

「おお、コニタン一行よ、探しておったぞ。お主たちに新たな任務を引き受けてもらいたいのじゃ」国王。

「悪い、小っちゃい冒険しててよ」すぺるん。

「冒険とな?」大臣。

「ド、ド、ドラ――」コニタン。

 コニタンが言い切る前にすぺるんが殴る。

「黙れ!」すぺるん。

「痛いいいいいい!」

「新しい任務ですか。何なりとお申し付けを」ハリー。

「わしがやろうかとも思っていたのじゃが、この数日間、虎プー元大総統に会いに虹の都王国を訪問しておったのじゃ」大臣。

「虎さんに会ったのか」すぺるん。

「はっはっはっ、何とも豪放磊落ごうほうらいらくな男じゃったわい。コニタンのパーティーのことを大層気に入ってると話していたわ」大臣。

「そうか」すぺるん。

「マゲ髪が警備を担当していましたが、また命を狙われる危険とかは、どうなんでしょうか? ジャポニカン王国に来たほうが安全なのでは?」ハリー。

「確かに、ジャポニカン王国のほうが安全とは思うがのう、虎プーは虹の都を離れられないんじゃよ。まあ、マゲ髪の部下たちもしっかりしておるから、警備は万全じゃろう」大臣。

「そういや、ビクターたちはどうしてたんだ?」すぺるん。

「虹の都の教会に滞在しておるそうじゃ」大臣。

「ふーん」すぺるん。

「で、任務とはなんでしょうか?」ハリー。

「うむ。虎プーは、スパイを何人か雇っていてのう。そのスパイを使って虹の都王国でキャンディー帝国軍に関する情報を集めているそうじゃ。だから、虹の都王国を離れるわけにはいかんようなのじゃ」大臣。

「スパイですか」ハリー。

「そうじゃ、しかし、そのスパイの一人が行方不明になっておるのじゃ」大臣。

「それは心配ですね」ハリー。

「そうじゃ。スパイの名は、毛糸ブランケット。キャンディー帝国の有名女優じゃ」大臣。

「有名女優!? っていうことは、すごい美人だろうな、ウヘヘヘヘ」エロい顔のすぺるん。

「よだれ垂らすな、外道が!」ハリー。

「毛糸ブランケットって、確か、金さんとアホ雉さんが漫才やってたニジノポリタン劇場で、主演の舞台劇がキャンセルになって、その後行方不明になった女優ですよ」かおりん。

 自分も漫才してたと言いたかったが、我慢したハリーが思い出したように言う。

「そういえば、師匠、そのようなことを前に言ってましたね」ハリー。

「ひょっとしたら、虎プーさんの隣にいたゴージャスな女性が、毛糸ブランケットさんだったのかしら」かおりん。

「あのブロンドの美女か。おい、何とかして探そうぜ」すぺるん。

「うむ、そのスパイを探すことが、任務に付随することじゃ」大臣。

 真面目な表情のハリー、かおりん、金さんだが、すぺるんだけはエロい妄想が止まらないでいる。

「虎プーが雇った別のスパイによれば、キャンディー帝国軍が風の谷に上陸しようとしている、あるいは、すでに上陸が実行に移されておるかもしれぬのじゃ」大臣。

「本当ですか!」驚きのハリー。

「そんな!」驚きのかおりん。

「それはヤバいですぜ」驚きの金さん。

「ひいいいい!」驚きのコニタン

「美女美女美女」妄想のすぺるん。

 すぺるん以外は真剣だ。

「風の谷には、ジャポニカン王国から治水工事部隊を派遣しておる。何かあれば知らせが来るじゃろうが、今のところまだ何の知らせもない」大臣。

「今のところはですか」かおりん。

「何も起きてなければ良いのだが……」国王。

「そこでじゃ。お主たちに、まずは風の谷へ行ってもらいたいのじゃ」大臣。

「えっ、キャンディー軍と戦うのですか?」かおりん。

「いや、そうではない。すでに、風の谷へ応援部隊を送るように水の森王国と土の里王国に使いを立てた。お主たちには様子を見に行ってほしいのじゃ。その後で、火の丘王国へ行ってもらいたいのじゃ」大臣。

「おう、火の丘王国か。前回の冒険で、まだ行ってなかった国だよな」すぺるん。

 ほぼ黙っていた国王が険しい顔つきで話す。

「火の丘王国の国王ロクモンジは厄介な性格でな。他国との交易を極端に制限しておる。人的交流もじゃ。ゆえに、使者を送っても中々取り合わぬかもしれんし、上手く交渉できぬかもしれん。本来なら、わしかサンドロが行くほうがいいのじゃが、キャンディー帝国のこともあるし、王宮を離れるわけにはいかぬのじゃ」国王。

「そんな面倒な国、俺たちが行って何とかなるのか?」すぺるん。

「ああ。お主たちならな。お主たちはナウマン教を倒したパーティーじゃ。この大陸を救った英雄じゃ。そのお主たちに国王様の親書を託したいのじゃ」大臣。

「責任重大ですね」かおりん。

「よし、やってやろうぜ。報酬ははずんでくれよ」すぺるん。

「やりがいがありますね」ハリー。

「うむ、これが親書じゃ。ロクモンジ国王に渡してくれ。任せたぞ、コニタンたちよ」国王。

 ずいぶんと頼もしく見えたコニタンたち。そりゃ、英雄だからな。


 一行が王宮の門から出て行こうとしたところ、大臣が追いかけて来た。

「あれ? 大臣様」かおりん。

「何だ、見送りか」すぺるん。

 大臣はササっと近づいて来て、小声で話しかける。

「皆、少し話があるのじゃが、聞いてくれ」大臣。

「え? 何ですか」かおりん。

「何だ、こそこそと」すぺるん。

「おい、筋肉バカ、こそこそしてる大臣様に、わざわざこそこそなんて言うな」ハリー。

「お前もそんなことわざわざ言わんでいいだろが!」すぺるん。

 いつものテンションとは違う大臣に皆が不思議がる。

「実はな、風の谷の長であるビョビョ殿が、数か月前から国王様やわしの側で政治を学んでおるのじゃが、何か気にかかるのじゃよ」大臣。

「私、何回も会ってますけど、頭のいい紳士ですよね」かおりん。

「人格者であることは間違いないのじゃ。ただ、長に選ばれた後すぐに、王宮へ挨拶に来たのじゃが、その時にビョビョ殿を見た国王様の様子が少し変だったのじゃ」大臣。

「変? と言いますと」ハリー。

「いや、気のせいかもしれんが、国王様がぎこちなかった感じがしてのう」大臣。

「はぁ」かおりん。

「国王様を疑う気など全くないのじゃが、ビョビョ殿が来てから、メイジ大神官の夢のことやら、キャンディー帝国のことやらがあってのう。偶然なのかと思ってしまってのう……」大臣。

「考え過ぎじゃねえのか。そんなの陰謀論みたいじゃね?」すぺるん。

「疑ってかかることは必要だ」すぺるんに言うハリー。

「ビョビョさんは、今は何をしてるんですか?」かおりん。

「虎プー元大総統の話を伝えたので、二日前に急いで風の谷へ帰ったんじゃ」大臣。

「そんなの普通だろ。谷が心配なんだから普通帰るだろ」すぺるん。

「ビョビョ殿のこと、気に留めておいてほしいのじゃ」大臣。

「はい、わかりました」かおりん。

「可能な限り、ビョビョさんのことを監視、調査します」敬礼するハリー。

「うむ、頼んだぞ。そうじゃ、忘れるとこじゃった。ほれ、風邪薬じゃ」大臣。

「ありがとうございます。じゃあ、大臣様、行ってきまーす」かおりん。


 一行は門を出て城下町へ。そして、城壁を出て、任務へ。目指すは風の谷と火の丘王国だ。この大陸の東に位置するジャポニカン王国から見て、両国は西の方角だ。正確には、嶮しい山々があるので、まずは南西の方へ。いや、南南西の方角かな。

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