第16話 クズの魔法使い

 さてさて、国王と大臣に事の次第を報告するためにコニタン一行はジャポニカン王国へ戻っていた。応接の間にて、報告。

「かくかくしかじかです」かおりん。

「キャンディー帝国がこの大陸を侵略しようとしていることは事実なのか……」国王。

「かくかくしかじかです」かおりん。

「なんと! 虎プー元大総統が暗殺の危機に……」驚く大臣。

「虹の都王国にはキャンディー帝国の人間がたくさん入国しておるからのう。それにしても治安部隊は何をしておったのか」国王。

「私は、何か裏がありそうな気がしますが……」大臣。

「……うむ」国王。

 いろんなことを考察している二人。真剣だ。

 今度は国王と大臣がコニタンたちにミャー歴のことを伝える。

「かくかくしかじかじゃ」大臣。

「また悪魔かよ……」すぺるん。

「ハエの悪魔の他に二体も最高位の悪魔がいるんですか……」ハリー。

「ひいいいいい!」

「黙れ!」殴るすぺるん。

 コニタン一行も、あれこれ考えている。一応、真面目に。そして、その場がシーンとする。沈黙を破るように、国王が手をパンパンと叩く。

 奥から係の者が台車を押して来る。

「ご苦労だった、コニタンたちよ。とりあえずの褒美を授ける」国王。

「うほーー」すぺるん。

 運ばれてきた金貨が分配された。

「これでまともに暮らせるぜ」すぺるん。

「家、買えるかな」ハリー。

「カジノへ行けますぜい」金さん。

「俺の分ないいいい!」コニタン。

「コニタンの分は借金返済にまわっておる」大臣。

「ええええええええ!」コニタン。

「喜べよ、こら!」殴るすぺるん。

 アホな連中を見てポカンとしているかおりん。

「さあ、酒場行こうぜー! 酒ガンガンいくぜー!」すぺるん。

「べらんめえ」金さん。

「はぁ、そんなことしてるから、お金がすぐになくなっちゃうんですよ」かおりん。

 一行は酒場へと向かう。


 城下町の酒場で真昼間から飲み始めるすぺるん。金さんはポン酒をちびちびと飲んでいる。ハリーは紅茶を、かおりんは水を、コニタンは下戸なのに無理やりすぺるんに酒を飲まされている。

「金さん、賢者には戻らないのか?」ハリー。

「あっしは、性格が元来、遊び人なんで、このほうが性に合うんですわ」金さん。

「そうか。じゃあ、今は魔法を使えないんだな?」ハリー。

「あたぼうよ」金さん。

「何だ、ハリー、こら、お前は魔法使いなのに、魔法を使えないんだろ? だったら、魔法使いじゃねえだろが」ちょっと酔ってきたすぺるん。

「師匠、魔法を教えて下さい」ハリー。

「えっ? ああ、魔法は、誰でも使えるのではないので、基本的には魔法学校で学ぶことになりますけど」かおりん。

「師匠、私は昔、魔法学校の入試に落ちました」ハリー。

「じゃあ、無理ですね。魔法学校はちゃんと魔法を使える素質があるのかを見極めて生徒を取りますから」かおりん。

「お前は確か、不正行為がバレたんだっけ?」すぺるん。

「では、師匠も魔法学校出身なのですか?」ハリー。

「いえ、私は妖精ですから、元々魔法を使えるんです」かおりん。

「すごい、さすが師匠だ。師匠、どうか、個人レッスンをお願いします」ハリー。

「はぁ、魔力がある者しか魔法を使えません。ハリーさんには魔力があるんですか?」かおりん。

「わかりません」ハリー。

「じゃあ、あきらめろよ、偽魔法使いが」すぺるん。

「師匠、お願いします」頭を下げるハリー。

「おい、言い返してこいよ」寂しそうなすぺるん。

「師匠、どうか」真剣なハリー。

「……」かおりん。

 かつて替え玉受験とか賄賂がバレて魔法学校を強制退学になった奴が魔法を教えてほしいと懇願している変な状況。この会話を側で聞いている人物がいて、返答に困っているかおりんに代わってハリーに話しかける。

「お主、魔法を勉強したことあるのか?」

「えっ、大臣様!」かおりん。

「大臣か」すぺるん。

「ほっほっほっ。酒好きなわしも、つられて来てしもうたわい」大臣。

「私は、退学になってますので、正直、魔法を勉強したことはありません」ハリー。

「ふむ、魔法学校は実践が中心じゃ。だが、知識としてどれくらい魔法のことを知っておる?」大臣。

「全く知りません」ハリー。

「正直でよろしい」大臣。

「ハリーさん、結構物知りなのに、魔法のことは全く知らないって……」かおりん。

「じゃ、教えてやろうかの」大臣。

「本当ですか! 大臣様、よろしくお願いします」ハリー。

「魔法の知識だけじゃがな」大臣。

 酔っているすぺるんと無理やり飲まされているコニタン以外は、このレクチャーに集中する。

「まず、魔法とは、人間の想像を具現化することである。話したと思うが、ミャー族が解読した古い書物によれば、この大陸では、万物を構成する六大元素が人間の脳の信号に過敏に反応するそうじゃ。われわれが心に思ったことを脳が信号に変換して、元素がそれに反応し、魔法は具現化されるということじゃ」大臣。

「小難しいですが、わかりやすい解説です」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「先ほどかおりんが言っておったように、魔法を使えるのは魔力を持つ人間だけじゃ。おそらく、全ての人間の2%くらいかのう」大臣。

「意外に少ないですね」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「一人の魔法使いがいれば、数百人の戦士を足止めできる、と昔から言われておるくらい、魔法は強力じゃ」大臣。

「いい例えですね」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「魔力の強さは人それぞれじゃ。同じ魔法でも、唱える者の魔力の強さによって威力が変わってくる。もちろん、魔力をわざと抑えて使うこともできる。魔法を使うとマジックパワーが減っていき、なくなると魔法を使えなくなる。マジックパワーは少しずつ回復していく。一晩寝れば、ほぼ全回復する」大臣。

「私はマジックパワーの最大値が少ないんですよ」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「魔法には大きく分けて、二種類ある。回復系とそれ以外の魔法じゃ。ざっくり言うと、僧侶と神官が使う魔法は回復系魔法じゃ。魔法使い、魔法戦士、勇者等々が使うのがそれ以外の魔法じゃ。妖精と賢者は両方の魔法をいくつか使うことができる」

「べらんめえ」金さん。

「なるほど」ハリー。

「基本的に、人間には生まれ持った魔法属性というものがある。簡単に言えば、どの魔法を使えるのかということじゃ。属性は六種類ある。火、水、土、風、空、金、の六つじゃ。その六つはつまり六大元素のことじゃよ」

「私の属性は水なんですよ」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「わしは土の属性じゃから、土の魔法を使うことができる。あくまで基本的にじゃ。その六種類の属性を詳しく言うと、火は火炎魔法。水は水流魔法。土は土魔法。風は風魔法。空は真空魔法。金は鋼鉄魔法じゃ。例えば、火炎魔法を使う時は、火が巻き起こることをイメージしながら唱えるんじゃ。そうすると、火の元素が増殖して火が発生するんじゃよ。わしの土魔法は、ちと特別でな、野外では地面の土を利用できる。それらは基本的には攻撃魔法じゃが、防御にも使えることもある。わしの土魔法は、以前にハエの悪魔のいかずちを防いだじゃろ」大臣。

「マジョリンヌさんの鋼鉄魔法もいかづちを防ぎましたよね」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「六種類の内、二つ、三つの属性の魔法を使える者もいる。わしは火の魔法も使える」大臣。

「私は水だけなんです」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「攻撃系の魔法を使う者は、回復系の魔法を使うことができない。逆も同じじゃ。ただし、賢者と妖精を除いてはな。回復魔法は、物質を構成する最小単位である原子を刺激して、原子を分割、増幅させることによって、人体の傷を治療する魔法じゃ。回復系の魔法と攻撃系の魔法は、根源的に別物じゃ。回復系の魔法には、回復魔法とか解毒魔法、精気魔法などがある」大臣。

「私は、回復魔法、解毒魔法、精気魔法を使えます」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「大体、こんなもんかのう」大臣。

 大臣による魔法の解説が終わった。すぺるんとコニタンは全く聞いておらず、ずっと飲んでいた。ハリーは真剣そのものだった。

「質問はあるかの?」大臣。

「はい、あります。大臣様が使ってた、呪い解除魔法は、どちら側の魔法なんですか? 神官であるアインとカベルも使ってましたが」ハリー。

「良い質問じゃ。呪い解除魔法は、相手の脳に魔力だけを直接飛ばしてぶつける魔法じゃ。攻撃系の魔法とも、回復系の魔法とも仕組みが違うんじゃ。精神が清らかな者が使うほど、効果が増す魔法じゃよ」大臣。

「私も使えますよ」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「他には?」大臣。

「はい。アホ雉が使っていた氷結魔法は、六種類の内のどれなんですか?」ハリー。

「良い質問じゃ。氷結魔法は、水の属性なんじゃよ。水は空気中の熱を奪って、蒸発していくじゃろ。その理屈を極端にしたものが氷結魔法じゃ。アホ雉は、蒸発寸前の水を発生させており、魔法を唱え終えると、具現化される前に水は熱を奪って蒸発してしまっておるのじゃ。じゃから、空気中の温度が下がる。それが氷結魔法じゃ」大臣。

「アホ雉さんは魔力が高いので、私の水流魔法では勝てないのです」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「他には?」大臣。

「はい。マジョリンヌが使ってた、瞬足魔法とは? それから、金さんが使ったらしい、怪力魔法、霧魔法、錯乱魔法とはどんな仕組みなんでしょうか?」ハリー。

「良い質問じゃ。瞬足魔法、鈍足魔法、防御魔法、怪力魔法は、火炎魔法を応用した魔法なんじゃよ。人体の特定の個所の筋肉を温めて活性化させたり、沈滞化させたりしておるんじゃよ。でも高度な魔法じゃから、誰でも使えるのではない。錯乱魔法は、真空魔法を応用しておる。真空魔法とは、空気中の酸素を奪って真空状態をつくる魔法じゃ。その真空状態を相手の頭に集中して浴びせて、軽い脳震盪を引き起こすのが錯乱魔法じゃ。そして、霧魔法は、水流魔法の応用じゃ。細かい水の粒子を大量に発生させるだけじゃ。だから攻撃には役に立たぬ」大臣。

「私は、霧魔法なら使えます」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「わしはあくまで、簡単に話しただけじゃ。魔法大百科には系統不明の魔法もたくさん載っておるぞ。例えば、国王様の使う光魔法じゃ」大臣。

「あ、私、見たことないですけど、兵士たちがすごいって絶賛してましたよ」かおりん。

「光魔法は、魔法大百科によると、過去に数人しか使えた者はいないらしい、とても珍しい勇者専用の魔法じゃ。一度に7本の光の矢がモンスター目掛けて自動で追撃するというすごい魔法じゃ。しかも、上級モンスターをも一撃で仕留めることも可能じゃ。モンスターのみに有効じゃがな」大臣。

「そんなすごい魔法を国王様が……」ハリー。

「私ももっと魔法について勉強しなきゃだめですね」かおりん。

「他に質問は?」

「大臣様の魔力の数値をお聞きしてもいいでしょうか?」ハリー。

「かまわんよ。わしの魔力は620じゃ」大臣。

「さすが大臣様、すごい、私は350です」かおりん。

「ほっほっほっ、350もあれば十分じゃ。魔法使いの平均魔力は大体200前後だったはず」大臣。

「お二人とも、すごいんですね」ハリー。

「いえ、そんな」かおりん。

「マジョリンヌは550くらいかの」大臣。

「だったら、大臣様はマジョリンヌに余裕で勝てるのでは?」ハリー。

「いや、無理無理。余裕ではない。魔力はわしのほうが上じゃが、マジョリンヌは使える魔法の種類が豊富なんじゃよ。攻撃魔法だけでも、火炎魔法、真空魔法、鋼鉄魔法を使いよるし、それに、マジックパワーの最大値が900以上ある。わしは700しかない」大臣。

「私のマジックパワーの最大値は260です……」かおりん。

「アホ雉は、魔力が400くらい、マジックパワーが150くらいかのう」大臣。

「他の人たちは?」ハリー。

「うーむ、賢者になった金さんは、魔力が450くらい、マジックパワーが450くらいかのう」大臣。

「あれ、あんまり高くない」ハリー。

「べらんめえ」金さん。

「賢者のすごさは、回復系と攻撃系の両方の魔法を使えることです」かおりん。

「そうじゃ。国王様は、魔力が250くらい、マジックパワーが300くらいじゃ」大臣。

「そうなのか」ハリー。

「ウマシカは、魔力が950以上、マジックパワーが700以上といったところか」大臣。

「うっ、ヤバいな」ハリー。

「エンドーを倒しただけのことはありますね」かおりん。

「ちなみにじゃが、メイジ大神官は、魔力が850くらい、マジックパワーが800以上」大臣。

「すげえ」ハリー。

「アインとカベルは、魔力が600、マジックパワーが400くらいかのう」大臣。

「うわ、すごい、私の回復魔法とは次元が違います」かおりん。

「なるほど」ハリー。

「他に質問は?」大臣。

「うーん、そうですね。一番強い魔法はどれでしょうか?」ハリー。

「うむ、難しい質問じゃのう……。火炎魔法は、熱さで体力をかなり奪うことができるし、水流魔法は敵を空高くまで巻き上げて落とすから、かなりのダメージになるし、土魔法は馬と激突するような感じじゃし、うーむ。真空魔法は目に見えぬ衝撃波じゃし、風魔法も見えない。氷結魔法も目に見えぬ。鋼鉄魔法は土魔法と似たようなものかな。難しいのう。魔法大百科には、大昔、樹木魔法や雷魔法を使える者がいたと記されておるが、ほんの数人だけじゃ。極めつけは、隕石を呼び寄せたという魔法じゃ」大臣。

「すげえ」ハリー。

「うーむ、雷や隕石でも土魔法や鋼鉄魔法で防げるじゃろうが、風魔法を防ぐことは難しいかのう。火炎も水流も、風の前では吹き飛ばされてしまうじゃろうし。やっぱ。一番強いのは、風かな」大臣。

「風、ですか」ハリー。

「風魔法は攻撃範囲が広いですし、防御にも使えますからね」かおりん。

「だが、風の属性の魔法など、ウマシカ以外に使えた奴など知らない。魔法使いの9割以上が火の属性じゃ。水の属性は、かおりんとアホ雉くらいしか知らんのう。鋼鉄魔法を使える奴は、マジョリンヌ以外には知らぬ。基本は、火なんじゃよ」大臣。

「そうですか」ハリー。

「ところで、ハリーさんの紅茶の中に入ってる、この紙、何ですか?」かおりん。

「ほっほっほっ、わしが入れたんじゃよ。魔力計測試験紙じゃ。ハリーの唾液で魔力を計測できるんじゃ」大臣。

「うおっ、マジで」ハリー。

「この紙は、魔力があれば、赤に変わるんじゃ。強ければ強いほど、濃い赤に変化する。しかしの、さっきからずっと、青のままじゃ」大臣。

「えっ?」ハリー。

「残念じゃが、ハリー、お主は魔力0じゃ」大臣。

「……」ハリー。

「あら、残念でしたね。気を落とさずに、ハリーさん」かおりん。

「何ということだ……神はこの爽やかイケメンに試練を与えたのだ。よし、こうなったら、再挑戦だ。カンニングしてでも魔法学校に入るぞ!」ハリー。

「いや、ダメじゃろ!」大臣。

「そうです、不正はいけません」かおりん。

「不正して入学したところで、魔力が0なんですから、魔法使いにはなれやせんぜ」金さん。

 愕然がくぜんとするハリー。ここでなぜか、とっくに酔いつぶれていたすぺるんが起き上がる。

「こら、ハリー! カンニングなんかするな! この、クズが!」すぺるん。

「……そうです、私はクズです……クズの魔法使いです……」完全にへこんでるハリー。

「自覚はあるようじゃの」大臣。

「なんか残酷な気が……」かおりん。

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