第15話 ミャー歴

 虎プー暗殺が未遂に終わった後、実行犯たちは虹の都王国の治安部隊に連行されていった。虎プーは、自分の宿泊している能楽町で最も高級で警備万全な宿に、コニタンたちを招待した。

「おい虎さん、すげえ宿だな。何階建てだよ?」すぺるん。

「10階じゃ」虎プー。

「高いいいいいいい!」コニタン。

「一回の宿泊料、いくらするんだよ?」すぺるん。

「10万yenじゃ」虎プー。

「高いいいいいいい!」コニタン。

「うるさい!」すぺるんと虎プーはコニタンを殴る。

「ブクブクブク……」失神するコニタン。

「ちょっと、何をしてるんですか」かおりん。

「あっ、やべ」すぺるん。

「またやってしもうたわい」虎プー。

「まあ、どうせすぐに目を覚ますから、いいか」かおりん。

「なんか、冷たっ」すぺるん。

 相変わらずなおかしなやり取りが続く……。

「おい虎さん、もしまた襲われたりしたらどうすんだ?」すぺるん。

「心配いらない。俺のかつての部下たちがいろんな所で目を光らせている」マゲ髪。

「部下たち?」すぺるん。

「ああ、ナウマン教からこの虹の都を奪還した時の俺の部下たちだ。解散してたんだが、虎プーさんを守るために呼び寄せた。300人くらいいる」マゲ髪。

「えっ、すごい」かおりん。

「さすがは4K」ハリー。

 ふむふむ、さすがは4Kか。


 ちょうどその頃、風の谷の東の方の、キャンディー軍の襲撃を受けた集落では、思わぬヒーローとの別れがあった。

「あんた、とんでもなく強いんだな」住民。

「最初の1年くらいは寝たきりだったのに」住民。

「二度と起き上がれないのかと思うほど容体が悪かったのに、すごい回復力だな」住民。

「その鎧のおかげなんだな」住民。

「ええ」男。

「言ってた女性のこと、いろいろ聞いて回ってみたんだよ。ジャポニカン王国から来た旅人で、隣村にしばらく滞在してたみたいでよ、それからこの村にも来たけど、三日前にどっかに行っちまったようだよ」住民。

「言い方が悪くなるけど、若作りのおばさんっていう感じだったな。派手な服装でメイクのきつい人だった」住民。

「そうですか、わかりました」男。

「崖伝いにずっと行くと、ジャポニカン王国の治水工事部隊の駐屯地があって、そこからさらに進めば大きな坂道がある。そこを上って行けば、土の里と水の森の間に出られるよ」住民。

「もし、風の谷の長に会ったら、今回の件、伝えておいてくれよ」住民。

「じゃ、気をつけてな」住民。

「皆さん、大変お世話になりました。いずれまた御礼に伺います。では」男。

 男は皆に別れを告げて旅立つ。


 ちょうどその頃、風の谷の西の方の集落では、バカ犬と住民たちが話し合っていた。

「捕虜が白状したぞ。あいつら、キャンディー帝国軍だとよ」住民。

「キャンディー帝国? 海の向こうのずっと東にある国の奴らか?」住民。

「ああ、そうだ」住民。

「とりあえず、谷の長に知らせないと」住民。

「他の国にも知らせなければならんぞ」住民。

「長が戻って来るまで待とうか」住民。

「バカ犬さん、どうしたんだ?」住民。

 バカ犬はじっと一点を見つめたまま何かを考えているようだ。

「実は、ウマシカ様たちを祭った霊廟れいびょうで、風変わりな二人組が参りに来ているのを見たことがある。その内の一人が、青い髪で巻き毛の男だったんだ。風の谷の者ではない」バカ犬。

「青い髪で巻き毛か……。絶対に他の国の者だな」住民。

「今回の襲撃に関係があるのかもと思ってな……」バカ犬。

「その二人組のもう一人のほうは、どんな奴だったんだ?」住民。

「黒髪の若い女だった」バカ犬。

 ふむふむ。


 ちょうどその頃、ジャポニカン王国の王宮を、北東の県のミャー族のゲソ長老が訪れていた。謁見の間で、豪華な椅子に腰かけるノダオブナガ国王と横に控えるサンドロ大臣。その二人を前に、ゲソが飄々ひょうひょうと入ってくる。

「お初にお目にかかります。ゲソと申しますじゃ。この度は御目通りをお許しいただきまことにありがとうございますじゃ」ゲソ。

「どうぞ頭をお上げ下され、ゲソ殿」大臣。

「高貴な方とお話しするに、作法もろくにわからない田舎者ですじゃ。どうかご勘弁を」ゲソ。

「そんな堅苦しくなる必要はない。もっと気楽でいてくれ。同じミャー族同士じゃし、こちらもそのほうが楽だ」国王。

「そうです、国王様がこんなちゃらんぽらんな人ですから、もっと軽いノリで結構ですぞ。子どもと接するように」大臣。

「いや、ちゃらんぽらんって……わしってそんな存在?」国王。

「ははー、わかりましたですじゃ」ゲソ。

「えっ、そこ別にわからなくてもいいんだけど」国王。

「まあ、いいじゃないですか、国王様」大臣。

「うむ、ゴホン。では、本題に入ろうか。大至急話したいこととは?」国王。

 国王の目つきが変わり、一気にこの場の空気が張り詰めた。

「はい、勇者様ご一行からすでにお聞きだと思いますが、北東の県では山が崩れて、古い書物がたくさん発見されましたのですじゃ。大体半分くらいの書物を解読しまして、この大陸の歴史のことで重大なことがわかりましたのですじゃ」ゲソ。

「ふむ、重大なこととな?」国王。

「はい。すぐにでも偉い方たちにお知らせせねばと思いまして、こうしてはせ参じた次第ですじゃ」ゲソ。

「国王様、内容によっては、メイジ大神官にも伝えたほうが良いですな」大臣。

「ゴータマ神殿へは、別の者たちがすでに向かっておりますじゃ」ゲソ。

「ふむ」大臣。

「では、聞こうか。話してくれ」国王。

 国王はさっきよりも真剣な表情になる。ゲソもこれまでよりも雰囲気が変わった。

「古い書物は、この大陸とミャー族の歴史について主に書かれておりました。それによると、4649年ごとにこの大陸では、人間界と魔界との距離が近くなるのですじゃ。そして、悪魔が人間界に現れるというのですじゃ」ゲソ。

「おお、なんと!」大臣。

「皆が使っておりますグレタゴリラ歴とは別に、我々北東の県のミャー族にはミャー歴というのがありまして、今年はミャー歴4649年なのですじゃ。4649年経つと、リセットされて紀元1年になりますのじゃ」ゲソ。

「……それは、つまり……」大臣。

「つまり、前に悪魔が人間界に現れたのが、4649年前なのですじゃ。その時から4649年経過して、今まさに、人間界と魔界との距離がすごく近づいている最中なのですじゃ」ゲソ。

「……それは、国王様……」大臣。

「ハエの悪魔が現れたこととは無関係ではないかもな」国王。

「メイジによると、ハエの悪魔が人間界に来ることができたのは、ウマシカの強大な魔力によるものだったとか」大臣。

「うむ、それが2年前……」国王。

「人間界と魔界との距離は、年末に向けて徐々に近くなっていくそうですじゃ。2年前よりは今年のほうがはるかに近くなっておるはずですじゃ」ゲソ。

「今年はグレタゴリラ歴1999年、世紀末。ゲソ殿、すごいことですな。“世紀末キモ男伝説” は、古代のミャー族がちゃんと計算してつくったことが伝わってきた、と考えられますな」大臣。

「わしもそう思いますじゃ」ゲソ。

「うむ……」国王。

「この世界では、この大陸のみで魔法を使うことができるようですじゃ。人間が想像することを現実に起こすことが魔法であると書かれておりましたですじゃ。この大陸では、万物を構成している六大元素が人間の感性を現実のものとするために過剰反応するそうですじゃ。だから、この大陸では魔法が存在するそうですじゃ。人間界と魔界との距離が近くなると、その六大元素の反応が鋭くなったり、鈍ったりするそうですじゃ」ゲソ。

「なるほど、どおりで魔力の調節がうまくいかなかったわけだ」大臣。

「えっ、それって、わしに火炎魔法を使った時?」国王。

「記憶にございません」大臣。

「……」国王。

 急におちゃらけムードになった国王と大臣だが、すぐに真剣モードに変わる。ゲソは話を続ける。

「六大元素の反応に変化が出るだけだけではなく、下級悪魔が人間界に来るための通路が繋がったりするそうですじゃ」ゲソ。

「うむむむ……なんということじゃ」国王。

「モンスターがたまに魔界から来るときに、空気中や地面に黒い穴が空きますが、それと同じ原理なのでしょうか……」大臣。

「はい、そうですじゃ。そのように書かれておりました。ただし、魔力の強い悪魔が通れるような穴ではないそうですじゃ。あくまで下級悪魔らしいですじゃ」ゲソ。

「うむ……それは不幸中の幸いだと言えるのだろうか……」大臣。

「先ほども申しましたように、人間界と魔界との距離が徐々に近づいていってますじゃ。最終的には、“地獄の門” が現れるということですじゃ」ゲソ。

「……地獄の門……」大臣。

「……伝説の通りか……そして、どうなるのじゃ……」国王。

「魔界最高位の三大悪魔がやって来るそうですじゃ」ゲソ。

「……」国王・大臣。

 ノダオブナガもサンドロも冷や汗をかきながら唾を飲み込む。

「そこから先はまだ解読ができておりませぬゆえ、わかりませんですじゃ」ゲソ。

「……そうですか……」大臣

「……魔界最高位の三大悪魔とは、確か、ハエの悪魔、ヤギの悪魔、サルの悪魔……」国王。

「ええ、その通りです、国王様……」大臣。

「……ハエの悪魔はもういないとしても、後、二体も……」国王。

「……書物の解読が進むのを待ちましょう」大臣。

 国王と大臣は普段とは違う硬い顔だ。

「頑張って解読作業を進めますじゃ」ゲソ。

「ゲソ殿、我々は助力は惜しみません。ぜひ頑張って解読作業をお願いします」ゲソの手を取る大臣。

「ありがとうございますですじゃ」深々とお辞儀をするゲソ。

「……4649年前の古代人は、悪魔に勝ったということなのだな……」国王。

「そうでしょうな、国王様。そうでなければ、我々人間はとっくに滅びているはず」大臣。

「古代人から、4649年後の我々に助言はないのかのう……」国王。

「それに関しては、記述がありましたですじゃ」ゲソ。

「どのような?」大臣。

「4649年後の人間たちよ、悪魔が再び現れるから、よ・ろ・し・く、だそうですじゃ」ゲソ。

「よ・ろ・し・く……」大臣。

「……よ・ろ・し・く……4・6・4・9……よろしく……」国王。

「……」大臣。

「……」国王。

「……」ゲソ。


 北東の県で発見された古い書物に記されていたことと各地に伝えられてきたことには符合する部分もあるという驚き。伝説って、バカにはできんな。ただ、古い書物に書かれていることが事実ならば。

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