第13話 団結のとき!?
コニタン一行が虹の都王国であれやらこれやらしていたちょうどその頃、この大陸の真ん中に位置する土の里王国では、ジャポニカン王国、虹の都王国、水の森王国、土の里王国、火の丘王国のそれぞれの国の代表がメイジ大神官の見た夢について話し合うためと、キャンディー帝国の動向についての情報交換をするために集まっていた。
ここは土の里王国の王都 “スナミズ” にある王宮。広大な砂漠の中にぽつんとある巨大な湖のほとりに高く太い木々に囲まれた街がある。その中にあるレンガ造りの王宮だ。冬でも気温はかなり高い常夏の国だ。
ジャポニカン王国からはノダオブナガの代理としてサンドロ大臣が来ていた。サンドロが護衛の兵士たちと共に広間の円卓に着くと、きらびやかな衣装に身を包んだ細身の男が同じくきらびやかな甲冑を着こんだ戦士たちに警護されながら広間へ入ってきた。彼らの衣装にも甲冑にも色鮮やかに輝く宝石がちりばめられている。
「おやおや、これはお久しぶりですね。サンドロ大臣。ノダオブナガ国王ではなくてあなたがいらっしゃるとは驚きですなあ」
「こちらこも驚きですな。虹の都王国からも国王ではなくて王太子のシュバルツ様が来られるとは」大臣。
この細身の男、虹の都王国の国王の息子のシュバルツである。一見すると
「父のゲルプは以前から病に伏しておりまして、仕方なくこの私が来たまでですよ」シュバルツ。
「そうですか。ノダオブナガ国王は実務に追われておりましてな、私が代理として参上
シュバルツはサンドロの話など無視しているのか、護衛の戦士に
しばらくすると、全身緑を基調とする服の青年がお供の者たちと広間へ入ってきた。それなりに鍛え上げられた良い体つきだが、とても優しい雰囲気の好青年だ。
「シュバルツ殿、お久しぶりです。ゲルプ国王はお元気にされてますか?」
青年は柔らかい声でシュバルツに話しかけたが、シュバルツは面倒くさそうに返答する。
「いや、全然。ほぼ寝たきりだ」
「そうですか」
青年は全く嫌な顔せずに、清々しいくらいの笑みで返した。団扇を持って自分で扇ぎながら、青年はサンドロに話しかける。
「お久しぶりです、サンドロ大臣」
「1年ぶりですかな。カクボウ国王代理」
「そうでしたかね。ノダオブナガ国王には、私の兄、マルテン国王の捜索を手伝っていただき、真に感謝しております」
「水の森王国も大変でしょうな。ナウマン教が滅びてから2年以上経つのに、未だに国王が行方知れずのままとは。心中お察しします」
この緑の服の青年、水の森王国の国王代理、カクボウである。国王が行方不明のために、代理として国を治めているようだ。
「マルテン国王はまだ見つからないのか」シュバルツ。
「ええ、いろんな国に捜索を応援してもらっていますが……」カクボウ。
「そうか、幼いころから一緒に遊んできたからな。心配だ」シュバルツ。
「ご心配、ありがとうございます」カクボウ。
「お互いに、国王の代わりに仕事をするのは大変だな。地位は国王ではないのに、職務内容は国王と同じだからな。責任と釣り合わん」淀んだ目のシュバルツ。
「私はそういうことは気にしておりませんので」カクボウ。
自分で団扇を持って扇ぐカクボウと、護衛に扇がせて踏ん反り返るシュバルツ。非常に対照的だ。
しばらくすると、頭にターバンを巻いた白い服装の男たちがやってくる。真ん中にいる人物は金色の冠をターバンの上に載せている。この男は円卓の上座と思われる所に着席する。
「ふう、後は、火の丘の者たちだけかのう」
「お久しぶりです、イマソガリ国王」カクボウ。
「涼しそうな服装ですね、私も一着欲しい」シュバルツ。
このターバンの男は土の里王国の国王イマソガリである。顔中に刻まれたしわが修羅場をくぐってきたことを思わせる中年の男だ。
四か国の代表が揃ったが、まだの国がある。シュバルツがイライラしながら貧乏ゆすりをし出す。
「火の丘の連中はまだか。定刻を過ぎてるぞ」不機嫌なシュバルツ。
「まあ、落ち着きたまえ、シュバルツ王太子よ」優しく諭すイマソガリ。
見た感じ、イマソガリもカクボウも人格者であるが、シュバルツは曲者だ。
しばらく時間が流れた。そして、和服を着た火の丘王国の代表団が広間へ入ってくる。
「お待たせして大変申し訳ありません。火の丘王国の国王代理を務めます宰相のオノノと申します」
このオノノという年配の女性は、礼儀正しく頭を下げた。小柄で温和な物腰である。その上、優雅で知性を感じさせる。年齢を感じさせないくらい若い、不思議な感じの女性だ。
「遅い、何をしていたのだ」不機嫌なシュバルツ。
「すみませぬ。昨夜からメイジ大神官と交信をしておりましたが、波長が合わずに、つい先ほどまでかかってしまいました」オノノ。
「交信? ミャー族特有のおかしな芸か?」シュバルツ。
「おかしいかどうかは、各々の国の文化にもよりますゆえ、そう簡単に判断なさいますな」大臣。
「ふん」シュバルツ。
「占い師の中でも極めて優れた者しかできない術ですよね。どんなに素晴らしいのか、一度見てみたいです」フォローも完璧なカクボウ。
「では、始めようか」イマソガリ。
「お待ちいただけますかな、イマソガリ国王。実は、風の谷にもこの会議に参加してもらいたいと思い、谷の長をこの王宮に呼んでおりますのじゃ」大臣。
「風の谷だと!?」シュバルツ。
「それは良い考えだと思いますね」カクボウ。
「そんなわけないだろ!」シュバルツ。
「待て、谷の長はどうやってこの王宮に入ることができたのだ?」イマソガリ。
「私たちジャポニカン王国の仲間として王宮に入りました」大臣。
「それは外交使節としてルール違反ではないのですか?」シュバルツ。
「風の谷は、この大陸において、虹の都王国よりも広大な領土を占めております。歴史も古く、この大陸の行く末を話し合うこの場に相応しい参加国だと思います。ジャポニカン王国と風の谷の間では、近年、交流が盛んに行われております。谷の長は優れた人物であり、ひとつの国を代表するのに相応しい。それゆえ、ジャポニカン王国で政治を学んで頂いておりましたのじゃ。そういうこともあって、本日はわが王国の付添いとして王宮に入ったということです」大臣。
驚くシュバルツ。対照的に、カクボウは爽やかに頷いている。イマソガリは少々意味深な表情をしている。オノノは中立な感じかな。
「私は賛成です」カクボウ。
「おい、バカなことを!」シュバルツ。
「うむ、サンドロ大臣、お主が言うのなら、わしは賛成しよう」イマソガリ。
「なっ! そんな!」シュバルツ。
「私も賛成します」オノノ。
「そんな……あの薄汚い連中をこの場になんて」シュバルツ。
「同じミャー族として、仲間が増えるのはうれしい」オノノ。
シュバルツはバツの悪い顔をしている。
「では賛成多数じゃな。サンドロ大臣よ、風の谷の長を呼んでくれ」イマソガリ。
「ええ。実はもうすでにこの場におられますのじゃ」大臣。
サンドロがそう言うと、護衛の兵士の一人が革製の兜を取り、皆にあいさつをする。
「風の谷の長のビョビョと申します」
このビョビョという男、サンドロよりも年齢は上のように見える。しかし、背筋がピンと伸びて、筋肉質で背が高く、若々しくも見える。
「おお、何と、この場におられるとは」イマソガリ。
「谷の長のビョビョ殿に席を空けていただけますかな」大臣。
「おお、これは失礼した。ではサンドロ大臣とカクボウ殿の間に着席下され」イマソガリ。
「それでは、失礼します」着席するビョビョ。
ビョビョの落ち着き払った行動に対して、怒りのまなざしを向けるシュバルツ。一方、カクボウは笑顔で一礼した。イマソガリは申し訳なさそうにビョビョに語りかける。
「確か、先代の長の時だったろうか、わが国の崖が崩れて、風の谷には多大な迷惑をかけてしまった。その時、わしはまだ若かった。谷への補償をすべきだったが、側近たちに押し切られて、補償を断らざるをえなかった。わしはずっとそのことが気にかかっていた。今さらこんなことを言ってもどうにもならないが、すまぬことをしたと思っている」イマソガリ。
「ちょっと待ってくれ! 王族がなぜそんなことで風の谷の奴に謝罪するんだ!」シュバルツ。
「私の国も似たようなものだ。先代の国王の非道な仕打ちを詫びたい。現国王である私の兄はずっと風の谷のことを気にかけていた。行方不明の兄に代わって私が謝罪したい。この通りだ」カクボウ。
「おい!」驚嘆するシュバルツ。
「わが国も同じだ。
「何でだよ!」シュバルツ。
「そのように思っていただいていることを、谷の代表として受け入れます」誠実な表情のビョビョ。
ここでサンドロが場の流れを仕切り直す。
「さあ、本題に入りましょうか」大臣。
各国の代表が話し合いを始める。
小一時間経過。
「ふむ、世紀末キモ男伝説、
「どの国にも似たような言い伝えはありますが、ジャポニカン王国のミャー族の言い伝えだけが他とは異なる部分があって興味深いですね」カクボウ。
「同じミャー族でも、私たちはそのような伝説は聞いたことがありません」オノノ。
「風の谷にもそのような言い伝えはないと思います」ビョビョ。
「“ゴールデンキモイ” に勇者コニタンが選ばれたということが、どうも気にかかりますね」カクボウ。
「そんなバカみたいなものに選ばれて、その勇者は大丈夫なのか!?」シュバルツ。
「音呼舞流、黒刀真剣、この二つについては目下調査中ですじゃ」大臣。
「メイジ大神官の夢では、悪魔を倒す人物の顔はよくわからなかったのでしょう? 以前の夢では勇者コニタンがはっきりと現れたにもかかわらずですよ。だったら、音呼舞流を受け継ぐ者は、勇者コニタンとは別にいるのでは……」カクボウ。
「うむそうじゃな、メイジ大神官の夢に出てきた、黒刀真剣を使う男は勇者コニタンではないと考えるべきだな」イマソガリ。
「そうですな。行方不明になった継承者の少年パンゾノを探さねばなりませぬ」大臣。
オノノは側近と小声で話している。
「何か心当たりでもおありですかな?」大臣。
「……いえ、特に……」オノノ。
「そのパンゾノという少年、各国で捜索に全力を上げよう」イマソガリ。
また小一時間経過。
「キャンディー帝国がこの大陸へ攻め込んでくるという情報は全く知らんというのだな」イマソガリ。
「ああ、全く知らない」シュバルツ。
「虹の都王国からの旅人や商人たちから我々は情報を得ておるのだが、シュバルツ王太子殿下は何もご存知ないと申されるか」大臣。
「私の国でも、虹の都から来た商人が話しておりましたが、シュバルツ殿がご存じないとは、妙ですね」カクボウ。
「ああ、妙だな。悪意のある何者かによって、あなた方に偽の情報が流されているのかもしれないな」シュバルツ。
「……うむ……」イマソガリ。
「……」大臣。
「虹の都王国の近海に最近、海賊船が浮かんでいるとの目撃情報があるのですが、何か関係があるのでしょうか」オノノ。
「それはまるで、我が虹の都王国の海上警備に文句をつけているようですな」シュバルツ。
「いえ、とんでもありません。決してそのようなことでは……」オノノ。
「海賊船ですか。それは初めて耳にしましたな」大臣。
「なんにせよ、この大陸に攻めてくる可能性があるのなら、ちゃんとシミュレーションをしておくべきです」カクボウ。
「そうですな」大臣。
シュバルツだけが面倒くさそうな態度でいるが、他は身を乗り出してさらに真剣な表情になった。
「キャンディー帝国あるいはその海賊が攻め込んでくるなら、虹の都か、風の谷か」イマソガリ。
「火の丘王国は周囲を険しい山々や崖に囲まれておりますゆえ、船で上陸するのは不可能です」オノノ。
「水の森王国も海に面しているところは、高い崖ですので、海から上陸することはできません」カクボウ。
「我が土の里王国は内陸国じゃから、絶対にないな」イマソガリ。
「ジャポニカン王国も基本的には海側は崖になっておりますが、ミャー族の暮らす北東エリアは浅瀬が続いております。しかし、潮の流れが激しく、ミャー族でさえ近海へしか漁に出ないと聞いております」大臣。
「ええ、その通りです、大臣様。ジャポニカン王国へ船で上陸することは無理です」ビョビョ。
「やはり、虹の都か、風の谷か、どちらかへ船で兵士を送り込んでくるということになるな」イマソガリ。
「もし、攻め込んでくるなら、だろ? 本当に起きるのか?」シュバルツ。
「国のリーダーとして、起こり得る危険に対して、対策を練っておかねばならぬ。起こってからでは遅いのじゃ」イマソガリ。
「……ケッ……」シュバルツ。
しばらく時間が経ち、この円卓の会議はお開きとなった。案の定お決まりのように、全員の意見など一致するわけもなく、一枚岩にはなれないという感じ。
さて、このミャー大陸、どうなってしまうんだろ……。
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