第11話 男はキモいよ
さて、爽やかイケメン漫才コンビ、フランシスは解散となった。アホ雉は風の谷へ戻るために旅立った。金さんは借金を全て返済し終え、コニタン一行に合流。とりあえずは一件落着といったところ。
「じゃあ、お金も入ったことだし、カジノでも行くか」ハリー。
「ダメです。負けたらどうするんですか。増えるかもしれないなんて欲は出さないで下さい」かおりん。
「いや、別にちょっとぐらいならいいんじゃね?」すぺるん。
「ダメです!」かおりん。
「1,000yenずつ賭けるから、大負けすることなんかない」すぺるん。
「あっしはそれで大負けしやしたぜ」金さん。
「お前、美女が目当てなんだろが」ハリー。
「え、お、え……」すぺるん。
「前にマゲ髪がガードしてたおっさんがいたよな、あのおっさんと一緒にいたブロンド美女が目的だろ?」ハリー。
「まあ、そうとも言うな」すぺるん。
「はぁ、やれやれ。虹の都の不穏な動きについて調べなきゃならないのに。うーん、人が多いカジノで調べるのも効果があるかもしれないから、まあいいか」かおりん。
一行は最大のカジノ “トバク場” へと足を運ぶ。
「ガハハハハハハッ! 今日も大勝ちじゃ! 愉快、愉快!」
ルーレットのテーブルで、
「おっ、あのおっさんだ」すぺるん。
「目立つわね」かおりん。
一行はおっさんの所へ行く。しっかりとおっさんを警護しているマゲ髪が面倒くさそうにコニタンたちを見る。
「お前らか。どうした?」マゲ髪。
「おう、実はよ、俺たち、虹の都で怪しいことが起こってるらしくて、それを調査しに来たんだよ」すぺるん。
「私たちは国王様から命を受けて来ました。マゲ髪さん、何か心当たりはないですか?」かおりん。
「怪しいこと? ……んー……」考え込むマゲ髪。
「今日は、ゴージャスな美女はいねえのか?」すぺるん。
「黙ってろ、汚れが!」ハリー。
「マゲ髪さん? 何か知ってるんですか?」かおりん。
マゲ髪は遠くを見上げて何かを考えているよう。大柄なおっさんはそれに気づいて、後ろを振り返り、会話に入ってくる。
「ん? どうしたマゲ髪。以前に会った連中だな。マゲ髪からいろいろと聞いておるぞ。勇者の冠を付けたその不細工な男のことは覚えておるわ」
自分も不細工な面をしてることを気にかけないで、大柄なおっさんはハンバーガーの食べかすをコニタンの顔に飛ばしながら言った。
「汚いいいいい!」コニタン。
「お前の顔は元々汚いだろ!」すぺるん。
「ひいいいいい!」コニタン。
「うるさい!」殴るすぺるん。
大柄な男は、おバカな二人のやり取りに少し眉を曇らせながらも、笑っている。
「そういや、マゲ髪、その人の用心棒してるって言ってたけど、その人、誰だ?」ハリー。
「ん、いや、それは簡単に言うわけには……」マゲ髪。
「ガハハハハッ、わしが誰かって?」大柄な男。
「おう、おっさん何者だ?」すぺるん。
「このわしに向かっておっさんと言ってきよるわ、ガハハハハッ」豪快に笑うおっさん。
「おっさんもコニタンのことを言えないくらい、キモいよな」すぺるん。
「お前ら、言い過ぎだぞ。このお方はだな――」マゲ髪。
「かまわん、かまわん、マゲ髪。わしはこういうがさつな奴らが好きだ」おっさん。
「なんか、俺たちと同じ匂いがするよな」すぺるん。
「俺たちって、俺を入れるな!」ハリー。
「お前も一緒だろ!」すぺるん。
「違う!」ハリー。
本題から
「あの、それで、一体どちら様なんでしょうか?」かおりん。
しかし男が答えるよりも先に、マゲ髪が男の少し左前に出て斜めに構える。
「えーい、静まれ、静まれ! 静まれ!」マゲ髪。
ルーレットの他の客たちは少し驚いてテーブルから離れていく。近くの客たちが周りに集まってきて何事かと騒ぎ出す。
そしてなぜか金さんが大柄な男の右斜め前に立っている。
「控えぃ、控えぃ、控えおろう!」金さん。
「えっ、金さん、何やってんだ?」すぺるん。
「こちらにおわす方をどなたと心得る!」マゲ髪。
「えっ、誰なの?」かおりん。
「金さん、誰なんだ?」ハリー。
「すまぬ、知りやせん」金さん。
「なんじゃーそりゃあー!」豪快にずっこけるハリー。
「じゃあ、何やってんだよ金さん! こっち来い」すぺるん。
「すいやせん、ついノリで……」金さん。
「いや、もう漫才引退してるんだから」ハリー。
大柄な男はおバカなやり取りにほんの少し首をかしげながら、大物の雰囲気を醸し出している。そしてゆっくりと席から立ち上がる。高い。身長が2メートルくらいあるから。コニタンたちはこの大男を見上げている。
「でかっ!」すぺるん。
マゲ髪は咳払いして、体勢を構え直す。
「えーい、静まれ! こちらにおわす方をどなたと心得る!」マゲ髪。
「だから、誰だよ?」すぺるん。
「恐れ多くも前の大総統、虎プーさんにあらせられるぞ! 背が高ーーーい、控えおろう!」マゲ髪。
「えーーーっ!」コニタン一行。
「えーーーっ!」カジノの客たち。
衝撃の事実に皆、驚いた。当の虎プーは満足気な感じで、コニタン一行を見下ろしている、キモい顔で。
「大総統って、キャンディー帝国の!?」かおりん。
「そうじゃ」虎プー。
「虎プーって、変な名前だな」すぺるん。
「虎さんと呼んでいいぞ」虎プー。
「背が高ーーーいって、マジで高っ」ハリー。
「2メートルあるからな」虎プー。
「……」金さん。
「何か言えよ!?」虎プー。
「ひいいいいい!」コニタン。
「お前はキモいから黙っとけ!」殴る虎プー。
この虎プーという男、ノリが良い。ボケとツッコミの何たるかを理解しておるようだ。
「というわけだ、お前ら、わかったか」マゲ髪。
「前の大総統ではなくて、正確には、前の前の大総統じゃ」虎プー。
「あっそうでしたね、これは失礼を」マゲ髪。
虎プーは腕組みをして、上からコニタン一行を見下ろしている、その不細工な面で。
「キモい……」すぺるん。
「黙れ!」虎プー。
「たしか、今の大総統は栗金団で、その前が暗殺された油ハム大総統だから、さらにその前の大総統ということですね」ハリー。
「そうじゃ、よく知っておるの」虎プー。
「いやしかし、おっさん、強そうだな。筋肉、すごいな」すぺるん。
「おっさんと呼ぶな。虎さんでいいと言ったろ」虎プー。
「じゃあ、虎さん、キャンディー帝国の元大総統がなぜここにいるんだ?」すぺるん。
「そうです、なぜ、元大総統がここに?」かおりん。
「諸国を漫遊しておるんじゃ」虎プー。
「ジャポニカン王国の大臣様の話では、キャンディー帝国では新しい大総統が軍備を増強しているとか」かおりん。
「虹の都で起こっている不穏な動きって、まさか、あなたが関係しているのでは?」ハリー。
「ひいいいいいいい!」
「おいおい、お前たち失礼だぞ。この虎プーさんがどんな人物かも知らずに、見かけのキモさで疑うなんて」マゲ髪。
「おい、見かけのキモさって、マゲ髪、お前も失礼じゃないか?」虎プー。
「あ、これは失礼を」マゲ髪。
「マゲ髪も十分キモいだろ。耳障りな声と、その脂ぎったさんばら髪、なんとかならんのか?」すぺるん。
「煩悩だらけの筋肉だるまに言われたくはないな」マゲ髪。
少し怒ったマゲ髪はすぺるんを睨み返す。すぺるんも言い返しそうな雰囲気。虎プーも機嫌が悪そう。まさに一触即発な状況だ。だがここで一切空気を読まない奴がいた、ハリーだ。
「ハハハハハハッ、キモい奴らがお互いに
虎プー、マゲ髪、すぺるんの三人はハリーの方を向く。三人とも、眉間にしわを寄せながら。ハリーの横にいたコニタンは、自分が睨まれていると勘違いして膝から崩れ落ちた。
「ひいいいいい! キモいいいいい!」
あまりのキモさに、いや、怖さに絶叫したコニタン。
「やかましい!」殴るすぺるん。
「勇者が
「お前本当に勇者だったのか!?」虎プーはコニタンに豪快にラリアート。
「痛いいいいい……ぃぃぃ……ガクッ」
三人から連続攻撃をくらってコニタンは床に突っ伏した。まるで死人のように生気が感じられない。
「キャーーー!」客が叫び声を上げた。
「ちょっと、皆さん、暴力はいけません! コニタンさん、しっかりして下さい!」かおりんがコニタンを抱え起こした。
「……」意識が飛んでる白目のコニタン。
「うっ、キモっ」思わず本音のかおりん。
「おい、コニタンしっかりしろ!」すぺるんは往復ビンタを繰り返す。
「ちょっと、やめて下さい!」かおりん。
「こら、筋肉バカ、お前は暴力的なんだよ!」ハリー。
「あ、いや、すまん」すぺるん。
「あ、俺のビンタはそんなに強力じゃなかったよな」マゲ髪。
「ラリアートはさすがにやり過ぎじゃったかの?」虎プー。
三人とも反省している模様。
「どうしよう。とりあえず、宿に運びましょう」かおりん。
「かおりん、回復魔法を使えばいいんじゃねえのか?」すぺるん。
「回復魔法は傷を治す魔法です。意識を戻すことはできません」かおりん。
「そうなのか」すぺるん。
「おい筋肉バカ、早く運ぶの手伝え」ハリー。
「おう」すぺるん。
すぺるんはコニタンの右足を持ち上げた。すでに、ハリーは左足を持ち上げていた。かおりんは右腕を持ち上げている。
「あっしは左腕を持ちやすぜ」金さん。
「悪いことしたのう」虎プー。
気を失っているコニタンは、四肢を持たれて運ばれていく。しかもうつ伏せ状態で。
「なあ、普通仰向けで運ぶんじゃねえか?」すぺるん。
「
「俺もそう思うが、コニタンだからいいだろ」ハリー。
コニタンは
「何事ですか!?」
カジノの支配人がやって来た。
「騒がせてすまぬのう。連れが気を失ってな。これで丸く収めてくれんか」
唾を飛ばしながらハンバーガーのケチャップとか油が付着した数十枚の金貨を渡す虎プー。
「虎さん、俺たちもついて行きましょう」マゲ髪。
「そうじゃな」虎プー。
二人はコニタン一行の後を追う。
「なんか、キモい……」去って行く虎プーとマゲ髪を見てつぶやく支配人。
「キモい……」去って行くコニタン一行を見てつぶやくカジノの客たち。
カジノで大勝ちしていた男がキャンディー帝国の元大総統だったという衝撃の事実。しかも、この男、キモい。
それよりも、コニタンは大丈夫なのか?
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