第10話 爽やかイケメン漫才コンビ、フランシス

 ブサイク漫才コンビのハビエールが解散するまでの数日間、コニタンたちは虹の都王国の王都である能楽町に滞在することになった。

「では皆さん、国王様から言われた、もう一つの仕事をしましょう」かおりん。

「え? 何だそれ?」すぺるん。

「忘れたのか、バカが」ハリー。

「思い出せないだけだ」すぺるん。

「虹の都王国で不穏な動きが見られるから、それを調べるということだろ、バカめ」ハリー。

「おお、そうだったな、思い出した」すぺるん。

「はい、じゃあ、手分けして町の中で聞き込みをしますよ」かおりん。

 コニタンたちはそれぞれ散らばって聞き込みを開始する。


 数時間後、宿泊している宿にみんな帰って来た。早速、宿のラウンジで報告会議。

「はい、皆さん、何かわかりましたか?」かおりん。

「40人くらいナンパしたんだけど、全部失敗した」すぺるん。

「死ね、こら!」ハリー。

「人がいて、おど、おど、驚いたああああ!」コニタン。

「ちゃんと仕事しろ!」ハリー。

「はぁ、ダメだこりゃ……」かおりん。

「師匠、私はすごい情報を得ました。この新聞を見て下さい」

 自信満々にハリーは新聞をテーブルの上に広げる。

「お前、いつも新聞だよな」すぺるん。

「で、どんな情報ですか?」かおりん。

 すぺるんが割り込んで新聞をガン見する。

「ええと、何々、虹の都のゲルプ国王が病に伏しているため、シュバルツ王太子が外交特使として土の里王国へ……」すぺるん。

「バカめ、それではないわっ!」ハリー。

 すぺるんは恥ずかしそうに引き下がる。

「ここです、師匠。謎の船。数日前に、他国からの交易船と思われる船が入港したが、乗組員たちを降ろした後で偽造された交易証を持っていることが判明し、説明を求めたところ、船は出港した。乗り組員たちの行方はわかっていない……」ハリー。

「これのどこがすごいんだよ」すぺるん。

「この船がキャンディー帝国の船で、戦争を仕掛けるために工作員を送り込んできたのかもしれないだろ」ハリー。

「考えすぎだろが」すぺるん。

「そうですねー、単に交易証を失くしたから、偽造しただけとか……」かおりん。

「それだったら、説明すれば済みますし、乗組員を置いてきぼりにはしませんよ、師匠」ハリー。

「海賊船じゃねえのか」すぺるん。

「海賊船は堂々と港に入ってきませんよ」かおりん。

「師匠、ここも見て下さい。数日前に、沖合で海賊船が目撃されてるんですよ」ハリー。

「じゃ、その海賊船じゃねえのか?」すぺるん。

「うーん、どうなんだろ。海賊はわざわざ陸には上がらないですよね」かおりん。

「いや、海賊は上陸したかったのかもしれませんよ?」ハリー。

「いや、キャンディー帝国が極秘に兵士を送り込んできた、っていうほうがあり得るな」すぺるん。

「お前、どっちなんだ、こら!」ハリー。

「ひいいいいいい!」

「この情報については、無視せずに、考えましょう」かおりん。

「おい、かおりん、お前は何か情報を得たのかよ」すぺるん。

「ええ、得ましたよ。キャンディー帝国から人気女優の “毛糸ブランケット” さんを呼んで、舞台劇が上演されてたんですけど、その舞台劇、数日前にキャンセルになって、その女優が行方不明になっているそうなんです」かおりん。

「ふーん、気になるなあ」すぺるん。

「美人かどうかがだろ?」ハリー。

「ああ」すぺるん。

「やれやれ、じゃあ、今日の仕事はこれで終わりにします」かおりん。

「ふう、疲れたから、宿でゆっくりするかな」すぺるん。

 みんな疲れた様子だ。しかし、ハリーは宿から出て行こうとする。

「おい、こら、ハリー。出かけるのかよ」すぺるん。

「ああ、用事があるからな」ハリー。

 ハリーは出て行った。みんなは部屋に戻っていく。


 コケコッコー!

 翌日、一行は再び聞き込みを始める。しかし、成果はなし。


 コケコッコー!

 ・

 コケコッコー!

 ・

 ・

 ・


 数日後、ブサイク漫才コンビ、ハビエールの最後の舞台。コニタンたちも客席で見ている。


  「お前の頭の上のどんぐりを、この弓で射る」

  「ちょっと待て! りんごちゃうんか!」

  「いくぞ! おりゃ!」

  「グサッ……はい見事に額に刺さりました……」

  「どわーーーー、的が小さすぎたーーー!」

  「ガクッ……」

  「どうもありがとうございました!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!


 割れんばかりの拍手が会場で巻き起こった。アインとカベルの二人のによる黄色い歓声も。

「ひいいいい! 拍手うううう!」コニタン。

「うるさい!」すぺるん。

「面白かったですね。解散するの、もったいないですね」かおりん。

「だな。でも、世の中のために働いてもらわないとな」すぺるん。

「さっ、楽屋に行きましょ」かおりん。

 コニタンたちは楽屋へと向かうためにホールから出る。

「あれ、向こうのホールの前に人だかりができてるぞ」すぺるん。

「何かしら?」かおりん。

「女だらけじゃねえか」ダッシュするすぺるん。

「ちょっと、すぺるんさん」かおりん。

 すぺるんは、ホールに入りきらずに外で立ち見している女性たちを押しのけて、ホールの中に入った。すぺるんが見渡すと、客のほぼ全員が女性で占められていた。そして全員が大興奮しながら舞台上の二人組に歓声を送っている。


  「死んだか」

  「俺は死なぬ」

  「何!」

  「俺が死んだら、世界中の美女を悲しませることになるからな!」

  「何だと! あの攻撃を食らって生きているとは!」

  「これが愛されるパワーだ!」


 そして、すぺるんの耳に突き刺さる黄色い歓声の嵐。

「キャーーー、ビクター様ーー!」

「カッコいいー!」

「素敵ーー! ビクター様ー、こっち向いてー!」

「キャーッ、目が合ったわ、どうしましょー!」

 女性たちは感情を抑えきれずにキャーキャーと叫びまくっている。

「何だ……」すぺるん。

 すぺるんが舞台上をよく見ると、そこにいたのは、なんと、ハリーとビクターだった。

「あいつら、何やってんだ……」すぺるん。

 すぺるんは出演者を確認するために、慌ててホールから出る。ホール横の立て看板を見る。そこには、 “爽やかイケメン漫才コンビ フランシス” と書かれていた。しばらく、ほんの数十秒、すぺるんは頭の中を整理するのに時間を費やした。そこへ、かおりんとコニタンがやって来る。

「どうしました、すぺるんさん?」かおりん。

「人おおおおおお!」

「やかましい!」殴るすぺるん。

「すごい人気ですね。えーと、何々、 “爽やかイケメン漫才コンビ フランシス” 。ブサイク漫才コンビとは逆ですね」かおりん。

 漫才が終わったらしく、ホールから客の女性たちが出てくる。みんな口々に、「ビクター様、カッコよかったわ」とか「ビクター様、素敵だったわ」とか言いながら、佇むすぺるんの横を通って行く。

「ビクターという人がそのコンビの内の一人みたいで、すごくカッコいいみたいですね。どんな方なのかしらね。私らの知ってる聖騎士のビクターさんもかなりカッコいいですけど」かおりん。

「人おおおおおお!」

 コニタンは叫んだが、すぺるんは無視して突然走り出す。

「ちょっと、すぺるんさん」かおりん。

 かおりんはすぐに追いかける。すぺるんは劇場の端の関係者通路を通り、楽屋の方へと走っていく。

「すぺるんさん、ちょっと、待って下さい!」追うかおりん。

 すぺるんは、 “フランシス” と表示のある部屋の前にたどり着いた。ドアを蹴り開け、中へ入った。そして、マントの男を見て声を上げる。

「おい、こら、ハリー! お前、何で漫才やってんだ!」すぺるん。

「ん、何だ?」ハリー。

「ん?」ビクター。

 ハリーとビクターは驚きもせずに冷静にすぺるんの方を向いた。

「何だ、筋肉バカ。この俺様への黄色い歓声に嫉妬したのか?」ハリー。

「アホがっ! 黄色い歓声は全部、ビクターに対してだろが!」すぺるん。

「ふん! 勝手にジェラシーでも感じとけ」ハリー。

 そこへ、コニタンの服を掴んだかおりんが走ってくる。

「ちょっと、すぺるんさん! あっ、ハリーさんに、ビクターさん! えっ、どうして……」状況を飲み込めないかおりん。

「この汚れの魔法使い、漫才やってやがんだよ」すぺるん。

「あっ師匠、実は私、ビクターと漫才をやってるんです」ハリー。

「ええーーーーー!」かおりん。

「えええええええ!」コニタン。

「うるさい!」コニタンを殴るすぺるん。

「爽やかイケメン漫才コンビ、フランシスって、ハリーさんとビクターさんだったんですか!」かおりん。

「ええ、そうです、師匠」ハリー。

「こら、ハリー、お前はイケメンじゃねえだろ!」すぺるん。

「そうだ、俺は、ただのイケメンじゃない、爽やかイケメンだ」ハリー。

「お前は爽やかでもイケメンでもないだろが!」すぺるん。

「事実ううううう!」コニタン。

「うっせえわ!」殴るハリー。

「ちょっと、ハリーさん、暴力はいけません」かおりん。

「そうだ、そうだ!」すぺるん。

「お前が言うなっ!」ハリー。

「事実ううううう!」

「うるさい!」殴るすぺるん。

「ひいいいいいい!」

 おバカなコントが繰り広げられる中、ただ一人冷静なビクターも困り顔。

「あ、みんな、なんか、お恥ずかしい。まさか自分が漫才をやるなんて……」ビクター。

「こら、ハリー! 説明しろ!」すぺるん。

「しない!」ハリー。

「説明して下さい」かおりん。

「はい、師匠」ハリー。

「お前なぁ……」すぺるん。

 すぺるんは呆れ顔、ビクターも呆れ顔。そしてハリーは説明し始める。

「実は、旅をしていくうえで、いい宿に泊まって豪華な食事を取りたいと思ったので、お金を稼げないかなと思ったんです。お金があれば、みんなにもいい旅を続けてもらえるだろうと……それで、私のこの甘いマスクを何かの役に立てられないかと思いまして」ハリー。

「はあ?」すぺるん。

「ホントですか?」かおりん。

「いや、実は、女性たちからキャーキャー言われるアホ雉と金さんがうらやましくて、それで、自分もまあ、女性から歓声をもらいたいなと思って……」ハリー。

「邪道だな」すぺるん。

「お前もな」ハリー。

「はぁ、どうせ、そんなことだろうと思いましたけど」かおりん。

「それで、爽やかイケメンのビクターを誘ったってわけだな」すぺるん。

「まあ、でも、稼げたんだから、いいか」ハリー。

「ビクターのおかげだろが! ビクターに稼いだかねの9割ぐらい渡せ」すぺるん。

 ハリーはそれを聞いてすぺるんにガンを飛ばすが、ビクターは困惑の表情。

「いや、私は一応、神に仕える身なので、そのかねをもらうわけにはいかない」ビクター。

「えっ、そうなのか?」すぺるん。

「では仕方がないな、私がもらっておくか」ハリー。

「お前、始めからそうなることを狙ってたんじゃ……」すぺるん。

「では、武器や防具など、冒険に必要なものをそろえましょうか、師匠」ハリー。

「そうですね、そうしましょうか。それと、コンビは解散してください。金さんを見つけたから、冒険に戻りますよ」かおりん。

「えっ……解散……」ハリー。

「当たり前だろが!」すぺるん。

「ファンの美女たちを悲しませてしまうことに――」ハリー。

「ならんわ!!」すぺるん。

「はいはい、解散してください」かおりん。

「……あ……う……」ハリー。

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