第9話 ブサイク漫才コンビ、ハビエール

 まるで宮殿のような豪華な建物に着いた一行。ニジノポリタン劇場だ。

「すげえでかい。これが劇場かよ」すぺるん。

「俺が建てた劇場よりも10倍くらい巨大だ」ハリー。

「いや、100倍だろ」すぺるん。

 驚くすぺるんとハリーを無視して、かおりんは劇場に入っていく。すぺるんたちも後に続くが、「入場料1,000yenだよー」とぎりの男に言われて、文無しの三人は払えない。かおりんに払ってもらって入場できた三人、カッコ悪い。

「中はいくつものホールに分かれてますね」かおりん。

 キョロキョロする田舎者の三人。

「どうしましょうか。あっ、向こうの小さいホールから笑い声が聞こえてきますね。行ってみましょうか」かおりん。

 一行は、盛り上がっている小さいホールの方へ行く。ホール前には “ブサイク漫才コンビ ハビエール” という看板が。一行はホールの中へ入った。

「え、マジで?」すぺるんたちは驚く。

 舞台の上では着物姿の二人の男が漫才をしている。


  「峰打ちじゃ、死にはせん」

  「うがっ! その刀、両刃やわ……」

  「どぅあーーー、やってもうたーーーー!」

  「ガクッ……」

  「はい、どうもありがとうございましたー!」


 客は爆笑しながら舞台上の二人組に拍手喝采を送っている。「きゃーー、金さーん」、「アホ雉ーー」と黄色い歓声も起こっている。この漫才コンビ、驚くことに、金さんとアホ雉なのである。

「お、お、お、金さんと、アホ雉?」すぺるん。

「あらら、金さんとアホ雉が漫才をしているんですね」かおりん。

「筋肉バカ、金さんはここにいる。お前の負けだ。犬になってもらおうか」ハリー。

「な、な、な、な、何で、ここに金さんが……」すぺるん。

「バカは約束も守れないのか」ハリー。

「くそっ。わ、わ、わ、わをーん!」犬の鳴きまねをするすぺるん。

「似てねええええええ!」コニタン。

「ほっとけ!」殴るすぺるん。

「犬が人間を殴るな! 四つん這いになれ!」ハリー。

「畜生!」すぺるん。

「はぁ、気の毒に……」かおりん。

 ハリーはすぺるんの背中に座って指さす。

「犬、あっちへ歩け」

 ハリーを乗せて筋肉バカな犬は歩く。ハリーの指さす方向へ向かって。その方向はステージ裏。一行はそこまで来て、ハビエールと表示のある楽屋を発見した。

「犬、開けろ」ハリー。

「無理だろが!」すぺるん。

「バカめが。仕方ないな」マントの中からマジックハンドを取り出してドアを開けるハリー。

 その瞬間、少し開いた隙間から手が出てきてマジックハンドを掴んだ。そしてほぼ同時にドアが全開され、男がコニタンに剣を向ける。

「誰だ!」

「ひいいいいいいい!」

「えっ、その声、コニタン!?」男は驚いて剣を下げる。

「えっ、ビクターさん!」かおりん。

 みんな意外な出会いに驚いた。この男はゴータマ神殿の聖騎士ビクターだった。マゲ髪に続いて、思わぬ再会に驚くみんな。

「なんだ、ビクターか」すぺるん。

「犬がしゃべるな」ハリー。

「……えっと、ハリーにすぺるん、一体何を……」ビクター。

「私は犬にまたがってるだけだ」ハリー。

「う、う、う、殺す!」殺気ある言葉を放つすぺるん。

「はいはい、もうやめたらどうですか、そんな子どもの遊びみたいなこと」かおりん。

「はい、師匠、やめます」ハリー。

「あのなあ……」すぺるん。

 子どもの遊びみたいなことをやめて立ち上がったハリーとすぺるんを、冷たい目で見るビクター。

「ところで、どうしてここに?」ビクター。

「それはこっちが言いたい。金さんとアホ雉は何で漫才やってるんだよ」すぺるん。

「いや、それは……」

 ビクターが言葉に詰まっていると、奥から金さんが歩いてきた。そして言う。

「あっしが説明しやすぜ」

「あっ、金さん! っていうか、遊び人に戻ったから口調も元に戻ってる」かおりん。

「金さん、探したぞ」ハリー。

「実は、先月のことになりやすが、あっしはカジノで大負けしちまいましてね。それで300万yenの借金を背負っちまったんですわ。何とかしようと考えて、伯父のメイジ大神官に、払ってくれねえかと連絡したんですがね、あっさりと断られやしてね」金さん。

「いや、断られるのかよ。って、それが普通だよな」すぺるん。

「ええ、それでどうしようかと迷ってましてねえ。そしたら、偶然、アホ雉さんがこの虹の都に来てて、ばったりと出くわしましてねえ、それで漫才しようと思いついたってわけですぜ」金さん。

「いや、途中までは理解できるけど、何で漫才しようと思ったんだ?」すぺるん。

「ええ、アホ雉さんの顔が不細工ですからね、それで漫才しようと思いついたんですぜ」金さん。

「顔が不細工だから、漫才? どう関係があるんだ?」ハリー。

「不細工だから、お客が笑ってくれるんじゃねえかと思いやしてね」金さん。

「まあ、わからなくもないわね」かおりん。

「お前ら、女の子からキャーキャー言われてただろ。納得できねえ」すぺるん。

「何だ? モテない男のひがみか」ハリー。

「モテる男のひがみだ」すぺるん。

「意味が分からんな」ハリー。

「女に逃げられた奴に言われたくないな」すぺるん。

「てめえ、いつか、こ・ろ・す!」ハリー。

「はいはい、ケンカは終わりです」かおりん。

 みんなが話していると、奥からアホ雉が現れた。

「なんや? コニタンたちか。久しぶりやな」アホ雉。

「何でお前らが女の子からキャーキャー言われるんだよ、おい!」嫉妬のすぺるん。

「はっはっはっ、なんやな、そんなことか」アホ雉。

 アホ雉の笑い声に反応したかのように、奥から見覚えのある女性二人が現れた。

「おー! アインとカベルじゃねえか!」すぺるん。

「あら、皆さん、お久しぶりですね」アイン。

「どうしてここに?」カベル。

「おう、そりゃ、もちろん、お前たち二人に会いに来たんだよ」美女二人にデレデレなすぺるん。

「2秒でバレるウソつくな」ハリー。

「はっはっはっ、わてと金さんに飛んできた黄色い歓声はな、アインとカベルやねん。この二人は、や」アホ雉。

「いや、あかんだろ!」すぺるん。

「この虹の都では、騙し騙されることは日常茶飯事ですぜ。少々の悪事など、かまやしませんぜ」金さん。

「いや、だから、あかんだろ!」すぺるん。

「十三股かけてたお前が言うな!」ハリー。

「十三股?」アイン。

「最悪ですね」カベル。

「いや、それは、誤解だ。ええと……七股と六股かけてたってことでよ……」すぺるん。

「こいつ、アホだ」ハリー。

「つまり十三股ですね」アイン。

「女の敵だ」カベル。

「嫌われやがった、アハハハハハ」爆笑のハリー。

「はいはい、おバカな会話してないで、みなさん聞いて下さい」かおりん。

 かおりんが真面目な顔でその場の空気を変えた。

「私たちは、ジャポニカン王国の国王様の命を受けて、金さんを探しにここ虹の都王国まで来ました。金さんにはコニタンさんのパーティーに戻ってもらいたいのです」かおりん。

 アホ雉が怪訝けげんな顔をする。

「あっしは別にいいですぜ。ただし、数日だけ待ってもらいやす。そうすれば借金を完済できますから」金さん。

「えっ、ハビエールを解散ってことになるんか?」アホ雉。

「そういうことになりやすな」金さん。

「まあ、しょうがないな。国王様が言ってるんやったらな」アホ雉。

 アホ雉は悲しそうにしている。もちろん、金さんも悲しそうだ。アインとカベルも、そしてビクターも。その反面、すぺるんは嬉しそうだ、なぜなら、客から歓声を浴びるこの漫才コンビに嫉妬していたからだ。そして、ハリーは何やら企んでいるような顔をしている。


 まさかまさかの、漫才をしていた金さん。人気漫才師になっていたのはさすが、と言いたいところだが、借金が理由だと……。コニタンもすぺるんも借金だし、大陸を救った勇者一行がそんなのでいいのか?

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