第8話 虹の都へ

 ジャポニカン王国の王宮に戻ったコニタン一行、ミャー族に伝わる世紀末キモ男伝説のことを国王と大臣に伝えた。

「ミャー族に受け継がれる黒刀真剣をもって悪魔を倒す、か」国王。

「黒刀真剣ですか……それに一子相伝の “音呼舞流おとこまいりゅう” という剣術……」大臣。

「おい、コニタン、お前、黒刀真剣の使い方知ってるのかよ?」すぺるん。

「知らないいいいいい」

「知らんのか!」殴るすぺるん。

「音呼舞流の継承者であるパンゾノという少年が昔、行方不明になったとか。探し出さないといけませんよね」ハリー。

「ふむふむ」大臣。

「あいわかった、コニタンたちよ。ご苦労であった。では次の任務を与える。遊び人の金さんを探すために、虹の都へ行ってほしいのじゃ」国王。

「おう、金さんを探しに行くのか」すぺるん。

「金さんはゴータマ神殿で働いてるんじゃ?」ハリー。

「今は虹の都におるのじゃ」国王。

「それとな、虹の都で不穏な動きが見られるそうでな、それについても調査をしてくれ」大臣。

「了解しましたー」かおりん。

「ひいいいいい!」

「ビビるな!」殴るすぺるん。

「さっそく向かいましょうか、師匠」ハリー。

「そうですね。では行ってきまーす」かおりん。

 コニタン一行は虹の都王国へ向けて出発だ。


 テラスから一行を見下ろしながら、国王と大臣は何かに思いを巡らせている。

「国王様、気になりますな、コマチのこと……」大臣。

「うむ……そうじゃな……」国王。

 二人の背中から哀愁が漂う。


 西の方角へ歩くコニタン一行、歩く、歩く。

 そして途中でモンスターと遭遇。巨大な蝶のモンスターが6体、巨大なイモムシのモンスターが4体現れた。戦闘開始だ。

 すぺるんは鋼鉄のガントレットを装備してイモムシのモンスターに突進する。何発も素早く殴り続けるすぺるん。ハリーはマントから野球のバットとボールを取り出して蝶のモンスター目掛けてボールを打つ。ボールは異常な動きで蝶を追尾する。かおりんは水流魔法を唱える。大きな水流は空を飛ぶ蝶のモンスターを飲み込む。そして、コニタンは悲鳴を上げている。

 すぺるんは全てのイモムシのモンスターを殴り倒した。ハリーは3体の蝶のモンスターを倒し、かおりんの水流魔法は残りの蝶のモンスターを倒した。戦闘終了だ。

「やるな、筋肉バカ」ハリー。

「お前もな、似非えせ魔法使い。俺には空飛んでるモンスターは無理だ」すぺるん。

不得手ふえてな部分を補い合って戦うのがパーティーですよ」かおりん。

「こいつは何か補ってるのかよ、ええ?」コニタンをビンタするすぺるん。

「ひいいいいいい!」

「コニタンさんのことは、普段は役立たずでも、いざという時に役立ったんだから、良しとしときましょう」かおりん。

「さすが師匠、的を射てます」ハリー。

「ひどいいいいい!」


 再び歩くコニタン一行。歩く。歩いていると、巨大な湖が見えてきた。

「おお、でけぇ。こんなでっかい池があんのか」すぺるん。

「池じゃなくて、湖だ、筋肉バカ」ハリー。

「池でいいだろが!」すぺるん。

「池じゃなくて、湖なんですよ、すぺるんさん。ボッチデス湖っていう湖なんです」かおりん。

「おう、そうか」すぺるん。

「恥ずかしっ」ハリー。

「黙れ!」すぺるん。

「あそこの小島にあるのが、大陸で最古の教会ですよ」かおりん。

「そうなのか。なんかボロくてお化け屋敷みたいだな」すぺるん。

「古いんだからボロいのは仕方ないだろ」ハリー。

「数千年前からあるとか言い伝えられてるみたいです」かおりん。


 一行は歩く。ボッチデス湖の側を歩く。

「水うううぅぅぅ……」

 コニタンは急に走りだし、ちょうど湖の木々が生い茂った近辺に入っていった。

「おい、こら! コニタン!」すぺるん。

「あれ、コニタンのテンション、低くないか?」ハリー。

「おそらく、このボッチデス湖のマイナスオーラに吞まれたんでしょう」かおりん。

「マイナスオーラ? どういうことだ?」

「そうか、マイナスオーラか」ハリー。

「だから、どういうことだよ?」すぺるん。

「このボッチデス湖はだな、な人間が集まる場所なんだよ。友達もいない、恋人もいない、そういうな奴がな。だからこの湖にはマイナスオーラが漂ってるんだ」ハリー。

「おう、なんか、オカルトじゃねえか?」すぺるん。

「見て下さい、水面に浮かぶ孤独な人間たちの怨念を」かおりん。

「いや、見えねえよ」すぺるん。

 かおりんは目を細めて湖の遠くを凝視している。コニタンはというと、低いテンションで浅瀬で水をすくって自分の顔を洗っている。ハリーもテンション低く遠くを見ている。

「俺も、ドロシーに会う前は、ここに来たことがあってな。思い出しちまったぜ……み……み……水うううぅぅぅ……」湖に向かうハリー。

「ちょっと、ハリーさん!」

「おい、待て待て、ハリー」すぺるん。

「はっ! 危ない、危ない、湖に引き込まれるところだった……」ハリー。

「おい、しっかりしろよ!」すぺるん。

「モンスターが現れたら大変です、コニタンさんも助けないと」かおりん。

「俺に任せろ」

 すぺるんは湖に入って、コニタンを連れ戻そうとする。すると、急に辺りが淀んできた。そしてどういうわけか、ひゅーーーどろどろどろーーーみたいな音が聞こえてくる。

「何だ? おいコニタン、行くぞ」

 すぺるんはコニタンを抱えて湖から出ようとする。ここで、すぺるんは何かに気づく。鼻をクンクンさせるすぺるん。

「ん? クンクン……こうか? 麝香じゃこう竜涎香りゅうぜんこうの匂いがするぞ」

「何だそれ?」ハリー。

「お前らは教会しか行かねえから知らんだろうが、俺は寺に行くからよく知ってる」すぺるん。

「だから何だ?」ハリー。

こうだよ、こう」すぺるん。

こう? 人に幻覚作用を及ぼす効果のある、あのこうですか?」かおりん。

「おう、そうだ」すぺるん。

「おい、早く湖から上がれ」ハリー。

 すぺるんはコニタンを担いで湖から出た。コニタンはボケーッとしてる。ハリーは気付け薬を取り出して、自分の鼻に塗った。

「みんな、匂いに惑わされるな。これを鼻に塗るといい」ハリー。

「おい、何なんだよ。気味が悪いな。早く行こうぜ」すぺるん。

「そうですね。の怨念ですよ、きっと。行きましょう」かおりん。

「……」ハリー。

 ハリーはまだ匂いに惑わされてるのか、湖の方を見ている。

「おい、ハリー! 行くぞ」すぺるん。

「ハリーさん、こんな所早く離れましょ」かおりん。

「……はい、師匠」ハリー。


 コニタン一行は歩く。歩く。歩く。モンスターどもと戦闘し、村の宿屋に泊り、再び歩く。モンスターどもを蹴散らし、街の宿屋に泊まり、再び歩く。そんなことを繰り返し、繰り返し。


 そして一行は、虹の都王国の王都に到着した。大陸最大の歓楽街として名高い王都 “能楽町” である。能楽町は、高さ10メートル以上の高い城壁に二重に囲まれている。城壁の所々に物見櫓が設置され、鉄壁の防御を誇っているような貫禄を漂わせる。王都の北側は海に面しており、港には漁や交易の船が賑やかに往来している。広い、広大だ。ジャポニカン王国の城下町よりもはるかに大規模だ。

 一行は門を通してもらい、王都に入った。

「ひゃーーーー、人多いな、おい」驚くすぺるん。

「ジャポニカン王国の城下町に比べて、はるかに活気がありますね」ハリー。

「そりゃあ、歓楽街ですから。王宮が歓楽街に囲まれてるんですよ」かおりん。

「人おおおおおお!」

「うるさい!」殴るすぺるん。

「さてと、どうしましょうか」かおりん。

「師匠、とりあえず、金さんを探しましょう。どこを探しますか?」ハリー。

「そりゃ、遊び人だからカジノに決まってんだろ」すぺるん。

「必ずしもそうとは決まってない」ハリー。

「そうに決まってる」すぺるん。

「もし違ったらどうする?」ハリー。

「何もしねえよ」すぺるん。

「逃げる気か」ハリー。

「何だと、もし違ったら、犬にでも何にでもなってやるわい」すぺるん。

「その言葉憶えとけよ、筋肉バカ」ハリー。

「はいはい、ケンカはもうやめて、行きますよ」かおりん。

 一行はカジノへと向かう。


 虹の都王国の王都最大のカジノ、トバク場へ来たコニタン一行。人、人、人……あまりに多くの人でごった返していて、迷子のように佇む一行。ルーレット、ポーカー、チンチロリン、花札……あまりに多くのギャンブルが行われていて、戸惑う一行。

 すると、突然大声が建物内に響き渡った。

「ガハハハハッ!!! また大勝じゃー!!!」

 声のする方を見ると、大柄な男がルーレット台で金貨を両腕いっぱいに抱えている。体重150キロはあろうかと思われる大男だ。鶏冠とさかのような髪型で、高級スーツを着ている。たいそう身なりの良い紳士のようだが、品がなくてキモい。たとえ高級スーツを着ていようとも、物腰が下品なのだ。普通に不細工な顔、仮にお世辞で言うとしても、標準よりもはるかに下である。この男の隣ではドレスに身を包んだ気品あるブロンドの美女が喜んでいる。

「なんだあの大男、めっちゃ勝ってるみたいだな。俺にその金の一部をくれねえかな」すぺるん。

「バカほど楽して金を稼ごうとする」ハリー。

「冗談で言ったんだろが!」すぺるん。

「金ええええええ!」

「やかましい!」殴るすぺるん。

「でも、やけにガタイのいいおっさんだな」ハリー。

「隣の女、すげえ美女だ、ヤバいな」すぺるん。

「行ってみましょ」かおりん。

 その大男のいるルーレットのテーブルへ行くコニタンたち。しかし、その大男にすぺるんが声をかけようとしたまさにその時、すぺるんが反応できないほどの速さで別の男が割って入ってきた。

「おっと、何の用だ?」

 グレーのボロボロのフード付きのマントを羽織った男が腰の剣に手をかけて言った。

「あ、いや、俺たち、怪しい者じゃねえよ」

 すぺるんが驚きながら自分たちが怪しい者ではないことを説明しようとしたところ、ボロボロのマントの男は何かに気づいた感じでフードを取って顔を見せた。

「ん? すぺるんか? それに、ハリーと妖精のかおりんも。それと、えっと……」

「えっ、マゲ髪!」すぺるん。

「あっ、マゲ髪だ」ハリー。

「マゲ髪さん!」かおりん。

 なんと、この男は勇者マゲ髪だった。突然の再会に驚いたみんな。

「久しぶりだな、お前ら。すぺるんに、ハリーに、かおりん。それと、えっと、誰だっけ?」マゲ髪。

「コニタンンンンン!」

「あっ、そうだったな、コニタンだったな」マゲ髪。

「ひどいいいいいい!」

「うるさい!」殴るすぺるん。

「マゲ髪さん、こんな場所で何してるんですか?」かおりん。

「ああ、今は、用心棒をやってるんだ。こちらのお方のな」大男を見るマゲ髪。

「え、そうなのか。俺たち、このでかいおっさんが気になったから来たんだよ」すぺるん。

「お前は隣の美女が気になってたんだろ!」ハリー。

「そうとも言う」美女をガン見するすぺるん。

 おバカな会話を尻目に、大男はピザをかじりながら後ろを向いて、マゲ髪に話しかける。

「ん、マゲ髪、知り合いか? ガハハハハッ」

 この大男が話すと唾がたくさん飛んでくる、しかもピザの食べかすと一緒に。

「ええ、まあ」苦笑するマゲ髪。

 大男はコニタンたちを無視してギャンブルを続ける。

「お前たち、なぜここにいるんだ?」マゲ髪。

「おう、俺たち、金さんを探しに来たんだよ」すぺるん。

「国王様の命を受けて来たんですよ」かおりん。

「おーう、そりゃ重大だな。金さんなら、遊び人に戻ったから、カジノにいると思ったわけだな」マゲ髪。

「当たり前だろ」すぺるん。

「残念だが、カジノにはいない」マゲ髪。

「マジか!」すぺるん。

「ぷぷぷぷぷぷーーーっ」笑いをこらえきれないハリー。

「金さんなら、劇場にいるよ。ここを出て、通りを西へ曲がって、橋を二つ渡った所にあるニジノポリタン劇場だ。行ってみろよ。きっと驚くぜ」マゲ髪。

「金さんはカジノにはいない。筋肉バカ、外れたな! フハハハ!」ハリー。

「いや、まだ、その劇場に行ってみないとわからんだろ!」すぺるん。

「じゃ、その劇場に行きましょう」かおりん。

 一行はカジノから出て、劇場へと向かう。はたして、金さんは見つかるのか?

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