第5話 ゴールデンキモイ

 すぺるん、ハリー、かおりんの三人は、王宮を出て、北東の方角へと歩いて行く。

「でよ、ミャー族って、友好的なのか?」すぺるん。

「大臣様が言うには、ジャポニカン王国とは住民レベルでは交流があるらしいです。だから、友好的だと思いますね」かおりん。

「師匠、この筋肉バカにミャー族のことを教えてやって下さい」ハリー。

「ええ、いいですよ。私も付け焼刃で得た知識ですけど。ミャー族は、この大陸に昔から住むネイティブの民族です。他の大陸からの移民が、彼らの土地を占領していって、虹の都王国、水の森王国、土の里王国がつくられました。ミャー族は分断されて、大陸の北東と南西の辺りに分かれてしまいました。大陸の南西のミャー族は、武芸に力を入れて火の丘王国を建国しました。しかし、武芸に落ちこぼれた人たちは国を追い出されて、風の谷に住むようになったのです。ざっくり言うと、火の丘王国、風の谷、ジャポニカン王国の北東の県に暮らす人たちはミャー族なんです」かおりん。

「へえー、そうなのか」すぺるん。

「北東に住むミャー族は狩猟を生業とするようになりました。彼らは国をつくらずにいました。大陸の東では、小さな街や村が点在していて、大きな国がありませんでしたから、対抗する必要がなかったんでしょうね。でも、約30年前に起きたモンスター大戦の後、強い国が必要だということで、大陸の東では各街や村が大戦の英雄だったノダオブナガ様を王に担いでジャポニカン王国が誕生しました。その時、北東の県のミャー族は一つの集団として団結はしたのですが、ジャポニカン王国に忠誠を誓わなかったのです」かおりん。

「誓わなかったのか、へえー、そうなのか」すぺるん。

「やっぱ、バカだな」ハリー。

「お前は知ってたのかよ!」

「当たり前だ」

「じゃあ、何で、ミャー族はジャポニカン王国に加わらなかったんだ? 言ってみろよ」

「北東に住むミャー族は、南西のミャー族とは違って、昔ながらの伝統を重んじて暮らすことを選んだんだ。他の大陸からの移民に同質化されるのを拒んだんだよ」ハリー。

「さすが、ハリーさん、合ってます」かおりん。

「なんかムカつく!」すぺるん。

「負けを認めろ、筋肉バカめ」

「でもよ、いきなり俺らが行っても、攻撃されたりしねえのか?」すぺるん。

「大丈夫ですよ、国王様は話してませんでしたが、国王様は火の丘王国の出身なんです。だから、国王様もミャー族の出なんです。その縁で、ジャポニカン王国から非公式に治水工事を手伝ったりしてますので、北東の県のミャー族は感謝してるはずですよ」かおりん。

「ふーん、そうなのか」すぺるん。


 なんやらかんやらあって、モンスターと遭遇! 巨大な木のモンスターが2体、巨大なトンボのモンスターが4体現れた。久々に戦闘開始だ!

 すぺるんはすぐに鋼鉄のガントレットを装備して木のモンスターに殴りかかる。10発、20発となぐり、2体を倒した。ハリーはマントの中から三節混を取り出して振り回す。三節混は五つ以上に不規則に折れ曲がり、飛んでいるトンボのモンスター2体を叩き落とす……それ、三節混じゃねえだろ……。そして、かおりんは水流魔法を唱える。水流が空を飛ぶトンボのモンスターを飲み込み、地面に叩き落とした。戦闘終了だ。

 みんなそれぞれ、得意なやり方で戦い、お互いに強さを確認し合った。

「さすが、みんな衰えてないな」すぺるん。

「お前の以外はな」ハリー。

「黙れ! 魔法使いなら魔法を使え!」すぺるん。

「やっぱ、師匠の魔法はすごいな」ハリー。

 夕暮れ時、三人は小さな街に着いた。そこで宿を取った。

「久しぶりにベッドで寝られるぞ!」ごきげんなすぺるん。


 コケコッコーーーー!

 翌朝、三人は旅立つ。歩いて、歩いて、モンスターと戦闘して、小さな村に着き、宿に泊まった。


 コケコッコーーーー!

 朝になり、旅立つ三人。また歩いて、戦闘して、街に着いて、宿に泊まった。


 コケコッコーーーー!

 また、朝。三人は旅立つ。


「もうそろそろ、北東の県に入りますよ」かおりん。

「やっとか」すぺるん。

 三人は街に着いた。石造りの高い城壁に囲まれた大きな街だ。

「ここで情報を集めましょうか。分かれて聞き込みしましょう。2時間後、ここに戻ってきて下さい」かおりん。


 2時間後、戻ってきた三人。

「どうでしたか?」かおりん。

「30人ぐらいナンパしたんだけどよ。全部失敗した」すぺるん。

「何してんたんだ、汚れめ!」ハリー。

「お前はちゃんと仕事したのかよ!」すぺるん。

「当たり前だ! 師匠、新聞をいくつか手に入れました。見て下さいよ、これ。ミャー族についての記事です。近々、最もキモい男を選ぶ儀式が行われるらしいんですよ」ハリー。

「それなら、私も聞き込みで同じ情報を入手しました」かおりん。

「さすが師匠」ハリー。

「最もキモい男を選ぶって、 “世紀末キモ男伝説” と関係ありそうだよな。で、どんな儀式なんだ」すぺるん。

「新聞記事によると、ミャー族の居住地区で世紀末に行われる “根競べ” という儀式らしい。キモい男たちが狭い建物の中に集められて、そこでキモさに耐えて最後まで残った男が最もキモい男、っていうことみたいだな」ハリー。

「うげっ、キモい男たちが集まるって、聞くだけで嫌だな」すぺるん。

「確かに、想像したくない……」かおりん。

「師匠、現地で確認するのが一番かと」ハリー。

「よし、では、ミャー族の居住地区へ行きましょうか」かおりん。

 街から出て、三人はまた歩き出す。


 歩き続けて、どうやらミャー族が住む地域までやって来た。普通に森である。

「煙が見えるぞ。おや、集落があるな」望遠鏡で見るハリー。

 三人は小高い丘の上から、集落のある林の方へと歩いて行く。

「おっ、人がいるぞ」第一村人を発見したすぺるん。

「こんにちはー!」かおりん。

 挨拶したかおりんを見て、木を切っているミャー族の男性は目を丸くした。

「私たち、ミャー族に伝わる伝説について調べています。協力していただけないでしょうか?」ハリー。

 それを聞いて、ミャー族の男はしばらく考え込んでいるようだったが、目つきが急変した。

「だったら、おいらを倒してから頼みなよ!」

 急に殺気立って、男は持っている斧ですぺるんに攻撃してくる。

「おっ、ちょっ、待て!」すばやく身をかわすすぺるん。

 男は斧を叩き落とされたが、次にかおりんに殴りかかる。

「師匠、危ない!」

 ハリーは咄嗟にマントの中から別のマントを取り出して男にかぶせる。男は地面に倒れ、転がりながらマントから脱出する。そしてすぺるんが男に殴りかかる。しかし男はひらりとすぺるんのパンチをかわして後ろへ下がる。一歩、二歩、いや5メートル、6メートルと距離を取る。

「何だ、こいつ、妙にすばしっこいぞ」すぺるん。

 突然、男はすぺるん目掛けて突進してくる。すぺるんはカウンター狙いでパンチを繰り出すが、男はそれをかわしてすぺるんの背後に回る。ハリーが「ヤバい!」と叫ぶ。すぺるんは男に攻撃を当てようと左肘を後ろに回すが、男はそれもしゃがんでかわした。すぺるんは「クソが!」と叫びながら腕を回した勢いで右足を回転させて男の首にヒットさせた。

「がぁぁ!」その場に倒れこむ男。

「てめえ!」凄むすぺるん。

「待った、待った!」男が手を上げてストップをかけた。

「何だと!」にらむすぺるん。

 男はにっこりと笑って両手をパーにして上げる。

「いやあ、強いな。ガントレットで殴られるのだけは避けようとしたけど。あの状態から蹴りがくるのか。おいらの動きについてこれるなんて……いててて」男。

「何だ、どういうことだ?」ハリー。

「大変申し訳ない。部外者が観光気分でおいらたちミャー族の土地に来て、作物を盗んだりすることがたまにあるんだ。だからちょいと脅かして帰らしてやろうと思って。すまなかった」男。

 すぺるんは困惑して、ハリーは複雑な表情でいる。かおりんは申し訳なさそうに男に何かを言おうとした途端、すぺるんが言う。

「あ、いや、俺たちが突然現れたから、驚かしちまったのは俺たちのほうだ、なんか悪いな」

「いや、こちらが悪いんだ」男。

「でもよ、お前、動きがすげえ速くてメチャクチャ強えな」すぺるん。

「いや、全然そんなことないよ」男。

 すぺるんは手を差し出して、男を地面から引き上げた。男は驚きながらかおりんを見ている。

「俺たち、ジャポニカン王国から来たんだけどよ」すぺるん。

「妖精か。宙に浮かんでる。あんた、ノダオブナガ様んとこの妖精だろ」ミャー族。

「はい、そうです。かおりんといいます」

「おったまげた。妖精って、本当にいるんだな」ミャー族。

「はい、驚かれると、なんかびっくりです。私一応、ジャポニカン王国では有名なので、あんまり驚かれたことないんです」かおりん。

「さっきの話の続きなんですが、ミャー族に伝わる伝説について調査してるんですが、協力をお願いできますか?」ハリー。

「ああ、いいよ。こんなとこでは客人をもてなすのに失礼だな。とりあえず、長老のとこまで案内するよ」男。


 ミャー族の男は、三人を長老のいる所まで案内するという。すぺるんたちは後をついて行く。このミャー族の男は、さすがのすぺるんたちも追いつけないくらい歩くのが速い。

「おい、ちょっと待ってくれよ。歩くの速いな。ハアハア……」すぺるん。

「ああ、わしらにとってはゆっくりのペースなんだけどな」男。

「私は飛んでますから、疲れませんけど。そんな重たいガントレットを持ってると大変なんですね」かおりん。

「師匠、ハアハア、そいつのガントレットよりも、私がマントの中に隠しているマジックの道具のほうがはるかに重いです、ハアハア」ハリー。

「お前、魔法使いだろ! そんなのいらんだろ!」すぺるん。


 とかなんとかしている内に、集落で一番豪華な木造住宅に着いた。すぺるんたちは中へ通された。

「おお、これはこれは、ジャポニカン王国からよくぞ参られた。わしは長老のゲソですじゃ」

 80歳くらいの長老がすぺるんたちに挨拶してきた。

「初めまして。私は妖精のかおりんです。こっちは僧侶のすぺるんさん、こっちは魔法使いのハリーさん」

「ノダオブナガ様には何かと世話になっておりますじゃ。国王様の側近の一人が来るとわかっていれば、宴の準備をしたのじゃが……」ゲソ。

「いや、全然気にしないで下さい」かおりん。

「かおりん、お前、国王の側近だったのか?」すぺるん。

「はい、一応」かおりん。

「こら、師匠に対して失礼な」ハリー。

「ところでよ、ミャー族に伝わる伝説について聞きてえんだがよ」すぺるん。

「おいこら、筋肉バカ、お前は唐突すぎて不躾ぶしつけなんだよ」ハリー。

「長老様、私たちは、ミャー族に伝わる “世紀末キモ男伝説” について調査しています。ご協力をお願いできますか?」かおりん。

「なんじゃ、そのことを調べておいでか。ちょうど良かった。昨日から “根競べ” が行なわれておるのですじゃ」

「ああ、新聞に載ってたやつか。もうすでに行なわれているのですね」ハリー。

「案内しますじゃ」

 長老はそう言うと、そそくさと歩きだ出した。しかも速い。とても老人とは思えない速さで歩く。

「おい、待ってくれ、速い」すぺるん。

「おや、これは失礼をば。わしらミャー族は身体能力が他の民族よりも優れておりましてな」ゲソ。

「そうなのか、うらやましいな」すぺるん。


 とかなんとかしていると、高い煙突のある建物に到着した。

「この建物の中で、今まさに “根競べ” が行なわれておるのですじゃ」ゲソ。

 突然、建物のドアが開いて、中から男が担架に乗せられて運び出されてきた。その男は白目をむいて口から泡を吹いて苦悶の表情で失神しているようだ。

「おい、何だ? 病人か?」すぺるん。

「違いますじゃ。この建物の中では、大陸中から集まったキモい男たちがキモさを競っておるのですじゃ。ゆえに、キモさに耐えられなくなった者は脱落していくのですじゃ、さっきの男のように」ゲソ。

「うぐ、キモさに耐えきれずに失神するのかよ……どんだけキモい奴らが中にいるんだ……」すぺるん。

「筋肉バカよ、お前に同意するぞ」ハリー。

「キモさって、どうやって競うんだよ……」すぺるん。

「それは、見た目のキモさ、体臭の臭さ、声の耳障りさ、存在のヤバさなどで競うんですじゃ」ゲソ。

「うげ、気持ち悪っ……」すぺるん。

「同意するぞ」ハリー。

「不気味ですね……」かおりん。

「あの煙突から煙が上がったら、勝者が決まったという知らせですじゃ」ゲソ。

「最後まで残った一人だけが、勝者になれるんですね」ハリー。

「そうですじゃ。最後まで残った者が、最もキモい男がもらうにふさわしい称号を得ることができるんですじゃ」ゲソ。

「最もキモい男がもらうにふさわしい称号だって!?」すぺるん。

「そうですじゃ。それは “ゴールデンキモイ” という称号ですじゃ」ゲソ。

「ゴールデンキモイ!?」三人が同時に声を上げる。

「なんてキモそうな響きなんだ……」ハリー。

「聞いただけで、ゲロ吐きそう」すぺるん。

「激しく同意するぞ」ハリー。

「そんな称号、もらいたくないですね……」かおりん。

 また建物のドアが開いて、男が担架で運び出された。その男は断末魔の叫びをあげたような悪魔の形相で生気が感じられなかった。

「おい、一体何があったら、あんなふうになるんだよ……」すぺるん。

「全人類が同意するぞ」ハリー。

「倒れた人を運び出す係の人たちも大変ですね」かおりん。

「彼らは、サングラス、耳栓、鼻栓、マスク、手袋で完全防備しておるから大丈夫ですじゃ」ゲソ。

「どんなに金に困ってもやりたくないな……」すぺるん。

「宇宙人も同意するぞ」ハリー。

 そんなおバカなやり取りがある中、煙突から煙が上がる。しかも、ものすごくキモそうに煙が上がる。どないやねん。

「おっ、勝者が決まったようじゃな」ゲソ。

 建物の中から、煙と共に完全防備の係員たちが出てきた。そして、ゲソ長老に「決まりました」と告げた。

 ドアから出てくる煙がだんだんと薄くなっていく。一体どんなキモい男が建物から出てくるのかを考えて、すぺるんたちは、緊張しながら、武者震いしながら、ごくりと唾を飲み込む。数秒経って、ドアの奥に人影が見えた。一気に緊張がマックスになる。すぺるんたちは心臓がドキドキだ。そして、最もキモい男が建物から出てきた。

「ひいいいいいいい!」

 この聞き覚えのある叫び声に、すぺるんたちは一気に緊張が崩壊した。

「コニタン!」すぺるんたち三人。

「嫌だああああああ!」叫ぶコニタン。

「おお、これはこれは、お知り合いですかな?」ゲソ。

「俺らのパーティーの勇者だよ」すぺるん。

「コニタンさんですよ。ナウマン教を倒した、あの勇者コニタンさんですよ」かおりん。

「なんと! そうでしたか! いやしかし、その勇者様が “根競べ” で勝ち残るとは、こんなことが起こるのですな」ゲソ。

「助けてえええええ!」

 コニタンは、目の前にすぺるんたちがいることに気づかずに天に向かって叫んでいる。

「とにかく、この者こそが最もキモい男、ゴールデンキモイですじゃ」ゲソ。

「ただ単に、中で気絶してただけとかじゃねえのか? だから、気がついたら自分以外勝手に脱落していったとかじゃねえか?」すぺるん。

「同意する」ハリー。

 係員たちがコニタンを長老の前に連れてきた。

「ひいいいいいいい!」

 長老はコニタンに、勇者の冠の上から無理やり金製の冠をかぶせた。

「うむ、ミャー族長老の名において、お主にゴールデンキモイの称号を授ける」ゲソ。

「ブクブクブク……」泡を吹きながら気絶するコニタン。

「……」すぺるんたち。


 根競べで勝ち残った最もキモい男がなんと、コニタンだったという衝撃のオチ! 見事 “ゴールデンキモイ” の称号を得られたコニタン。すごいのかどうか、さっぱりわからん。

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