第6話 黒刀真剣
気絶したコニタンを長老の家に運んだすぺるんたち。
「コニタン、起きねえな。思いっきり殴っていいか?」すぺるん。
「ダメです!」かおりん。
「殴るな! 野蛮人め! 思いっきりボールをぶつければいいんだ!」ハリー。
「ダメです!」かおりん。
「はい、師匠」ハリー。
「しかし、ナウマン教を倒した勇者様じゃったとは……驚きですじゃ」ゲソ。
「俺もパーティーの一員で、ナウマン教を倒したんだぜ」すぺるん。
「私も得意の魔法でナウマン教を倒しました」ハリー。
「はいはい、自慢はいいです」かおりん。
「そういや、じいさん、世紀末キモ男伝説のことを話してくれねえか?」すぺるん。
「お前は言い方が失礼だと言っただろ!」ハリー。
「長老、世紀末キモ男伝説について、詳しく教えてもらえますか?」かおりん。
「ああ、かまわんですじゃ。ちょいとお待ちくだされ」
ゲソ長老は奥の方へ行って、古びた本を持ってすぐに戻ってきた。
「世紀末キモ男伝説とは、われわれミャー族に伝わる伝説ですじゃ。知っての通り、ミャー族は火の丘王国と風の谷にもおりますが、この伝説は北東の県に暮らすミャー族にのみ伝わっておるのじゃ。各地に伝えられる、この大陸の未来についての伝説がありますじゃろ」ゲソ。
「おう、あれだろ、あれ。あれだよ。人間は、いつか死ぬっていうやつだな」すぺるん。
「前と同じこと言ってますね」かおりん。
「バカは黙っとけ!」ハリー。
「地獄の門が開いて、悪魔がこの世にやって来る。そして悪魔と人間との最終決戦が行なわれるという内容で、大体どこの伝説もそういう感じですじゃ」ゲソ。
「大臣様のお話と一致してます」かおりん。
「しかーし、ミャー族に伝わる “世紀末キモ男伝説” は、少し違うのですじゃ。数千年に一度、世紀末の世になると、魔界と人間界との距離が近くなり、悪魔が人間界にやって来る。じゃが、キモい男が現れて、悪魔を追い払う。そして、悪魔は、ミャー族に伝えられる族宝、 “
「それって、コニタンの話じゃねえのか?」
「うーん、そんな感じもしますけど、違いますね。メイジ大神官の夢でも、剣を持った男が悪魔を倒しますが、大神官の夢はこれから起きることのはずなので……」かおりん。
「ゴータマ神殿のメイジ大神官が夢を見なさったのか。それはすごいですじゃ」ゲソ。
「メイジ大神官をご存知で?」かおりん。
「わしらミャー族は火の丘王国とは同じミャー族同士、ガッツリ交易してますのじゃ。ゴータマ神殿は火の丘王国の庇護を受けておりますじゃろ。その縁で、わしらミャー族の中にはゴータマ神殿へ参拝する旅に出る者もおりますのじゃ。ゆえに、参拝者を手厚くもてなしてくれるゴータマ神殿には感謝しておりますのじゃ」ゲソ。
「ふーん」すぺるん。
「長老、さっき言ってた、黒刀真剣? って何ですか?」ハリー。
「ああ、黒刀真剣とは、ミャー族に伝わる刀でな、 “侍” だけが持つことができるのですじゃ」ゲソ。
「刀? 侍? 何だそれ?」すぺるん。
「刀とは、侍が扱える剣のことですじゃ。サムライ・ソードですじゃ」ゲソ。
「確か、火の丘王国には “侍” という職業があるらしいですが」かおりん。
「そうですじゃ。わしら北東の県に住むミャー族は刀を捨てましたが、火の丘王国では今でも刀を持った侍がおりますのじゃ。元々、ミャー族はこの大陸のはるか北から海を越えて渡って来たのですじゃ。侍とは、その時からある職業だと言い伝えられておりますじゃ」ゲソ。
「おう、でよ、その木刀真剣ってどんな剣なんだ?」
「木刀じゃなくて、黒刀だ!」ハリー。
「黒刀真剣は、数千年前から伝わる刀ですじゃ。一般的な剣とは違うのですじゃ。この本によりますと、一子相伝の “
「なんか、すごいな」すぺるん。
「一子相伝の技ですか、それじゃ、誰が使えるのかわかるんじゃないのですか?」ハリー。
「いやそれが、わかりませぬのじゃ。昔、その “音呼舞流” の継承者が行方知れずになってしまいましてな。まだ少年だったと聞いておりますのじゃ。名前は確か、パンゾノ」ゲソ。
「パンゾノ、ですか」ハリー。
「行方不明なのか……」すぺるん。
「そのパンゾノという人は、 “音呼舞流” をちゃんと受け継いだのでしょうか?」かおりん。
「わかりませぬじゃ。一子相伝なので、 “音呼舞流” が一体何なのかさえもわかっておらぬのですじゃ。それを伝える親もとうに亡くなっておりますゆえ……」ゲソ。
「黒刀真剣も行方不明なんですか?」ハリー。
「いえ、黒刀真剣は、宝物庫に厳重に保管してありますじゃ」ゲソ。
「うーん、その刀を扱える誰かが、悪魔を倒すのでしょうかね」かおりん。
「いや、悪魔はもうコニタンがぶっ倒しただろが」すぺるん。
「でも、大神官の夢では……」かおりん。
「また悪魔が人間界に現れるのでしょうか?」ハリー。
「メイジ大神官の夢に出てきたのなら、その可能性は否定できますまい」ゲソ。
「侍か。ジャポニカン王国にはそんな職業ないよな」すぺるん。
「ああ、ない」ハリー。
「そうですね、ジャポニカン王国にはないですね。たぶん、火の丘王国にしかないです」かおりん。
「コニタンが侍だとは思えないしな」すぺるん。
「ていうか、勇者だとも思えないな」ハリー。
「……確かに……」かおりん。
「この勇者様が侍なのかどうかはさておき、数か月前になりますが、ここ北東の県で山が崩れましてな、その時に崖から昔の古い書物がたくさん発見されたのですじゃ。どれも、ミャー族の歴史について書かれておるようで、この本がその内の一冊ですじゃ。まだ全ての本が解読されておらぬのですが、新しい発見があるかもしれませぬのじゃ」ゲソ。
「それは、楽しみですね。今まで知られてなかったことがわかるかもしれませんね」かおりん。
みんながあれやらこれやら話をしていると、突然、コニタンが目を覚ました。
「ひいいいいいいい!」
「おっ、起きたか、コニタン」すぺるん。
「暴力反対いいいい!」
「こら、何もしてねえだろ!」すぺるん。
「助けてえええええ!」
コニタンは走って長老の家から逃げ出した。すぺるんが急いで追いかける。
「おお、なんと、走るのが速い。ひょっとして、勇者様はミャー族ですかな?」ゲソ。
「さあ……」かおりん。
「そういえば、コニタンは走るの速いし、どんだけ走っても疲れないし、速度が落ちなかったですね」ハリー。
「コニタンさんがミャー族出身ってありえるわね」かおりん。
「皆さん、出身はどこですじゃ?」ゲソ。
「私はジャポニカン王国のリリーゲラー村です」ハリー。
「私は水の森王国出身です」かおりん。
「師匠、妖精にも出身国があるのですね」ハリー。
「ええ、私、水の妖精ですから、水の森王国の湖で20年くらい前に水から突然生まれたんですよ」かおりん。
「おお、妖精は湖でお生まれになるのか、すごいですじゃ」ゲソ。
「でも、師匠、なぜジャポニカン王国に?」
「私、始め、水の森王国の王宮に勤めるように言われたんですが、王族と波長が合わなかったんですよね。そんな中、できたばかりのジャポニカン王国からお声がかかったんですよ、大臣様も国王様もすっとぼけた感じで面白そうだなと思って、ジャポニカン王国の王宮で働くことにしたんです」かおりん。
「なるほど、あんまり賢明な判断ではなかったのかも……」ハリー。
「……かもしれないですね……」かおりん。
そうこうしていると、すぺるんが戻ってきた。なんと、コニタンを連れて。
「えー! 筋肉バカ、よく連れ帰ってこれたな」ハリー。
「あー、なんかこいつ途中でバテやがってよ」
コニタンは息を切らしている。
「ひ、いぃぃぃ……」コニタン。
「大丈夫ですか、コニタンさん?」かおりん。
「ミャー族ならこれぐらいでは息切れなどしませぬじゃ」ゲソ。
「コニタン、どこ出身なんだ?」ハリー。
「はほいあんほうおうのおうああち」コニタン。
「あんだって?」すぺるん。
「ジャポニカン王国の城下町だと言ってますじゃ」ゲソ。
「えっ、なぜわかるんですか?」かおりん。
「今のは、火の丘王国の忍者が使う “
「忍者? 空蝉? 何だよ、それ?」すぺるん。
「忍者とは、侍と同じく、火の丘王国にある職業ですじゃ。空蝉の術とは、虚脱状態に自分を追い込んで、周りの人間に悟られないように秘密裏に話す術ですじゃ」ゲソ。
「ただ単に疲れてろれつが回らなくなっただけじゃねえのか」すぺるん。
「俺もそう思う。絶対にそうだ」ハリー。
「コニタン、しっかりしろ!」殴るすぺるん。
「ひいいいい! 痛いいいい!」
「あっ、普通に戻った」ハリー。
「コニタンさん、両親はどこの出身なのですか?」かおりん。
「知らないいいいいいいいい!」
「知らんのか!」殴るすぺるん。
「さようですか。ひょっとしたら、ハーフではないかとも思いますが、わかりませんですじゃ」ゲソ。
「とりあえず、王宮へ戻りましょうか」かおりん。
「じじい、世話になったな」すぺるん。
「筋肉バカ! お前、
「気にせんでもいいですじゃ、ほんじゃ、さいなら~」ゲソ。
世紀末キモ男伝説がどんな伝説なのかを知ったコニタン一行、とりあえず、王宮へ帰るみたい。その伝説に出てくる男は誰なのか。かおりんの出自とか、ちょっとびっくり。やっと出てきた “侍” という職業、火の丘王国にしかその職業はないらしい。黒刀真剣、一子相伝の “音呼舞流” 、行方不明のパンゾノ、面白くなりそうな予感。
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