第4話 王宮にて応急

 ジャポニカン王国の王宮に到着した、すぺるん、ハリー、かおりんの三人は、国王に謁見するために応接の広間へ通された。そして広間の奥よりノダオブナガ国王とサンドロ大臣がやって来た。

「よく来てくれた、勇者コニタンのパーティーよ。って、あれ? コニタンいなくね?」国王。

「かおりんよ、コニタンはどうしのじゃ?」大臣。

「はぁ、それが、コニタンさんは、新しく冒険に出るのが嫌なので、走って逃げて行きました……」

「そういえば、前回の冒険でも何度も逃げておったな……」大臣。

「まあよい、早速じゃが、すぺるん、ハリー、大雑把にかおりんから伝わっているはずじゃが、お主たちに頼みがあるのじゃ。このジャポニカン王国の各街や村には昔から伝わる伝説がある。この大陸の未来についての伝説じゃ」国王。

「あっそれ、知ってるぞ。人間はいつか死ぬっていうやつだな」自信満々のすぺるん。

「黙っとけ、筋肉バカが! 地獄の門が開かれ、悪魔がこの世にあらわれて、人間と悪魔が戦うっていう伝説のことですよね」ハリー。

「うむ、その通りじゃ」大臣。

「まあ、そうとも言うよな」すぺるん。

「それに似た伝説は、虹の都、水の森、土の里、火の丘、そして風の谷にも伝えられておる。そして、ジャポニカン王国の北東の県に暮らすミャー族にもな」

「たまたま似てただけで、偶然じゃねえの?」すぺるん。

「たまたま似てるだけなら偶然だと片づけられるかもしれぬが、実はな、ゴータマ神殿のメイジ大神官が夢を見たのじゃ。剣を持った男が悪魔を倒すという夢じゃ」国王。

「それって、コニタンのことじゃなかったのか?」すぺるん。

「コニタンの活躍はもう2年以上前のことじゃが、メイジが夢を見たのは数日前のことじゃ」大臣。

「では、再び悪魔が現れるということなんでしょうか?」ハリー。

「まだわからん」国王。

「で、俺たち、そのミャー族っていうのに会いに行けばいいんだな?」すぺるん。

「そうじゃ」大臣。

「おう、で、ミャー族って何だ?」すぺるん。

「知らないのか、筋肉バカ! 北東の県には、ジャポニカン王国に忠誠を誓わない流浪の民が暮らしているんだ。彼らがミャー族だ」ハリー。

「北東の県?」すぺるん。

「ジャポニカン王国は、中央の県とか北西の県とか南西の県とか、9個の県で構成されててだな、その中のひとつで北東にあるのが北東の県だ」ハリー。

「お、おう、そうだったな、そうそう、忘れてた」すぺるん。

「2秒でばれるウソつくな!」ハリー。

 すぺるんとハリーのやり取りを見て、国王と大臣は半ば呆れ顔だった。逆に、かおりんは結構笑っている。

「でよ、ミャー族に会って、どうすりゃいいんだ?」すぺるん。

「バカか、師匠が言ったことを忘れたのか? ミャー族に伝わる伝説 “世紀末キモ男伝説” について聞き込みをするんだろうが」ハリー。

「お、おう、そうだったな、そうそう、思い出した」すぺるん。

「1秒でばれるウソつくな!」ハリー。

「では、お前たち三人で行ってきてくれ」大臣。

「三人? コニタンは役立たずだからいいとして、金さんはどうしたんだ?」すぺるん。

「金さんのことじゃがの。ゴータマ神殿から便りが届いての。金さんは、あれからまた自堕落な生活に堕ちて、ジョブチェンジさせられて、今では虹の都で遊び歩いているそうだ」大臣。

「金さん、また遊び人に戻ったのかよ。どこまで汚れなんだ」すぺるん。

「お前も汚れだろ!」ハリー。

「お前も汚れだろ!」すぺるんが言い返した。

「お前も汚れだろ!」大臣が国王に言った。

「えーー! わし!」驚く国王。

「おや、すみません。ついテンポにつられて」大臣。

「なんか、わしの存在、軽くない?」国王。

「ふわーーーあ。気のせいですよ、国王様」あくびしながらのかおりん。

「えーー! あくびしながら言うこと?」国王。

「気になさいますな、国王様。ぷはーっ」いつの間にか酒飲んでる大臣。

「えーー! 酒飲むなよ、こら!」国王。

 国王と大臣とかおりんのやり取りを見て、すぺるんとハリーは若干苦笑いしている。

「……相変わらずだな……」ハリー。

「ああ。冒険か、楽しみだな」シャドーボクシングするすぺるん。

「そういえば、キャンディー帝国のことで忙しいとか何とか。どういうことなんでしょうか?」ハリー。

 ハリーの質問に国王と大臣は顔を見合わせる。

「ふむ、話しておこうかのう。キャンディー帝国で、あぶらハム大総統が暗殺されたんじゃよ。その後、栗金団くりきんとんという男が新しく大総統に就任したんじゃ」大臣。

「国のトップが殺されたって、ただ事じゃないですよ」ハリー。

「うむ。そうじゃ、ただ事ではない。虹の都から入ってきた情報によると、ちょっと変な話になるんじゃが、油ハム大総統を外食させるために、お食事券を――」大臣。

だって?」即座に反応するすぺるん。

「そうじゃ、じゃ」大臣。

「どんななんだよ?」

「油ハム大統領は白昼堂々と暗殺されたんじゃよ、有名なレストランでな」

「レストランが関係してんのかよ」

「そうじゃ。大総統は毎日総統官邸で食事を取ることに決まっておるのじゃが、その日は外食するために出かけたんじゃよ」

「国のトップが飲食業界とズブズブの関係だったのか?」

「それはわからんが、油ハム大総統はお食事券をもらって外食したんじゃ」

「高級レストランで飯食って、無料にしてもらう見返りに、輸入品の関税を上げろとか、どうせそういうことなんだろ」

「そのお食事券を油ハム大総統に渡したのが、栗金団らしいのじゃ」

「汚職事件を渡した? そんな大それたことを!」

「そうじゃ、お食事券を渡したらしいんじゃ」

「大体、汚職事件なんてどうやって渡すんだよ?」

「どうやってって、小さなものじゃから渡せるじゃろ?」

「汚職事件が小さいだって? 国のトップが関係してる事件が小さい事件なわけないだろ!」

「いや、お主、何の話をしておるんじゃ?」

「何の話って、だよ」

「ふむ、

「ああ、だよ」

 大臣とすぺるんの噛み合わない会話を聞くに堪えずに、ハリーが割って入る。

「あの、大臣様、ちょっといいですか。おい、筋肉バカ、お前勘違いしてるだろ。大臣様が言ってるお食事券は、レストランで食事するための券のことだ。食事するための券、お食事券だ」ハリー。

「ん? ああ、飯食うための券ていう意味のお食事券のことか?」すぺるん。

「お前が言ってるのは、政治家と業界が裏で癒着して不正なことをしてるっていう意味の汚職事件のことだろ」ハリー。

「お、おう。そういう意味もあるよな」すぺるん。

「お前みたいなバカが、何で、お食事券のことを汚職事件だと思うんだ! 普通逆だろ! 汚職事件のことをお食事券だと勘違いするんならわかる。けど、逆だ! バカはバカらしい間違いをしとけ!」ハリー。

「バカ、バカ、うるさい! 俺は最近読書して勉強してんだよ」すぺるん。

「脳ミソが硬い奴は勉強しても無駄だ」ハリー。

「黙れ! 似非えせ魔法使いが!」すぺるん。

「何だと、十三股野郎が!」ハリー。

「はいはい、ケンカは止めて下さい、二人とも」

 かおりんが二人の言い合いを止めに入った。今度は、国王と大臣が呆れ顔で見ていた。国王が咳払いして話し出す。

「えー、オホン。大臣が話しように、キャンディー帝国では油ハム大総統が暗殺され、新しく、栗金団大総統が誕生した。栗金団という男は野心が強く、この大陸に攻め込もうとしているらしいのじゃ」

「それ、ヤバいだろ!」すぺるん。

「キャンディー帝国は軍事国家ではありますが、国民は魔法を使えないと聞きます。重火器が発達しているらしいですが、私たちの大陸に比べて非常に小さな国で、規模で言えば、虹の都王国よりも小さいとか。戦争を仕掛けてくるなんてありえるんでしょうかね」ハリー。

「ハリーさん、お見事です」かおりん。

「ケッ、カッコつけやがって。それぐらい俺でも知ってたけどよ、ふん」すぺるん。

「お前はどうせ、キャンディー帝国がどこにあるかも知らないんだろが」ハリー。

「海の向こうだ」すぺるん。

「どっちの方角だ?」ハリー。

「……お、おう、向こうだ」曖昧なすぺるん。

「ちゃんと指差せ、筋肉バカ」ハリー。

「あっ、指がつった!」

「0.5秒でばれるウソつくな!」

「はいはい、もっと冷静に、二人とも」

 かおりんに止められて静まる二人。ここで、国王がちょっと格好つけながら、バカ二人と妖精に対して言う。

「うむ、キャンディー帝国の動向は、わしと大臣で見極める。お主たちには、北東の県へ行き、ミャー族に伝えられる “世紀末キモ男伝説” についての調査を頼みたい。コニタンもきんもおらぬ応急のパーティーになるが、ジャポニカン王国のために行ってくれるな?」

 国王は、自分の格好良さに、決まったな、と自信を持って言い切った。

「はい、もちろんです。で、褒美のほうは……」ハリー。

「行くけど、俺も経済的に困ってて、褒美次第かな……」すぺるん。

「どぅぇーーー!」目を丸くする国王。

「すぺるんさんもハリーさんも、家を失って、宿無しなんですよ。すぺるんさんは、十三股かけてるのがバレて、慰謝料を払うために豪邸を売却して、ハリーさんは新しいマジックの練習中に、家もせっかく建てた劇場も燃やしてしまったんです」かおりん。

「どぅぃぇぇー!」目を丸くする大臣。

「コニタンさんも宿無しなんです。アイドルになるために、悪徳事務所に騙されて、多額の借金をしてしまったそうです。コニタンさんの借金の返済ですが、大臣様に頼んでみる約束をしました。大臣様、コニタンさんの借金、払ってあげてもらえますか?」かおりん。

「どえーーー! 勇者が借金って、示しがつかんじゃろ!」国王。

「しょうがないな。払ってやるかのう。ひっく」酔ってる大臣。

「いや、だから、酒飲むんじゃねえよ!」国王。

「やったー! コニタンさんの件は解決っと」喜ぶかおりん。

 大臣はできあがっちゃってる感じで、すぺるんもハリーも目が$マークになってて、かおりんは天然だから空気を読まずに喜んでる。まじめなのは国王だけっていう状況。

「仕方がない、褒美はたんまりと用意しておこう。では、行ってまいれ」国王。

「はい!」ハリー。

「よっしゃー!」すぺるん。

「行ってきまーす!」かおりん。

 すぺるんとハリーとかおりんは、元気よく返事をし、応接の間を後にした。

「相変わらず、いい加減な奴らじゃのう」国王。

「ういー、ひっく……」大臣。

「飲むな!」国王。


 さあ、いよいよ冒険が始まる。一応の主人公が不在の状態で、北東の県を目指す、すぺるん、ハリー、かおりんの三人。長かった、ここまで来るのに長かった。ようやく冒険の開始だ!

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