第3話 ラブストーリーは突然死

 自分のミッションをコンプリートしたかおりんは、コニタンたちを前にして演説っぽく語り出す。

「はい、では、皆さんにお伝えしなければならないことがあります」

 かおりんが話し始めるが、それをすぺるんがさえぎる。

「ちょっと待て。おい、ハリー、ドロシーはどこにいるんだよ?」

「あっ、そうよね。ハリーさん、ドロシーさんは? まさか火事で……」

「ひいいいいいい!」

「心配いりませんよ、師匠。ドロシーは先月に家を出て行きました」

「はぁ、それはまた、どうしてですか?」

「私とドロシーの良好な関係が終わってしまったんです」

「はぁ……でも火事が起こるずっと前に出て行ったから、火事には巻き込まれなくて済んだのですね」かおりん。

「そうか、よかった。ドロシーが火事に巻き込まれたのかと思ったぜ」喜ぶすぺるん。

「おいこら、筋肉バカ。何がよかっただ?」ハリー。

「ドロシーが火事に巻き込まれたんじゃなくてよかった、って喜んでるじゃねえか」

「俺とドロシーが破局したことを喜んでるんじゃねえのか、ええこら、筋肉バカが!」

「何だとこら! 似非えせ魔法使いが!」

「黙れ、筋肉バカ!」

「ひいいいいいい!」

「はいはい、ケンカはやめて下さい!」

 仲裁に入ったが、前のように名コンビの軽妙な会話を聞けて若干うれしかったかおりんだった。

「そういや、師匠、私たち三人全員が宿無しだとか言ってませんでしたか?」ハリー。

「ええ、言いましたよ」

「一体どういうことでしょうか?」

「すぺるんさんは、豪邸を手放したとかで……」かおりん。

「なぜだ、筋肉バカ」

「いや、それは、その……」

「ナウマン教を倒したご褒美として国王様からもらった豪邸だろうが?」ハリー。

「すぺるんさん、何があったんですか?」

「いや、それがよ、女に裁判を起こされてよ、負けちまったんだよ」

「汚れの僧侶め!」ハリー。

「お前も汚れだろ!」

「それで、お金が必要になったんですか?」かおりん。

「まあ、そうだな。慰謝料を取られちまってよ」

「慰謝料くらいで豪邸を手放すようなことにはならないんじゃないですか?」

「いや、それがよ、訴えてきた女が一人じゃねえんだ」

「二股かけてたのか、汚れめ!」ハリー。

「二股!」かおりん。

「いや、実は……十三股なんだよ」小声のすぺるん。

「ひいいいいいい!」

「……最悪」冷たく言い放つかおりん。

「ふん、汚れきってるな、偽僧侶が!」ハリー。

「お前も偽者だろが!」

「で、十三人に高額な慰謝料を払うために、豪邸を売ったってことですね」かおりん。

「ん、まあ、そういう感じかな……」声が小さくなるすぺるん。

「貯金はないのか?」ハリー。

「ない。このガントレットくらいだな、残ってるのは」自慢の鋼鉄のガントレットを愛でるすぺるん。

 全員がすぺるんをガン見してる。

「おいおい、他人のことはほっとけよ。それより、ハリー、お前は何で破局したんだ。言ってみろよ、こら!」強気なすぺるん。

「お前みたいな汚れに話す必要はない」

「何だと、こら!」

「ハリーさん、話してくれませんか?」かおりん。

「はい、わかりました師匠」

「お前なあ……」呆れるすぺるん。

「実は、私、前回の冒険の報奨金を全額使って、マジックショーをするための専用劇場を建設したんですが、マジックの練習中にそこも火事になって全焼してしまいました……」

「……はあ……家も劇場も……」かおりん。

「それで仕事も貯金もなくなって、ドロシーが出て行ったんです。私のラブストーリーはそこで終わりました……ああ無情……」顔面蒼白のハリー。

「家も劇場も火事で全焼って、お前何やってんだ?」すぺるん。

「火いいいい!」

「やかましい!」殴るすぺるん。

「それは気の毒ですね」かおりん。

「ああ、突然訪れた死のようでした。私とドロシーの愛に溢れた日々は……」

「俺も、一人の女に十三股がバレたせいで、雪崩を打つように訴えられて、美女たちとのウハウハな日々が終わったんだよ、突然に」すぺるん。

「それは自業自得ですね」かおりん。

「残されたのは、少しのマジックの道具とマントが12着くらいです」ハリー。

「そんなに必要なのか、マント?」すぺるん。

「で、コニタンはなぜ宿無しになったんだ?」ハリー。

「ああ、こいつは、アイドルになるために100万yen騙し取られて、借金して、気がついたら、家も何もかも借金のカタに取られてたっていうことらしいぜ」すぺるん。

「嫌あああああああぁぁ!」叫ぶコニタン。

「なんか、同情しちまうぜ」

 コニタンは殴られるのかと身構えたが、すぺるんはコニタンの肩にポンと手を置いた。

「はぁ、はいはい、それじゃあ、話を戻します。皆さんに、国王様からの伝言です」

 かおりんはカバンから書類を取り出して、朗読する。

「国王様曰く、北東の県のミャー族に伝わる伝説 “世紀末キモ男伝説” について調査をしなければならん。わしと大臣は、キャンディー帝国の動向に専念したいから、コニタン一行にミャー族の伝説を調べてほしい。とりあえず王宮まで来てね、っていうことです」

「おう、新しい冒険の依頼だな。ワクワクするぜ」シャドーボクシングするすぺるん。

「面白そうですね」ハリー。

「ひいいいいい! 冒険、嫌だあああああ!」

 コニタンは叫びながら走り出した。

「あっ、ちょっと、コニタンさん」かおりん。

「おい、こら、待て! コニタン!」追いかけるすぺるん。

 コニタンは走る。相変わらず速い、速い。

「こら、待て!」

「ひいいいい!」逃げるコニタン。

 すぺるんも足は速いほうだが、見る見るうちにコニタンとすぺるんの距離が開いていくくらい、コニタンは速く走った。

 すぺるんがしばらく後に戻ってきた。

「ダメだ、追いつけねえ、あのブサイクめ」

「あらら、コニタンさん、逃げてしまいましたね。仕方ないですね。とりあえず、私たち三人で王宮に行きましょうか」かおりん。

「はい、師匠」ハリー。


 コニタンは毎度のごとく、逃亡してしまった。主人公なのに、逃亡って……。コニタン抜きで王宮に向かう、すぺるん、ハリー、かおりん。さて、どうなることやら。

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