017 悪童バスタVS未覚醒勇者レックス


 教会で双子相手に性欲を発散しつつ――もちろん本番行為はしない――、彼女たちが生涯一人にしか使えない祝福を重ねがけして貰う。

 毎日のこの日課は絶対に行う。この祝福は重ねがけによって成長するからだ。

 と言っても祝福のランクがⅡになってからは、成長速度は捗々しくないが。

 これ以上の成長にはおそらく年単位での重ねがけか、二人の神聖魔法使いとしての成長が必要なんだろう。

 そんなことを考えながら俺が教会の外に出れば、小さな少女を連れた赤い髪の少年に教会前の広場で出会った。

「……バスタ……お前……」

 否、奴の表情を見る限り、会ったというよりは、待ち伏せをされていたと見るべきか。

 へッ、と俺は隠れることなく、逃げることもなく堂々と嗤いながら声を掛けてやる。

「おう、なんだぁ? レックスじゃねぇか」

 ちなみに俺の近くにルナとマナはいない。教会の中だ。部屋の掃除と着替えをしている。汚しち・・・まった・・・からな。

「バスタ、俺は……――」

 レックスからは少しの不安の混じった、なにかを決意した視線を向けられる。

 随分前から俺をちらちらと見てきたが、ようやく何かやってやろうと考えたのかもしれない。


 ――ルナとマナのことなら手遅れだがな。


 レックスの言葉に、俺は「バスタさん、だろ? んー?」と先手必勝とばかりにずん・・と威圧を込めて前に一歩踏み込んでやる。

「あ………ひ」

「逃げんなよ。雑魚が」

 一歩下がろうとした奴のつま先を軽く踏んで動きを制しながら――土と埃で汚れた――奴の小汚らしい頬を俺の分厚い手のひらでぱちぱち・・・・と叩いてやる。

「で、なんだよレックスてめぇ。あ? なんかようか? お?」

「や、やめ――ぐ――やめ、や、やめッ!!」

 レックスが何か言おうとするたびにビンタで封殺してやる。

 レベルは俺のほうが圧倒的に上だ

 いくらレックスが子供の中では優秀だろうが、低レベルのガキなど高レベルの暴力でどうとでもできる。

「黙ってちゃわかんねぇだろうが、レックスよぉ、はよ言えはよ言え。あ? この野郎、あぁ?」

 まるでチンピラのような口調だが、村長の息子にして孤児院の院長予定にして周辺警備の担当である俺はガキであっても村の有力者だ。

 もちろん周辺警備だのを始めた当初は肩書だけの悪ガキといった塩梅だったが、俺が雇ってる未亡人たちが村内の婦人会で良い噂をばらまいたおかげで良い評判が村に蔓延しているし、彼女たちの子供や孤児たちが子供のコミュニティで俺を称えてくれてもいる。

 俺が活躍する前にレックスが俺の役割を奪ってなにくれとそういった弱者を世話してやったならともかく、レックスは今このときまで何もしなかった。

 つまり目の前のこいつは将来有望だろうがなんだろうが現時点ではタダの農家のガキだ。

 俺の方が強くて偉い。

(偉い俺にいきなり話しかけるのはよろしくねぇよなぁ? レックスくんよぉ)

 なお偉くなる過程でもともとのバスタおれの取り巻きたちが復帰しようとしてきたが、ルナマナを騙すのに忙しいのと、雑魚すぎて巡回警備の邪魔かつ実家付きのガキに今更俺の側近面されても困るので、畑仕事してろよとお引取り願っている。

 さて、ぱちぱちとレックスの頬を叩いていると、いい加減にレックスも本気になって「くそッ、やめろよ!! やめろって!!」と暴れ始めたが、俺は更に一歩踏み込んで、がっつりと肩を組んでやって距離を取られないようにしてやる。

 いくら才能があるといっても現時点のこいつはただの剣術スキルしか持ってない村の雑魚ガキだ。

 レベルだってレックスの気性を鑑みるに5もあったら村傍の森の中でゴブリン殺しまくってレベリングするだろうが、森の中で会ったこともないしな。

 レベルはせいぜいまだ1か2か? 結構力があるから、高く見積もっても3か4か?

 なら現在レベル15にして戦闘系スキルのランクⅢを持つ俺に抗えるわけがない。ないんだよ。

「なぁ、レックスよぉ。なんのようだよ。早く言えや。暇人か? なぁおい暇人なのかてめぇはよ。ちなみに俺はクソ忙しいからな。わかってんのか? このバスタ様の時間を奪っておいててめー何もねぇってのはねぇだろう? あ?」

 バシバシと頬を軽く連打しまくってレックスがなにか言おうとしても口を開けなくする。

 なお忙しいなら早く雑魚から離れて巡回警備にでも行け、なんてツッコミが入りそうなもんだが俺にも考えがある。

 ここでレックスに敗北感を与えておけば、こいつが成長したあとにマウントを取ることができるって奴だ。

(才能がある奴が努力したパターンってのはちょい怖いからな)

 敗北者どもの魂を取り込んだ俺とて、万能で無敵の存在じゃない。格上に攻撃されれば当然に負ける。

 こんな寒村のクソガキであるレックスがこの俺様よりも格上になるとも思えないが、バカが一念発起してクソ努力する可能性がある以上、念には念を入れておきたい。

 それにバスタ少年は過去にこいつに初恋のルナマナを奪われるという敗北感を味わっているので、雑魚をいじめてバスタ少年が持つトラウマを払拭しておくのも喜ばしいことだった。

(ケケケ、こいつがションベン漏らして家に逃げ帰る展開になりゃ最高だな)

 そんな思惑を欠片も外に出さずに、俺がレックスの耳元で「ああ?」「おお?」と怒鳴りつつ、パチパチと頬を叩き続けていれば――レックスが「ああああああ! やめろやめろやめろ!! ルナとマナに関わるな!! お前!! お前ぇええええええ!!!」と冷静さを消失して怒鳴り始める。

 だが無駄だ。うるせぇ、と強く頬を叩いてやれば黙ってしまう。ついでにレックスの眦に涙が光った。

 才覚があっても、勝ち気でも、レックスはまだ子供だからな。理不尽な暴力に晒されればこんなもんだ。

 ちなみに殴ったりしないのは怪我させると悪い噂が立つし、親同士が出てきて面倒だからである。

 いやまぁ、怪我したら薬師の婆さんに作らせたポーションでも掛けてやりゃいいが、教会の前だからな。

 雑魚を本気で殺しかけたらルナマナも出てきて俺を軽蔑するだろう。

 それはレックスから突っかかってきたっていう面があったとしても、だ。

 俺のほうがレベルも地位も高いんだからレックスごとき雑魚を穏便に片付けられなかったのかなんていう、俺の器の問題って奴だ。

 それに、まだミサ直後のために遠巻きにだが、こっちを見てる村人がいる。

 俺のレベルだとレックスを殺しかねないから、こいつらも流石に殴り合いになったら止めに入ってくるだろうな。

 だから肩組んで頬を叩いてやるだけで済ませてやっている。

 これだけならガキ大将がバカガキに絡んでるだけにしか見えない。

 さて、じゃあ本命だ。俺はレックスの耳に唇を寄せて、囁いてやる。

「ククク、レックス。なんでてめぇにそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ。てめぇ別にあの二人と婚約してるわけでもねーだろ? っていうか知ってるか? 二人と婚約するのは俺なんだがな。司祭の爺様がよ、二人が成長して、下手な貴族に貰われないようにって、早めに手配してくれるってな」

 目を見開くレックス。そんなこと聞いてない、と唇が動いた。頬をパン、と音を立てて弾いてやる。レックスの頬を涙が伝う。

「ケケ、てめぇはあいつらとなんでもねぇんだから当たり前だろ。なぁ? 俺は村長の次男で、てめぇは村の農民の一人息子。俺は双子を娶って、責任ある仕事をして、村の連中に崇められる人生。あー、そうだな。うまくいきゃ、うちの村を治める子爵様との目通りも叶うだろうよ。昨今の人材不足を鑑みれば領都の騎士にもなれるかもしれねぇ。だがてめぇはなんだ? 成長したらそのへんの平凡な女と結婚して、畑貰って重税に喘いで、ガキ育てて終わりのつまんねぇ人生だろ? 自覚しろよ。てめぇはこれから先一生あの双子とは人生交わらねぇんだよ。身の丈わきまえて平々凡々にうまく生きろよ。お前のつまんねぇ人生は、栄光の人生を歩く俺様が守ってやるからよ。へへ、レックス、貧乏人が高望みすんなや」

 パン、と頬を叩いて更に意気を挫いてやってから、なぁ、と脅し気味に言ってやれば、レックスは誰かに助けを求めるかのように周囲をきょろきょろと見ながら「で、でも、お、俺は」と口籠った。

「や、やくそく、約束したんだよ。ま、マナと、ルナと。俺が、二人を守って、そ、そんで」

「ククク、残念だがよぉ。そいつは叶わねぇなぁ」

 言いながら俺は、ステータスと呟く。不可視設定を適用して、見せたい部分だけをレックスに見せてやった。


 『勇者の祝福』:

  『■■■■■』―ルナ・ルーンプレイヤー

  『祝福■』―『成長度Ⅱ』―『■■■■■■■■』

   ・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

  『■■■■■』―マナ・ルーンプレイヤー

  『祝福■』―『成長度Ⅱ』―『■■■■■■■■』

   ・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


 沈黙――だが目を見開いたレックスはぶつぶつと呟き始める。

「しゅ、祝福、え? う、うそだろ? な、なんで? ば、バスタに」

 勇者の祝福なんて、村の少年なら一度は夢見るものだ。

 何しろ女神教の女神聖魔法使いであるルナとマナの双子がこの村にはいるのだから。

 貴族や、王国に名を残すような優秀な戦士にしか与えられない勇者の祝福。

 そんな望外の幸運。それが手に入るチャンスが、この村の少年たちにはあった。

 彼女たちを口説いて、親しい仲になって、彼女たちの勇者となって、その祝福を受ける。そういう夢を見るチャンスがあったのだ。

 そして、その最有力候補がレックスという少年だった。

 あのスタンピードの直前まで彼女たちと一番親しかったのは、俺の腕によって無力にも、無様にも拘束されている、赤髪の少年レックスだったからだ。

 以前なら村の悪童であるバスタを諌め、やり込めていたレックス。

 以前のバスタに敗北感を与え続けてきた赤毛の少年レックスの身体が、俺の腕の中で絶望にガタガタと震えている。

 しかし崩れ落ちることはできない。

 彼の身体から力が抜けるも、俺はがっちりと肩を組んでやっていた。

(くくく、さぁて、ちょっとここで悪戯だぜ)

 俺はレックスの服の裾から水魔法を使って色付きの水を生成してションベン漏らしたみたいにしてやる。

(単純だな。もうちょっとアレンジしてやるか)

 風属性魔法で作成した悪臭も混ぜてやるか。これで小便に偽装でき――いや――俺の中の悪辣なるバスタ少年が、レックス少年を嘲笑う。

(土魔法でうんこ風加工の泥も混ぜてやるか)

 もりもりとレックスのズボンの尻部分が盛り上がっていき、悪臭を混ぜた風魔法で周囲にちらしてやれば、心配げに、しかし俺が怖くて、何も言えず、こちらを見ていることしかできていなかったレックスの義妹であるライナナが、ぎょっ・・・とした顔で兄を見た。

「え? に、兄さん――!?」

「おいおいおい、レックスてめぇ、衝撃的すぎて大も小も漏らしちまったか? くかかかかかか!!」

 嘲笑いながら掴んでいた肩を外し、おらよ、と突き飛ばしてやれば、地面にへたり込んだレックス少年が俺を見上げてくる。

 その瞳に宿るのは困惑と恐怖。目には流れる涙。そこに意気地は感じられない。


 ――完膚なきまでの完全勝利。


 ガタガタと震えたレックスが「お、俺、漏らしてる? え? なんで? 嘘だろ」なんて呟いていれば、やがて本当に漏らしたのか。しゃあああああ、という音と共に地面に汚水が広がっていった。

「に、兄さん!? う、嘘!? や、やだ! やめて!!」

 慌てて様子のライナナがレックスの肩を掴もうとするも、地面に流れる小便に、う、と顔をしかめて、広がる小便から距離を取った。

 そんなことをしていればざわざわとした気配が広がっていく。騒ぎに気づいた村人たちが近づいてきたのだ。

 そして俺とレックスの会話の内容が聞こえていなくとも、レックスが漏らしたことはわかってしまう。

 明日には村中で話題になるだろう。レックス、教会前で漏らす。センセーショナルな大ニュースだぜ。

(んじゃ、次だ)

 かつてのライバルをオーバーキルしてバスタ少年の自尊心を取り戻してやったなら、次にやることは俺がレックスを漏らすまでビンタした、という噂が広がらないようにすることだ。

 俺が大声で言った。

「あーあーあーあー、しゃーねーなぁ」

 俺は教会に戻って「おい! ルナ! マナ! レックスがうんこ漏らしたから着替え持ってこい!!」と叫んでやる。

「え? レックス? うんち漏らした? え? え? なんで!?」

 教会の奥からそんな声が聞こえてくる。「しらねーよ。いきなりレックスが漏らしたんだよ!! 早く来い! 哀れで見てらんねーよ!!」地面にへたり込んだままのレックスが「や、やめてくれ! やめてくれよバスタ!!」と泣きわめくも、身体に力が入らずにそのまま地面に倒れ込む。その拍子に汚水混じりの地面で服も身体も汚してしまう。ついでにもりもりしていた尻の土がぼろんと転がってぎゃあ、とレックスの義妹が悲鳴を上げた。

「馬鹿か! うんこ散らかすな! ったく、脱げ脱げ! 洗ってやるから!!」

 俺は騒ぎながらレックスの身体から服を引き剥がしていき、魔法で地面にそこそこ深い穴を掘ると、そこにうんこ風土魔法や小便風水魔法を処理していく。

 へへへ、魔法は詳しい人間が見りゃわかっちまうからな。マナやルナが来る前に素早く証拠隠滅完了。あとは俺は手からシャワーみたいに水魔法を出して、レックスの身体と奴の服を水浸しにして魔力をミックス。痕跡を完全に消滅させる。

 レックスのクソガキはまだちょろちょろ漏らしてるので、残るのは奴自身がマジで漏らしちまった小便のみだ。かんぺき~~。

 そんなことをしていれば、集まってきた村人たちも「大丈夫か?」などと心配8割興味2ぐらいで俺たちを囲むようになるし、マナやルナも慌てたように孤児院の男子の服と、乾いた清潔な布を手にやってくる。

 ルナマナの目に映るのは、悪態を吐きながらも甲斐甲斐しくレックスの世話を焼くバスタ様だ。

 双子が「バスタ、レックスの世話してくれてるの?」なんてほっとした顔をする。

「当たり前だろぉ。みんなの頼れるバスタ様だぜ?」

 その誤解にレックスはぐすぐす泣きながら「ち、違ッ――バスタが」と反論しようとするも、村人が「レックス、言い訳するな。俺ら一部始終を見てたが、バスタが漏らしたレックスを洗ってやってたぞ。魔法ってのは便利だな」なんて反論してくれる。俺自身ではなく、村人が反論してくれたことで双子はバスタは立派だ、なんて俺を褒め始める。レックスの瞳がみるみると絶望に彩られる。

「ば、バスタが! バスタがおれに!! ひどいことした!!」

「おいおい、レックス。俺は殴っても蹴ってもいねぇぞ。酷いって、ちっと話しただけじゃねぇか」

「お、俺のほっぺた叩いた!!」

「そりゃてめぇがルナとマナに近づくなとか理不尽に騒ぐからだろうがよ」

 自分たちが原因と知って、え、と言う表情の二人。

 ただしそんな二人の前にいるのは、全裸で地面に横たわって水魔法で洗浄されている情けない幼なじみ様だ。

 ちっちゃい子供ちんぽから小便垂れ流しつつのな。

 母親ママ属性でもない限りはドン引き必至の場面である。

 現に俺とレックスのやり取りを見ていた義妹ライナナでさえ、遠巻きにレックスを見ることしかできない。

 もちろんライナナにとってレックスは普段は尊敬できる義兄――のはずだ。彼に対する感謝があるなら、なんらかの擁護はできたかもしれない。

 ただそれでも、若干九歳の少女が集まってきた村人おとなたちの中で、全裸で泣きわめき、小便を流し続ける義兄のために声を上げることは難しい。

 ゆえに絶望したレックスが助けを求めて、視線を彷徨わせた先で見つけた義妹に縋るも、彼女は義兄を助けることはできないのだ。

「ら、ライナナ! なんとかいってくれ! お、おれ、おれは、バスタに!! や、やられたって!!」

「に、にいさん……わ、わた、わたし」

 レックスからの助けに、ライナナは顔を背けてしまう。「――ッ……!!」 声を出せずに、彼女は背中を向けてこの場から逃げ出した。

「ら、ライナナ……ライナナ!! ライナナ!!!!!!!」

 レックスが名を呼ぶも、ライナナは戻ってこない。だがレックスにはそれが裏切りに見えたのか。

「に、にげるな! にげるなライナナぁああああああ!! にげるな!! にげるなああああああ!!」

 うわ、とその剣幕に俺がドン引く。

 イモムシみたいに泥状の地面の上で蠢きながら腹の底からの憎悪を込めた大声を出すレックス。

 逃げた義妹に対する恨みの籠もった声に、この場にいる村人全員が「い、いや別に。うんこぐらい子供なら漏らしても変じゃないから、そこまで言わんでも」という心情だ。まぁ教会前っていうのはちょっとアレだが。

 というか村人の前には俺が洗ってやっているレックスにそう声を掛けるものもいる。

 だがレックスはそれらを無視し「おれをたすけろ!! ライナナ!! あ、あれだけ! おまえをたすけてやったのに!! ひきょうもの! ひきょうもの!! ライナナアアアアアアアア!!」とずっと叫んでいた。

 うわぁ、と俺は自分でやった結果に困惑してしまう。

 レックスお前、なんでこんなに元気なんだ? なんで妹をそこまで罵れるんだ?

 その異常性には誰もが困惑してしまう。やべー奴。こわ。みたいな空気が漂い始める。

 困惑からの沈黙。やがて教会前広場にある音は、ずっと喚くレックスと、俺が水魔法を使う音だけになっていく。


                ◇◆◇◆◇


 レックスは気づかなかった。

 心配そうにレックスを見ていた双子の視線が、レックスが義妹を罵る度に冷たくなっていくことを。

 双子の中にこびりついていた、レックスへのかすかな恋情が、レックスがイモムシのように地面を這うたびに、拭い去られていくことを。


 レックスは気づかなかったのだ。


                ◇◆◇◆◇


 ライナナ・アーガス/九歳/普人種ヒューマン

 勇者レックスの義妹。紫色の短髪、目隠れ義妹。美少女。

 隠し設定として魔法の才能に優れているとされているがその才覚が発揮されることなく飢餓で死ぬ。


 プレイヤーがレックスを主人公として選択した場合、スタンピード前のアーガス村で会うことができるだろう。

 ただし、たいていはベッドで寝ており「にいさん、おなかすいたよう」というセリフだけを返してくる。

 食料アイテムプレゼントで好感度が上昇する。ただ、村内プレイ中の食料アイテムには取得制限数が決められているためにライナナが助かることはない。

 食料アイテムのプレゼント数で死亡時のスチルが変化するのが特徴。

 またスタンピード後のライナナ死亡時に手に入るボーナスも、好感度が高い場合と低い場合で数値に変化がある。

 村内プレイで手に入る全ての食料アイテムをライナナに捧げ、好感度最大にした場合、『守護霊Ⅴ』のユニーク化スキルである『ライナナの守護』が手に入る。

 これはフィールドで受ける環境ダメージを無効化してくれる。有能。死んだ甲斐があったな(外道)。


 ルナやマナといった優れた血統を持つキャラではなく、初期村のモブキャラであり、特に血統として優れているわけでもないライナナがこういったスキルを与えてくれることにはファンの間から愛や絆、ただのガバガバ設定などの批判もあったものの、後に発売された設定資料集で、魔王討伐のためのパーティーメンバー候補は宿命に導かれて勇者に寄ってくるといった解説が為されたため、納得と理解を得た。


                ◇◆◇◆◇


 祝福と呪いは表裏一体である。

 他者を強く愛せる者とは、他者に強い憎悪を抱ける者である。

 他者を長く愛せる者とは、他者に強い執着を抱ける者である。


 ――英雄になれるものは、脳の構造が特別にできている。


 ただびとの限界を越えなければ――英雄にはなれないがゆえに。


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