004 悪童バスタ、新作装備にご満悦
さて、と俺は村長宅である自宅の庭先で振り回していた武器を収め、新品のハンカチで汗をふきふきしながら自分の姿を見下ろした。
「ふふ、やはり
俺は村の防衛戦に参加させられた――と言ったが、別に無報酬ではない。
というかそうすると、他に参加してる村人なんかが必死にならず、自身の生存に労力を全振りして、モンスターを他に押し付ける奴が出てくるので報酬は必要なのだ。
なので村の防衛に参加した人間には漏れなく倒した
もちろん村の人間はそこまで強くないので一人で大量にモンスター素材を得た人間は少ないだろうとは思うけどな。
そんな中、俺は村に押し寄せてきたモンスターの素材を村の鍛冶屋や皮革職人、雑貨屋兼織物職人などのところに持ち込んでいた。
そして魔石や素材の余りを対価に加工してもらい、装備を作ってもらったのだ。
生産が早い? この世界はスキル制だ。鎧一つとっても素材さえあればMPで手軽に作れるのである。
ちなみに村に残っている職人たちだが、彼らの息子なんかは当然ながら軍に職人として徴兵されている。
そして村に残った彼らも鎧や剣などを税として収めていたりする。金ではなく素材払いが成立するのはそのためだ。
「ふふ、ふははははははは」
そして、そんな俺がぶんぶんと振っているのは長柄の
村に押し寄せてきたオークの大腿骨と俺が森で殺したヌシである大熊の右手から取り出した爪で作られた武具である。
下手な鉄よりも鋭い大熊の爪で作られたこの鶴嘴は、切断と貫通の機能を持つ一品。
おそらくだが、この村周辺に存在する武器としては、現状の最強装備に入るだろう。
次に俺は自分が纏っている艶々とした新品の革鎧を見た。
(ふふふ、いい革鎧だ。しかも素材が素材だからな。こいつは結構、倒すのに苦労したモンスターだったんだぜ?)
村にはスタンピードによって迷宮より溢れたり、周囲の森から追い立てられて雑多なモンスターが押し寄せてきたが、俺が相手にした中でもっとも強かったのが、この鎧の素材となったオークの一隊だった。
――
ゴブリンと同じく、他種族の雌をさらい、その子宮を使って自らのクローンともいうべき個体を作り、数を増やす邪悪な亜人型モンスターの一種である。
奴らの厄介なところは、二メートルを超えるでかい図体に加え、全身を丈夫で分厚い皮に、頑丈な筋肉と脂肪の鎧で覆っていることだ。
そのため、素人が振るう鉄の剣程度ならばその皮膚で受け止め、かすり傷ぐらいしかつけることができない。
加えて奴らは下手な武器を使うと自らの膂力で破壊してしまうためか、文明を築いていない野良のオークは、素手で人間を撲殺する。
オークの膂力でも耐えられる武器を持ったエリート個体混じりの群れだったせいか、剛勇スキルがⅡでなければ俺も負けていただろうぐらいの強敵たちだった。
(村に乗り込まれていたら村人に対する虐殺が起きていただろうなぁ)
で、俺が防衛にあたっていた箇所をオークどもが突破しようとしてきたために、俺も奮戦した。もちろん完全勝利。
報酬として村長の親父からオークの素材をまるまる手に入れることができたというわけである。
そして俺はその皮を新鮮なうちに皮革職人に持ち込んだ。
持ち込んだ皮は奉仕作業で墓穴を掘っている一週間の間に加工され、新品の鎧となったわけである。
(この硬く加工された革、下手な鉄の防具より丈夫らしいからな)
革鎧を構成するオークの硬革は、処理済みのオークの革を加工用の特殊な油に漬けることで作られている。
もともとオークの皮というのは鉄の剣をも弾くぐらいに丈夫なのだが、それが特殊な油で加工されたことで更に硬度が増しているのだ。
そしてこの革鎧。何がすごいかと言うと、硬いだけでなく、弾力性や柔軟性に富んでおり、着ていても関節部分などに不快感などがないのだ。
そして、そんな硬革鎧以外にも作ってもらった装備がある。
オーク皮の帽子、グローブ。そしてオーク皮のブーツだ。
(こいつもいい装備だよなぁ)
ブーツは、オーク皮で出来たブーツだが、他にも魔物の素材が使われている逸品だ。
ソールにはスタンピードで俺が殺した巨大な馬の魔物の蹄。
それとドロップとして手に入れた熊の毛皮。こいつはフード付きのジャケットにしてもらった。
熊の頭が蛮族みたいだが、北欧神話の戦士みたいでかっこいいと俺の主人格であるバスタは大満足な品である。
他には生活の充実を行った。
スタンピードで大量に湧いた大蜘蛛から
(何しろ母親や父親にも心配かけたからな。へへ。根回しって奴だな)
そんな新品装備を全てを身につけた俺は、むっふーと楽しげに鶴嘴を振り回す。
俺の中の
もちろんこれだけの品なので加工費としてだいぶ魔石だの使わない素材だのをくれてやるハメになったが、素材はどうせこれからも溜まっていくので気にはならない。
なお生産スキルが統合されて作られている『内政Ⅱ』のスキルを俺は持っている俺だが、同じ装備を作れるかと問われれば
スキルはあるものの、道具に環境に知識と全て揃った職人に俺は勝てない。
というか、技術はあっても知識はないから、オークの硬革のような素材を俺は作ることができない。
たぶん俺がこういう服を作るなら、鞣したあとに皮の服にしただろうな。鎧の構造を知らないから。
あと道具もないからたぶん処理も甘かったはずで、下手すると湿気とかで腐ったりカビたり、虫に食われただろう。
(専門家かぁ。これ以上の素材は村の職人じゃあ無理だろうなぁ)
そんなことを考えながら俺は、革鎧の腹の部分をぽんぽんと叩きながら、今日は何をしようかとむっふーと鼻を鳴らして考えた。
奉仕期間が終わったので、今日一日俺は何をしてもいい状態なのだ。
(明日からは親父に任された仕事があるが……そうだな、まずは取り巻きでも探すか?)
バスタは村の悪童だが、それに追随するようにして調子に乗っていた子分が幾人かいた覚えがある。
彼らを呼び集めるのがいいか。野球でも仕込んで遊ぶか?
(いや、ダメか。雑用で忙しいだろうな)
流石に奴らが親から失望されるのは避けたい。誘うのはやめておくか。
以前の
あとは、そうだな。
大量に残っている魔物素材とか、魔物肉の売却先を探すのもいいか。
一応、村で燻製作りを趣味としている木こりのおっさんに加工費として肉と魔石を払ってから、塩漬け肉やソーセージ、燻製肉に加工してもらっているが、あんな量の肉、とても俺だけでは食い切れない。
村の未亡人に肉を持っていくと相手をしてくれるという話があるらしいし、
なお、未亡人の収入は針仕事や農地のほそぼそとした手入れの他にも村で娼婦のマネごとというものもある。
まぁ男が死にまくっていて、村に女が供給過多な状態なために娼婦として働ける機会はほぼないらしいが。
(独身男って、この村だと未婚の女たちに群がられてしまって消滅してるしな)
とはいえ外部から男がくれば身体を売る機会もある、らしい。
でも何の特産もない村であるためにほとんど人は来ない。
ゼロというわけではないが定期収入にはならない……娼婦なのかそれって? わからんなぁ。
(
バスタ・ビレッジは十歳の少年だが、この世界の人間は魔物の脅威に晒されているせいか、肉体の成長が早いらしく、もとの世界よりも身長などの発達が良い感じだ。
バスタ自身、160センチをもう超えているし、悪童を生業としていたせいか、ぷよぷよの肉の奥にはしっかりとした筋肉の感触もある。
また異世界の魂の欠片どもと融合した結果、バスタの
もちろんまだまだ子供な面もあるので大人になった、とは素直に言えない。
だが実戦経験を積んで、ある種の
次期村長である長男の兄貴と違って、次男のバスタに婚約者はいない。
こんな俺なら村の少女たちに群がられる……かも?
(女慣れするために童貞を処理しておくか? うーむ)
この村の大人たちの娯楽って酒とセックスか、たまにある祭りぐらいしかないんだよな。
(あー、木を削って麻雀牌かサイコロでも作るかぁ?)
ギャンブル流行らせて食料巻き上げて遊んでもいいかもしれないが、やりすぎて破産した人間が出たら嫌だしな。
そんなことを考えていれば「ねぇ」と声を掛けられた。
「あん……誰だ? って――マナとルナか」
村長宅の広い庭。それを囲む柵の外から、金と銀の髪色の双子の修道女たちが俺を見ていた。
◇◆◇◆◇
「おう、どうした?」
にっこりと野性味のある笑みを浮かべたバスタが村長宅の庭を囲む柵に体を預け、マナ・ルーンプレイヤーに顔を寄せてくる。
マナは、う、と顔が赤くなるのを感じた。
助けられた記憶がマナの心を刺激して、バスタへの好意を抱かせてしまう。
(……ち、違う違う。私はここに用事があって来た、のよ)
ここ一週間、双子はバスタに会おう会おうと思っていたが彼が奉仕期間のために遠慮していたのだ。
子供のマナにも、助けてもらってなお、更に迷惑をかけるわけにはいかないという遠慮ぐらいはあった。
そしてバスタに近寄られ、緊張で固まっているマナの隣で、ぺこりと姉のルナがバスタに向かって頭を下げた。
――ルナ・ルーンプレイヤー。マナの双子の姉だ。
美少女のマナとそっくりの、美しいがいまだ成長途中の肉体を持った少女。
マナもルナも、古くはあるが、しっかりと洗濯のされている綺麗な修道服を着ていた。
いまだ頭を下げ続けているルナの長い銀髪が重力でゆらゆらと揺れている。
そしてバスタはルナが頭を下げた理由がわからずに、困惑で目をぱちぱちとさせていた。
しばらくしてルナがゆっくりと頭を上げて、ようやく口を開く。
「バスタ。
その言葉に納得を得たのか、バスタがおう気にすんな、と歯を見せて、にっこりと笑う。
(以前見たときと違って、歯が白くて……あと、歯並びいいわね)
過去にバスタは村の悪童らしく、村一番の美少女であるマナとルナに自分の女になれと言い寄ったことがある。
そのときのバスタは、悪童らしく汚らしい砂と埃に塗れた、野蛮というよりはただただ汚い服装で、歯なんかも黄色く、食べかすがついた汚いものだった。
そんなバスタの無遠慮で無謀な要求を双子はすげなく断り――そのあとの双子とバスタは気まずい関係になっていたのだが、今のバスタはそれらに全くの無頓着に見えた。
というか、別人だ。
ワイルドさの中に清潔感のあるバスタの笑みに胸をドキドキをさせてしまうマナ。どうしたんだろう、と強く鼓動を発する心臓を胸の上から押さえながらマナはバスタをじっと見る。
――自分には、
幼なじみの赤毛の少年を思い出して、胸を強く押さえるマナ。私は彼のことが好きなはずだ。バスタではなくて。
「で、それだけか?」
バスタが言えば、頭を上げたルナがマナに言う。
「マナもお礼、言わないと」
「あ、あ、うん。あ、ありがとう、バスタ」
「ああ、気にしなくていい。大熊倒すのは結構楽しかったしな」
「その、毛皮のジャケット」
「おお、大熊の素材を加工して貰ったんだぜ。いいだろ? 村じゃこれ以上の強化加工とかはできねぇけど、鉄の剣ぐらいなら普通に防いでくれるし。オーク革の鎧も下に着込んでるからめっちゃ硬いぜ俺」
ひひ、と笑ってバスタはいいだろう、と装備を自慢してくる。
マナとルナの修道服も――弱い魔物退治に使える程度には――防御効果のある、祝福のかかった教会製の祝福服だ。
だが、装備としての品質は今のバスタの装備の足元にも及べない貧弱なものだ。
(どんだけ加工費払ったんだろう)
金持ちというより物持ちだろうか。今のバスタは裕福で、余裕がある。村長から報酬をたんまり貰ったという噂も聞いた。
バスタに頼るしかないんだろうな、とマナはぐっと唇を噛んで、絞りだすようにしてその言葉を吐き出した。
「ねぇ、バスタ。あの、お願いがあるんだけど……」
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