第9話

「はは、授業始まってるよお」

「本当だな」


 もうどうでもいい。

 彩花とヤれたんだ。

 彩花も麗奈も俺のものなんだ。


「六限から私は行こっと。シンタローは?」

「寝るとするよ」


 彩花とは好きな時に好きなだけヤれるんだ。

 麗奈だってそれは言える。

 彩花が何をしようがヤれるんだからどうでもいいじゃないか。


 ──よくない。


「な、なあ彩花?」


 よくなんかないじゃないか、これで彩花が先輩と妊娠なんてしてみろ。

 ダメだ、それだけは避けなければならないんだ。


「どうしたの、シンタロー?」


 でも、俺には彩花に「お前先輩とヤってるだろ?」なんて言えるほどの度胸はない。

 情けない、本当に情けないのはわかっている。


「いや、なんでもない……もう少しで授業終わるぞ」

「ほんとだ、制汗剤ロッカーだしもう行くね!」

「ああ、じゃあな」

「うん!」


 言えなかった、こんな俺に彩花を攻める権利はあるのだろうか。


 まあいっか、今は賢者モードだし難しいことは考えるのはよそう!


 ──目が覚めると先輩の物と思われるゴムは消えていた。



「よお、どうしたよ? いきなり呼び出してよお?」


 放課後、昼休みは人気だが現在は人気のない屋上にて──。


「先輩、ひとつお願いがあるんです」

「おいおいいつもみてえにタメ口でいいのによお。んでなんだ? あ、もしかして今日シてえのか? ククク。お前、性欲のお化けだな!」


 違う、言うんだ。


「……違うんです」

「んじゃあ、なんだよ」


 シンタローとヤったって。

 だからもう先輩との関係は大丈夫ですって。


 わたしはグッと拳を作り勇気を振り絞って。


「実は──」


 シンタローとヤったことをざっと先輩に報告した。


「おおそれはよかったな! 俺、嬉しいぜ!」と自分の外のように喜んでくれる先輩。


 やはり先輩は優しい人だ。

 ただ少し性欲が他の人より強いだけだ。


「なので、肉体関係はもう……やめる形でいいですか?」


 決めたんだ、わたしはもうシンタローとしかシないって。

 シンタローとするのは気持ちいいとかそういうレベルではなかった。

 ただただ幸せだった。


 けれど先輩は先ほどまでの優しい笑顔が消えた。


「は? おいおい冗談きついぜえ。お前のケツみてえによおきついぜえ」


 そううまくいくものではないのだ。

 知っていた、だって先輩は先輩なのだから。


「……」

「好きな人としかセックスできるようになったから俺を捨てる? 馬鹿言うんじゃねえぜ」

「え……」

「こっちはお前のアへ顔を持ってる。いざとなったらまずは三年に広めてやんよ」


 え、何言ってるのこの人。


「いいか? お前が俺とシなくなったら俺は飢えるんだよ」

「先輩には彼女が」

「あいつ以外ともヤりてえの。わかれそのくれえよ……いや」


 わたしの胸を見ながらニヤける先輩。

 

 あれ、先輩ってこんなに気持ち悪い人だったっけ?


「いいこと思いついたわ、お前の同級生の黒瀬麗奈と友達になれ! そしたらいいだろう」


 そう言うと先輩はわたしに近づいてきてわたしの両手首を右手で強く握り、もう片方の手で私の顎を上げて固定してそのまま口の中に舌を入れてきた。

  

 先輩のキスはシンタローと比べものにならないほどのエッチで気持ちよかった。

 無意識のうちに自分の舌も動き出すほどに気持ちよかった。

 とにかく身体だけは完全に先輩に恋をしているのだと。

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