第4話 

 土曜日──。


「ねえ、デートしよ♡」


 黒瀬さんは笑顔でそう言った。

 



 別に学校があるわけでもないのに俺と黒瀬さんは制服姿で電車に揺られて隣街にあるショッピングモールへとやってきた。

 別に近くにもあるわけだが、俺と黒瀬さんの関係をバレないようにするためだ。


「……まだ痛い」


 歩きながらそう言う黒瀬さん。


「ごめん」

「だから、私が悪いからね。てか、口に出しちゃってごめんね!」


 なぜか黒瀬さんといると気分が落ち着く。

 顔も性格もよく話しやすいからだろうか。

 きっとそうだ。


「それでなんでショッピングモールをチョイスしたんですか?」

「ん〜私の服を選んで欲しいからかな。あとは、その君のメガネを替えるため!」

「え?」


 俺のメガネを替えるため、ああそういうことか。


「ダサい」

 

 ボソリとそう呟くと、黒瀬さんはこちらを振り向き指をさす。


「そう! もっとオシャレなのにしよ」


 とはいったもののこのメガネは彩花から中学一年生の頃の誕生日にもらったものだ。

 ……いや、まあいっか。


「コンタクトにしようかな」

「ん〜そっちの方がいいのかもしれないけどさ、選んであげたいじゃん?」


 黒瀬さんに選んでもらえる、そう思うと彩花からのだからという思いは消えていった。

 むしろ嬉しいまでもある。


「その代わりに私に似合う服選んでみてよ!」


 困った、俺はオシャレのセンスがあるわけでもない。

 普段も服を買うときはマネキンに着せてあるものを買うのだ。


「……は、はあ」


 だが黒瀬さんに選んでもらえるのだ、それに黒瀬さんが俺の選んだ服を着てくれるのだ。

 なんならメイド服を買おうか。

 そんなことまで少しだけ考えてしまった。




 フードコートで俺はチョコバナナ、黒瀬さんはチョコいちごのクレープを頼み向かい合わせに空いていた席に着く。


「うん、やっぱり似合ってるね」と俺をじっと見て言う黒瀬さん。


 黒瀬さんに選んでもらったのは卯の花色の金属フレームのメガネだった。

 たしかにオシャレだが。


「これは学校では着けるのはなさそうですね」

「え〜なんで!」

「オシャレすぎますもん」

「でも、そっちの方が慎太郎くんかっこいいからさ!」


 前までは黒色のプラスチックフレームのメガネを着けていたが、圧倒的にこっちの方がオシャレだ。


「ま、まあそこまで言うなら着けますよ」

「うん、よろしい! それにしても慎太郎くんこういう服が好みなんだね」


 俺が黒瀬さんに選んだ服は結局、恥ずかしいことにメイド服になってしまった。

 理由は服を選んでいたわけだがオシャレのセンスが皆無だと気づき、ボケに走ったのだ。

 本当は、やっぱり自分で選ぶ、という言葉を待っていたのだがあろうことか。


「いや、好みというかボケですって」

「はいはい、今度はこのメイド服でエッチしたいんでしょ?」


 誤解されてこうなってしまったわけだ。

 だがしかし、メイド服でヤれるなんてこの上ないほどの幸せだ。


 ふと、メイド服を身につけた彩花が頭の中に駆け巡った。


 ……かわいい。


「でもごめんね、しばらくは無理だよ」

「は、はい」


 まあメイド服を選んだことは結果オーライということにしておこう。

 メイド服の黒瀬さんとヤれるなんて楽しみだ。


 ああ、変なことを考えるな。

 これじゃあ、彩花と同じじゃないか。


「さてさて、クレープ食べよっ」

「そうですね」  


 黒瀬さんを通して俺は本当に立ち直れた気がする。

 もしあのとき、黒瀬さんと会っていなかったら今頃俺はどうなっていたんだろうか。

 そのくらい深い傷をここ一日で黒瀬さんの力でだいぶ治ってしまった。

 いや、空いた穴に黒瀬さんが入ってくれたのだ。

 昨日、黒瀬さんの穴に挿れたように。


「うん、おいしいっ。慎太郎くんのやつもちょ〜だい」

「黒瀬さんのも」


 彩花も先輩と好き勝手やってるのだ、俺も好き勝手やっても悪いことはない。

 そうだ、もう彩花を気にすることはやめよう。


「……黒瀬さん、あ〜ん、してください」

「いいね、じゃあ私にもね?」


 黒瀬さんの時は黒瀬さんを彼女と見て何が悪いんだ。


 今思うとひとつだけ失敗したなと思うことがある、それはあの時の彩花と先輩のセックスを証拠として動画を撮っておくことだった。

 そうすればどうどうと彩花と付き合いながら浮気ができたのだ。

 脅して使えばさらに、彩花ともヤれるし黒瀬さんともヤれる天国を味わえたのだ。

 なんなら同時にメイド服で。


 そうか、彩花と先輩のセックスを撮ればいいんだ。

 

「あの、黒瀬さん?」


 美少女二人と同時にセックス、それはどんなに気持ちがいいことなのか。


「ん〜?」

「麗奈って呼んでいい?」

「ダメ」

「えっ」

「れいちゃんって呼んでよ? 私もしんくんって呼ぶからさ」


 彩花に麗奈、どっちも欲しい。

 そんな欲求が出てしまった以上、それに従うだけだ。

 ダメだとわかっている、けれどとっくに俺のネジは飛んでしまったのだ。


「うん、れいちゃん」

「な〜に、しんくん?」


 俺は麗奈のクレープにかぶりつき飲み込んだ後に。


「好きだよ」


 全てが欲しくなってしまったのだ。

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