第2話 私と浮気しない?
ふらふらする、視界がぼやける。
外はザァーっと強く雨が降っている。
たしか今日は午後からひどく雨が降ると朝天気予報で言っていた気がする。
そんな中、俺は傘をささずにふらふらと歩く。
なんでだよ。
「なんで……」と呟く。
なんで俺じゃないんだよ。
普通好きな人とヤるもんじゃないのかよ。
俺は足を止め、両膝を地面につけて空を見上げた。
涙が雨と混ざり口に入ってくる。
少ししょっぱさを感じる。
「おかしいだろ、彩花……」
と、その時だった──。
「え、慎太郎くん!?」と頭上に青と白の水玉傘が現れた。
「……?」と視線をその傘の持つ手にやる。
「もう、びっくりしちゃったよ」
目を大きく開ける。
ああ、最悪だ。
こんなみっともない姿を人に、それも学年一の美少女で有名な彼女──黒瀬麗奈に見られてしまった。
「あ〜なんかあったやつだね」
彼女は何故自分が雨に濡れてまでも俺に傘を向けるのか。
俺なんて見てみぬふりをしてさっさと通りすがればよかったのに、何故俺に庇うのか。
わからない、彼女の考えていることが理解できない。
俺はおかしいのか?
「私の家、近いしさ。そこで話そ。ほら、辛い時は誰かに話して理解してもらうことが一番の薬だからさ」
……ああ、本当に黒瀬さんは学年一の美少女なんだ。
顔だけじゃなくて性格もそうなんだ。
コクリと黒瀬さんの目を見て頷いた。
黒瀬さんはアパートの一室で暮らしていた。
どうやら高校に上がるタイミングで一人暮らしを始めているらしい。
実際、俺も両親が高校に上がるタイミングで海外へと転勤してしまっているため一人暮らしの大変さはよく知っている。
「……ごめんねっ、ジャージしか貸せそうなのないの」
彼女は俺に高校のジャージを貸してくれた。
あとはお風呂だ。
なんて優しい人なのだろうか。
「あっ、次は私〜。テーブルにホットミルク作っておいたから飲んで飲んで〜」とお風呂場へと向かっていく黒瀬さん。
くそ、優しすぎるだろ。
ダイニングテーブルにつき、置かれていたホットミルクを飲み、何も考えないでぼーっとしていると黒瀬さんがお風呂場から戻ってきた。
「さてさて、お話を聞くとしましょうか」と首にかけていたタオルで髪を拭きながらダイニングテーブルに着く。
そこから俺は彩花という恋人について今日の出来事を全て話した。
正直、学年一の美少女にこういう話をするのは少し戸惑いがあった。
けれど、黒瀬さんはニコリと、そういうの大丈夫だよ、と言ってくれた。
きっと無理をしていたと俺は思う。
話せば話すほど目からは涙が流れ出した。
それでも俺は頑張って話した。
きっと黒瀬さんに心を開いてしまってきていたのだと思う。
「──最低だね」
今は一体どんなみっともない顔をしているのだろうか。
涙と鼻水できっと顔がぐちゃぐちゃになっているはずだ。
「そういうの寝取られってやつだよね」
そういう言葉を言う黒瀬さんは見た目と性格とのギャップを感じた。
「ほら、泣かない」
「すみません……」
本当に俺は情けない。
「何誤ってるの、辛いよね。他人事にしかならなくてごめんね」
「ううん、大丈夫です……」と溢れてくる涙、鼻水を両手の甲で拭く。
拭いても拭いても溢れてくる。
「ああ〜彩花って人に腹が立ってきたぁ〜!」
全くだ。
「ねえ、慎太郎くん?」
顔を上げて黒瀬さんを見る。
少しだけ口角が上がっている気がする。
そして、俺は彼女の言った一言に口を開けて驚いた。
「私、慎太郎くんのことが好きだったんだよね。どうかな慎太郎くん。私と浮気しない? 胸とお尻に自信あるよ。ほら、シよ?」
黒瀬さんは俺の鼻水を人差し指で掬い、舐めた。
「……しょっぱ」
しばらく思考が停止した。
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