第26話 皿の在処
松の木の下で人影が根元を探っている。
松の周辺。それより離れた場所もよく見て回る。
欠片は見当たらない。
松の下に座り込む。根元を掘り返した。
割れた皿の欠片は全て埋まっているようだ。
来客の少女が云った。
(何かの破片を踏んでしまった気がするんです。お皿みたいな陶器の欠片だと思います。でも…どこで踏んだかを覚えていないです。)
その台詞に顔がこわばった。
他の女中は「何の破片?」「どこに落ちていた?」と首を傾げていた。
しかし、人影自身には心当たりがあったのだ。
全て隠したはずだと思っていた…。
人影は慌てて隠し場所の周辺を探した。
どこかに破片の一部を落としてしまっていないか。それとも破片は全て土の中に隠すことが出来たのか。それを確かめたかったのだ。
土の下から出てきた皿であった物…。
欠片が全て集めてあるとどう確かめたらいいのだろうか。一つずつつなぎ合わせて確かめるのは途方もない。
人影が悩んでいると後ろから声がした。
「そこに隠していたの…。」
少女の冷たい声がする。
人影は心臓が大きく揺れるような心地がした。人影がゆっくりと後ろを振り返る。
「ねえ、サトちゃん…。お皿割っちゃったんだね…。それで土に隠して誤魔化したんだ。盗まれたと嘘をついてまで…。」
藤世は無表情に見下ろす。
それは人影…サトを威圧するのに十分だった。
「どういうことなの…。これは。」
サトが仕える女主人の声が聞こえる。
藤世の後ろから女主人が駆け寄ってくるのが確認できた。さらに、その後ろからは藤世と共にいた三人の来客の男たちが現れる。
三人組の中で一番若い男が話し始める。
「盗まれた皿が入っていた箱というのは他の箱と比べて綺麗で新しいようでした。ですよね質屋さん。」
今度は高齢の質屋が答える。
「私は例の皿を新しい箱に入れて、このお宅に届けました。新しい箱だというのに側面にもう欠けている部分があるんですよね。」
「そう…蔵にはこの欠片が落ちていた。」
藤世がスッと板の欠片らしい物を掴み、サトに見せてきた。
「破片って…。」
「箱の破片の事だけど、何の破片だと思ったの?」
藤世がサトの顔を覗き込んでくる。サトの顔に冷や汗が浮かぶ。
「あの…詳しい話を説明してもらえますか。」
話の見えない夫人は一同に説明を求める。夫人への説明を最初にしたのが木村だった。
「箱が欠けるような事。それはどのような場合かを考えました。箱が強くぶつけられる、箱が落とされる。」
木村は落とされるの辺りで区切る。
「箱が落ちれば、中にある骨董は当然無事では済まされません。割れてしまうでしょう。」
「割れる…。」
夫人はハッとしてサトが掘り返した場所へと近づいて行く。サトは今更隠すことは出来ずビクビクとうつむくことしか出来なかった。
土の中に隠した割れた皿が夫人の目に晒される。
「サト…。」
夫人は冷たい目でサトを睨む。
「箱の中で割れた皿を片付ける事が出来るのはその時に蔵を掃除していたサトさんだけです。」
木村が告げると次は質屋が喋り出す。
「割ってしまったのを盗まれたと言い訳して誤魔化そうとしたのでしょうね。しかし、箱の蓋を閉めてしまったので。奥様が怪しいと思われた。蓋を開けずに中身が消えたと気づいたと不審に思われてしまいました。」
質屋の話に藤世が付け足しをする。
「それと質屋さんは箱ごと盗まずに中身だけ持ち出すのはおかしいとも思っていたよ。」
藤世の言葉にサトは唇を噛みしめた。
「まあ、何もなかったふりしてやり過ごすという方法もあったでしょうけどね。」
建介が口を開く
「数日たった頃に皿を確かめに来た主人が皿が無いと気づく。その頃にはいつ無くなったが分からなくなる。しかし、明日は主人が、その皿を客たちに見せると聞いて焦ったでしょうね。後日皿の紛失が分かれば前日に蔵の掃除をした自身が疑われる。」
サトは黙り込んだ。
藤世は容赦なく呆れた声でサトに囁いた。
「そんな事をしたばかりの時に本物の泥棒がやって来てしまった。それで余計疑われちゃったんだね。」
「うるさい。」
サトが金切り声を上げた。そして藤世を指差した。
「あんたなんて親を殺した癖に。」
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