第7話

お願いの話は街に入ってからだという事で列に並びます。並んでいる人達を見ると武器や防具には金属が使われていますが。他の部分に金属はあまり見られません。


商人だと思われる人が使っている荷車にも金属は使われておらず、乗っている荷物を収める箱についても金属で出来た蝶番や鍵などが見えず全て木で出来ていました。全身金属鎧の人もおらず、ズボンのベルトやボタンも全て木や何かの骨で出来ている様です。キョロキョロと周りを見回していた私の脇腹にベルジュさんの肘がめり込みます。


「うっ。」

「あまりジロジロと周りを見るな。目を付けられるぞ。」

「すみません、珍しかった物で・・・。」

「まぁ辺境で一番発展している街だからな。気持ちは分かる。」


いえいえ、逆の意味で見ていたのですよ。まぁ言うわけには行きませんが。少し待っていると自分達の順番が回って来ました。


「私は冒険者のベルジュだ。こっちは憑き物落ちの、あー名前なんだっけ?」

「進です。京藤進。」

「キョウドウススムだ。彼の身元は私が保証する。これが冒険者証だ。」

「拝見します・・・。確認出来ました。お連れ様の入場料は100セイトになります。身分証明証を早めにお作りになり、こちらにお持ちくだされば返金されます。」

「ここは私が立て替えよう。」

「いえ、少しならお金を持っていますから。」


自分はお金を払おうとするベルジュさんを止めて、女神様から預かった貨幣から100セイトを支払いました。お金を持っている事に驚いていたベルジュさんですが、次の瞬間には何やら周りを警戒し始めました。


「確かに預かりました。ではこちらをお持ちください。仮の身分証になります。もしどこかで正規の身分証をお作りになられたら、詰所までお願いします。」

「ご丁寧にありがとうございます。身分証が出来たら持って来させて頂きます。」

「ススム、ちょっと来い。」


仮の身分証を受け取ったとたんにベルジュさんに腕を引かれて強制的に歩かされました。移動しながら回りを確認していますが、建物は藁で出来ている・・・という事は無く木造の物ですね。屋根も木の板を打ち付けただけなのが気になりますが。あれでは雨漏りがひどい事でしょう。


「こっちだ。」

「歩くのが速いですよ。どこに向かっているんですか?」

「私の家だ、良いから早く来い。」


その後は無言のまま、ベルジュさんについて歩き、街の外れに在る家に到着しました。


「早く入れ。」

「えっと理由をお聞きしても?」

「いいから早く!!」


せかされて渋々家に入りました。すると少し玄関の外を見回していたベルジュさんが扉を閉めて鍵まで掛けてしまいました。


「えっとどうされたんですか?」

「どうしたもこうしたもあるか!!人に見える様に金を取り出すとはどういう神経をしている!!」


何故怒られたのかを聞いた所、どうやらお金を支払う場合は服の中に隠している財布からお金を取り出し、どこに財布があるのか、いくら入っているのか一目で分からない様にするのが普通なのだそうです。


自分の様に腰にぶら下げた袋からおもむろに取り出すのはスリや物取りの格好の餌食になるとか、しかも人の目の多い出入り口で行ったものですから、街の薄暗い連中に知られたかもしれないそうなのですよね。


治安の少しでも悪い所ではそうやって自衛するそうなのですが、女神様から教えて貰った知識の中にその情報はありませんでした。まだまだ日本に居た時の感覚が抜けていませんね。うっかりしていました。


「すみません、知らなかったもので。」

「はぁ、憑き物落ちだったな。すまない、事前に注意しておくべきだった。」


お互い頭を下げ合った所で今後の話になりました。そこでベルジュさんからのお願いを聞く事になります。


「自分に剣の修行を付けてほしいと?」

「あぁ、あのような動きは今まで見たことは無かった。だが聞いたことはあったんだ。」

「聞いたことはある?それは何処で?」

「スキルだ。スキルが動きを教えている時に足と手を同時出せ等と言っていた。何の事か分からず放置していたんだが、今日のススムの動きを見てピンと来たんだ。この事を言っていたのかと。」


なるほど、補助機能としてのスキルはもともと音声ガイドの様な物と女神様は言っていました。体の動きを補助する事もありますが、スキルレベルが低いと体の動きを少しだけ誘導する形になるとか。高レベルになれば誘導の補正が高くなり、動きがかなり変になるという話でしたか。


では動きを聞いいただけでその動きが出来るのかと言えば出来ませんね。見本を見せないと理解できない事も多々あるでしょうし、すべての動きを逐一指導しなければ正確に動く事は難しいです。


技術の衰退の原因の1つはまさにこれなのですね。ちゃんとした師匠が居て、なぜその動きが必要なのかという理屈を知らなければスキルの助言も全く意味を成さないという失敗例です。スキルレベルの高い人の動きを見ても勉強にはならない事も容易に想像できます。スキルレベルが高いという事は才能があっても基礎が疎かになっている可能性が高いからですね。


誘導補正も強く出ますからどんな姿勢でも攻撃できてしまう。極端に言えば片足立ちで頭を手で掻きながら片手で剣を振っても切れてしまうのでしょう。そんな動き全く参考になりません。


「お教えするのは構いませんよ。その前に身分証明証作りと活動拠点の確保が先ですが。」

「そうか!!ならば狭いが家に住むと良い。それと身分証明書をすぐに発行してくれるのは冒険者ギルドしかこの街にはない。ススムの実力なら大丈夫だろうが、どうする?」

「商業ギルドとかでは駄目なのですか?」

「あそこは審査に時間も掛かるし、一定の売り上げが出せると証明しなければいけない。とてもじゃないが時間が掛かり過ぎる。住民証明書も家が無いから取得は出来ないだろうからな。手っ取り早いのはやはり冒険者ギルドだ。」


実質的に手段は1つだけですか。まぁ冒険者証を先に取って置いて後で別の物と交換するのもありだそうなので、まずは冒険者証で大丈夫でしょう。


「解りました。まずは冒険者証を取得したいと思います。ですが住む場所の件は冒険者証を取得した後に考えます。」

「解った。ならすぐに行こう。案内する。」


女性の家に男である私が住むというのは外聞が悪いですからね。証明書を取り金銭を稼ぐ手段があれば宿にでも泊ればいいのです。まぁ孫と同じような歳の彼女にそのような思いを抱く事は無いでしょうが。


ベルジュさんの案内で街の中を移動します。先ほども観察していましたが、今度はゆっくりと建物を見る事が出来ますね。よく見るとどの建物も同じ作りで、看板か何かで個性を出している感じです。民家もお店も同じ形なので慣れないうちは間違って民家に入ってしまいそうです。


「ススムは文字が読めるか?」

「えぇ読めますよ。書く事も出来ます。」

「その記憶は残っているんだな。だったら登録はすぐ終わるだろう。もし時間が在ったら剣術と一緒に教えて貰えないだろうか?」

「それぐらいでしたら。」

「助かる。」


私が建物の看板を見ていたことに気が付いたベルジュさんが文字について尋ねて来ました。女神様の所で勉強したので問題無く文字の読み書きは出来ます。ベルジュさんが文字の読み書きが出来ない事に驚いたくらいです。あの戦い方はどこかの良家で教わったのかと思っていましたから。


普段は看板の絵を見て判断しているとか。詳しく聞くとこの街の識字率はかなり低いようで、ほとんどの人は看板の形で判断しているそうです。教え甲斐がありそうで何よりですね。


「ここだ、ここが冒険者ギルドになる。」


ベルジュさんが指さした先に、形は一緒ですが2つの建物が繋がったような作りの冒険者ギルドが建っていました。建物を無理やりつなげたような形なので、壁と壁の間に板が歪に打ち付けられています。


建物の軒先には杖と剣が盾の前で交差している看板がぶら下がっていました。弓は無いのですね。


「弓は狩人ギルドのシンボルだからな。冒険者ギルドは全部盾と剣と杖のシンボルだ。さぁ中に入るぞ。」


おっと口に出していましたか。思わぬところで変な事を口走らない様に気を付けなければ。先に入って行ってしまったベルジュさんを追いかけて、建物の扉を潜って自分も中に入ります。


中に入ってざっと見回してみると。潜った扉の建物は奥にカウンターがありその中で職員だと思われる人達が忙しく動き回っています。


繋がっている方を見ると、そちらは食堂の様で武器や防具を身に付けた人達が騒ぎながら食事とお酒を楽しんでいました。あぁ建物を繋いでいる板は依頼を張り出す場所にもなっているのですね。今も冒険者の方がそこから木の板を剥がして受付に持って行っています。


「こちらだススム。」

「解りました。」


先に入っていたベルジュさんが受付の前で読んでくださったので其方に向かいます。観察するような視線がそこかしこから飛んできますね。確かこんな状況はテンプレと言うのでしたっけ?小説家を目指した教え子が熱心に教えてくれましたっけ。あまりに熱心に語ってくれていましたが、私は半分も理解出来なかったんですよね。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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