第8話
「冒険者のベルジュだ。ホーンウルフ素材の換金と、こいつの冒険者登録をお願いしたい。」
「はい換金と冒険者登録ですね。素材はこのまま一度お預かりしておきます。登録される方のお名前をお聞きしても?」
「京藤進です。よろしくお願いします。」
「キョウドウ様ですね。文字は書けますか?」
「問題ありません。」
「珍しい方ですね。ではこちらに記入をお願いします。」
受付の人は女性の方でした。緑色の髪をした青い瞳の女性で、少し耳が尖っているでしょうか?樹人種と人の混血ですかね?受け答えも丁寧でとても印象は良いですね。
彼女から渡されたのは先ほど依頼を書いていたのと同じ木の板でした。製紙技術も失ってしまったのでしょうね・・・・。紙は存在していると女神様から聞いていましたが、おそらく高級品の類になっているか、上流階級の人でないと使えないものとなっているのでしょう。
「なぁ、ススム。それともキョウドウと呼んだ方がいいのか?何も考えずにススムと呼んでいたんだが・・・。」
「進が名前になります。呼び方は呼びやすい方で良いですよ?親しい人は進と呼んでくださいますが。」
「だったらススムのままでいいか。こっちの方が呼びやすい。」
「受付の方も呼びやすい方で読んでくだされば良いですから。はい、書けました。」
「ではススム様と呼ばせて頂きますね。私はミリアと申します。では記入事項を確認します・・・。はい大丈夫ですね。では次にスキルの鑑定を行います。こちらの水晶に手を当てて貰えますか?」
「はい。」
この世界にステータス画面というものはありません。スキルを調べるにはギルドや教会でこのスキルオーブに触れて自分のスキルを確認する必要があります。オーブに触れると自分のスキルが形と個数として水晶の中に浮かび上がります。剣術スキルであれば剣の模様がスキルレベルの数だけ浮かび上がる感じですね。まぁ私には関係ありませんが。
水晶に手を当てると触っている所が光り、水晶が輝き始めます。本来であればこの輝きが収まるとスキルが表示されますが・・・。私の場合はスキルを持っていないので何も表示されません。これは予定通りですね。
「スキルが・・・ない?」
受付嬢であるミリアさんの驚いた表情が目の前にありますね。横に立っていたベルジュさんもまさか私が本当にスキルを持っていない何て思ってもいなかったのでしょう。同じように驚いて固まっています。
そしてさっきからこちらを伺っていた視線が、観察する物から私を侮蔑する物に変わったのを感じました。
「おいおいおい!!スキルなしが冒険者に登録しようなんてどういう事だ!!」
「ちょっとマカセさん止めて下さい!!」
いつの間にか自分達の後ろに立っていた男が水晶の中を見て、ニヤニヤしながら大声で鑑定結果を話してしまいます。ミリアの人がその行動を諫めますがすでに遅いですね。その声は隣の食堂で飲んでいた人達にも届いた様で、視線を集める事になってしまいました。
視線を向けてくる人達の中には、街道でベルジュさんをクビにしたパーティーの人達も居ました。
「おいおいおい、ベルジュの奴自分のスキルレベルが低いからってスキルなしを連れて来てマウント取ろうとしてやがるぞ!!」
「活躍できないのを人の所為にした上に、自分より弱い者を仲間に入れて優越感に浸ろうってのか?なんとまぁ考えの浅い。」
「卑劣ですね。パーティーを追い出して正解でした。」
「私はそんな事はしない!!ススムは強いんだぞ!憶測で勝手な事を言うな!!」
「おうおう低レベルは良く吠えるねぇ!」
「スキルなしが強いわけ無いじゃないの。」
「これだから低レベルは。早くそのスキルなしを連れて帰れ!」
好き勝手に言い始めるベルジュさんの元パーティーの人達。ベルジュさんも言い返しますが火に油を注ぐようなものですね。それにどうやらベルジュさんの言葉よりも、スキルレベルの高いあの男の言葉の方を信じる人の方が多いようです。食堂に居た他の人達からも帰れコールが響いてきます。
「スキルなし何てもちろん落とすよなぁ?」
「いえ、スキルが無いという理由だけで落とす事は・・・。」
「スキルなしが冒険者を名乗れば俺達が舐められちまう。俺はそう思うだが?ここに居る連中も俺と同じ考えだと思うぞ?そうだろ皆!!」
そうだそうだと全員が盛り上がっていますね。中にはこちらに向かって物を投げる人もいます。酔っぱらっているからか全く届いていませんが、行儀が悪いですねぇ。
「ほら、皆同意見だ。だから黙って落とせばいいんだよ。お前も痛い目見たくなかったらさっさと辞退しろよこの能無し野郎。」
後ろに立っていた男が私の頭を叩こうと手を出してきました。別に叩かれても問題は無いのですが、このままではベルジュさんが爆発してしまいそうですし、食堂に居る人達もこちらに来そうな雰囲気ですね。
それにここで引き下がるとスキルが無いと言うだけで差別をするこの人達の意見を認めてしまう事になります。それは困りますね、えぇ大変困ります。女神様との約束を守れなくなってしまいます。ですがどう対処しましょうか?
確か教え子から聞いたのは・・・・。あっ思い出しました!!確か力を示せばいいのです。相手を完膚なきまでに叩き潰して自分の強さをアピールする・・・はず?
私は自分の行動指針を決めると、頭に迫る手を左手でつかみ取り体を左に回しながら相手の後ろに移動します。自分の動きにつられるように動いた腕を引っ張り、肘関節を曲げて背中に付ける様に動かし、相手の足に自分の足を引っかけ、背中を軽く押します。すると突然の動きについて来られなかった男は肩関節を決められながらも簡単に地面に倒れ込みました。最後に背中に着けていた腕の肘関節を伸ばして、体で抱えるようにしながら自身の膝と体重を使って肩より上に引っ張り上げると?
「いだだだだだだだっ!!」
無理矢理関節を曲がらない方向に向かって曲げられる事になり、かなり痛いんですよねぇ。
「すみません、自分にはどうしても冒険者証が必要な物でして。邪魔をしないで頂けますか?」
「あだだだだだだ!!何しやがるてめぇ!!」
動けない状態になっても悪態をつけるのはさすが冒険者と言えるのでしょうか?さて確か教え子が言うには絡んで来た人を打ち倒す事でギルドの責任者が出て来て場を収めてくれるはずです。早く出てきて欲しいものですね。
「いだだだだだだ!!離せ!!離しやがれ!!」
「うーん?出て来ませんねぇ?どうしましょうか?」
周りの様子を見ていましたが、責任者の姿は何処にも見当たりません。それ所か、ミリアさんとベルジュさんは私の動きに驚いたまま固まり、いつまでも男を組み伏せている私に対して食堂の方から殺気まで飛んで来ています。これは失敗しましたかね?現実と空想ではやはり違いますか。
「ミリアさん。この場合自分はどうしたら良いのでしょう?処罰等あるのでしょうか?」
「えっ?あっ!そうですね。ススム様はまだ冒険者登録を完了していません。本来でしたら一般人に手を出したとしてギルド長が問題を起こした冒険者の方を処罰されるのですが・・・。」
「そのギルド長の姿が見えないのだが?」
「はい。現在ギルド長は所用で外に出ていまして。私もどうしたらいいか・・・。スキルが無い方が冒険者になりますと高い確率で亡くなられてしまうのは事実なんです。ですからススム様も辞退するという事を考えた方が「辞退するつもりはありませんね。」そうですよねぇ。」
「あだだだだだ!折れる!!折れちまう!!誰か助けてくれ!!」
ふーむ?どうしますかねぇ。確かこういう展開も教え子から教えて貰っていたような・・・・。何せ昔の事ですからなかなか思い出せませんねぇ・・・・あぁ思い出しました!!ついでにスキルレベルが高い人の戦い方も見れますし、この方法で行きましょうか。
「ベルジュさん、確か冒険者登録では試験官と模擬戦をするのでしたよね?」
「あぁ、実力を確かめる為に模擬戦をすることになっている。」
ベルジュさんが受付の方に視線を向けると、ミリアさんも頷いて肯定して下さいました。
「でしたらこうしませんか?自分が本当に冒険者としてやっていけるかどうかここに居る人達に確かめて頂きましょう。あっもちろん死亡するような攻撃は禁止で、冒険者ギルドなのですから腕試し用の武器なんかは置いてあったりしませんか?」
「はい、いくつか刃を潰した武器を置いてあります。」
「ではそれを使った代表者による模擬戦をやりましょう。それを試験の代わりにするという事でどうです?」
「それは皆様が納得して下さるのなら・・・。」
「良いぞ!!スキルなしに舐められたまま冒険者何て出来るか!!」
「俺もその力試しに参加してやる。怪我しても文句言うなよ!」
「腕の1本や2本や3本は覚悟しとけよ。」
「馬鹿だな、腕は2本しかねぇよ。俺は両足折って2度と歩けないようにしてやる。」
食堂の方からまぁ好き勝手な言葉が飛んできます。いやいやいや、代表者との模擬戦と今言ったでしょうに。複数相手でも・・・おそらく勝てますが、疲れるのでやりたくありませんよ。
「ミリアさん、模擬戦の相手を指名したり出来ますか?」
「はい、それは出来ますが・・・・。どなたを?」
「あの方をお願いします。」
私が指さしたのはベルジュさんの元パーティーメンバーで、腰に剣を指して居る男。街道で彼女に対して硬貨を投げつけたあの人でした。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます