第6話

街の近くに到着したので安全だと判断し、ベルジュさんの実力を試そうと模擬試合を申し込みました。今は街道の外れの広くなっている所で、木の棒をお互いに構えて向かい合っています。


「先手はどうしましょう?」

「そちらに譲る。」

「解りました。私から仕掛けますね。」


ベルジュさんの視線には、スキルを持たない者がスキル持ちに勝てるものかという嘲りが混じっているように思います。ですが私から言わせてもらえばスキルに頼り切った人の方が動きも拙くもろいという印象ですね。


木の棒を構え直し、相手の準備が整った瞬間に右足を踏み出して突きを放ちます。フェンシングの様に突き刺す事に慣れているのならこの攻撃も容易く対処出来ると思ったのですが・・・・。


「ぐっ!?」


なぜかそのままベルジュさんの右肩に命中してしまいました。もしや踏み込みながら攻撃動作をすることを知らないのでしょうか?そう言えばホーンウルフを倒した時も、脚が止まった後に手を動かしていましたね。ベルジュさんも自分が何をされたのか分かっていない様子です。


「大丈夫ですか?」

「少し痛むが大丈夫だ。だが何をした?」

「ちょっとした様子見のつもりだったのですが・・・・。では次はベルジュさんから攻撃してきてください。」

「解った。」


先程の攻撃で何か思う所があったのでしょうか。先手を譲った時の様に私を嘲る様な視線ではなくなりましたね。


「では行くぞ!!」

「いつでもどうぞ。」

「シッ!!」


ベルジュさんは左足を踏み出して“着地して地面を踏みしめてから”手と剣を突き出しました。これでは駄目です。今から攻撃しますよと言っている様な物ですし、せっかくの体重移動の威力が全然剣に乗っていません。腕力だけの攻撃では簡単に対処出来てしまいますよ?


自分に向かって来る勢いの乗っていない棒を私は容易く左に受け流し、ベルジュさんの首に枝を添えます。


驚愕に目を見開くベルジュさん。女神様、自分の武術があればこの世界でも大丈夫だという意味を今やっと理解しました。まさかこれほどまで戦闘技術が衰退しているとは・・・・。


「・・・・・凄いな。どこでその剣術を覚えたのだ?」

「場所は忘れました。ですが体に染みついた技術はそう簡単には忘れない様ですね。」

「剣術スキルを持っているのか?」

「いいえ、持っていませんよ。」

「・・・・・もっと打ち合いをしたいのだが構わないだろうか?」

「えぇ、構いませんよ。」


私は自己申告でスキルを持っていないとベルジュさんに教えます。その言葉に懐疑的な目を向けながらも、スキルを持っていない私に負けたのが悔しかったのでしょう。打ち合いを続ける事を希望して来ました。もちろん了承します。


その後もベルジュさんは何度も何度も切り掛かって来ますが、そのすべての動作がワンクッション置いた遅い物か、体の動きがおかしく威力を殺した物でした。スキルの補正のおかげで最低限の威力はありましたが、それでも対処出来るものとなっています。もしかして同時に何かをするという考え自体が無いのかもしれません。


「はぁはぁ・・・・くそっ!!このっ!!当たれ!!」コンカンコン「はぁ・・・はぁ・・・。」

「ここまでにしましょうか。」


打ち合いを続けていると次第にベルジュさんの息が上がって来ました。私の方はというと唯攻撃を受け流しているだけなのでそこまで疲れはありません。ですが彼女の様子からこれ以上続けるのは難しいでしょう。と言う事で私は棒を降ろしながらベルジュさんに問いかけます。


「失礼ですが、ベルジュさんの剣の腕は街では如何程なのでしょうか?」

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・ふぅ。スキルレベルは低いが同じ門下生の中では上位に入っていたぞ?それに冒険者ギルドの試験ではスキルレベル5の手練れと戦って勝利した。それがどうした?」

「いえ、ですがそうですか・・・。ありがとうございました。お陰様で色々と解りました。」

「そうか、私も楽しかったよ。スキルが無い相手に一撃も与えらずに悔しい思いもしているがな。貴様は何者だ?」

「ただの憑き物落ちですよ。」


本当に悔しそうに顔を歪ませていますね。剣術が好きな事が伝わってきます。良いですね。好きな事に打ち込めるという事はそれだけでも才能ですよ。


「さてそれではそろそろ街に向かおう。日が暮れてしまう。」

「そうですね。ではお願いします。」

「まぁ先ほどの剣術を見るに私が護衛する意味は無いと思うが。」

「そんな事は無いですよ。自分には武器がありませんでしたから。」

「そうだったな。では行こうか。」


歩きながら街の事を色々と聞いてみました。辺境の街だけあって冒険者の数が多く、血の気の多い人も沢山居るらしいですね。冒険者試験もまず戦力が優先だとして人格鑑定をあまりちゃんとやっていないとか。試験は簡単で試験官に一撃入れられるかどうかで判断しているそうです。聞いていた話とだいぶ違いますね。


その所為かどうかは解りませんが、素行不良な人達が我が物顔で街を歩き、治安は悪化を続けているそうです。街の領主様も何とか対応しようとしていますが。やはり魔物の脅威の方が恐ろしいみたいであまり強く出られていない様ですね。


「それでも一部の冒険者はきちんとマナーを守っているし、街の騎士団は犯罪に手を染めた冒険者の取り締まりを行っている。夜間さえ出掛けなければそこまで大きな問題にはならないと思うぞ。」

「そうですか。なら少しは安心できそうですね。何分自分がどこから来たのかも分からない身ですから。そういう人達からは絶好の鴨だと思われるでしょうし。」

「気を付けるに越したことはないな。ほら、見えて来たぞ。」


自分は街だと聞いていました。ベルジュさんも街だと仰っていました。武器屋皮鎧はとても立派だったので文明は中世ぐらいじゃないかと思っていたのですよね。


ですが近づいて見えてきたのは丸太を唯地面に突き刺しただけの壁と、小さな木の扉でした。辺境だからかと思いましたが、どこもこんな物だとベルジュさんは言います。


「かつては石を使って壁や建物を作っていたらしいが、今ではその技術は失われてしまった。一部の高レベルスキル持ちが作れると聞いたことがあるが、私は見たことがない。」

「鎧や武器はどうしているのですか?」

「土人や小人が作ってくれているよ。彼らは高レベルスキルに加えて独自の技法を持っているらしいからな。スキルが世界にもたらされる前は木の板を張り合わせて出来た鎧を使い、石で出来た武器を使っていたそうだからな。時代は進んだよ。」


時代が進んでこれですか?スキルの補助機能はどうなっているのでしょうか?聞いて居た技術力より大分低い技術水準なのですが・・・・。技術が退行しない様にセーフティの役割を持っていると女神様から聞いて居ましたが・・・・。


あぁ、スキルレベルの高い人は囲われて技術を広める事が出来ず、おそらく特権階級の様な物になりそのまま何もしなくても生活出来るようになってしまったのですね。高レベルのスキル持ちが何もしなければその制作物を見る事は出来ず、技術を教わろうとも思いませんか。


そして自分で技術を学び取り、磨かないから応用も出来ずにそのまま衰退してしまった?女神様、これは早急に対処しないとまずいかもしれませんよ。


「さぁ街に入ろう。あぁ憑き物落ちだったな、身元保証は私がするから安心してくれ。」

「そこまでして頂かなくても。」

「いや、打算があっての事だから受け取ってくれ。そしてお願いを聞いてほしい。」


ベルジュさんにはここまで良くしていただきましたし、お願いを聞くのはやぶさかではありません。どのようなお願いをされるのでしょうか?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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