最初の生徒は剣士と鍛冶屋
第5話
女性と一緒に街道をミダスに向かって歩きます。女性の名前はベルジュ・フラン。赤毛で茶色い瞳をした人で、体は鍛えているのか筋肉質ですが女性らしさもある冒険者の方でした。先ほどは依頼の帰りに突然仲間にからかわれ始めたのだと言います。
「恐らく前々から追い出す事を画策していたのだろう。私のスキルレベルが低いばかりにいつもこんな扱いだ・・・。」
ベルジュさんは剣術スキルを持っているそうで、その腕を認めて貰い冒険者になったそうです。ですがスキル偏重のこの世界ではスキルレベルの低いベルジュさんはいつも軽んじられ、依頼料も値切られてしまうのだとか。
「それはお辛いでしょうね。」
「まったく女神様もどうしてスキル何て物を与えたのだ・・・。」
それは人類を救いたかったからですよ。さてさて、私はこの人の為にどう動くべきでしょうか?スキルを持っているという事は剣術の才能があるはずです。どこかで剣術の腕前を調べる事が出来れば良いのですが・・・・。
『GRRRRRR・・・。』
「くっ!!魔物か!!」
丁度良い所に魔物が一匹私たちの前に姿を現しました。ベルジュさんは即座に剣を引き抜き戦闘に備えて構えます。
魔物の方はというと、黒い毛並みの犬に歪な角が生えていますね。確かホーンウルフという魔物だったと思います。
「貴様は下がっていろ!!はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ベルジュさんは私を守るように前に出て、剣を構えながらホーンウルフに突っ込みます。剣を上段に構え、バタバタと走る様は棒を手に持った子供の様に見えますね。
脚運びも拙く、剣の刃を立てる事もしないその様子を私はじっくりと観察します。ホーンウルフと言えば、おそらく剣を角で受け流す事を狙っていますね。じっとベルジュさんの剣の動きを観察しています。
「はぁっ!!」
ベルジュさんが剣を振り下ろすと、不思議な事に刃を立てていなかった剣がまっすぐに振り下ろされます。最後の踏み込みの際に歩幅が適切な物になっていて、その一撃はホーンウルフが受け流そうとして突き出した角を両断しました。角を両断する際に剣が少し動き、角が切り易い角度になりましたね。あれがスキルの補助という物でしょう。
『GYAN!!』
「止めだ!!」
角を切られ、その衝撃で首が持ち上がったホーンウルフの首をベルジュさんが切り裂きます。その際にも、横に振りぬいた剣の刃がスキルによって補正され、相手を切り裂く様子が見えました。
「ふぅ、待たせたな。」
「いえ、それ程待ってはいませんよ。いつもあんな感じですか?」
「あぁ、スキルレベルが低く、あのようにしか動けん。」
剣を鞘に戻し、息を吐くベルジュさん。
「仕留めた魔物はどうするのですか?」
「普段であれば解体スキル持ちの仲間に解体して貰い素材を持ち帰るのだが今回は無理だ。街に行けば解体して貰えるが・・・・今回は諦める事になるな。」
大型犬程の大きさのホーンウルフですからね。人が背負うとなるとかなり歩く速さは遅くなります。私を連れて街まで行こうとしている時に足が遅くなるというのは得策ではないと考える当たり何度か護衛の仕事をされたんでしょうか?ですがやはり命を奪ったのですから最後まで責任は持たないといけません。
「ナイフを貸して頂けますか?私が解体します。」
「スキルを持っているのか?」
「いえ、ですが獲物の解体でしたらスキルが無くても可能ですよ。」
「そんな馬鹿な。スキルが無ければ綺麗に解体等出来んぞ。」
「まぁまぁ、そこまで時間は取らせませんし、物は試しと言う事で。」
「・・・・変わった奴だな。」
渋々、という感じでナイフを貸してくれるベルジュさん。獲物の解体は地方の学校に赴任していた時に、近所の猟師の方から教えて貰いましたからね。その経験を生かす事が出来るでしょう。
切り裂かれた首から内臓を傷つけないようにお腹を割き、内臓を取り出していきます。取り出した内臓はベルジュさんに穴を掘って頂きそこに捨てましょうか。割いたお腹から皮と肉の境目にナイフを入れて剥ぎ取って行きます。皮がかなり丈夫ですね。簡単に肉と離れて行きます。
手足は細かく切り裂かないと駄目ですので今回は諦めましょう。足首の当たりで切断してしまいます。頭は・・・討伐証明で持っていく必要がありましたね。皮からは切り離して別で持っていくことにします。
「スキルなしでここまで手際良く出来るとは、しかも普段頼んでいる解体スキル持ちより綺麗だ。・・・・・貴様は本当にスキルを持っていないのだな?」
「えぇ、持っていませんよ。ですがこれくらいでしたらやり方さえ覚えれば簡単です。肉の方はどうしますか?」
「持ち帰ろう。体の部分は捨てて、脚だけ持っていけば負担も少ないはずだ。」
脚の付け根の骨にナイフを入れ、切り離して枝肉にします。ベルジュさんがカバンから紐の様な物を取り出したので、皮で肉を包み紐で縛って口を閉じます。血が滴っていますが仕方ありませんね。血抜きは時間の関係上省略しましたし。
「終わりました。護衛の報酬として街に着いたらお渡ししますね。」
「あぁ、報酬の話をしていなかったな。それでは街に着いたら受け取ろう。・・・・その技術は覚えていたものか?」
「えぇ、私は色々と人に教える事を生業としていました。その為にも自分自身が色々と知識と技術を蓄えていた様なのです。」
「魔道国の出身か?」
「そこまでは覚えていないんですよね・・・・・。」
「そうか、まぁいい。さっさと街まで行くぞ。」
歩き出したベルジュさんの後ろを着いて歩き出します。スキルレベル1の剣術があの様子では、最高レベルであるスキルレベル10の人はどうなってしまうのでしょうか?
解体に関してもそうです。四足獣の解体は体の大きさに違いはありますが、基本的には同じはず。それに私が切り離した皮を見て綺麗だと言ったベルジュさん・・・・。詳しく聞くと普段は必ずどこかに穴が開き、その穴の場所を見て買い取りの値段と使い道が変わるそうです。これはかなり技術の衰退が起こっているのでは無いでしょうか?これもスキルに頼り、自身で努力をしなかった結果なのですかね?
しばらく進んでいくと、遠くの方に木で出来た壁の様な物が見え始めました。その壁を見た瞬間にベルジュさんが安堵の表情を浮かべます。あれば辺境都市ミダスなのでしょう。
目的地が見えた事ですし、縁を紡ぐためにも少しだけ試しをさせて貰いましょうか。
「突然で恐縮なのですが、少し手合わせをお願いしても良いでしょうか?」
「本当に突然だな。だがどうしてだ?」
「私の生業は先ほども言いました通り人に物事を教える事の様でして。その中に剣術も含まれているのですよ。ですから一度ベルジュさんと手合わせをしたいという衝動が抑えられそうにないのです。」
「そうなのか?私は構わないが武器を持っているように見えないな。」
「それはそこら辺に落ちている木の棒で代用しましょう。丁度良い長さの物が2つ落ちている事ですし。」
丁度60cm以上の木の枝が落ちていたのでベルジュさんから借りたナイフで長さを揃えます。自衛の為にと持たされていたナイフでしたが・・・。すでに街も見えていますし、返してしまいましょう。
街道を外れた少し広くなっている場所でお互いに木の棒を構えます。自分は棒を両手で持ち剣道で言う所の中段の構えを取りました。ベルジュさんの方は剣を左手に持ち、反対の手を腰に、左脚をひいてフェンシングの様な構えに。
魔物の時とは違い堂に入っています。もしやこちらの方が本来の戦い方なのでしょうか?才能が在るはずなのにあの程度の動きはおかしいと思っていましたが、魔物との戦闘になれていなかったと言う事でしょうね。これは試しが楽しみになって来ました。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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