第4話

あの後も色々と世界の事を女神様から聞きました。大体聞きたいことは聞けたと思います。後は現地に行って体験してみないと分からない事も多々あるでしょう。


「それではそろそろ旅立ちたいと思います。」

『はい、無事に向こうに着いたら教会に来て下さい。私と連絡が取れると思いますから。』

「お祈りを捧げれば良いのですね?」

『そうです。ご迷惑をおかけするのですからそれくらいはさせて頂きませんとね。』


笑って返事を返す女神様ですが、その顔は自身の不甲斐無さに嘆き、他の人を巻き込んだ事を後悔し、自分に自信が持てない物であると感じます。これではいけませんね。


「女神様、自分は迷惑とは思っていませんよ。それにそんなに自分を卑下しないで下さい。」

『進さん?』

「今、あなたの世界はちょっとした手違いで停滞しているだけです。あなたがこれまで見守って来た人達はそんなに弱い人達ですか?違いますよね?なぜならば今もあなたが見守り、そしてどうにかしようと足掻いているのですから。その気持ちは必ずあなたの世界の人に届きます。だからこれまでの失敗よりも、これからの事を考えて下さい。こうして私を送り出して対処しようともしているのですから、大丈夫です。あなたは立派な女神様ですよ。」


もし諦めているのであれば、私をこの場に呼ばずに居たはず。世界の話をする時にあんなに嬉しそうにもしないはずですね。それに自分の失敗を踏まえて前に進もうと対処方法を考え出し、実行したのです。それだけでも前を向こうと、先に進もうと足掻いている証明です。どんな小さな事でも良いのです。何かを始める、そうすれば前に進めますからね。


『進さん・・・・ありがとうございます。あなたを選んで良かった・・・・。』

「ふふふ、そう言って貰えれば呼んで頂いた甲斐も有るという物です。これからも変わりゆく世界を見守っていて下さいね?自分も頑張りますから。」

『私の世界の事、どうかよろしくお願いします。』

「承りました。」


了承の返事をお返しすると、足元が光り出して私の周りを白く染めて行きます。最後に見た女神さまの顔は、涙を流しながらも先程とは違う笑顔を浮かべて手を振ってくれていました。あの様子なら大丈夫でしょう。自分も笑顔を浮かべて女神さまに手を振り返します。光が一層強くなると私の視界は真っ白に染まり、どこかに落ちる感覚と共に意識を失ってしまいました。


『まさか女神の私が励まされてしまうとは。ふふっ。私が彼の最初の生徒という事ですかね?』


進が消えた場所を見つめながら、タレスは流していた涙を拭う。


『さぁ進さんに負けない様に私も頑張りますよ!!と言っても現状できる事は少ないですが、何事も少しずつです!!』


自分の失敗により1つの世界が滅びそうになった。そんな罪の意識を飲み込み、進の教えの通りこれから何が出来るかを一生懸命に考える女神タレス。彼女の瞳には消えていたやる気という火が再び灯っていた。


~~~~~~~~~~

チュチュチュン チュチュチュン


「ん?う~ん・・・・。着きましたか。」


鳥の声と眩しさで目を覚ましました。女神様の話では私はランダルフ帝国の辺境の街、ミダス近くの森に到着したはずです。まずは自分の恰好を確認しましょうか。


「手の皺が消えている・・・。顔の方は解りませんが若返っているのは間違いなさそうですね。」


服装も現地の人に合わせた格好になっています。ボロボロな麻のズボンとチュニックで両方共薄い茶色をしています。ベルトには小さな革袋が括りつけられていて、この中には女神様から送られたお金が入っているはずです。


「確かこちらの方に・・・在りましたね。」


女神様から地図を見せて頂いていて良かった。すぐに街道を発見する事が出来ました。


「さて、街まで行きましょうか。」


若返った影響か体が軽いです。腰や節々の痛みが綺麗さっぱり消え去り、重たかった思考もかなり速く回りますね。これは調子に乗って羽目を外してしまいそうです。


「いくら走っても疲れません!」


調子に乗って街道を走ってみるといくら走っても全く疲れません!いやぁ若いって良いですね。健康な体がこれほど素晴らしいとは、一度老化してみないと分からない感覚かもしれませんね。


調子良く街道を走っていると街道の先で何やら言い争いをしている人達が居ますね。冒険者でしょうか?全員が皮鎧を着て剣を持っています。男女混合の4人パーティーですね。どうやら冒険者の男性が仲間の女性一人を揶揄っている様ですが?


「まったくやっぱりスキルレベルの低い奴は使えねぇなぁ。」

「いや、お前が私の動きを邪魔するから・・・。」

「あぁん?剣術スキル1の奴が剣術スキル10の俺より強いってか?馬鹿言うんじゃねぇよ。なぁお前等?」

「そうだぞ、スキルはレベルが高い程強くなるのは常識だろ?」

「いやぁねぇ、自分のスキルレベルが低いからって人のせいにする何て。なんて浅ましい人なのかしら?それでも冒険者?」

「良く冒険者試験受かったよな。もしかして親のコネか?こりゃ通報案件だなぁ。」

「「「ぎゃははははは!!」」」

「そんな事はしていない!!」

「だけどレベル1で受かるなんておかしいよなぁ。コネじゃないなら股でも開いたか?」

「侮辱するな!!実力だ!!」

「その実力が信用出来ないって言ってんだけどな。」


聞くに堪えないですね。仲間1人を下に置いて結束を高めているのでしょうか。そんな事をして繋いだ絆は簡単に崩れるのですがね。


「お前、もういいわ。クビだクビ。」

「なっ!今回の報酬はどうなる!!」

「ほらよ。これで良いだろ?」


男が投げつけたのはたった1枚の白くて丸い硬貨、確かあれは10セイトでしたね。


「これっぽっちか?」

「実力がないんだから金が貰えるだけありがたいと思えよ。」

「金を稼ぎたかったら自慢の体でも売りな。」

「惨めよねぇ。助けようとも思わないけど。」

「このっ!!」

「おっと冒険者同士の私闘は禁止だぞ?まぁお前ひとり俺達3人に掛れば秒だけどな。」

「くっ・・・。」

「じゃあな負け犬。」

「レベルの低い奴は全員死んじゃえば良いのに。」

「まぁまぁそういうな。低レベルの奴だって肉壁ぐらいできるんだからな。」

「「「ぎゃははははははは!!」」」


ふむ、これがこの世界の常識なのですね。聞いた話と実際見るとでは受ける印象はかなり違いますね。これはもう明確な差別と言っても問題がない程に、冷遇されていると見て間違いありません。


時間の概念は女神さまの行っていた通りほぼ元の世界と同じですか。60秒で1分、60分で1時間、1日24時間で1週間は7日、1月は4週間で28日、1年は13カ月でしたね。


「私は・・・・私は・・・・。」


その場で投げ捨てられたセイトを見ながら涙を流す女性。その姿は痛ましい物で、すぐに助けに行けなかった事を申し訳ないと思ってしまいます。ですがあのような状況の場合、本人が助けを求めていないのに第3者である私が間に入るとこじれる可能性があったのです。それに女神様から聞いて居た事が本当の事かどうか確認する必要がありました。でも決して彼女を見捨てた訳では無いのですよ。


「大丈夫ですか?」


投げつけられた10セイトを拾い、彼女に渡しながら声を掛けました。自分が声を掛けた事に驚いたのか、涙を袖で拭いながらこちらを睨んで来ていますね。


「もう一度お聞きします。大丈夫ですか?何やら揉めていた様子でしたが?」

「何でもない。それより貴様は何者だ?ここら辺では見ない顔だな。」


乱暴に硬貨を私の手から奪い取り、腰に下げている剣の柄に手を掛ける女性。さて、こういう質問が来ることは女神様と話している時に予想していました。ですからもちろん答えも用意しています。


「私もどうしてここに居るのか分からないのですよね。覚えているのは名前と何を生業としていたかくらいです。」

「憑き物落ちか。難儀な事だな。」


憑き物落ちというのは魔物となった人が自然に元に戻った人の事を言います。めったにない事ではありますが、瘴気を取り込んで魔物になった人が、自然発生した聖気の中に入り浄化された人の事を指しています。その際に記憶のいくつかが消えてしまうそうなのです。ですが実際に過去何人かの人が憑き物落ちになっていて、その記録が教会に在りちゃんと人々に周知されているのですよ。


「えぇ、ですので近くに街があれば案内して欲しいのですが・・・。」

「ならば私と一緒に行こう。私もミダスに戻る途中だ。護衛くらいは出来る。」


ボロボロの服は憑き物落ちとしての説得力を増す為に選びました。魔物になった人が普通の服を着ているのはおかしいですからね。それに何やらこの女性と縁の様な物を感じます。これは女神様が行っていた加護の力でしょうか?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る