第7話


  *


 正直、調子はよかった。


 真海奈と話すことで、なにかが変わったような気がした。


 ひとりだけでも友達になると、こんなにも嬉しいことはないって思う。


 もう、ひとりぼっちじゃないって思えるようになったから心がポカポカする。


 一年A組の教室に戻る。


 月子と目があった。


 だけど、話すことはない。


 いずれ真海奈と友達になったことは自然と知ることになるだろう。


 僕は、真海奈と、ちゃんと話せたんだ。


 だから、もう解決したようなものだ。


 そうだろ、桜舞……。


 ――桜舞は、教室にはいなかった。


  *


 結局のところ、真海奈とは友達になれたけど、一年A組のなかじゃ僕は、まだ浮いた存在だ。


 浮いた存在だからこそ、次のステップへ行かなくてはいけない。


 帰宅して桜舞の部屋をノックする。


「いいですよ、兄さん」


 入る。


「それで……どうだったんですか?」


「筬屋さん……いや、真海奈とは友達になったよ」


「…………」


「あれ?」


 桜舞の反応が悪い。どうして?


「大事なことを忘れてますね」


「大事な、ことって?」


「筬屋さんとお付き合いしなかったのは、なんでですか?」


「なんでって……」


 これは正直に答えないと彼女の怒りの沸点が爆発しそうだ。


「まだ、好きじゃないから、だよ」


「まだ、とは?」


「そのままの、意味だよ」


 桜舞は、ため息をついた。


「なにか、間違っていますかね……?」


「間違っていますね」


「えっと、なんで?」


「たぶん、ですけど、筬屋さんは兄さんに告白しましたよね?」


「なんで、わかんの?」


「筬屋さんのことは、わたしだって理解しているつもりです」


 彼女は結論を言ってくれるが、ムチが激しいような気がする。


「筬屋さんは、兄さんに対して求めている答えを欲している。だから、ここで応じてしまえば、兄さんの立場は修復されたでしょう。言っている意味がわかりますか?」


「わかるように説明してくれ」


「『付き合って』と言われたら『はい』と答えるべきでした」


「なんで?」


「筬屋さんのことだから、いろんな人に相談しているでしょう。そのなかには布佐良さんの存在もいるはず。なぜなら生徒の人数の少ない同じ中学校の後輩で話しかけられない女子は存在しない。一学年ごとに一クラスしかなく、そのクラスの人数は三学年とも五人以下。SNSでやり取りしているはずなので、今の状況は絶対に伝わります!」


「つまり、彼女……真海奈は外堀を埋めているということか!?」


「そういうことです。どっちにしろ早く『イエス』というのがベストだったんですよ」


「そんな……それじゃ僕の気持ちは――」


「気持ちが問題じゃないんです。初めての彼女にこだわっている特別な時間は、ないと思ってください! 付き合わないと、どっちにしろ布佐良さんの好感度は上がりませんよ!」


「ど、どど、どどどうすれば――!」


「そうですね。友達として、と言ってしまったのなら、友達としてジワジワと遊んでくればいいのでは? 連絡先を交換したんだし」


「つまり、今の状況を解決するためには彼女にメッセージを、送る?」


 覚悟ができてないんだけど……僕の周り、性格悪い人しかいないの?


 メッセージを、送るしか、ないのか?

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