第8話


  *


 メッセージを、送るべきなんだろうか?


「今から、わたしの言うことを聞いて、わたしの言うとおりに文章を書いていってください。そうすれば、学校生活は、うまくいきます。少なくとも伝播高校内では、ですが」


「伝播高校しか問題を解決するべき空間はないと思うんだが……?」


「もしかしたら筬屋さんにトラウマを植えつけてしまう可能性がありますが……」


「トラウマのないほうで頼むよ」


「それは、わたしには解決できかねることです」


「……決定事項と、捉えていいのか?」


「ええ、捉えてください」


 桜舞は、こほんと咳払いして。


「単純なことですよ。いずれ、また、されるであろう彼女の告白を受け入れるのです」


「受け入れて……それから?」


「もう、いいや……って思うようになってしまったら振ってください」


「振る、のか?」


「ええ。男女同士の恋愛というものは付き合って、その先がある場合も、その先がない場合も存在します。要は、その先が、なかったことにしてしまえばいいのです」


「なかったこと?」


「『やっぱりキミとは友達としか思えないから別れよ』って言えば、成立する話なのですから」


「残酷……」


「でも、兄さんが恋人同士の恋愛関係というものを初めて経験するわけですから、いい勉強になると思いますよ」


「なるかな……?」


「なりますよ! それに今のうちに、そういうのを経験しておかないと大人になったとき、大変なことになりますよ」


「大変なことって?」


「十代、二十代の人にしか恋をしない危ないおじさんのようになってしまうかもしれません。高校から大学の期間が恋人を獲得できる唯一の自然の道が形成されるのです」


 桜舞は断言する。


「なぜなら、生徒・学生のときこそが一番異性と友達になれるチャンスをつかみやすい……そして友達から恋人へ、最後に結婚して夫婦とステップアップすることができるのですよ!」


「どうして大人……社会人同士じゃダメなんだ?」


「社会人になってしまったら、相手の経済力を女性は見てしまうのです。だから純粋な意味で恋に落ち、恋愛関係を形成できるのは、生徒・学生のときだけなのですのよ!」


「そっ、そうなのか?」


「そうしなければ、恋も愛もこじらせてしまう……大人になるのです、兄さん。なにも絶対に筬屋さんに残酷な選択をしろと言っているわけでもないのです。彼女と付き合って、うまくいきそうだったら付き合いを継続すればいいのですよ!」


「それで、いいのかな?」


「はい?」


「そんな不順な気持ちで、もし付き合ったとするじゃん? 彼女に失礼じゃない?」


「きゃははっ!」


 桜舞は高らかに笑った。


「そんなに真面目に恋愛に対して向き合ってるのはドーテーくらいのものですよ、兄さん」


 僕は黙る。


 桜舞が妙に恋愛に対して博識なのは……いや、考えるのはよそう。


 彼女は僕の妹なんだから――。


 だけど、なにかしらのアクションは起こさないとな、と思ったのだった。

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