第45話 聖魔と神の愛し子

教会に向う馬車の中、街をみた、もうミーシャに変な目を向ける人間は居ないだろう。


しかし、ワイズさんか。


一体、どんな人なのだろうか?


俺の体質は半端じゃない。


同じ馬車に今はマインが乗っているが、正直同じ空気すら吸いたくない。


そんな俺が嫌悪しない相手ってどういう存在なんだ。


まぁ良い、それよりギフトのオンパレードだな【不老不死】に【もてる】【能力の跳ね上がり】どれ一つとっても破格だ。


不老不死など、勇者が望もうが神がくれるなんて事は無い。


アンデッドは死んでいるから、不死なのかも知れないが、不老では無い気がする。


しかも話によれば、徐々に今の体の老化も無くなり、俺の全盛期、18歳の姿にまで戻るらしい。



更に【もてる】は、あの忌々しい【魅了】かと思ったが全然違うらしい【本当に愛される】って言っていたが、俺には解らない。


【能力の跳ね上がり】は桁が違う。


今朝がた、本気でジャンプしてみたら、城より高く飛べた。


聖剣を使わないで、岩が手刀で切断できた。


割るのではなくスパっと斬れた。


何処まで強くなったのか解らないが...どう考えても魔族でも簡単に倒せる力はある。


そう思った。



確かに俺は【あの神】に感謝される事はした。


だが此処までの物をくれるとは思わなかった。



さっきから、マインやミーシャの様子が可笑しい。


元から確かにマインは気まずい関係だが、ミーシャ迄少し様子が可笑しい。


「どうかしたのか? ミーシャ?」


「どうしたのかな? なんだかセレナが凄くカッコ良く見えるの」


そこにマインも入り込んできた。


「正式な勇者になったせいでしょうか? 昨日までと違います、上手く言えませんがそう【光り輝いて見えます】」



これが【もてる】なのだろうか?


これがそうだとしたら確かに【魅了】とは違う。


まぁ俺には関係ない事だが。



今回は何も問題無く教会についた。


今回は祭典ではない。


この間の話の結果を聞く事にした。


まぁ結果は解っているが...


「この間は、申し訳ありませんでした、聖教国の司祭全員の一致で、セレナ様を勇者と認める事になりました、勿論今後崇める神も ホトス様に変える事も承認されました」


「それは良かった」


実際に教会を見たら、女神 イシュトリアの像は外にゴミの様に置かれていた。


修復もする気も無くそのまま運び出したのだろう。


「つきましては 神、様ホトスについてお教え頂けないでしょうか?」


「勿論構わない、当たり前の事だ...あと今迄の勇者を除く三職(聖女 賢者 剣聖)は解任して貰いたい」



それを聞いてマインは騒ぎ出した。


「私は聖女です、そしてまだ戦えます」


「無理だな、ソランがあんな簡単に殺される位、今の魔族は強い、それにお前が俺の横に立つと言うなら、居なくなった剣聖と賢者も探し出して仲間にしなくてはならない」


「それは彼らの義務です」



俺はあいつ等には悪い意味ではなく関わりたくない。


彼奴らは俺を助けようとはしてくれた。


事実、剣聖のソードはソランに注意もしてくれたし、賢者のリオナは魅了の解除をしようとしてくれていた。


だが、どうしようも無いと解ると【俺に危害を加えたくないから国外に逃げた】


リオナは女だからあのまま居たら、マインやマリアの様になっただろうし、逃げるしか方法は無かった筈だ。


ソードに到っては、そのまま国で暮らせば【剣聖】なのだからさぞかし幸せだっただろう。



それに、俺が洞窟で暮らしている時も「冒険者にならないか」と誘ってきた。


あのまま行けば【案外復讐など忘れた生活】もあったかも知れない。


確かに何も出来ていないだが【助けようとした思い】まで否定はしたくない。


だから【巻き込まない】それが彼奴へのお返しだ。


二人ともどうせロートルだかってのような力も無いだろう。


そのまま放って置いて、残りの人生を自由に生かしてやれば良い。



「言いたくないが、俺の傍で顔見知りに死なれたくない、どうせお前達じゃ死ぬ」


「ですが、私は聖女です、例え死ぬ運命があろうと貴方について行きます」


言った方が良いだろう...


「確かに今はまだ聖女だが、神が変わったんだ、今の神はイシュトリアではなく、ホトス様だ、恐らく今の魔族には通じない、だから俺は暫くは単独勇者になり、新たな仲間を探すつもりだ」


「ですが、貴方は今は一人です、なら新しい仲間が見つかるまで私は」



「仲間なら此処にいるよ? 酷いよセレナ...」


ミーシャが落ち込む様に俺をジト目で見つめている。



「そうだな、ミーシャは俺の仲間だ、忘れていたよ」


「そうだよ、ミーシャはセレナと戦う【聖魔(セイントデーモン)】のミーシャだもん」


ミーシャが何を言っているのか解らない。


「セイント...デーモン?」


「そうだよ! 魔物の力を使い魔物を狩る聖なる存在、それが私なんだよ」


「あの、ミーシャ、それ何時から?」


「うーんと3日前位に神様から貰った」


ホトス様は軽い...あの神ならあり得る。




「そういう冗談は好きではありません、本当ならば、その力を私に見せなさい」


マインが少し怒っている。


本当にミーシャが俺の仲間なのか?


「良いよ、指だして」


「指...ですか」


「少しチクってするね」


そう言うとミーシャは爪でマインの指先を軽く切った。


「痛い、なにするのですか?」


「それ治してみせて」


「こんな傷、ヒール...嘘治らない」


聖女に治せない傷等、普通ではありえない。



「これが私の能力の一つなんだ、聖魔が相手に負わせた傷は例え聖女でも悪魔でも治せない...信じてくれます? だから聖女なんて要らないんだよ?」


マインは愕然としていた。


聖女のマインが治せない傷などまず無い。


そう考えたら、否定など出来ない筈だ...まぁそうは言うが俺も驚いている。


「確かに、そうなのかも知れません、ですがパーティーには回復役が必要なのです、貴方には出来ないですわね」


「だけど、貴方は要らない、だってセレナを虐めていたんだよね」


「そんな、私は..」





2人が争うなか...後ろからも争う声が聞こえてきた。



「いいかげん離して、変態、勇者にいいつけるわよ!」


「いい加減にしろ、此処から先は一般人は入れないんだ」


「なにいってんのよ? 私は勇者の恋人兼、仲間なのよ?」



マインが苛立ちからそちらを見て、ミーシャが素早くそちらを見た。



2人が口を開く前に、その相手は口を開いた。



「あなたが勇者ね? 結構なイケメンじゃない、だけど、その顔の傷は良くないわよ? はい、パーフェクトヒールと...これで大丈夫だわ、私は【神の愛し子】のワイズ、勇者には特別にワイズって呼ぶ権利をあげるわ...他の人はワイズ様って呼ぶのよ? 良いわね」


俺が目にした者は...凄い美人なのに、何故か残念そうに見える女性だった。


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