第44話 神託

「セレナくん、はいこれを食べて...」


どう見ても気持ち悪い生物にしか見えない。


一番近い物は【心臓】【胆】だ。


しかも、これどう見ても動いている。


「これは、いったいどういう物なのでしょうか?」


「その説明は今は内緒だよ? だけど君は人間だけどさぁ~ ただの勇者だけどさぁ~恩人だからね、友達だと思っているんだ、だから何も言わず、今はそれを食べて」


この話をしている相手は【神 ホトス様】だ。


神が顕現するなんて、神職者からしたら涙を流して喜ぶ事だろう。


とある事情から、神と人の垣根を越えて仲良くなった。


だから、まるで友人の様に話しかけてくる。


「解りました、ホトス様が言われるのであれば、喜んで頂きます」


そう言い、かぶりついた。


生臭くてまずいとしか思えないのにいざ口に入れてみると思ったほどではない。


多分、火を通せば普通に食べられる。


だが、生はやはりきつい。


「大丈夫かい? ただこれは本当に僕の君に対する感謝なんだ、勇者のジョブよりも更に価値がある信じられない褒美だよ、絶対に吐かないでね」


「解りました」


俺が信頼している神が言うのだ。


例えこれが汚物でも吐かないで食べる...


必死の形相でセレナは口を押えた。



「偉い、偉い、よく食べたね? その二つの食べ物を食べるとね、凄いんだよ!【不老不死】になるし【もてる】し【能力はとんでもなく跳ね上がる】さらに言うと凄く綺麗な女の子が君の前に現れちゃうんだ」


とんでもなく凄いが【もてる】女の子に出会えるは正直いらないな。


「神 ホトス様...私は女性はちょっと」


「あはははっ、確かに、だけど人生ミーシャちゃんだけじゃ寂しいでしょう? だから今のセレナくんでも嫌悪しない女の子との出会いを用意したんだ、まぁ僕が用意したんだ特別な存在だよ」


どんな存在なんだ?


「あの、どのような存在なんでしょうか?」


「ミーシャが可愛いと思うなら、もう一人美人の大人っぽいお姉さんが居た方が良いでしょう? それに勇者一人じゃかっこ悪いから【聖女】みたいな存在が必要じゃない?」


確かに、この先、魔族と戦うとしたら回復役は必要だ、まぁ戦うとしたらな。


「確かに、そうですね」


「でしょう?、まぁ使い者になるから安心してよ!」


ホトス様は神だから、俺の現状も知っている。


その神が寄こす位だから問題ないだろう。


「解りました、それで、その相手はどんな方ですか?」


「ワイズって言うんだ、まぁ後は楽しみにしていて」


「ワイズさんですか?」


「そうだよ...それじゃ、また今度」



会話の様に思うかもしれないが...神託だ。


普通、神託という物は、敬虔な信者が信仰の果てに生涯で1回か2回貰えたら良い方だ。


ホトス様は会話のようにかなりの頻度で俺に語り掛けてくる。


まるで奇跡のオンパレードだ。





その次の日、約束より一日早くランディウスが顔を出した。


俺の顔を見るなりランディウスは騎士として跪いた。


これは騎士として最上級の忠誠を表す行為だ。



「ランディウス、お前が跪くと言う事は、聖教国は俺を勇者として認める、そういう事か?」


「仰せのままにございます」



まぁ、こうなるのは解っていた。


聖教国の強みは【信仰】だ。


そしてその最大の強みは魔王軍と戦う絶対的な存在【勇者とその仲間】に関する事だ。


俺を勇者として認めないなら、新しい勇者が必要だ。


だが、信仰する女神が居ないならそれは出来ない。


もし俺を受け入れなければ、ただのヒーラが多い医療しか取り柄のない国になり下がる。



「ならば良い、俺はお前みたいな実直な人間は嫌いじゃない、さぁ案内してくれ」


「はっ」


こうして俺は再び教会に行くことになった。


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