第41話 女神は居ない

「勇者殿、よくぞ参られた、こちらへ」


教皇ボルチーニ8世は上機嫌で迎えてくれた。


良くもまぁ、こうも掌が返るものだ...此奴がソランの後ろ盾になったから俺の人生はめちゃくちゃになった。


【此奴がソランを正義と肯定】したから俺は地獄を見た。


婚約者や親しい者を寝取られても【勇者様の子供を産むのは幸せ】【勇者様が欲しい者差し出すのは善】と言ったから何人の人間が不幸になったか。


まぁいいや【勇者に全てを差し出すのが当たり前】...今の俺にはなんとも都合の良い言葉だ。



「教皇様、お久しぶりでございます」


「勇者様にはどこかで会いましたかな?」


あれほどの事をした人間を忘れるのか?


俺を破門にまでした癖に...紙1枚で俺を人で無い存在にしたくせに。顔も覚えてないのか。



(※ 貴族籍、と破門はこの世界では連動していません、但し破門されると貴族や王族でも、その権力を行使できにくくなります)


「慈悲深い、貴方に昔にあった事がある、それだけでございます」



此処には聖教国の主だった権力者が集まっている。


教皇と五大司祭が囲み六芒星を作る。


その中央に俺は跪き、祈りをささげた。


教会の上に光が集まり剣の形をなしていった。


それは一本の黒く光り輝く剣になり、セレナの元に降りてきた。



教会全ての者に聞こえるように神の声が響き渡る。



「セレナを真の勇者と認め、神の権限の元に聖剣を送ろう、その剣の名はブラックソード、古の聖剣の中の聖剣である」



これを聞いた教会の者は歓喜した。


【古の聖剣】それは神話にも語られるような力を持つ聖剣で、余程の事が無いと神から送られない。


喜び、教皇と五大司祭はセレナの元に駆け寄った。


「流石はセレナ様、お見事でございます」


「歴代の勇者の中でも、古の聖剣を持った者など伝説にしかおりません」



この瞬間に俺は世界のトップだ。


誰も俺には逆らえない。


【聖剣を持った 勇者なのだから】


そのまま俺は聖剣を使い教皇の首を斬り落とした。


聖剣の切れ味はすさまじく、まるで紙でも斬るかのの様に教皇の首はずり落ち地面に落ちた。


「勇者が乱心した、聖騎士...」


「早く、早く儂を助け」


壇上に他の騎士が来る前に五大司祭を斬り殺す事に成功した。


だが、油断はならない此処は聖教国、つまり、ヒーラーが山程いる。


回復されないように全員首を斬り落とす必要がある。


結果から言えばそれは成功した。



俺は、はなから、こうするつもりだった。


【勇者であれば何しても良い】 ならば勇者に殺された教皇は幸せだろう。


此奴らが、常識をもってソランを諫めていれば俺は不幸にならなかった。



「事情を聞かせて貰えないかな? 」


ランディウスが怒りの表情で俺を見ている。


「ランディウスに他の者も何故跪かないんだ! 聖剣を抜いた瞬間から、この世に勇者より偉い者は存在しない、教皇が俺に言った事だ、実際に俺は地獄を味わったんだぜ、ならばこの世で一番偉い俺が、何をしようと自由だ」


「それは、だが教皇様はその信仰に全てを賭けていた、それを殺すなどとは幾ら勇者でも」


「お前たちはソランの非道を許した、その結果、俺を含み沢山の人間が不幸になった、ソランを許したように俺も許すのが筋だと思うが...まぁ、他にも意味はある」


俺は女神像に向かった。


そして聖剣で女神像を切り裂いた。


「貴様...勇者は神の使いだから気高い、それが女神イシュトリア様の像に手を掛けるなど言語道断だ」


「お前ら、教皇たちに騙されていたんだぞ...だからこそ、今回は神の声を皆が聞けるようにお願いをしたんだ」



「騙された...なにがだ」



「良く思い出せ、神の声は男ではなかったか?」


「....確かに女神の声には聞こえなかったな...どういう事?でしょうか?」


此処でようやく、ランディウスの怒りが消えた。



「簡単に言えば、イシュトリアは居ない...この世界を見捨てて逃げたのだ」


「まさか、女神が逃げるなど考えられない」


「逃げてないにしろ、この世界を見捨てた、だからこそあの様な、歪な勇者が誕生したのだよ」


「女神に選べていない...ならセレナ貴様は、勇者じゃないと言う事か、ならば重罪だ」


「俺は勇者だ、女神イシュトリアが見捨てた世界を救うために【偉大なる神 ホトス様】が遣わした存在だ」


「なっ..」


「まぁ、どうするかは聖教国で決めて良いぞ、よく聞け、イシュトリアが居ないと認めて、ホトス様を新たな神と認め俺を勇者として扱うか、それとも居もしない女神を信仰して認めないのも自由だ、その場合は俺は帝国や王国は助けても聖教国は助けない」


「それは俺には決められない」


「馬鹿か?お前に決めろなんて言わない、此処には聖教国の権力者が多くいる...全員で話し合い決めれば良い...好きにするが良いさ、だが、皆はホトス様の声を聴いたはずだ、信じる信じないは自分で決めろ、俺は宿屋で3日間待つ、それじゃあな」



俺はそれだけ伝えると...教会を後にした。


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