第39話 勇者ソラン 天国と言う名の地獄

勇者をやっていて良かった。


本当にそう思った。


もし、俺が勇者でなく、魔王を倒し世界を救っていなければ、多分地獄に落ちていただろう。


転生してまた大変な思いするなら、天国にいって上がりで良いんじゃないか。


俺はそう思った。


そして、天国にはエイダがいる。


俺の唯一愛した女だ、会って再び生活が出来るかも知れない。


そう思うと今から胸が高まる。


天国行の階段を上り始めると、凄く高級な食料のある部屋があった。


「ここは、なんなんだ?」


「此処は【食を楽しむ場所】です、天国に上がる前におもてなしとして世界中のごちそうを食べる事が出来ます」


「これは凄いな」


そこにあった物は勇者である彼ですら食べたことが無い、素晴らしい食事だった。


その場にあった食事を死ぬほど食べた。



更に進むと今度は大量に金銀財宝がある部屋があった。



「此処は?」


「天国に行く前に【宝飾を楽しむ場所】です、金銀財宝を身に着け好きなだけ着飾って下さい、但しここを出るときには全て置いていかなければなりません」


ソランは、暫く、この部屋にとどまり、宝剣を身に着けたり、金銀財宝を眺めて過ごした。


それに飽きると、再び階段を上り始めた。



そのまま進むと今度はこの世の者とは思えない美女が沢山いる部屋があった。


「此処は」


「天国に行く前に【色を楽しむ場所】です、世界中の美女との生活を楽しみ下さい」


ソランは驚いた。


勇者としてあらゆる女と楽しんだ筈だが、これ程までの美女とは楽しんだ事はない。


SEXの方も思う存分楽しんだが、確かに【愛あるSEX】ではないが、信じられない程の快楽に襲われた。


ありとあらゆるSEXを楽しんだソランが、経験したことも無い経験だった。


ここにソランは籠り。


出ていく時には恐らく数年の時間がかかった。


夢のような時間を過ごしたソランだったが、ソランは再び天国を目指した。



途中他にも夢のような場所があり、その都度楽しんだ。


そして、とうとうソランは天国についた。



「ようこそ天国へ」


「此処が天国なのか?」


「はい...それではこちらにお着換え下さい」


そういわれ渡された白い服に着替えた。



「ソラン様は、会いたい存在は居ますか? 転生や地獄にいっている場合もあるのですが...天国にいる場合はお会いすることもできます」


「それなら、エイダという女性に会いたい」


「エイダ様ですね...いますよ? それなら、今からお呼びしますね」


エイダだ、これからエイダに会える。


そう思うと...涙すら出てきた。


暫く待っていると、エイダがきた。



間違いなく、エイダだ。


だが、雰囲気が違う。


昔あったエイダは野性的なのに今のエイダは理知的。


どちらかと言えばマインに近い。



「エイダ、なんだか変わったな」


「ソランは変わらないね」



何故か思ったような感動は無かった。


昔の様に体を重ねれば...そう思い押し倒した。


久々に抱いたエイダは昔以上に俺に快楽を与えてくれたがそこに【愛は感じなかった】



可笑しな事に今まで心の底から求めていたエイダに執着心が無くなった。



他の男がエイダと話したいというから、手を振って別れた。



可笑しい、俺がこんなに簡単にエイダを他の男に譲るなんて。



それからも不思議な事ばかり起こる。


エイダと一緒に居る時に、ブスな女が俺としたいと言い出した。


こんなブス、俺は相手にしたくない、しかも嫉妬深いエイダがそんなの許すわけない筈だ。


だが、結果は俺は一旦エイダと別れ、その女としていた。



しかも、気持ち悪いほどのブス相手なのに気遣って優しくしていた。


その事をエイダに話したら...


「あはははっ、解るわ、あの子もソランも、まだ天国にきたばかりだから欲が少しはあるのね...此処は天国、全ての欲が無い世界なの」


「欲が無い?」


「当り前じゃない? 天国なのだから、大体神は「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憤怒」、「怠惰」、「傲慢」、「嫉妬」を大罪としていたじゃない?」


「そうだな」


「だから、天国にはそれは無いわ...まぁまだ来たばかりだからソランにはあるみたいだけど、直ぐに無くなるわ」


「そういう物なのか?」


「そうよ、ちなみにソランに性欲があるなら、私だけじゃなく、天国の女性は誰でも誠意誠意相手してくれるわ、最も性欲なんて最初だけ直ぐに無くなっちゃうわよ」


それってどういう事なのか?


「実際に、天国に来る前に色々な部屋を通ってきたじゃない...本来はあれで全ての欲がなくなるらしいのよ、でも私やソランは余程性欲があったのね、ここにきて迄したい、なんて人間は滅多に居ないわね」


それは別の人間になるような者じゃないか?


「愛については神が与えてくれるから安心して良いわ...だからあなたは身をゆだねれば良いのよ」


エイダが別の者の様に思えた...なんだか気持ちが悪い。



言われた事が解った。


俺の中からすべての欲が無くなった気がする。


女を抱きたいという欲望も、美味しいものを食べたいとすら思わない。


欲しいものも何もない。


エイダが他の男と話していてもなんとも思わない。


借りたい、といえばどんなに仲良さそうな男女でも「どうぞ」といい恋人や妻、娘ですらかしてくれる。


これが「執着」という欲望が無い世界。


殴りたいといえば「それであなたが救われるなら」と頬を差し出す。


俺は欲望のままに生きていたのだろう...


それらの行為が勝手に悪の様に思えて「悔やまれる」


これは俺なのか...



気が付くと俺は



「貴方が私を殴りたければ殴るとよい...それで幸せになれるなら」


「貴方が喜ぶなら、幾らでも付き合いますよ」



そんな事を言うようになっていた。



俺の横でエイダが他の男とやるような事があっても...それは人を幸せにするために必要な事と笑いながら見ている。



多分、これが可笑しいと考える事も暫くしたら無くなるのだろうな...


だが、まだ正常なのか、考える事がある。



これなら、平民に転生した方が良かったのでは...


地獄に落ちて戦いの日々の方が良かったのでは...



今の自分は【家畜】 いやこれは間違いだろう。


神が間違うわけが無い...


神に愛され罪のない世界で暮らせる。



間違いなく幸せだ。



そう考えるソランは、ただ日向ぼっこして横になっていた。


彼の目から流れる涙は...多分気のせいだ。


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