第38話 体が受け付けない(王国篇 終わり)

儂はなにをしていたのだろうか?


ソランには大切な娘を二人とも汚されやられ放題。


大切な臣下の妻や娘も守れずじまいじゃ。


この15年可笑しかった状態が正常に戻った瞬間から話はもう取り戻せない方向に進んでいく。


あの優しく笑顔の眩しかった少年、セレナはすっかり変わりこの世界が憎いとばかりに訴えてくる。


それを突っぱねる事は儂には出来ない。


何故なら、セレナが言う事は正しいからだ。


行き過ぎと思うが...法に照らし合わせれば間違っていない。


なら、それは止められないし、止める権限もない。


だから、どれ程残忍な話でも仕方ない。


何が悪いのか? 簡単だ。


【ソラン】


【ソランに踊らされた馬鹿な民衆】


完全に黒はこの二つ。


貴族に対しての礼儀を忘れた馬鹿な奴ら。



【ソランの魅了で操られた者】



これがグレー。


意思がないとはいえ、馬鹿な事をしたんだ、罪はある。


勿論、儂も娘達もな...



その結果が、大量殺人に、沢山の人物の人生を終わらせた事になった。


そして今、国は...実質儂の物ではない。


商業ギルドも冒険者ギルドもセレナの物。


そして儂の周りに古くから仕えてくれていた貴族の顔も入れ替わった。


最早親しい間柄と言えるのはスマトリア伯爵位しかいない。


しかも、神をも恐れぬ所業で、半魔を貴族にしてしまった。


ローゼンに意見を聞いた所


「もし、ミーシャ殿に危害を加えるのなら、多分二度とセレナ殿とは和解は出来ないと思った方が良いでしょう」


と言いよる。



ハァ~



多分、今回の件で最大の被害者はセレナではなく儂なのではないだろうか?


だが、それも全部儂が招いた事だ仕方ない。



儂には王としての才能は全く無かった。


素直に認め、このまま傀儡の王としているしかないのだろうな。


何も気がつかない振りをして【無能な王】のままでいる。


それでこの国が、この世界が救われるなら安い物だ。




【謁見の間にて】


「よくぞ来られた、勇者セレナにミーシャ殿」


俺は跪き、ミーシャも真似をした。


勇者の方が偉いならこんな事する必要は無い、そう思うかもしれないが、勇者がこの世界で一番偉い存在と扱われるのは【聖剣を抜いたあと】だ。


それまでは、まぁ微妙な立場ではある。


「お久しぶりでございます、王よ、これより私は【聖剣の儀】を受ける為に聖教国に旅たちます」


「あい解った、これより馬車を出すゆえ、暫し寛がれるが良い」


「「はっ」」


此処には王とマイン、マリアが居るが、王はどうにか表情を繕っているが他の2人は微妙な顔をしている。


「出立まで時間はある暫し、久しぶりに娘二人と会話でもしてはどうだろうか?」


「そうですね...その必要もありますが、ぶしつけながら王もその会話に加わって貰えないでしょうか?」


「確かに気まずいと言うのなら、そうしよう」


二人の目が泳いでいるが仕方ないな。


少し、ミーシャには席を外して貰う事にした、ケーキやお菓子を出して貰える。


そう聞いて目が輝いていた。



「...お久しぶりですセレナ」


「セレナ」


まぁこんな状態で逢うんだ、こんな物だろうな。


「久しぶりですね、マリア姫、マイン姫様はこの国に来た時に逢いましたね」


「...」


「そうですね」


王は何も話さずにただただ見ていた。


一応此処にも紅茶とお茶菓子は置いてある。


誰も手を伸ばさないから俺が菓子に手を伸ばし紅茶をすすった。


このまま、話さないでいたら無言で終わってしまうな。


仕方ない、俺から話すしかないな。


「昔は良く遊びましたね、マイン姫様には良く本を読んで貰いました、マリア姫様に...よく虐められていましたね」


「そうね、そんな事もありましたね」


「私、そんな事してましたか?」



「はい、マリア姫様には小さい頃よく虐められて泣かされていましたよ」



「そんな昔の事は覚えてないわ」



少しは笑顔になる物の...話が続かない。


「誤解しているといけませんから、先に言いますが私は、もう恨んではいませんよ」


「本当に...ありがとう」


「ありがとう、ありがとうセレナ」



だが、言わなくちゃいけない事がある。



「恨んではいませんが、もう取り戻す事はできません、15年は長すぎました」


「大丈夫だよセレナ、大丈夫」


「まだ取り戻せるよ、大丈夫だよ」



残酷な事を言わなくちゃいけない。



「確かに長い月日だが、これから埋めていけば良いのでは無いか?」


王はそういうが無理だろう。


「私と姫たちが話す時に何を話せば良いのでしょうか? 懐かしい思い出話しが終わった時には...私は憎しみの15年、2人にはソランと過ごした15年間しか話す事は無いのじゃないでしょうか?」


「....そうですね」


「そうだわ...」



「だから、友達から、15年前から始めるしか無いのではないですかね...一旦関係をリセットして友人から始める、それしか無いと思います」



これで良い...彼女達は被害者だ、何もこれ以上傷つけなくても良い。


「そうね、うんそれが良いわ」


「あの...仕方ないのかな...」



何故マインが喜んでいるのか解らないが、マリアは不満そうだ。


「確かにそれしか無いのかもな」王は髭を触りながら答えた。



「二人ともこれじゃ駄目かな? 今の私にはこれで精一杯なんだ」


「仕方ありません...それで手を打ちます」


「そこから始めないといけないのですね」



「お二人には悪いですが、これからについて私は王と話さないといけません...席を外してくれませんか」


「...そうだな」



「「解りましたわ」」



【王と】


「何か訳ありなのか?」


「すみません、ああは言いましたが、もう私が彼女達と元のような関係になる事はありません」



「それは...王位を譲ると儂がいっても駄目か? 今迄の事は全て儂が悪い、2人は許して貰えぬか?」


「王よ、既に二人は許しています、好きかと言われれば【今でも未練がましく好意をもっています】」



「ならば、これからでも添い遂げれば良いじゃないか?」


「何故駄目なのか...その説明の為に、そうですね多少の無礼を許してくれそうなメイドを呼んでくれませんか?」


今の俺の現状を見せるしか無いだろう。


「理由は解らないが、解った」


王はベルを鳴らすと給仕役に声を掛け、下働きようのメイドを呼んだ。


王宮には行儀見習いで下級貴族の令嬢もメイドをしているから配慮が必要だ。


「お呼びでしょうか?」


「セレナ殿、これで良いか」



「はい、すみませんが金貨3枚お渡ししますから、キスをさせて頂けませんか?」


「えっ...あの何かご事情があるのならキス位でお金は要りません」


「これは慰謝料です...」


「慰謝料ってなんですか」



「セレナ殿、何かの冗談か」



「冗談ではありません、それじゃすみません...うんぐ..うえあぇぇぇぇぇぇぇげーーーーっ」


「お客様」


「セレナ殿...まさか毒」



「はぁはぁはぁ、違います、今の私は女を全て受け付けません...これは約束の金貨です、これは貴方を侮辱したのではない...今の私は女神とキスしても同じになる、恥になるからこれは他言無用でお願いします」


「はっはい」



「それはいったい、どうしたんだ」


「マイン様、マリア様、そして妹達がソラン相手にふしだらな事をして見せつけられてから...完全にこの体は女性を嫌悪する体になってしましました...キスだけでこれですから、多分私は子作りなど出来ませんし、どんなに心が欲しても体が拒むのです」


「すまない...まさかそこ迄とは」


「いえ、もうお二人も妹も許しています...多分今でも好きか嫌いかと言われれば好きなのかも知れません、ですが体が受け付けないのです」



「解った、王としてではなく一人の男として謝る、すまない」



「もう終わった事です」





それから数刻後、セレナたちは馬車で聖教国に旅立った。


王が気を利かせて、マインと違う馬車にしてくれた。



馬車に揺られながらセレナは眠っていた。


そして寄り添うようにミーシャが眠っている...この光景は多分マリア達にとっては手放してしまった夢の光景なのかも知れない。



(王国篇...完)




※ 最初はもっと残酷なはなしで王国篇は終わる予定でした。


  ですが、読んでくれた皆さんの感想から、王様の話しや二人の王女の立ち位置を考え少しだけ救われる話になりました。


  沢山の感想有難うございます。



もう少しししたら、聖教国篇がスタートします。


有難うございました。


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