第37話 小さな少女が起こした大きな奇跡

商業ギルドのギルマス ドルマンは衝撃を受けていた。


自分の立ち位置についての書類をセレナから貰った。


可笑しい、可笑しすぎる。


セレナ様は、自分の本来持っていた財産は個人口座に移してあったが。


自分達に罰が一切無いのだ。


確かに、代理となったから降格ではあるのだが、実際に自分の月当たりの収入は前より増えていた。


本来は【奴隷】なのだからタダ働きが当然なのだが、以前より待遇が良い。


まぁ、裏金は入らないが表だった収入は以前より格段に良い。


何もかもが可笑しい。


よくよく考えてみたら、自分達の命を救うよう指示したのはセレナ様だ。


その事から考えたら自分達を殺そうとしたのは誰だ...


推測だが多分貴族だ。


つまり、セレナ様は関係なく【借金を無くしたい】から我々を殺そうとしたのだ。


丁度良い...セレナ様の貴族粛清に乗っかり、今回我らを見捨てた貴族からもお金を【一括返済】させてやる。


ついでに、セレナ様に逆らいそうな貴族も潰しておこう。


今の我らの主はセレナ様なのだからな。


「五大老、貴族は我らを裏切った、ならば金の怖さを教えてくれようぞ」


「裏切りの代償は大きいぞ」


「死より辛い人生を味わせてやろう」


「豚と呼んだ事、後悔させてくれよう...」


罪人から市民に戻った事で【貴族の借金】は復活していた。


そしてジェイク達と共闘する事で貴族の暴力と戦う力を得た。



貴族に対して一番槍は【商業ギルド】が担うのだ、そういう気持ちが高まった。


「ジェイク様、早速貴族からお金と権力を取り上げようと思います、一緒に行動してくれますか?」


「ああっ解っている、取り上げた貴族籍は俺たちが貰えるのだ、幾らでも手を貸す、その代わり交渉は頼みます」


「ああっお任せください」







「バルドマン公爵様、よもや借金金貨1万枚(100億円)お忘れでは無いでしょうな?」


「はんっ、生き延びたか薄汚い平民が」


「期限を過ぎた借金を今迄散々お待ちしました、その私にその態度ですか? 法律的には」


「私は公爵だぞ、王の次に偉いのだぞ、そんな物儂には通じない」


「そうですか、なら代替で弁済して頂く」


通信水晶を取り出しジェイクを呼んだ。


「貴様、ジェイクか何だね、その騎士は何だ?此処を何処だと...」


「借金を払わないようなので、物品を差し押さえようと思います」


「残念だが我が家には金貨1万枚などない、更に言うなら此処を切り抜けたら、お前等をギロチンにかけてやる」


《ジェイクには敵わない、だが、あとで訴えればこいつ等は終わりだ》


「あはははっ、そんなのは解っていますよ...貰うのは爵位とこの屋敷と領地を貰いましょうか?」


「馬鹿な爵位の譲渡など出来ぬ」


本来は爵位の譲渡など出来ない。



だが、今回だけは違った。


先の話し合いで爵位の譲渡の話をローゼンとファスナーが王と協議した。


王としては流石にそんな数の爵位を新たに作る等出来なかった。


その為【セレナに危害を加えた貴族から取り上げて良い】というとんでもない書類を作り王印を押してしまった。


これで全てが終わると思った王は更に手続きをスムーズにする為に任命権までそのまま与えてしまっていた。



「それが出来るんですよね...それではお願いしますね」



「貴様此処は貴族の屋敷だぞ..」


「悪いなバルトマン公爵、これは国が許可したんだぜ、セレナ様の金に手を付けたのが運のつきだ」


「うっ、セレナ、何の事だ、知らんぞ」


「さぁ、俺は知りませんがね、貴方、手を出したんじゃ無いの?」


「知らん、知らん、知らん」


本当はバルトマンはセレナには絡んで無い。


だが、商業ギルドはバルトマンへの恨みとセレナに敵対する可能性を考え排除する為に捏造した。


しいて言うなら権力を使い、借金を踏み倒そうとした相手、それだけの存在。


「さてと借金の踏み倒しはもう出来ませんね、金が無いなら、黙って爵位及び領地と屋敷を差し出して貰いましょうか? 素直に出さないなら無理やり取り立てるまで」


このままでは命まで取られる、そう思ったバルトマンは爵位、屋敷、持っている領地の権利証を差し出した。


300年続いたバルトマン家が崩壊した瞬間だった。



商業ギルドで考えた事は、将来、自分を守る後ろ盾は【子爵】のジェイク【男爵】の騎士、それとセレナになる。


なら大きい所から潰して置いた方が良い。


しかも取り上げる屋敷も上位貴族の方が良い場所にあり、価値があるのだから商人としては当たり前だった。


王や権力が守らない貴族等、海千山千の商人達には敵わなかった。


しかも、今迄権力をかさに無理やり払わなかった利子を正規に計算するだけで殆どの貴族は破綻する状態となる。


何しろ、返すつもりが無いからと、年利250%でしかも滞ったら延滞遅延金100%に翌月に全額返済というとんでもない契約書なのだから簡単だ。


(※昔は実は凄く金利が低い国が多かったという話も多いですが、ここはあえて、利子の制限が無い、きつい方の国から引用しています)



いきなり義務を負わされた貴族に返す統べは無く、次々と爵位や財産を取り上げられ、見栄えの良い娘は奴隷にされ売られていった。


抵抗しようにも、商業ギルドにはジェイクを始めとする強い騎士がついている。


ジェイクは勇者や四職等規格外の存在を除けば、これでも王国最強ともいえる。


法でも、実力でも太刀打ちできず、王都の貴族はほぼ全部...貴族人生が終わってしまった。



流石に、領地を持ち王都に居を構えない貴族は無傷であったが、法衣貴族等王都中心に生活する貴族の多くが没落してしまった。


その数は約6割にも上る。


842家あった貴族のうち実に502の家がなくなり、その爵位の全てが、形上セレナの物になってしまった。


まさか王も此処までされているとは思っていなかっただろう。




【数日後】


俺は今回の一連の関係者を商業ギルドに集めた。




「えーと、ミーシャ殿、貴方をこれより自由侯爵の地位を与える」


「んっ!自由侯爵ってなあに?」


「まぁ偉くなったって事だ、黙って貰っておけ」


「まぁいいや、セレナ、ありがとう」


「どう致しまして」



《これはどういう意味だ》


《何が何だか解らない》




「えーとジェイク殿にドルマン殿にサニー殿にローゼン殿にファスナー殿全員、伯爵の地位を与える」


「はっ、有難き幸せ」


「あの、儂は奴隷なんですがこれは何の冗談ですか」


「あはははっセレナ様、これは流石に冗談ですよね...なんですか?」


「あの...セレナ殿、これはどういう事なのでしょうか?」


「本気ですか?」



「はぁ~ジェイク以外全員無礼だな、まぁ良いや、これは冗談では無い、今迄世話になったから、今回手に入った爵位を今迄の功績に応じて与えただけだ」



「あの、咄嗟に礼を言ってしまいましたが、私が頂くのは男爵だった筈では?」


「最低でもと言ったのだが不服なのか、なら男爵に」


ジェイクは跪くと剣を抜いて掲げた。


「生涯の忠誠を」


「それは嬉しいが、俺が持っているのは、只の任命権だけだ、今迄通り王に忠誠をつくせば良い」


「はっ、確かに...ですがこのご恩は生涯忘れません」


「なら、もしまた俺が困った時がきたら、返してくれ」


「【騎士として剣に掛けて】絶対に守ります」





「あの、儂はこの間命を助けて貰ったばかりですし...奴隷ですぞ」


「奴隷は解かないからな、だが商業ギルドの責任者が爵位を持てば権力者に媚びないで仕事ができるだろう? だからやる、もし恩に着るなら今度、俺が不幸になったら助けろ...それだけで良い」



「それだけで良いので」


「ああっ....だが【それだけ】と簡単に言うが、今回俺にそれをくれた人物は、誰も居なかったぞ」


「商人は約束はたがえません【商人の誇り】にかけて約束しましょう」




「えーと、冒険者ギルドの、ギルマス代理で今度は貴族ですか...もう頭がついていきません」


「まぁな、面白いだろう? 手に入る時は簡単に地位も名声も入るんだ」


「あのですね...これは、セレナ様が気まぐれでくれただけですよね」


「あんまり舐めるなよ! 俺は実力も無い人間に、そんな事はしない、いい加減自分を下に見るなよ、まぁ死なない程度に頑張れ」


「労わってはくれないのですね」


「あはははっ、死ぬ寸前まで忙しく頑張る奴だから、あげたのだ、まぁ頑張れ」



《嘘...私の仕事を本当に評価してくれての事だったの...》


「そんな事言われたら、死ぬ気で頑張るしか、返事できなくなるじゃないですか」


「まぁな」




「あのセレナ殿、これは一体」


「ローゼン殿にファスナー殿は肩書は最高の肩書でしょうが、2人とも貴族としての地位は低いでしょう、ならば今回世話になったから、地位を渡した、それだけですよ」


《そんなこと考えてくれた者は王も含み誰もいなかった》


《嫌われ役の私にも報いようと言うのか》



「そんな顔しないでくれ...貴方達から見たら俺はまだ若造です、この国を政治的に守るのは貴方達だ...まぁ今度困ったら助けてくれれば良い」


「解りました」


「約束します」



「さてと、次はジェイクの部下の騎士20名からは騎士爵を取り上げ、新たに子爵をあたえる、五大老にも全員新たに子爵を与える...まて跪くな、俺はあくまで任命権しか持ってない、忠誠は王に尽くす事だ」



「はははっ、信じられません、子爵だなんて」


「自分が貴族になれるとは、こんな爺になって初めて感動しました」


「私は商人として、貴方には生涯の友となる事を誓おう」



「まぁ良いよ、俺は自分とミーシャの取り分として湖周りの土地全部とそこにある小城を貰う、あとは自分に対して【自由大公】の地位を貰う 後の爵位の授与や報奨の分配はさっき爵位を授けた者で決めて良い...以上だ」



「自由大公の件は我らが責任を持ちましょう」


「まぁ、勇者であるセレナ様には誰も逆らえないでしょうからな...ミーシャ殿を含み忠誠を誓わない爵位、考えましたな」




「それより、セレナさまの取り分が少ないのではないですか?」


「余り多くはいらないよ...あそこには、知り合いのじいいとババアが居るからな、もし魔王討伐が終わったら、今度は洞窟で無くあそこに引き籠るとするよ」


「確かにあそこは別荘地になる位良い環境ですからな」



「それじゃ、あとは任せた」




「【貴公子セレナ】は変わっていなかった、そう言う事か」


「違いますぞ、会った時のセレナ様なら、多分我々は皆殺しにされていたと思いますぞ」



「確かに」



「多分、あの少女が居たから、元に戻ったのではないですかね...私セレナ様に顔を半分比喩じゃ無く、物理的に破壊されましたから」


「ああっ、確かに俺が迎えに行った時は、悪魔にしか見えなかったからな」


「あの少女に我々は救われた、そう言う事だな」



皆の視線の先にはミーシャがいた。



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