第35話 見えてきた最後

ホテルにはミーシャの採寸の為に服屋が来た。


今のミーシャはバスローブを着ている。


採寸が済むと、吊る下げと言われる服で寸法が合う物 5枚と下着をベッドに置いた。


「お久しぶりですセレナ様」


「久しいな」


「はい、たった今採寸が済みましたのでこれから制作に入ります、吊る下げから今見繕った所、そこの5枚が良いかと思います、ただあくまで吊る下げなので多少の寸法誤差はお許し下さい」


基本、殆どの服はオーダーメイドか古着だ。


高級店等では急な対応に迫られたときだけ、あらかじめ店に用意した試作品吊る下げと呼ばれる服を販売する。


5着も同じサイズを販売する事は普通はしない。


何故ならあくまで緊急用なので5着も渡してしまうと予備が無くなって困る事になる。


この扱いはセレナがあくまで特別な扱いになっているからに他ならない。



ミーシャは下着を身に着けて吊る下げの服を着ている。


オーダーメイドと違い少しブカブカだがこれは許容内だ。


今のミーシャは髪が青い事と目が光っている事以外は綺麗な少女に見えた。


うん...少し臭い、まぁワンコの臭いみたいな感じだ。


これなら香水でも振りかければ普通だな。



少し休んでいるとジェイクが訪ねてきた。


ミーシャを見て一瞬顔が歪んだ。


「此奴は俺のパーティーの仲間だ」


そう言うと驚いた顔になった。


そりゃそうだ、俺が居るのだからそこは【勇者パーティ】その最初の仲間が聖女でも賢者でも剣聖でも無い、半魔なのだから驚くのは当たり前だ。


「そうですか? それで今回はどういった御用でしょうか?」


「ジェイク、良かったら部署替えしてみないか?」


「どういう事でしょうか?」


ジェイクは訳が解らない、そんな顔をしている。


「そうだな、簡単に言うと商業ギルドに出向しないか? 給料は3倍、将来的には男爵か子爵の地位が貰えるかも知れない」


「それ、冗談では無いのですか?」


「冗談じゃない、ただ可能なら仲間として沢山の騎士がいる...お前の為に命を張る様な奴はどの位いる」


「忠誠なら20名、只の部下なら50名という感じですね」


「ならば、その20名を束ねられるな」



「勿論」



「それじゃ、多分後日呼び出すから、呼び出したら直ぐに来れる様にしてくれ」


「解りました」




【後日】


ローゼンとファスナーが急ぎ動いたせいか、男は約7割が救出された。


残念ながら女子供はほぼ全滅だったようだ。


そして、今現在助けられた男達は全裸で縛られて転がされている。


全員が怯えていて、目が死んでいた。


運が良い、ギルマスと五大老は生きていた。


「すまないな、俺は財産の取り返しと、直接関わった人間の粛清を頼んだんだが、まさかこれ程関わっていると思わなかった...ああっ猿轡を外してくれ...だからって喋るなよ」


「「「「「......」」」」」」



「よし、この中で貴族の弱みに精通している奴居るか? 居たらそうだな、首を少し浮かして見ろ」


思ったより多いな。


「その中で、見捨てた貴族に復讐したい奴は居るか?」


ほぼ全員か。


「お前等、命は助けてやる...但し奴隷になるならな? ただこれを信じる信じないは別だが、今迄と大して変わらない生活を保障してやる、どうだ」


ワイバーンに食われそうになったのが怖かったのか全員が奴隷になった。


ちなみに、第一主人は俺、第二主人はミーシャにした。


さぁ此処からが本題だ。


「全員が今迄通り働いてくれて構わない、ただ商業ギルドは俺の物になったからギルマスは俺、副ギルマスはミーシャだ」


ミーシャは解って無さそうにきょとんとしている。


「「「「「解りました」」」」」


「俺の取り分はミーシャと併せて今迄のギルマスと同じで良い」


二人で一人分なら安くなったと言える。


「それでだ、俺の財産の没収に絡んだ貴族を後で教えてくれ」


「我々としても見捨てられたような物、それで命が助かるなら幾らでも協力しよう」


「解った、それでローゼン悪いが、ジェイク達数名をこの商業ギルドに借りたいが良いでしょうか? それとちょっとした報奨を貰いたい」



「此処まで来たのですから、もう最後まで付き合いましょう...国王にはその許可をもらいます」


「そうか、頼むよ、報償はジェイク達騎士が粛清した貴族籍の幾つかをジェイクたちに渡す事、具体的には子爵1席と男爵20席」


黙って聞いていたジェイクと集められたその仲間は驚きを隠せない。


男爵という爵位はある意味【本物の貴族】といえた、そしてジェイクは王宮での立場は騎士を纏めているが低い。


そんなジェイクにとって【子爵】は喉から手が出る程欲しい物だった。



「流石にセレナ殿、それは難しい」


ローゼンを無視して話した。



「ジェイク、俺から財産を奪った関係者、ソランに組し俺を陥れた者を粛清してくれ、元ギルマス、五大老はそれが誰だか掴んでいるのだろう?」



「私が代表して答えましょう...全部存じてます、奴隷紋を刻まれた今、私は貴方に嘘は言えませんからな」


「家族を殺してしまった事は俺も謝ろう...そこまでの事は俺は考えてなかった」


「我々は罪人、気にしなくて良い...態々我々を呼び戻したのだ、今の言葉が真実だと解る」


「まぁな...ローゼン、これで俺を陥れた奴は全員解るな、今回の粛清が終わったら、俺は聖教国に行き【聖剣の儀】を受ける。これでも爵位の譲渡は難しいかな?」


「その条件なら、必ずや王に約束を取り付けましょう」


「私もご助力します」



ようやくだ、ようやく...ここ王国でやるべきことが終わる。

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